それはいいとして、自分は風邪気味である。デジと話しているうちに、ふと感じた喉の違和感。それは酔うに連れて忘れたが、デジを見送ったあとモーテルに帰るまでに確信に変わった。どうして韓国に来るたびに、ほとんど毎回体調を崩すのか、我ながら情けなくなる。普通は「旅行」で気が引き締まるものだと思うが、自分の場合は気が緩むらしい。それだけ韓国に慣れたのか、あるいは日韓の気候の微妙な違いに過敏な体質なのか、4回目の旅行以来、ずっと体調がよろしくない。
韓国の薬局は、日本よりも強い薬を処方してくれる。はっきり言うが、日本の風邪薬なんかCFばっかり大袈裟で、ちっとも効かない。自分など喉が痛くなると、どんな副作用が出ようが構わないから(死んじゃったら困るが)その場でなんとかしてほしい、と願う。シャブやマリファナじゃあるまいし、扁桃腺に即効性のある抗生物質ぐらいは、客の希望どおりに売ってくれればいいといつも思う。韓国ではこれを頼めるところが嬉しい。もちろん、抗生物質のあるなしに関わらず、処方される風邪薬は強いので、胃薬も一緒に飲む必要がある。この辺りは慣れたもので、自分は切々と、身の上話をするように「こうこうこうだから、とにかく喉の痛みをなんとかしてほしい、抗生物質が必要だ、それから胃薬もね」ということを語るのである。
では韓国で風邪薬を飲めばすぐ治るのか?・・・残念ながらそこまですごい薬はない。ただ、自分はいつまでも安静に寝ていられない旅人であるから、その薬の効果を充分に発揮させていないのである。飲みながら動き回る、ということを考えると、とりあえず高熱を発せずに乗り切れるのだから、日本の薬よりは効くと言える。しかしこれは、薬局で風邪薬を買う場合の比較である。時間が許すなら、日本で医者にかかって注射を打ってもらうのが一番であろう。
薬局にも種類があるようで、今回自分が入った薬局では、まずアジュmマが自分の訴えを聞いたのち、手を握りながら脈を測る。こんなことをする薬局は初めてだ。「体質には陽と陰がありますが、アジョッシは陽なんです。」と言われる。それから「脈も速いですね」と言うので「それはアジュmマが手を握ってるからです」と返すと、ちょっと「うふ」と笑う。ははは。
そこからが衝撃の宣告である。「体質が陽ですから、熱いもの、辛いもの、焼酎や洋酒はだめです。」なんだって!?それはメウンタンもプデッチゲも食べるなということか!?・・・残念ながらそうである。3日分の薬を受け取って、うなだれて薬局を出る。
蚕室(チャムシル)の野球場に向かう時間まで、モーテルで寝る。鍵を受け取りながらアジョッシに、薬局で言われたことを話してみる。アジョッシは「そんなもの信じなくていいです、風邪引いたら辛いものをたくさん食べてサウナでいっぱい汗をかいてう〜んと眠ればいいんです!」と力説してくれる。なんの慰めにもならない。そういうのは普通の風邪の場合で、扁桃腺の場合はそんなことをしたら、40度の高熱で救急車の世話になる羽目になる。まぁ体調を崩したときだけ、熱くて辛いものと焼酎は控えよう、と決めてベッドに倒れる。
原則として禁酒なのだが、球場の外の出店にはきちんと焼酎が売られており、我々は海苔巻やらスルメとともに持ち込んでいる。以前、入場のときに持ち物を外側から触診されたことがあるが、そういえばこの日はノーチェックだった。試合がつまらないので、焼酎を飲みながらの雑談のほうが面白くなってくる。自分は誰にともなくキティちゃん饅頭(だったと思う)を土産に買って来ていたのだが、それを誰かがすぐ後ろの席の客に「日本のお土産です」みたいなことを言って分けてあげると、お返しにチキンが返って来る。もうあまり「日本から来た」を売り物にしたくないのだが、何とかかんとか言われて仕方なく振り向いて愛想笑いをする。
