横書き文の句読点について

更新情報

2009-1-8
度重なる追記と修正で,文の前後のつながりなどがおかしくなっていたので全体的に文章を修正。
Googleで検索して読んだ文書を句読点関連の雑文などに追加。
2009-1-5
伝聞を基に,くぎり符号の使ひ方に詔書の句読点についてを追記。
公用文における漢字使用等についての一部を修正。
2009-1-4
国会図書館で古い書物に句読点らしきものを発見したので,句読点の起源を改正。
句読法案の原文(近代デジタルライブラリーで検索すれば画像を観れます)の発見に伴い,句読法案を大幅改正。
JIS規格の句読法(JIS検索(日本工業標準調査会)でZ8301で検索すれば画像を観れます)の発見に伴い,くぎり符号の使ひ方一般的な利用状況に追記。
一般的な利用状況に,半角カンマを使う際のマナーの理由を追記。
2006-12-29
公用文の規定として最新のものを発見したので,公用文における漢字使用等についてを追加。項目の追加に伴い,項見出しの番号修正。
書籍の句読点を追加。この調査結果に伴い,一般的な利用状況の記述を加筆・修正。
Googleで検索して読んだ句読点絡みのサイトをご案内に追加。
2006-11-21
2年前に闇黒日記にて頂いた指摘から句読点の普及のし初めについて調べ直し,その結果を元に幕末以前暗黒時代の始まりを大幅改定し,句読点の始まりを追加。項目の追加に伴い,項見出しの番号修正。
2004-02-01
一般的な利用状況に賞状や礼状では句読点を打たないのが本式,という伝聞を追加。
コンピュータ上の利用状況の文言を整理して,加筆・修正。
web上の句読点に,分類ごとの根拠規定等を載せてみた。
2004-01-30
全体的に加筆・修正。
一般的な利用状況から電子データに関する記述を分離し,10 コンピュータ上の利用状況を新設。文字コードについての記述を追加。
句読点関連の雑文などにたまたま見つけた文章をいくつか追加。
typoを訂正。
2003-08-20
句読法案KOTOBAの記述を元に追記。
ご案内にいくつかの文書を追加。
web上の句読点に論文の記載要領をいくつか追加。
2003-05-04
ご案内に「句読点関連の雑文など」を追加。
2003-04-29
誤字の修正。
web上の句読点の小見出しに,記者ハンドブックの内容を踏まえて,分類型を追加。また,一般的な利用状況に,日本語入力ソフトについての所感や,欧米文準拠型の中でも全角半角の違いがあるという伝聞を追記。
2003-04-24
横書き句読点の謎(1995年3月) に載っていた「日本語の正しい表記と用語の辞典」や「記者ハンドブック」を見てみた。で,記者ハンドブックを追加し一般的な利用状況にも追記をした。これに伴い,左横書き文書の作成要領の内容を書き換え,この項以降の見出しの頭の番号を変更した。
2003-04-18
かなり詳しく句読点の歴史について書いてある文書を発見したので,ご案内横書き句読点の謎(1995年3月) を追加。
2003-04-09
web上の句読点を更新。
2003-03-12
作成。

必読情報

当文書の位置付け

この文書は,横書き文の句読点についての覚書です。

内容については,私DDTが,web上で調べたことを基にしております。しかし,私の浅学,読み違い,勘違い等が原因で間違っている可能性もあります。おかしい記述などを見つけられましたら,ご指摘,ご指導又はご教示いただけると助かります。

お知らせ

当文書はリンクフリーです。また,当サイトの内容を無断で紹介して頂いても何ら問題ありません。但,情報が更新されている可能性もありますので,情報元として当文書のuriをご紹介いただいたほうが間違いないやにおもいます。
→当リソースのuri:http://www.remus.dti.ne.jp/~ddt-miz/think/comma.html

当文書に対する皆様の評価はDDTまでメールにてどうぞ。
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ご案内

