エッソンス・エ・グー - 2003 年 8 月 23 日訪問

以下は以前掲示板に私が投稿した記事を元に再構成したものです。

Cuvée Supérieure SA Magenta

開店祝いということで奢っていただきました (もちろんグラス)。グラスに注ぐときから感じられる焼き立てのクロワッサンのような香りはまさにシャンパーニュ。力強い味わいは大きな金管楽器のごとく。媚びた感じがしないのに好感が持てる。後述の車海老や穴子、サワラによく合いました。

トマトの冷たいスープ

まず見た目のピンク色がかわいらしい。ほのかに甘味を感じさせるフルーツ感と少し回しかけられたオリーブオイルのふくよかさと、ホワイトペッパーの香りが程よいバランス。まさに胃袋が活性化される一品でした。

サワラと車海老のサラダ (こ座長)

「車海老はぴちぴちと活きのいいのが入っていますから」とのことでオーダー。サワラはほとんどタタキ状態で、表面は香ばしいながらも身は生に近く、ねっとりとしている力強い食感と味わい。車海老は頭もついてあり、その香ばしさとカリカリした食感はシャンパーニュに滅法あう。瓜系フルーツのような香りとほのかな甘味が感じられる水なすと、水菜、ミョウガ、いずれも個性を主張しすぎずに個性的で、部分と全体のバランスが素晴らしい。

Petit Verdot '97 Pirramimma

後述するワインリストはフランス物が中心ですが、出入りの酒屋さんはオーストラリアものにも強いらしく、メインディッシュも考えてこのプティ・ヴェルドをお願いしました。まずグラスに注がれて思うのは「色が濃い」。プティ・ヴェルドははっきり言ってボルドー右岸地区では脇役にすぎないと思うけど、これがなかなかパワフルで、侮れない存在感を見せつけてくれます。最初はややインキーで、葉巻やスターアニスのような、乾燥植物系の強い香り。タンニンがかなり主張しているが舌触りが滑らかで、かつ、果実や酸のバックボーンがしっかりしているので浮いた感じはせず、むしろフォワグラの脂をさらりと流してくれるようで心強い。飲みすすめると減圧蒸留で濃縮したような果実味と伸びやかな酸が広がり、鴨や仔羊ともよくあった。まあフランスワインのような複雑玄妙な感じ (悪く言えば線の細さ、業界用語ではフィネスっていうのかな) はないけれど、ブドウが育った恵まれた環境を直に感じさせるような、そんな素直なワインでした。

フォワグラと穴子のソテー 生ハムとバターライズ添え (お座長)

バターライスというよりリゾット。これをを生ハムで覆い、その上にソテーした穴子とフォワグラ載せたもの。個人的には豪勢な丼だと思う。ソースはバルサミコかな。酸っぱすぎずプルーンのような果実感が素材を上手く引き立てている。フォワグラは表面がぱりっとしていて香ばしく、中はとろり。リゾットのぷちぷちとした食感も楽しい。生ハムの塩味がいいアクセントになっており、地団駄踏んでしまうぐらいに旨い。プティ・ヴェルドともよくあいました。

鯛とアサリ、ハモの軽い煮込み

鯛は皮がぱりっとしていて香ばしく、身には弾力と旨みが封じ込められている。アサリの味も濃く、ハモは香ばしく仕上がっている。一緒に煮込まれていたのはアスパラガスとニンニクの茎、ドライトマトでなんとなく南欧風。ソースがパンにあうのでニコニコしながら夫婦そろって食べていたら、小皿にソースだけ入れて持ってきてくれました>山田シェフ。いや、本当に食い意地が張っていて、かつ、お行儀が悪くてすみません。ちなみにこのお店ではバターはほとんど使用していないとのことです。

12 時間煮込んだ仔羊 二種類の部位で (こ座長)

こ座長様に少しわけてもらいました。羊臭さがほとんど感じられない。やや甘くてスパイシーな (カレー = クミン風味かな?) ソースは、何となく中東風で面白い。

シャラン産鴨のコンフィ (お座長)

