韓国から自分の掲示板に書き込むという行為に、以前ほどの感動はなくなってしまった。場所が分かれば誰でもできることなのである。そして自分は何の苦も無く旅館から観光公社まで散歩して、さも慣れた風に書き込んでいる・・何か違うような気がする。
知り合いを訪ねたり、知り合いと待ち合わせたり、再会を喜ぶ、一緒に遊ぶ、それは確かに楽しいけれど、自分はここしばらくそんな旅行に「甘んじている」ように思う。寂しくても、路頭に迷っても、何も面白いことがなくても、つたない韓国語を頼りに見知らぬ土地を歩き回ることにこそ、自分はかつて喜びを感じていたはずだ。それなのに最近は、韓国人・日本人の知り合いを訪ね歩いて、相手の生活や予定に割り込んで迷惑をかけながらも、「また1人で韓国を旅して来た」なんて錯覚して悦に入っている。いや、そんなことはないのだが、自分を客観的に眺めるとそう見えるのだ。韓国2回目・3回目当時の視点に戻ると、そう見えてしまう。やはり何か違って来ていると思う。
昨夜いったん「光州」と決めたのに、実はこの日の朝目覚めると「1人で行ってもなぁ・・大邱か釜山か晋州なら気が楽なんだけどなぁ・・」などと考えてしまっていた。掲示板に書き込むまで、「このままソウルでもいいし」などと考えてもいた。楽しむために積極的にそうするのならいい。しかしそうではない。楽な方へ逃げようとしているような気がする。おお厭だ!
今回は、どうしても地方へ出向かねばならないようだ。今回の旅行を決めた時から徐々に考えていたことだが、昨夜も考えたことだが、自分自身が小慣れた余裕の行動をとればとるほど、「遠いところへ」の思いは強くなった。確かに同じ場所を2度3度訪れるのも楽しい。遊びなんだからそれで充分という気もする。しかし、「それだけじゃいけない」と自分の中から声がする。「かっこつけんじゃないよ!」という声もする。うーーん。
何をぐずぐず悩んでいたのかというと、やはり初めて行くところは不安なのである。どう不安かというと、ただ移動して旅館で寝て、ロクに人と話せずに帰って来てしまうような事態が怖いのだ。PCから離れてジョンシク君との待ち合わせ場所に向かいながら、まだ考え続けた。たぶんそのうちに「ま、いいや。行ってみよう」ということになるのがわかっていながら。
そして、やはりこれまで行ったことがなく知人もいない地方、つまり全羅南道へ向かおうと本当に決めたのである。具体的な地名は保留にした。これも結局は昨夜考えた光州になるのだが、自分は細かく決めるのがいよいよ嫌いなようだ。
それがソウルのどこからしい、とわかっていたからジョンシク君に訊いたのだが、彼も場所はよく知らないようだった。・・が、鐘閣駅に「チョゲサ」の表示が出ているのを、今朝来る時に見つけたのだそうだ。なんとここから目と鼻の先ではないか!それで「おお!行くぞ!」と、さっそく向かってはみたが、チョゲサの入口には警察官(予備軍というのだろうか、皆高校生みたいな顔つきである)が盾を持って並んでおり、建物の一部が少し見えるだけである。もう鎮圧されたんだからいいじゃないかと思うのだが、どうも見せてくれる雰囲気ではない。「日本から見に来たんだからなんとかしてくれ」とジョンシク君に言わせようとしたが(笑)、慌てて「だめですだめです」と、ヒョンの野次馬的要望は却下されてしまった。
テレビで見たのと同じ衣装を着た僧侶に何人かすれ違う。それまで気にも留めなかった僧侶の姿も、あんな騒動の後だけになかなか凄みがある。この衣装や数珠などを売る(土産用ではない)店が近くに何軒かあり、ちょっと気持ちが動いたのだが買わなかった。(どうせ買うだけで着る機会はなさそうだ)
自分が言い出したのか、ジョンシク君に勧められたのか忘れてしまったが、国立博物館に行くことになった。バスに乗ろうとして、ジョンシク君が運転手に訊くと「すぐだから歩きなよ。」と言われ、所望のバスを待つのを諦めて歩いた。「すぐだから・・」のところで、「車がない」ということを言っていたようなのだが、それが「今日は運休」ということなのか「その路線はない」ということなのかわからなかった。(或いはまったく関係の無い話だったのかも知れない)
国立中央博物館は景福宮(キョンボックン)の中にある。正直に言うと、両方とも興味がない。まっすぐに博物館に入って、早々に出て来た。入る前に「もしや面白いかも知れない」と期待してみたのだがやはりつまらなかった。磁器も陶器も日本でも見たようなものであるし、専門家に叱られそうだが、歴史的史料も日本のものと大きくは違わない。まだ日本バッシングの展示物の方が自分には面白いが、ここにその類いのものがあったかどうかすら覚えていない。日本語での案内を頼むことができるようだったが、ゆっくり見る気はなかったのでやめた。そのうちまとめて「ソウル半日ツアー」みたいなものに参加して聞いてみたい(半分本気)
クリスマスのこの日、いやクリスマスだからというわけでもないだろうが、やたらに日本人が多かった。観光名所にわざわざ来たのだから、そのことには別に文句はないが、ガラの悪いオジサン(日本人)と派手なアガッシ(韓国人)のカップルにだけはどうしても顔をしかめてしまう。それは実は「ビジネス」ではなくて「正しい」熱愛中のカップルだったのかも知れないが、自分にはどっちにしろ不愉快なのだ。韓国スナックで得意げに「韓国での性体験」を語っていたオヤジとだぶって見えるからだけではない。金で買ったら買ったで、まっとうな恋なら恋で、とにかく自分の親の世代のエネルギッシュな欲求は、自分に猛烈な嫌悪感を起こさせる。なぜか?それは学生時代に、恩師が自分の彼女に色目を使ったという経験から来ている。まったく無関係のオッサンなのに、「オレの好きな韓国にまでスケベ面下げて来やがって」という目で見てしまう(罪の無いお父さん達、ごめんなさい)自分は、自分がその年齢になっても「お盛んなオヤジ」を憎み続けるのだろうか?