併せて読むと,とっても為になるかもしれないし,ならないかもしれないサイト

あんまり関係ない気もするけど,日本語と謂えばここかな,ってサイト

句読点関連の雑文など

その他

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句読点の歴史について

1 句読点の起源

私の狭い見識の中では,明治以前の文書で横書きのものを見たことがない。なので,日本語文は縦書きで書くものだったンだろう。

で,その縦書き文書の中で句読点が使われている文書として最も旧い文書を探してみた。私の狭い見識の中では,国会図書館にあった画像に1277年に作られた空海が残した書物の目録(新請来経等目録)というものがあり,そこに読点と思しき記号が使われていたものが一番旧かった。書き方は現在の点よりも「カンマ(,)」に近い,というか片仮名で「ノ」と送り仮名を書いた感じである。また同様に,1342年に書かれたとされている「夢中問答集」にも,句点として「ピリオド(.)」に似た記号が使われていた。夢中問答集は国会図書館の説明によると室町時代初期に補刻が加えられたらしいが,画像を見る限り当初から打たれていた句読点と思われる。勿論時代的に西洋のカンマやピリオドを真似たものとは思えないため,日本独自の句読点と思われる。ただの筆休め的なもので,句読点として意識したものではないのかもしれないが。

しかし,これらの句読点は全くといっていいほど普及しなかったようである。というのも,私の狭い見識の中ながら,この後に書かれた文書で句読点が打たれたものは数百年間出てこないからである。その間の多数の文書で利用が見られないことからも,当時の一般社会では句読点は利用されていなかったと考えてよいだろう。

では,私の見た大多数の文書では文の区切りをどうやって表現していたかと謂うと,その文書の性質によって表現方法が違った。

書状や感状といったものでは句点の代わりに行換えを行って表記することが一般的であった。読点に関しては,物によっては文字間を空けて表記するものもあるが,私の見た限り書状には利用例はなく,感状や証文の類で数例観られるのみであった。この記法は,現在でも手紙を書く際に使われており,句読点が自然に書かれるようになった現在にも残るほどだから,少なくとも縦書き文では一番日本語に馴染んだ記法なのかもしれない。

但,文学や軍記といったものでは行換えは行われないことが普通であったようである。先の夢中問答集よりも前のものだが徒然草新撰字鏡師説抄(いづれも国会図書館)のように延々と続けて書かれているものや,漢文で書かれているものも多い。これらの文章では書かれた内容から文の区切りを読み取る必要があり,漢文ではレ点のような読み下し専用の記号が発達したものと思われる。

ちなみに,茨城県立歴史館の茨城県資料に佐竹文書を活字化したものが載っているが,この中には江戸時代初期に書かれた文書の縦書き文の読点として「点(、)」が書かれている。しかし,これは紙面の都合で行換えで表記されていた読点を「点(、)」で表したもので,実際の資料には使われていない記号と思われる。

2 幕末以前

江戸時代も末期に入ると,相変わらず縦書きの文書しか見つけられないが句読点に関しては使われている文書をボチボチ見つける事ができるようになる。

闇黒日記から提供いただいた資料(いづれも日本古典全集刊行會)では1800年に書かれた肥前風土記に「白抜きの点」,1800年代初期に書かれた箋釋豊後風土記に「点(、)」が見られる。国会図書館の資料を時系列で見ていくと,同じく1800年代初頭に書かれた南総里見八犬伝田舎草紙でも句点に「白抜きの点」が使われていた。但,見つけたものでは句点としての利用例しかなかった。もしかしたら読点としての利用もあるのかもしれないが,不明。

これは私の想像だが,幕末期に入り蘭学が普及しだすにつれ洋書に触れる者が増えたため,知識人であった文筆家達の間に句読点の有用性が浸透しはじめたのではないだろうか。これら「白ぬきの点」を利用している文書が書かれた時期よりも30年も前の1770年には平賀源内が長崎留学で触発されエレキテルについて書物を出しており,その6年後にはエレキテル発生装置を完成させている。杉田玄白の解体新書の刊行も1774年である。明治維新まではまだ四半世紀以上あるとは謂え,この時代には既に,文明開化の波が起こっていたのであろう。

句読点の形については,現在も縦書き文で使われている「点(、)」よりも,白抜きで書かれた「点(、)」の方が利用例が多いようである。鎌倉時代に見られた「カンマ(,)」や「ピリオド(.)」に似た記号は,日本語の標準であった縦書き文には使いづらい(見難い)ものであったのかもしれない。この時期に横書きの和文が書かれたとは想像し難いため,毛筆で書かれる縦書きの和文に適した句読点の形が思考錯誤の中で発明されていったものと思われる。だって,草書体じゃカンマもピリオドも違いわからンし。

しかし,句読点を使う事が一般的になったわけではなかったようである。私が見た大部分の和文では,やはり句読点が使われてはいない。国会図書館デジタル貴重書展の年表から当時の文書を見てもらえれば判るが,やはりこの時代でも日本語の標準的な書き方には句読点はなかったようである。