体調も悪いことだし、明日の飲み会のために大事をとって早く寝ようと思って、先に席を立った。このメンバーとは明日また顔を合わせることだし、このまま飲みに行くことになって朝帰りなんていうことになると、平常時ならともかく、いまの体調では自信がない。
が!! なんとこのあと、このメンバーで軽く飲んでからPCバン(インターネットカフェ)に行き、そこでチャットを通して運良くスンチョルと連絡がとれ、江南(カンナム)で一緒に飲んだと言うのだ。なんという機会を逸してしまったのか!帰国して夏が過ぎて秋になって冬になってたいまでも、悔しくてたまらないのである。
ところでよく思い出してみると、薬局で薬を買ったのはこの日ではなく、翌日であったかも知れない。いまさらこんなことを言い出しても読み手を混乱させるだけなのだが…。体調が悪くて野球場を早く出たのは確かなのだが、薬を飲んで寝ていたのは、野球観戦に備えてではなく、ファンクラブの飲み会に備えてだったようである。すると野球場に向かうまでのあいだ、自分は何をしていたのだろう?…ジョンシクに会ったか?…いやそれはもう少し後だったように思う。他に旅行中に会った人物をいろいろと思い返しても、野球場に向かう直前には会っていないようである。では自分は何をしていたのだろうか?どこか散歩をしていたとか、買い物をしていたとか、自分しか知らないことだから適当に書いてしまえばいいのだが、正直、記憶がポッカリ抜けてしまっている。これは翌日の飲み会までの時間も同様で、いったいどこで何をしたのか…。先に書いた部分を訂正するのは容易だが、いずれにしてもどちらかの半日の行動が不明なのである。やはり旅行記は帰ってすぐに書いてしまわなければならないのだ。…わかってはいるが、たぶん今後も改めることはできないだろう(--#)
オクチュの携帯に連絡が入り、本来の集合場所に向かう。ミレロ、ヒョンミニ、オリーブ、ミダリ等の見知った顔が揃っている。やはりそれぞれ、デモの影響でバスやタクシーが渋滞に巻き込まれたようだ。普段は人気の無いこの喫茶店(というより喫茶コーナーに近い)を集合場所に選んだのだが、今日はなんだか人が多い、これもデモのせいだろうと誰かが言う。前回は「新参者の自分対韓国側」という観点だけでアップアップしていたが、今回はやや余裕が生じて、韓国側にも常連と新参者がいて、しきる側としきられる側、さらに年齢差による上下関係などがからまって、なかなかおもしろいと感じられるようになる。
ホプに移動して飲み始める。新参者の多いところに座ってしまったので、なかなか盛り上がらない。なんで自分が新規加入者に気を遣って、あれこれ話し掛けてやらねばならんのか…という感じでスタートしたのだが、そのうち酔ってくると互いに打ち解けて、自分も自分勝手に知った顔を遠くに見つけると呼びつけ、なんやかやとくだらない話をするのだった。
ここで失敗が1つ。会費が1万ウォンだというので、自分が出そうとすると「ウォルさんは出さなくてもいいんじゃないか?」という声が。それに対してつい「何言ってんだ、たった1万ウォンで…」と言ってしまう。数名から「おお---!」という溜息とも驚きともつかぬ声が。失言である。誰かが「じゃぁ全部ウォルさんに払ってもらおう」と冗談を言って(ちょっと記憶が曖昧)皆が笑ってくれたから救われたようなものの、言ってはならない一言だったと反省する。