フランス料理の古典とも言える鴨のコンフィですが、恥ずかしながら私は食べたことがありませんでした。サーブされた瞬間から香ばしく、思わず深呼吸してしまいそう。皮はさくさくしているぐらいに余分な脂が抜けている。身も余分な脂と水分が完全に脱落していて骨からほろりと外れてしまう。皮と身いずれも旨みが凝縮しており、血を連想させる鴨臭さも全く感じさせない。付け合わせのサツマイモ、カボチャ、キノコもどれも味が濃く、カボチャなどはそのままデザートになりそう。もう皿のどのパーツを取っても旨い。いや、間違っても皿は食べなかったけど。このあたりからプティ・ヴェルドの果実味が爆発していました。

フロマージュ

「デザートの前にフロマージュはいかがですか?」とか聞くと一も二もなく「ぜひ」と返事してしまう自分がかなしい。シェーブルタイプと青カビタイプ、ウォッシュタイプの三種類の盛り合わせ。詳細な名前は不明だが(聞いても覚えられないと思うし)、こんなに状態の良いチーズはいままで食べたことがない。特筆すべきはシェーブルタイプで、ねっとり、むっちりとした食感があり、フルーツ (洋ナシ?)のような香りと酸は実に爽やか。このとき一緒に飲んだオーストラリアのデザートワインとの相性も滅法良い。もうほとんどお腹ぱんぱんモード。ちなみにフロマージュは常にあるとは限らないようなので、ご注意を。

デセール

私はフォンダン・ショコラとバナナのアイスクリーム。妻のは…なんだったっけ?一つはフルーツのジュレのようなのだったと思うが…。とにかく味が濃い。それは決して嫌みな濃さではなく、本来この食材にはこういう味と香りが秘めているのだなと知らしめてくれるような濃さだ。デセールの後はエスプレッソ。なんだか葉巻をくゆらせている気分。

Poire Williams

「今日はこれで〆ますか」といって洋ナシ丸ごと一個がガラス製のボトルの中に入ったポワール・ウィリアムスの瓶がテーブルの上に置かれる。開封 (私がお願いするまで未開封だった) と同時に強烈なエステル香が放たれる。消化を助けてくれるのかどうかは怪しいが、まさに〆にふさわしい一杯。

番外編・ワインリストについて

決して分厚いリストではありませんが、その品揃えは必要充分で、何と言っても極めて良心的な価格設定に好感が持てます。中心となる価格帯は 3000〜5000 円で、酒屋の小売価格にグラス洗浄代を加えた程度の値段設定のように思います。また有名どころのワインは比較的少なく、「無名故に安くておいしい」ワインがたくさん掲載されているようです。なかにはマニアックな品もちらほら。余談になりますが、後日リストに載っていたルソーのグリオット・シャンベルタンについてシェフに尋ねると「いや、半ば趣味で仕入れたんですが『おれはヴィトンのバッグを持っているぞ!』みたいな感じがするので失敗だったと思っています」とおっしゃっていたのが印象的でした。あと赤と白がほぼ同数取り上げられているのもうれしいところ。ワイン好きな日本人は白を軽視する傾向にあるけど (ブルゴーニュの偉大な白にしか興味ないとか)、実際に料理に合うのは白の場合も多いでしょう。


どの皿も素材一つ一つの個性が際立っており、まるで食べてくれと主張しているかのごとく。しかしお互いには個性を主張しすぎず、全体として見事な絵を構成しています。メインの素材やソースだけでなく、付け合わせに到るまで一分の隙もないのは本当に素晴らしい。山田オーナーシェフの話によると、特に肉類には力を入れているとのこと。まあ能書きはさておき (これだけ能書き書いておきながら、だけど)、機会があれば、お店を訪れて、食べて、飲んで、会話をして欲しい。きっと楽しいと思いますよ。