ちなみに,幕末の新撰組関係の文書でも句読点は見つけられなかった。

3 暗黒時代の始まり

この辺もかなり私の想像が入る。だって,この時代の横書き文書なんて見たことないもン。

さて,明治になり文明開化の風潮が高まるにつれ,英文や仏文,独文の邦訳が出回ってくると,徐々に日本語の横書き文が書かれてきたものと思われる。それに伴って句読点の利用も浸透し始めたと思われる。

横書き文の句読点は,当初は欧米文で使われる「カンマ(,)」「ピリオド(.)」が使われていたのであろう。但,前述の通り日本語の標準であった縦書き文には「カンマ(,)」や「ピリオド(.)」は使いづらい。また,徐々に広まってきた活字印刷では,横書き用の「カンマ(,)」や「ピリオド(.)」は一文字範囲の左下に位置するが,これもまた縦書きには適さない。そこで,縦書き用には「点(、)」や「丸(。)」,点(、)に似た「白抜きの点」といった縦書き専用の独特の記号が定着していったものと思われる。特に「丸(。)」「白抜きの点」は草書体で文字との違いをはっきりさせるために発達したと思うがどうだろう。

ところがある程度経つと,今度はこの縦書き用の記法が横書きに逆輸入され始めたのではないだろうか。この結果,本来使われていた「カンマ(,)」「ピリオド(.)」のほか,「点(、)」「丸(。)」などが横書き文で混在していき,表記が統一しなかったものと想像する。

何故そう思うかというと,この時期より後の縦書き文ですら句読点が統一されていないためである。そんな中で横書き文を書き慣れない状態では,こちらもまた混乱して当然だろう。現在に至っても横書き文の句読点が定まっていないことから考えても,出始めのこの時期に使い方がまとまっていたとは考え難い。

なお,明治期の資料で実際に見たもの(すべて縦書きの文書)では明治20年頃までは句読点が書かれたものを見つけられなかった。明治30年台後半になると,ちらほらと句読点が書かれた文書もあったが,まだまだ句読点は使われていない方が多かった。また,書かれ方もまちまちで,明治23年に書かれた正岡子規の銀世界国会図書館)では読点に「点(、)」が使われているが,闇黒日記から提供いただいた明治20年に書かれた浮雲では読点は「丸(。)」が使われている。しかし,どちらにも句点は存在しない。また私が観た資料では,句点も読点も「点(、)」のもの,読点はなく句点のみ「丸(。)」のもの,句点は行換えで表記し読点のみ「点(、)」のものなどもあり,使われ方は様々だった。

これは,元々日本語では句読点を使っていなかったため,「基本的には句読点なんか書かなくても切れ目は判るはずだが,読解力が足りない人のために,ここが区切り,と判る目印があればいいのだから,形には拘らない」という,ある意味合理的な考えに基づいていたのであろう。

また,活字印刷では句点の「丸(。)」も現在のように小さいものではなく,活字の半分くらいの大きさで目立つものだった。まぁ,これは印刷技術の問題もあったンだろうけど。

ちなみに,この時期に書かれた新撰組始末記には句読点は見当たらない。

4 句読法案

これらの状況を憂いてか,明治39年(1906)2月,文部省大臣官房図書課が「句読法案」及び「分別書き方案」を起草した。

これは現行の國定ヘ科書修正の場合に則るべき標準となすを目的としたもので,未だ定まらない句読法を統一するため,というか和文では使われることのなかった句読点の普及のためであったようだ。

但,この指針は縦書きについてしか記述されていない。これは,この当時の教科書は全て縦書きだったためと思われる。個人的には,当時の数学の教科書がどんな書かれ方をしているのか見てみたい気がする。いずれにしろ,この時代はまだ,和文は飽くまでも縦書きで書くもので,ごく一部の学術書程度だけが横書きであったのであろう。

句読法案では,「マル(。)」,「テン(、)」,「ポツ(・)」,「カギ(「」)」,「フタヘカギ(『』)」の五種類の書き方を規定しており,この文部省の規定が現在の縦書きの句読点の基礎として広まっていったと思われる。

