ヒョルロギはメークアップアーチストである。いまはテグを出てアpクジョン(狎狗亭)の近くに住んでいるというので、現代百貨店の出入り口で待ち合わせる。メールやチャットの仲であるから、当然2人で飲みに行くもの(大袈裟な下心はなかったが)と思っていたのだが、現れたときは2人連れで、自分はちょっと拍子抜けする。「まぁそんなもんかな」と思い直しつつ、やや落胆もしつつ、そのもう1人のおねえさんに簡単に挨拶をする。と、そのおねえさんが「ウォルさん、私は邪魔みたいねぇ(意訳)」などと言う。「へ?オレを知ってるのか?」と思ってよく見ると、なんとオクチュであった。これでオクチュに会うのは3度目である。髪をアップにしているのでまるで別人に見える。なんだよ最初からオクチュを連れて来ると言ってくれればいいものを。体調がよくないというヒョルロギと、まったくの下戸であるオクチュと、3人でコーヒーショップ(!)に入る。
ところで、日本を発つ前から約束していたのでヒョルロギには土産を持って来たのだが、オクチュには急だから何もない。2人のうち一方だけに土産を渡すのはなんだか気がひける。かと言ってこの重い荷物(1つはカステラだったと思う。それと日本の女性ファッション雑誌・・・買うのが恥かしかった)をまた持ち帰るのもイヤだ。そこで雑誌はヒョルロギに、菓子はオクチュに渡そうとすると、オクチュが「私には気を遣わないでください」と、2つともヒョルロギに渡してしまう。言葉には出さないが「会いたかったのはヒョルロギでしょう?」という態度である。あ〜イヤだ。この空気。
まぁそれでも、オクチュはさっぱりとした性格なので、その後は和気あいあいとしゃべって別れるのだが、しかしわざわざコーヒーを一杯飲むために土産をかかえてやって来た自分がバカらしい。2人で日本に旅行に行くつもりなので、そのときはよろしくお願いしますと言うのだが、だったらこんなコーヒーだけの接待でいいのか?と意地悪な考えも起こってくる。これまで出会った老若男女の誰と比べてもあんまりな応対である。もっといいものを奢ってほしいとか、そういう意味ではもちろんない。なんならこっちが奢ったって構わない。体調が悪くてもヒョルロギが男なら、無理してでも当然のごとく飲みに行くんじゃないだろうか?これだから女は・・・そんな自分の心のうちを読んだかのように、オクチュがスウォンを案内すると言う。翌々日の約束をして、自分はポッカリあいた時間を利用してヒョンの店に向かう。
しばらく飲んでから、ヒョンが自分の方を向いて話し始める。日本で韓国のものを売るとしたら、何が売れると思うか?・・・唐突にそう言われても困るのである。いや、以前もこんな話になったから唐突ではないのかも知れないが、自分は普段そんなことは考えないので、言葉に窮する。パッと浮かぶものが2、3あるのだが、ヘタに意見をして間に受けられたらおおごとになりかねない。そう言うと、ヒョンは笑いながら「お前が何がいいと言ったからってすぐそれを売りに行くわけじゃない、気楽に言ってみろ」と催促する。仕方なく自分は3つほど案を出して見るが、そのうちの1つがヒョンと同じ案だったからたまらない。「おお!お前もそう思うか!」と身を乗り出して来る。ああ、いかんいかん!
絶えず慎重な意見を述べる自分と、いっちょうやってみんかい!と言うヒョンと、ビールを酌み交わしながらの議論が続く。自分は要所要所は聞き取れるが、細かいところまでは聞き取れない。何か変な約束をしてしまうと大変なのでこっちも必死である(笑)。まぁ今すぐに何かをどうこうしようと言うことではないので、結局は「お前の韓国語は何か商売に役立てるべきだ」という話に落ち着く。「考えてみる」「うん、考えてみろ」というやりとりが10回ぐらい繰り返され、終電間近に別れを告げる。
ところが、終電は途中で終わってしまうのである。ウルチロなんとかの駅から自分は、タクシーに乗るつもりで歩いて見るが、なかなか捕まらずに結局チョンノまで歩いてしまう。終電がなくなってどうしてウルチロなんやらの駅だったのか、記憶が定かではないからソウルの地下鉄に詳しい人から「それはおかしい!」と言われるかも知れないが、トイレに寄るためにわざわざ降りたのか、居眠りをしたのか、とにかくウルチロなんやらから歩いて帰ったのである。
話を戻す。ジョンシクとうろついたあとでデジとパラムを呼び出す。呼び出したが協議の結果、こちらがカンナムまで行くことになる。最初にデジと落ち合い、駅の近くのビアホールに入って飲みながら待っているとパラムから連絡が入る。とりあえず自分にとって重要人物の集合である。ただ、自分とそれぞれは打ち解けているのだが、ジョンシクとデジ、パラムとデジはもう少し時間がかかりそうである。ここでもどんな話をしたのかほとんど忘れてしまったが、パラムの言葉だけがなぜか記憶に残っている。「日本の男はみんな美男だと思っていたのにこんな人(自分を指差す)もいたなんて!」・・・悪かったな!