地下鉄の駅に向かう。タバコを我慢していたので、通りに出るとすぐに火をつけて歩きながら吸っていたのだが、ついそのタバコをポイ捨てした。「ヒョンだめですよ」とすかさずジョンシク君が注意した。それまで何度かやっていたので「何をいまさら」と思ったのだが、「警察に見つかると3万ウォンですよ」・・確かにすぐ先に警官が立っていた。「外国人だから大目に見てくれるかも知れないけど」とジョンシク君は笑うが、自分はちょっと蒼ざめた。3万ウォンが怖いのではない。自分で自分の行為が厭になったのだ。タバコのポイ捨てもそうだが、ジョンシク君に注意されて一瞬、心に「何だと?」という反感を抱いたことが厭だった。自分が最低の人間に思えてくる。「大丈夫だ」と照れ笑いをしながら、実は内心ジョンシク君に詫びていた。
ピンクル(FIN.K.L)という4人組みのアイドル歌手がいて、自分はまぁ、熱狂的ではないが「好き」なのである。しかしポスターを欲しがったりTV番組を録画したりする熱心さは、その日までなかった。ところが露店の前を何度も行き来するあいだに、カレンダーを買い、VCDを買い、そのおまけにポスターをもらってヘラヘラするオジサンと化してしまった。
それには韓国クラブが関係している。旅行の少し前に、店のアガッシにピンクルのポスターを頼まれたのだ。聞けば他の客が韓国歌謡が好き(韓国関連サイトを見ていると鈍感になるが、これは非常に珍しいことなのだ)で、中でもピンクルの大ファンなのだという。この依頼に自分はカチンと来た。ただでさえ韓国クラブの客なんか嫌いなのに、その客のために持ち帰りの困難なポスターなど冗談ではない。ピンクルの大ファンだというなら店のアガッシになど頼まずに、自分で韓国に行けばいい。自分は露骨に不快な顔をしてそう言って断った。・・普通に出会った人が韓国歌謡に詳しくて、ピンクルやらSESのファンだというならどうだろう?・・自分のことは棚に上げて「変わった人だなぁ」と思うだろう。でも、どちらかというと嬉しい(自信ないが)かも知れない。
そして、その見知らぬ男にとって欲しくてたまらないものが目の前にある。自分はちょっと恥ずかしさを我慢すれば買える。もちろん自分だってピンクルは気に入っている・・「買う」と決めるまでにちょっと時間を要したが、いったん「切れる」と立て続けに買ってしまった。いま思い出すと恥ずかしい。成人雑誌でも買う方がよほど気が楽である。
もうついでだからと、CDショップに入っていろんなCD・テープを買う。ジョンシク君が店員に交渉してSESのポスターをもらってくれる。再度露店に戻ってハガキサイズのアイドルの写真にも手をのばしたが、さすがに買えなかった。自分の中で変な基準があって、ポスターやカレンダーはOKだが写真は許せないのだった。もう五十歩百歩ではないかと思うが・・
自分がなんとなく避けて来たものの1つが、ポンデギである。これは蚕のサナギを茹でたもので、市場や繁華街で独特の臭いを放っている。釜で大量に茹でて紙コップ1杯W1000で売られている。よく「韓国の変なもの」として取り上げられ、スンデやポシンタンとともに日本人には苦手なものの代表格である。が、自分は食べられないことはないと思っていた。世界中の様々なゲテモノに比べたらずっと食べやすく美味いに違いない。しかし、韓国人の前ではちょっと厭な顔をした方が喜ばれるので、以前あるアジュmマの前で大袈裟に気持ち悪がったことがある。が、そのアジュmマが笑わずにポツンと「戦争(たぶん朝鮮戦争)の後、食べるものがなくてねぇ・・」と言ったので、自分は急に申し訳ない気持ちになったのを覚えている。よその食文化に不用意にケチをつけちゃいけないのだ。
「今日はポンデギを食べてみたい。食べきれないと思うので残ったのはジョンシク、食べてくれ」と頼む。ジョンシク君は何でもないという表情で「わかりました」と答える。湯気にむせながらポンデギを買うと、自分は屋台へまっしぐらである。急いでオデンとットッポッキを注文する。もしポンデギが不味かったら、これらを口に放り込むためだ。心の準備ができたところで、つまようじで突き刺して1つを口に入れた。
思った通り、味は淡白で、どうということはない。美味くもないが不味くもない。オデンやットッポッキの合間につまむと「美味い」と言ってもいい。が、1人でカップ1杯のポンデギだけを食べるのは遠慮したい。結局残りはジョンシク君がたいらげてくれた。
その後、焼酎を飲みながらブデッチゲを食べ、今日の買物の荷物を帰る日までジョンシク君に預かってもらうことにして、早めに寝た。オンドルが暑い。部屋が乾いている。自分の体調は確実に悪化している。