しかし,この句読点の使い方も直ぐに広まった訳ではなかったようである。事実,句讀法案の緒言には,句讀法は語句の長短漢字と假名との配合等種々の関係上到底畫一の規定をなすを得ざるものあり國定ヘ科書修正脱稿迄には尚若干の時日あるを以って世の批評等に徴し句讀法及び分別書き方とも相當の變更をなすことあるべしとあり,混乱した現況と将来の加除修正を示唆している。それが証拠に,この時代の人である芥川龍之介(1892〜1927)は,大正14年(1925)に書いた文部省の仮名遣改定案についての中で,僕等は句読点の原則すら確立せざる言語上の暗黒時代に生まれたるものなり,なんて謂っている。

なお,KOTOBAの96.9.の30日付【句読点】によると,こののち昭和初期に発行されている書籍などでは,横書き文で「カンマと丸」による句読法が浸透していったようである。現在も出版されている書籍では,帝国書院から出版された新選詳国 世界之部(昭和9年版)などで利用が確認できる。

5 くぎり符号の使ひ方

昭和20年(1945)8月14日,終戦詔書が発布され,翌日昭和天皇による玉音放送で全国に伝えられた。こうして日本は連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)管理下に置かれることになる。

このGHQ管理下の昭和21年(1946)1月1日,昭和天皇による新日本建設に関する詔書,いわゆる人間宣言が発布された。この詔書は濁点と句読点が付された日本史上初の詔書であったらしい(確かに終戦詔書には句読点はない)。詔書なので勿論縦書きで,使われた句読点は「点(、)」と「丸(。)」であった。

これとの関係の有無は不明だが,昭和21年(1946)3月,文部省教科書局調査課国語調査室が,「送りがなのつけ方」,「くりかえし符号の使ひ方」,「外国の地名・人名の書き方」と一緒に「くぎり符号の使ひ方」(PDFファイル。53KB)を作成した。

これは,先述の「句読法案」を骨子として現代口語文に適する大体の基準を定めたもので,句読法案にはなかった主として縦書きに用ひるもの主として横書きに用ひるものという分類が設けられ,横書き用の句読点としてカンマやピリオドが規定されており,初めて公式に横書き文について言及がなされた。和文の横書きも漸く普及しだした,ということだろう。

横書き規定の内容は,ピリオドはローマ字文では終止符として用ひるが,横書きの漢字交じりかな文では,普通にはピリオドの代わりにマルをうつテン又はナカテンの代わりに,コンマ又はセミコロンを適当に用ひるとされている。面白いのは横書きの句点についてで,よく読むと普通にはピリオドの代わりにマルをうつとあり,漢字交じりの横書き文でも「ピリオド(.)」の使用を必ずしも禁止していないのだ。一般社会における横書き文の句点「ピリオド(.)」利用の多さを物語っているようだ。

この文書は文部省内で編集・作成する教科書や文書の記法を統一するために作られたものであったが,諸官庁をはじめ一般社会の用字上の参考ともなれば幸であるとされている。まぁ,ここで決まった内容で子供に国語教育をするのだから当然と謂えば当然で,世間一般に広まることを期待しての制定だったのであろう。この規定が現在に至っても句読法の根拠の一つになっていることから考えても,ある程度の成果は上がっていたと思われる。

余談だが,この中で縦書きについて,「丸(。)」は意味段落の終了を意味することが望ましい,とされているのが面白い。行換えや新聞コラムなどでの「▼」で意味段落を表現するのではなく,「。」を使うのである。意味段落が終わらない文の終了では「シロテン」(白抜きの「点(、)」)を用いることが望ましい,とされていた。この記号が実用化されていれば,国語教育がもっと進んだ気がしてならない。残念だ。

扨,この句読法の影響かどうかは不明だが,昭和26年(1951)10月,日本工業規格で制定された規格票の様式及び作成方法にて句読点の使い方に言及があり,区切り符号には,句点“。”,コンマ“,”,中点“・”及びコロン“:”を用いると規定された。この規格に従って文章を書くのが,技術者の間では常識とされているらしい。

6 公用文作成の要領

くぎり符号の使い方が作られある程度の効果はあったものの,句読点の使い方は統一されなかったと見える。この時期の新聞を見ると縦書きですら句点・読点の打ち方に規則性はなく,読点に「丸(。)」や句点に「点(、)」を使ったり,又は句点なしや読点なしの文など様々である。横書きの書籍などでもまだまだ統一はされていなかった。

統一されなかったのは政府機関内でも同様であったようだ。

「くぎり符号の使い方」が作製されてから6年も経った昭和27年(1952)4月4日,公用文に関して内閣官房長官から各省庁次官あてに「公用文改善の趣旨徹底について」という依命通達が送られた。

