わがまま

お決まりコース

ようやく韓国である。タバコを吸って土産のCDを渡す。どうせ解散してしまうんだから「やめろ」「やめろ」と言っても、ジョンシクは頑なにSPEEDのファンである。ジョンシクだけではない、メールをくれたり掲示板で見かける韓国人男子の中に、SPEEDのファンは少なくない。別に韓国でコンサートをするわけでもないのに、日本の音楽がまだおおっぴらに解禁というわけでもないのに(その方向に流れてはいるらしい)、かなり以前からファンである。自分はSPEEDをよく知らない。こう書くと「またぁ、韓国にかぶれちゃって」と思うかも知れないが、それとは無関係にSPEEDに興味がないのだ。なんとかブルーもなんやらグリーンも、なんだか読めない名前のグループも、とにかく興味がない。だいたい、いつ聴くんだ?部屋でも車でも韓国の曲が・・・おお、これをかぶれてると言うのか!すまぬ^^;

ジョンシクがダウンジャケットを見て、「もうそんなの着てる人はいませんよ」と言うので周囲を見回すと、確かに皆薄手のジャケットを着ている。中には作業中で暑いのか、半袖もいる。ダウンジャケットじゃ暑いが、いくらなんでも3月に半袖は寒いんじゃないかと思う。そしてバスに乗る。また料金が上がっている。ジョンシクが2人分の料金を「入れた」「入れていない」で運転手と一悶着ある。運転手によく見えなかったらしい。こんなことなら、バス料金ぐらい自分で払いたいのだが、それはジョンシクがなかなか承知しないのである。ソウル市街をぼんやり眺めて約1時間で鐘路(チョンノ)に着く。(鐘閣(チョンガク)とか鐘路(チョンノ)とか、混乱されるかも知れない。この辺の地名が鐘路であって、鐘閣は地下鉄の駅名。由来は鐘の閣があるからだが、面倒だからガイドブックでも参照のこと。鐘閣は鐘路1街にある。)

そろそろW2万の旅館がイヤになっていた。部屋の古さや広さや汚さはどうでもいいが、シャワーの湯がチョロチョロとしか出ないのは、もう耐えられない。よく前回まで我慢していたものだ。夏場はそれでも構わないのだが、冬は(もう春か?)風邪をひいてしまう。それで以前に泊まって(クリスマスの頃だったと思う)印象のよかった、沐浴湯の上にあるモーテル(看板は「ホテル」)にとりあえず2泊する。まとめて5泊分払えば少し安くなるかも知れないが、あまり考えずに2泊とした。・・が、これが功を奏した。シャワーの湯の出は確かにいいのだが、急に熱くなったり水になったりして具合が悪いのだ。もっとイヤなのがトイレだ。最低5回は流さないと「食べ物のなれの果て」が成仏してくれないのだ。もちろん紙はゴミ箱に捨てているし、自分が人並みはずれて効率が悪い(つまりたくさん出す)わけでもない。そういう事情で翌々日の朝には引っ越すことになる。

身軽になったので南大門市場に向かう。眼鏡を買うのだというと、「また買うんですか!」とジョンシクがあきれる。いいんだよ、趣味なんだから(笑)
明洞を無視して突っ切り、いつものゴミゴミした雑踏を進む。この眼鏡屋は日本でも有名になってしまって、日本人がたくさんやってくるらしく、あちこちに日本語が書いてある。最初に来たときには、かなりディープな地域で賢い買物ができて感激したものだが、もうここは地図さえあれば誰でもたどり着けるし、韓国語ができなくても眼鏡が買えるし、ボられることもない(たぶん)。なんだかつまらん。現にすぐ隣では日本人女性2人組みが、日本語と英語でやりとりをしている(やや四苦八苦していたようだが)し、この近辺でも何度も日本人旅行者を見かける。
今回の旅行では、イ・スンチョルのコンサートと、ファンクラブの面々との出会いがひかえているので、やや派手なフレームのものを買う。後日ヒョンに会いに行くと真っ先に「面白い眼鏡しているなぁ」と言われる、その眼鏡である---と言っても自分しかわからないが。

そのあと鐘閣に戻り、欲しくてたまらなかった国語辞典(つまり韓韓辞典)を買う。広辞苑ぐらいのサイズでW3万2千。これが部屋にあるかないかで、まるで違うのだ。高いか安いかと言うと、日本で買うよりはかなり安い。が、どのくらいの頻度で使うのか?ということを考えれば、高いかも知れない。でもいいのだ。韓日辞典に出ていないようなものが、これで調べられるのだ。(訂正:辞典を買ったのは翌日でした・・どうでもいいんだけど^^;)