そのあと自分の希望でノレバンへ向かう。自分の部屋で独りスンチョルの唄を練習していると、自然と歌唱力がつくようで、相変わらずヘタなのはヘタなのだが、それでも以前に比べたら上達したようである。先日1年ぶりぐらいに入った韓国クラブで、「うまくなったねぇ」と言われた。「うまいねぇ」と言われたらお世辞だが、「うまくなったねぇ」だから、少なくとも以前よりはうまいのだろう。しかし残念ながらこの日はまだ練習を始めて間もない頃で、誰からも「うまい」とも何とも言われずに、ただ自己満足のままに、自分は韓国でないと唄えない曲を探し続ける。
声が涸れるほど唄って、それぞれ別のバスに乗るジョンシク・パラムと別れ、デジと自分は地下鉄に乗る。途中で乗り換えるデジがホームに下りて、ドアを挟んで自分と向き合う。自分のドキュメントを撮りたいと言うデジは、実際に自分に会ってみてどういう印象を持ったのか?自分は何か期待を裏切ってはいないだろうか?別れ際になって自分勝手な自分も、ふと「他人の目」を気にしてみる。中東や南米を旅行して、世界各国の若者と友達になっているこの新しい弟は、自分をどう思っただろう?・・・そう考えている間にドアが閉まる。ドアが閉まる直前、デジがふいに野太い声で叫んで自分をニンマリさせる。これは是非韓国語で書きたい。
ヒョン! ナ イルボン カゴシッポジョッソ!
日本に行きたくなった!と叫んだのである。自分が周りの客の目も気にせず、「クレェ!ッパルリ ワ!」(早く来い!)と怒鳴ったところでドアが閉まる。男同士っていいなぁと思う。
鐘路書籍の前にややふらつきながら、ミレロが現れる。自分を見るなり気まずそうに笑う。自分はドラマでよくあるポーズ---「おゆっ」とか「いっし!」などと言いながら手をすっと上げて殴ろうとするところで止める:苛立たしいときの仕草---を試して見る。ミレロはキャラキャラと笑う。「もうオレの声忘れたのか!」「韓国語がうますぎるからよ」「やめろ!いじけたぞ、オレは!」というような会話をしながら、民族酒場的なところへ入る。ミレロの他に7〜8人が座って飲んでいる。トンウギという、先日の飲み会に全州(チョンジュ)から出て来た男は、知人宅を泊まり歩いてまだソウルにいるのだと言う。彼の昔の彼女が、ファンクラブの掲示板に現れてどうのこうのという話題がずっと続いているようだが、あまり興味がないので、自分はミレロやオリーブ、ヒョンミニを相手に、自分のホームページのスンチョル紹介コーナーについて相談する。
ところで、韓国における韓国人のイヤな癖・・・この時点でナンバー1は、テーブルに置かれた灰皿に唾を吐くというものだ。主に男がやるのだ、と後から聞いたが、ここでは男も女も全員ではないが(さらに言うと、韓国人すべてがこれをやるわけではない。念のため。)タバコを吸い、唾を吐く。だから灰皿がやたらに汚らしくなってしまう。それから唾は吐かなくても、灰皿にいろいろとゴミを捨てる傾向は多くの韓国人に見られる。日本人もそうだったろうか?自分は喫煙者だが、というより喫煙者だからか、灰皿にタバコ以外のものを捨てるのが嫌いである。新品のタバコ開封時のビニールや銀紙、ガムの噛みカス、コーヒーに入れたミルクの入れ物、砂糖の袋、爪楊枝・・・そういうものでも腹立たしいのに、唾を吐くとは!・・・自分がしかめっ面をしていたのは、誰も気づかなかったようだ。
ミレロが何かの用事(こんな時間に?)で席を立って店を出る。その間にミレロの携帯電話がテーブルでくぐもった振動音(マナーモード---韓国ではエチケットモードという---になっていた)を立て、それが執拗に動きをやめないので、不機嫌そうにオリーブが代わりに電話に出る。「ヨボセヨォ!」と言った数秒後、オリーブの顔色が変わる。なんだか姿勢まで正して敬語で話している。皆「誰だろう?」という顔でオリーブを見る。緊張したまま電話を切ったオリーブが、「スンチョリオッパ・・・」と放心状態でつぶやいて皆仰天する。何の用事でミレロに電話が来たのかは忘れたが、ファンクラブ運営者でスンチョルに何度も会っているとは言っても、やはり本人との会話は緊張するものらしい。外から戻ったミレロが悔しがること(笑)
かなり遅い時間になって解散となる。3月に続いてオリーブが、「うぉるさぁん!」と抱きついて来て別れを惜しんでくれる。シラフでやってくれると嬉しいんだが(笑)、どうせ何も覚えていないのだろう。スレンダーなオリーブに続いて、ヒョンミニに抱きしめられる。ヒョンミニは自分より縦にも横にも一回り大きいので、そのまま後ろにひっくり返りそうになる。そのあと男が2人、トンウギとミッシンが、「もう帰れないのでいっしょに寝ましょう」と言い出す。このまま夜を徹して話し込むと明日の予定がむちゃくちゃになるので、部屋を別にとってやることにする。だいたい3人でどうやって寝るのだ!と思うが、この約8ヵ月後、ジョンシク、デジと3人で寝ることになるとは、この日の自分は想像もしていない。そして自分のモーテルよりも安いところで申し訳ないが、あのネズミ旅館(旅行記の何番目だったか・・・に既出)に酔っぱらいを押し込み、クタクタになってモーテルに戻る。