これには,客年国語審議会から,別紙のとおり建議がありましたが,そのうち同会の審議決定した「公用文作成の要領」は,これを関係の向に周知徹底せしめることは,公用文改善の実をはかるため適当のことと思われるので,貴部内へ周知方しかるべく御配意願います,と書かれている。如何に文書の書かれ方に統一性がなかったかが伺われる。

この通達の中で句読点は,先述の「くぎり符号の使ひ方」を踏襲してはいるものの,句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いるとされ,先のくぎり符号の使ひ方では容認されていた横書き「ピリオド(.)」利用は禁止されてしまった。

7 記者ハンドブック

この項も,ちょっとだけ想像が入る。というのも,この記者ハンドブックは平成15年現在第9版が出版されているが,第1版の内容とどれだけ違うかが判らないため。でも,タブーとされている言葉づかいとかは時代で変わっても,句読点の書き方の示唆が変わったとは思えないので,おそらく第1版当時からこの内容だったと思う。

さて,ここまでの横書き文の句読点の規定の流れは,句点は「まる(。)」,読点は「カンマ(,)」とする方向で流れてきていた。もちろん,実際の利用状況が統一されていたわけではない。横書きの文章を一番多く書くと思われる学術関係の文書では,欧米文に倣って句点は「ピリオド(.)」,読点は「カンマ(,)」とするのが主流だったからだ。

ところが,そのどちらの流れにも反した基準がいきなり飛び出した。昭和31年(1956)11月1日に発行された「記者ハンドブック」がそれである。この書籍は,共同通信社が,記者を始めとしたマスコミ各社でまちまちの表記をしていたのでは世間が混乱するため,前述の「公用文作成の要領」や昭和21年に作成された一連の文書同様に,その表記を統一しようと出されたものであった。

その全般的な内容は,使用する文字や言葉使いに関する規定であった。また,序盤に新聞などの縦書き時の書き方も規定されていた。この書籍の片隅に,マスコミの出版物では滅多に見られない横書き文の場合の規定も載せられていた。しかしその内容は,先行して規定されていた「公用文作成の要領」とは異なり,文書の区切りを示すために用いる句点は「。」,読点は「、」を使う。「.」「,」は使わない,というものであった。

どうしてこういう基準にしたのか,その制定理由については語られていない。ただ想像するに,原稿を縦書きで書いて横書きで印刷する時などに,写植屋が間違わないように縦書きも横書きも統一したかった,といったような印刷業界の事情が関係あるのではないだろうか。まぁ,マスコミ特有の体制に対する反骨精神もあるかもしれないが。

この基準が公開されたことで横書き文の句読点には,これまで政府が進めていた「カンマ(,)と丸(。)」という基準,学術関係文書で根強く使われていた「カンマ(,)とピリオド(.)」という記法の他に,新たにマスコミが推奨する「点(、)と丸(。)」という基準が発生することとなった。

8 左横書き文書の作成要領

この記者ハンドブックを受けてか,昭和34年(1959)に自治庁が作った「左横書き文書の作成要領」では「句読点は,『。』(まる)及び『、』(てん)を用いる。『,』(コンマ)は用いない。」とされたようである。

どうして自治省(今の総務省)が,わざわざ「公用文作成の要領」に反した規定を作ったのかは判らない。この要領は現時点では既に廃止されているようだが,この要領の制定が原因で,それまでは少なくとも統一しようという動きはあった公用文の句読法は,完全に混乱状態に陥いることになった。

Google検索で調べたところによれば,こののちに文書規定を制定している会津若松市,高根沢市,酒田市,北本市,加須市,箱根町といった自治体もこの方式を取っているらしい。また,小矢部市は「カンマ(,)」で記述するよう定めているが,手書きのときは「点(、)」でも良いという規定となっている。

9 公用文における漢字使用等について

昭和56年(1981)10月1日,「常用漢字表」が公表されたのに伴い各行政機関が作成する公用文の表記の統一を図るため,各省庁の事務次官等会議で申合せが行われた。このときに,漢字以外の事柄についても話し合いが持たれ,その結果は「公用文における漢字使用等について」としてまとめられ,昭和57年(1982)3月20日付け内閣官房長官から各省庁事務次官宛に通知された。