ちょっと買物をしてはモーテルに荷物を置き、ジョンシクが従ってくれるのをいいことに、わがまま放題を続ける。実は今回、携帯電話がどうしても欲しかった。結論を言うと手には入れたのだが、なかなかこれが厄介な買物だったのである。この日、ある程度の目星をつけるために、街角や地下街で売っている携帯電話を物色するが、とにかく外国人には売ってくれないということがハッキリしてしまった。区別か差別かよくわからないが、そういうものを実感してしまう。安い基本料金と通話料(日本から見て)だから、自分のような30代サラリーマンに払えないわけがないのだが、クレジットカードがあってもダメ、韓国の銀行の口座(これは簡単に、自分名義で作ることができた)があってもダメ、しかも電話売りの連中は、外国人とわかると態度が非常によろしくない。---で、結局ジョンシクの名義で買うことになる。しかし、ジョンシクが住民登録カードを持ち歩いていないために、この日は断念する。一度「欲しい」と思ったら、その日にその場で手に入れようと、狂おしく身悶えして欲しがる自分が、一昼夜の我慢を強いられてしまう。わがままな兄をなだめるように、ジョンシクが痛々しい顔で「明日にしましょう」と宣告する。

パラムさん登場

去年の8月、パラムさんという女性からメールをもらった。日本語のメールで、それは自分が知る韓国の友人の中では、かなり上手な部類に入るものだった。パラムとは韓国語で「風」、友達の間でのニックネームがパラムで、それをそのままネットでも使っているのだという。何度も日本語でメールのやりとりがあった後、出張で日本に来ることになり、いっしょに生ビールを飲みに行ったことがある。自分が韓国人に対して日本の自慢をするのは、生ビールとコーヒーぐらいであるから、とりあえず生ビールをふるまうのが自分の常でもあった。それはまずまず好評であったようで、「韓国では私がおごります」と約束してくれたのである。パラムさんの笑った顔が、何年か前の日本のアイドル歌手か女優かタレントか・・に、似ているのだが、いまだにそれが誰だったか思い出せない。

そのパラムさんに連絡をとる。本当は携帯電話を手に入れてから電話したかったのだが、仕方がない。少し遠いのだが、会社帰りに鐘閣まで来てもらう。掲示板ではよく知った仲だが、ジョンシクとパラムさんは初対面である。初対面の韓国人同士の挨拶というものに興味があったのだが、大した決め口上もなしに終わってしまった。これが普通なのか、2人が極めてくだけた性格なのか、そこはよくわからない。

ホプに入る。このホプというのが、曲者である。以前書いたことかも知れないが、生ビールを飲むにはとりあえずこのホプしか思い浮かばない。しかしここで出てくるつまみはどうも自分の口に合わない。なんだか洋風だったり、乾きものだったり、コチュジャンの和えものだったり、好きな人はそれでいいかも知れないが、自分はメウンタンとかヘジャンククとか、熱くて辛い汁物でないと気分がいまひとつである。が、そういうものには焼酎が合うから、ビールはいかんと言われる。焼酎も嫌いじゃないが、韓国式にストレートであおっていると、あっという間に酔っ払ってしまって、度を過ぎると翌朝ひどい目に遭う。旅行者の貴重な半日を布団に突っ伏して過ごすなんて・・・なんの話かわからなくなった。

パラムさんにアメリカ土産を渡す。この小型のぬいぐるみは、確かにサンタクララで買ったのだが、よく見るとmade in CHINAと書いてある。太平洋を横断して北米大陸に連れて行かれたものを、自分が極東まで持ち帰って、今度は中国大陸と地続きの韓国まで戻ったのだ。(だからどうしたのだ^^;)

3人でどんな話をしたのか、実はあまりよく覚えていない。両方を知っている自分は、とりあえず2人が親しくなってくれないと困るのである。とにかく日本人の自分が食べたことのない、珍しそうなものを注文するパラムさん、ヒョンの嗜好を知っているので口に合うかどうかを気遣うジョンシク、---自分は勝手にそんな対立図を空想してしまう。・・が、そんなことは要らぬ心配なのである。自分は客人らしく笑っていればいいのである。ホプを出て伝統だか民俗だか、そんな名前の居酒屋風のところでレモン焼酎を飲む。自分はやっと「ッチゲ」が食べられるのでほっとする。

011

翌朝、少し寝坊してジョンシクに電話をする。第一銀行(チェイルウネン)に行って明後日のS.E.S.(日本にも進出している美少女3人組みアイドル)のコンサートのチケットを買う。自分はこの中のパダちゃんという歌唱力抜群で目と目が離れている子のファンである。もしどこかに、目と目が離れていることを苦にしている女性がいたら、安心してください。そういう顔の好きな男はけっこういます。少なくともここに1人います。・・いや、そういうことじゃなくて、どう見てもオジサンの自分と、擦り剥いて傷だらけのジョンシクが、銀行のカウンタで「S.E.S.のコンサートのチケットください」と言っているのである。自分は急に恥ずかしくなって後ろに下がる。ジョンシクもさすがに照れくさそうに、チケットを買うと自分を促して足早に外に出る。