ヘジンという高校生の女の子がいて、スンチョルのファンクラブとしては非常に珍しい存在である。こういう席で、いまどきの高校生なら平気で酒を飲みそうだが、ヘジンは生真面目なのか体質的に飲めないのか、おとなしくジュースを飲んでいる。スンチョルを始めファンクラブの全員が大事に大事にしている。そのヘジンが門限だというので、前回自分を車に乗せてくれたヨンサミが、いっしょにヘジンを送りましょうと言う。自分もそろそろちょっと外に出たかったので、ついて行く。「あれ?帰っちゃうの?」みたいなことを言われながら出口に向かう。宴会開始当時に隣に座っていた大人しそうな美人が、爆弾酒もどきを煽りまくってダウン寸前になっている。あのまま隣にいなくてよかったと、胸を(自分のだよ)なでおろす。そう言う自分の胸は、誕生祝にビールを浴びせられたタクテガリという男のしぶきを浴びて変色している。これは後日、モーテルで洗濯を頼んだのだが、妙な洗剤の匂いがこびりついてしまって困ったのである。…だんだん支離滅裂になってくる。
ヘジンを送ってヨンサミと2人、男同士の話をしながらチョンノに戻ると、ノレバンに移動していた。彼らといっしょのノレバンは、国民性と世代のギャップをダブルで感じる。ヨンサミに肩を抱かれて(もう慣れたが、この図は決して日本人には見られたくない)座ると、何か唄えと勧められる。スンチョルの曲を唄うべきかどうか迷っていると、マジマクコンソトゥ(最後のコンサート)が流れ始め、マイクを渡される。悪いがこれは18番である…いやこれはいまの話であって、この日の時点では、とりあえず唄えるがあまり自信はない曲である。オマケに風邪をひいている。…が、イントロが流れてしまったらもうしょうがない。「うまいですねぇ」と、お世辞だかなんだかわからないが、誰かが確かに言ってくれた。韓国語をほめたのか唄をほめたのか、怖いから訊かないでおく(笑)
そこも間もなくお開きとなり、またホプに入って飲み始める。そろそろうんざりし始める。自分の酒量がたいしたことがないため、体調が悪いため、というのもあるが、何よりだんだんと話し相手が少なくなることが、自分をつまらなくさせる。所詮は外国人の話す韓国語、あまり長時間の相手をするのは邪魔くさくもなるだろう(そんなことないです、と言うだろうけど)し、久しぶりに会った友達や新規加入の友達と盛り上がってしまうのも仕方がないことだ。やはり先に帰ろうと思ったところへ、スンチョルのバックダンサーという男が入ってくる。金髪で短髪で、鋭い目つき、耳にはでかいピアス、ケンカしたら絶対に勝てそうにない体格、そんな男が「日本のファン」として自分を紹介されると、腰を低くしてあの韓国風の握手(右手を差し出し、左手は右手の肘、または胸のあたりに置く)をしながら意外にやさしい声で「パンガプスムニダ」…かっこいい、と思った。
そういえばここでも失敗が1つ。今日初めて参加したというカップルが、隣に座っていた。男のほうが自分のすぐ横なので、いろんな話のあとで「(その隣の女の子は)女房になる予定ですか?」と訊いたのだが、ここで自分は「プイン」でも「アネ」でもなく、覚えたての「マヌラ」という単語を使ってしまった。彼はちょっと考えてから、「たぶんよくわからなくて「マヌラ」とおっしゃったんでしょうけど、普通他人に対しては使わない言葉です」(もちろん意訳)と教えてくれた。…「品のないヤツ」というレッテルを貼られてもおかしくない状況だったのだ。このマヌラ、それほど酷い言葉ではないようだが、「私のマヌラ」とか「彼のマヌラ(彼がいないところで)」という言い方はあっても、「あんたのマヌラ」なんていうケースは、あるかも知れないが、少なくとも会ったその日に言うのは大変失礼であるらしい。男として、自分を侮辱されるよりも女房を侮辱されるほうが気分が悪いであろう。よく冷静に教えてくれたものだ。
結局、バックダンサーと握手して10分ほどで店を出る。午前3時のチョンノはまだたくさんの人が---酔っぱらいばかりだが---うろついている。明日は、いやもう今日だが、仁川(インチョン)でパラムに会う。