この中で句読点については,3 その他の項で「公用文作成の要領」(「公用文改善の趣旨徹底について」昭和27年内閣閣甲第16号依命通知)によるとされ,政府が推す「カンマ(,)と丸(。)」の規定が公用文では全省庁の統一規格として再確認されることとなった。

この官房長官通知(というか,その前の事務次官会議でか?)により,先の左横書き文書の作成要領は廃止になったものと思われる。自治省の事実上のトップが了承したのだから当然といえば当然で,現在は総務省(元の自治庁)のwebサイトを検索しても,横書き文の読点に「点(、)」を使うという作成要領は見つけられない。

しかし,異なる利用規定が作成されてから20年以上放置された公用文の句読法は既に混乱を極めていたようで,いくら規定上は「公用文はカンマと丸を使う」と謂っても,各省庁では公用文における句読点の利用実態は一向に改善されなかったようである。例えば国土交通省の電子納品Q&Aでは,現在は表現が変わっているが平成18年当時は厳密に言うと,「公用文の作成要領(S.27年 内閣通知)」では,句読点を「。」「,」としていますが,慣例的に様々な組み合わせが利用されていますと書かれており,正しいのは何か判ってはいるが特に気にしてはいない様である。

地方自治体ではまた事情が異なり,各自治体それぞれで文書規定を作っているが,当時の自治省に習って「点(、)と丸(。)を使用する」という規定を作ってしまった自治体は,いきなり自治省が方針を変えても今更対応できなかったようである。(地方自治体は官房長官通知の存在を知らない訳ではないと思いたい。自治省から地方自治体に何らかの通知がされた形跡もないし,お役所仕事だろうしで,チト怖いが。)

10 官公庁

各省庁の動向を調べたかったが,その辺の規定が見つからなかった。都道府県の規定も見つからなかったので,代わりに政令指定都市を調べてみた。

札幌市の「札幌市公用文規定」,川崎市の「川崎市公用文に関する規程」は,内閣官房の依命通知に沿っているようで,横書き「カンマ(,)」派。

横浜市の「「横浜市行政文書作成要領」の制定等について」は,自治庁の要領に沿っているようで,横書き「点(、)」派。でも,この文書自体は読点を「カンマ(,)」で書いているのが不思議。

仙台市の「公用文に関する規定」,名古屋市の「名古屋市行政文書規程実施細目の制定について」,神戸市の「文書サイズのA4化の実施について」は,「カンマ(,)」でも「点(、)」でもいい規定となっている。ちなみに,神戸市は,読点どころか句点には「丸(。)」又は「ピリオド(.)」を用いるなんて謂っている。

千葉市は見つからなかったけど,「千葉市条例の左横書きに関する措置条例」の中で,縦書きの条例を横書きに改める際の措置として,配字は,既存の条例と同様とし,読点は,「点(、)」を「カンマ(,)」に改める,とあるので,横書き「カンマ(,)」派のようだ。

京都市や福岡市も見つからなかったけど,京都市の「京都市公文書取扱規程」や,福岡市の「福岡市公文書規程 」などが「カンマ(,)」で表記されているので,横書き「カンマ(,)」派と思われる。

大阪市,広島市,北九州市も見つからない。でも大阪市の「公文書管理規則」,広島市の「広島市文書取扱規程」,北九州市の「北九州市文書管理規則」などが「点(、)」で表記されているので,横書き「点(、)」派と思われる。面白いのは,この三市とも例規検索システムが同じ物で,文書に直接リンクを貼れないタイプだった。何か因果関係があるんだろうか?

さいたま市も政令指定都市となってずいぶん経つので調べたけど,残念ながら例規集がみつからず。

なお,横書き「カンマ(,)」派の政令指定都市でも,広報誌やweb上の文章に関しては,取材等で接触の多いマスコミに遠慮してか,記者ハンドブックに倣って横書き文を「点(、)」で書いている様に見受けられる。

11 一般的な利用状況

公用文の状況はさて置き,問題の一般の生活ではどうか。

一般に見る機会が多いのは書籍や雑誌であるが,出版物を見るかぎり,出版業界では統一性はないようである。「日本語の正しい表記と用語の辞典」には次のようにあるので,当然なのかもしれない。