恥ずかしいと言えば、このダウンジャケットである。もう誰も着ておらず、たまに屋外で立ちっぱなしの商売をする人が着ているぐらいである。通りを歩いたりバスや地下鉄に乗って、どこかへ出かける人はまず着ていない。携帯電話の件も気になるが、まずは上着を買うことにする。鐘路という場所はこういうときに便利なところで、ちょっと地下街をうろつけばたいていのものは買える(市場ほど安くはないが)。あまり若作り過ぎず、オッサンぽくもないというものを探して、モスグリーンのパーカーを買う。これがなかなか気に入ってしまって帰国後もよく着ているのだが、内ポケットの底がすぐに破れて、うっかり財布を入れると取り出すのに苦労する(こんな旅行記を書いてるヒマがあったら繕えばいいのだ)

会社の同僚に、ヒューレット・パッカード製かテキサス・インスツルメンツ製の関数電卓を頼まれていた。日本では入手できないのだそうだ。いや、正確に言うと、彼が欲しがっている機種だけが、日本では買えないのである。アメリカ出張では自由時間が1日しかなくて探せなかったので、今回はちょっと探してやろうと思っていた。結論を言うと、韓国でも売っていない。絶対にないとは言えないが、龍山(ヨンサン:秋葉原みたいな電気屋街があるところ)で訊いた限りでは、旅行者がちょっとやそっとで見つけられるものではなさそうである。ジョンシクとかなりほっつき歩いたのだが、SHARPやCASIOはやたらに売られているのに、HPやTIの関数電卓となるとほとんどない。誤解を招くといけないので書いておくが、普通の電卓はもちろん売られているのだ。関数電卓とは?簡単に言うと四則演算以外に三角関数などが扱える電卓で、ポケコンとも違う。同僚がなぜそれを欲しがっているかというと、その理由が実にくだらない。たとえば sin(50°)の値を計算するときに、sinを先に打つか、50を先に打つかの違いだという。マニアにしかわからない価値なのである。真剣に探してくれようとしているジョンシクに、自分はそんな説明をするのが恥ずかしかった。時間の無駄だから早目に切り上げようとする自分を、何度もジョンシクがなだめて更に探しまわる。自分は疲れて来たし、大事な弟にくだらない(本当にくだらん!思い出して腹が立って来た!)探し物をあまり長くさせたくないので、適当なところで切り上げる。同僚には自分でアメリカに行ってもらえばよい。

さて、携帯電話を買おうと思うのだが・・なんとジョンシクが住民登録カードを忘れて来たと言う。「またにしましょう」と言い出しそうなので、「じゃぁこれから取りに行こう」と告げる。ジョンシクの家の近所でコーヒーでも飲んで待っているから、家に戻って持って来いと。・・まるで借金取りかバクチ打ちである(笑)

ジョンシクの家はソウル市の端から数100mである。そこでおなじみプデェッチゲを頼み、食後にジョンシクがひとっ走り住民登録カードをとりに行く。そしてまた鐘路へ戻って、ジョンシクに銀行口座を1つ作ってもらい、ついについについに、携帯電話を手に入れる。1年に何回旅行で来て、何回電話を掛けたり受けたりするのか、ということをまじめに考えると、非常に贅沢な買物である。韓国の携帯電話にもいろいろあって、電話番号が011、017で始まるものがいわゆる携帯、016、018、019で始まるものがPCSという、日本のPHSに相当するものである。でかい、ダサい、と思っていた韓国の携帯電話だが、最近のものはかなり小型化されている。自分は011の、もっともつながり易く、田舎でも使えるという(らしい)機種にする。電話機は無料で、入会金がW5万で、料金パターンはいろいろだが、自分は韓国不在期間が長い(当たり前だ)ので、通話料を高く、基本料金を安く、という方向で決める。今後、日本にいても月々¥1000が消えていくのだ。

通信方式以外に、日本のものと違うところは、電源を入れてからのウォームアップが長い、電話を掛けるときにピリリっと鳴る、掛けて来た相手の電話番号が出ない(有料サービスで出るようにすることもできる)、同じ011同士は011のダイアルが不要、といったところだろうか。ただし、あくまでも自分が日本で使っているものと、韓国で買ったものとの比較である。

夕方、新林(シルリム)で今日もパラムさんと落ち合い、スンデボックムを食べる。買った携帯電話を見せ、S.E.S.のチケットのことを話す。昨日よりは2人が打ち解けたようで、自分は安心する。何を根拠に?と訊かれると困ってしまうが、たとえば2人が共同で自分をからかったりするときに、「ウィーッシ!」等と言いながら自分は密かに喜んでいたのだ。明後日の約束をして、早目に切り上げる。明日は待ちに待ったイ・スンチョルのコンサートである。

旅行記11−1
旅行記11−3
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