縦書きには「。」「、」を使います。

横書きには「。」「、」,または「。」「,」か「.」「,」のいづれでもかまいませんが,それぞれの雑誌,書籍で統一します。

小中高の学校で使用される教科書では,横書きは「カンマ(,)」「丸(。)」で統一されている。教育関係機関(大学など)で書かれる論文でも「カンマ(,)」「丸(。)」が一般的であるようだ。これは,文部省の「くぎり符号の使ひ方」の影響があるためか。但,大学関係者でも,web上で公開している読み物等では「点(、)」を使っているものを見かけるので,特に決まりなどないのかもしれない。まぁ,この辺に関しては後述するIMEの設定の問題があるだけかも知れないが。

法律関係の書籍や裁判関係の文書も「カンマ(,)」「丸(。)」が利用されている事が多い。法文を扱うこともあって,やはり政府の指導による影響が強いと思われる。

医学書や理系の学術書・論文などは,読点は「カンマ(,)」,句点は「ピリオド(.)」での記述が一般的。これは,英語やドイツ語の論文を書いたり翻訳したりする機会が多いため,そのまま欧米文の記述法を使っているためと思われる。

また,この「カンマ(,)」「ピリオド(.)」を使う人たちの間でも,欧米文の句読点を流用していることから半角でなければいけないという人たちと,日本語で使うので全角でいいという人たちがいるそうである。ちなみに,半角で句読点を打ったあとは半角スペースを入れるのがマナーという話もあるらしい。これは,例えば「123,456」という6桁の数字の表記と,「123, 456」という3桁数字を並列に並べる際の誤読防止のためだそうで,欧米文の長い歴史の中で培われた合理的な理由に依っている。

理系でも技術系の大学や現場では「カンマ(,)」「丸(。)」が使われている様子。これはJIS Z8301という規格に従ったもので,技術者の間では常識なのだとか。

同じく理系の書物のようでも,コンピュータ関係の本は事情が違うようで,アプリケーションの解説本のような一般人も見る本では句読点に「点(、)」「丸(。)」が使われる。但し,ソフトウェアエンジニアリング関係の本や技術者試験対策本のように,SEやCEといったコンピュータ技術者の為の書籍の場合は,やはりJIS Z8301の影響なのか「カンマ(,)」「丸(。)」が多く使われている。

先に書いたように,マスコミ関係は記者ハンドブックに倣い「点(、)」「丸(。)」を使うのが通例。横書き句読点の謎(1995年3月) によると,第5版の前書きには,文部省の「くぎり符号の使ひ方」を倣ったのか,マスコミ界だけでなく,官庁,会社,教育界その他一般の方々にも広く活用していただけるよう願っていますと書かれていたらしく,マスコミ主導で日本語表記を統一したいらしい。第9版には特に書かれていなかった様に思うが。

ゲームの攻略本や軍事関係・プロレス関係の書籍も同様に「点(、)」「丸(。)」が多く使われている。これにもマスコミの影響があるのかは判らない。

賞状や礼状,感状のような文書を書く際は,マナーとして句読点を打たない。文章を何処で区切るのかを相手に指示することは失礼に当たる,という意味があるらしい。この手の,句読点よりも遥かに古い歴史が有る文書では,日本語の本来の姿に戻っているものと思われる。もっとも,こういう文書は縦書きがほとんどだろうが。

面白いところでは,結婚式の挨拶状には句読点は打ってはいけないらしい。「慶事に区切りをつけない」という意味で縁起を担いでいるそうである。

他に,幼児用の絵本では横書きでも句読点がなく,分かち書きで文章の区切りを明示しているのが普通だが,これは就学前で句読点を習っていないための特殊事情だと思われる。

この状況をみる限り,句読点の原則すら確立せざる言語上の暗黒時代は今も続いているようだ。

12 コンピュータ上の利用状況

日本語入力ソフトでは,句読点の設定をディフォルト状態だと「点(、)」「丸(。)」となっている。

MS-IMEやVJE-Delta,WXG等のディフォルト設定が「点(、)」「丸(。)」なのは,そもそも入力モードのディフォルト設定がカナ入力であるため,キーボード上の表記に合わせただけと思われる。大抵のソフトに「カンマ(,)」と「丸(。)」,「カンマ(,)」と「ピリオド(.)」の選択肢があることから,特にメーカーでどの句読点を推奨するという意思があるわけではなさそうだ。

しかし,コンピュータの操作方法に精通している人ならばソフトウェアの設定を自分の必要な物に変更することが可能だろうが,設定を弄れることを知らない人が未だに多い現状から,そのままディフォルト状態で使われることが多い。そのため,句読点を意識しない人の間では無意識のうちに「、」「。」が使われているものと思われる。

電子データとして句読点を考えたとき,単純に字形を持って選択する訳にはいかない場合がある。たとえばweb上のHTML文書などの場合,表示される方法は縦書きか横書きかは閲覧者の環境による。そのため,横書きで表示されるつもりでカンマ(,)とピリオド(.)を使っていた場合,観る人は縦書き表示にしたため縦書き用の「カンマ」と「ピリオド」で句読点が表示されてしまうような状況があり得る。

また,印刷利用するための電子文書などでも,縦書きで印字するか,横書きで印字するかは作成中は判らない場合もある。このようなときに句読点に「カンマ」や「ピリオド」を利用していた場合,縦書きで印刷するとなったらわざわざ「点」や「丸」に変換しなければいけないことになってしまう。

この原因は文字コードにある。JISで規定している文字コードで句読点は,「句点」(といいつつ「丸(。)」の字形しかないもの),「読点」(といいつつ「点(、)」の字形しかないもの),「カンマ」(欧米文用の読点と謂うわけではなく字形として「カンマ(,)」が定義されたもの),「ピリオド」(カンマ同様字形「ピリオド(.)」が定義されたもの)といったコードが登録されており,句点・読点という文字コードがあるけれども実は字形しか定義していないため,利用者は字形で利用する文字を選択するしかなく,このような不便を強いられている。

このような事を回避するために,電子データとして「日本語の句点用の文字コード」,「日本語の読点用の文字コード」といったように意味を定義したコードで文書を作成し,それの字形だけを,縦書き表示の際は「点」や「丸」の字形にし,横書き表示の際は「カンマ」や「ピリオド」の字形にする,といった選択が行えればよいと思う。例えば,フォントをただの「明朝体」(MS 明朝とか,MS P明朝とか)にしていると縦書き時の句読点は「点」と「丸」だけど横書き時には「カンマ」と「丸」になり,「技術文書用明朝体」にすると横書き時は「カンマ」と「ピリオド」になるが,「マスコミ用明朝体」にすると縦書きでも横書きでも「点」と「丸」になる,とか。JISなりISOなりでそういう定めをすれば良いと思うのだが。まぁ,フォント制作会社がそれに沿ってフォントを作らないと意味ないけれども。

なお,このような文字コードの現状を鑑みて,縦書き用フォントでも横書き用フォントでも同じ文字コードで不都合が起きないようにという妥協から,あえて「点(、)」「丸(。)」を利用しているweb文書作成者もいる。

web上の句読点

よく見るサイトでは句読点に何を使っているか調べてみた。もしかしたら,なんかの法則があるかもしれない。

「政府規程型」:カンマ(,)+丸(。)派

「公用文における漢字使用等について」(昭和57年(1982)3月20日内閣官房長官からの依命通達),「公用文改善の趣旨徹底について」(昭和27年(1952)4月4日内閣官房長官からの依命通達)や「JIS Z8301」(昭和26年(1951)10月31日制定)を根拠としたもの。

「マスコミ型」:点(、)+丸(。)派

「記者ハンドブック」(昭和31年(1956)11月1日共同通信社発行)を根拠としたもの。

「欧米文準拠型」:カンマ(,)+ピリオド(.)派

特に根拠はないが,旧くから横書き句読点として使われているもの。

書籍の句読点

私がよく読む雑誌や持っている書籍では横書きの句読点に何を使っているかを調べてみた。

小説などは基本的に縦書きのものが多く,横書きの事例は見つけられなかった。

雑誌や,書籍でも実用書やHowToモノのような類の所謂「こじゃれたレイアウト」を重視しているような書物は一冊の本の中で縦書きと横書きが混在している。これらの書籍では私の観た限り例外なく,縦書きも横書きも「点(、)+丸(。)」であった。これは記者ハンドブックコンピュータ上の利用状況の項でも述べたが,文章を書く(若しくは電子化する)段階では縦書きとするか横書きとするかが決まっていないため,編集の利便のために「点(、)+丸(。)」を採用するしかないのであろう。

このため,横書きで書かれた雑誌・書籍の状況のみ記す。

なお,飽くまでも私の周囲の書物についての調査しかしていないため,人に依ってはもっと偏りがあるかも知れない。

「政府規程型」:カンマ(,)+丸(。)派

「マスコミ型」:点(、)+丸(。)派

「欧米文準拠型」:カンマ(,)+ピリオド(.)派