講義ノート 刑法


公務執行妨害罪
第1 公務執行妨害罪の要件
1 公務員− 国または公共団体の議員、職員、委員をいう(7条)。ただし、単なる機械的・肉体的な
労務に従事する者は、機関としての機能をもたないから、ここにいう公務員に含まれない。なお、
特別法により公務員とみなされる者は多い。
2 職務の執行−現実に職務を執行中の場合に限らず、執行に密接する準備行為あるいは待機中
の行為をも含む。
3 職務の適法性
(1)適法性の要件
@ その行為が当該公務員の抽象的(一般的)職務権限に属すること(警察官が私法上の紛争に
関与する場合はこの要件を満たさない)。
A その行為が当該公務員の具体的権限に属すること(執行官が適法に強制執行をなし得るの
は、自己に委任された事件のみ) 。
B その行為が定められた重要な手続き、方式に従っていること(令状なしの逮捕、捜索は原則
としてこの要件を欠く。)
(2)適法性の判断基準
客観的に法規に合致しているか否かによる(公務員が適法と信じたのみでは足りない)
4 暴行・脅迫
本罪における暴行は、公務員に向けられた有形力の行使であるが、必ずしも直接公務員の身
体に向けられる必要はなく、直接には物に向けられた有形力でも、それが公務員の身体に物理
的に感応しうるもの(間接暴行)であれば足りる。
第2 他罪との関係
1 暴行罪、脅迫罪は本罪に吸収される
2 職務執行中の公務員を殺傷した場合には、殺人罪、傷害罪と本罪は観念的競合となる。
3 窃盗犯人が逮捕を免れるために警察官に暴行を加えたときは、事後強盗罪(傷害を加えれば事
後強盗致傷罪)と本罪とは観念的競合となる。
賄賂罪
第1 保護法益 公務の公正とそれに対する社会の信頼
第2 賄賂の概念 賄賂とは、職務に関し、その対価として授受された一切の利益をいう。
1 「職務に関し」の意義
公務員の一般的職務権限(独立して決済する権限をもつものであることを要しない)に属する行
為のほか、「職務と密接な関係をもつ行為」をも含む。
2 賄賂となりうる利益の内容 − 人の需要を満たす一切の利益(金品に限らず、金融の利益、地
位の提供、異性間の情交など)
3 社交的儀礼と賄賂 − 中元、歳暮などの社会的儀礼の形式をとったとしても、それが職務行為
と対価関係にある限り、賄賂となる。 提供された利益の大小は問題とならない。
4 賄賂の没収・追徴
第3 賄賂の行為
1 収 賄 5年以下の懲役
(1)収 受 現に賄賂を受け取ること
(2)要 求 相手方に対し賄賂の供与を求める意思表示をすること (相手方が応じなくてもよい)
(3)約 束 贈収賄当事者間の賄賂収受の合意
2 贈 賄 3年以下の懲役または250万円以下の罰金
(1)供 与 賄賂を相手方に受け取らせること
(2)申 込 相手方に収受を促すこと(収受出来る状態におく必要はなく,口頭の申込み足りる)
(3)約 束 賄賂収受の合意(公務員自身との約束でなければならない)
第4 収賄罪の加重類型
1 受託収賄罪(197条1項後段) 「請託を受けた場合」 7年以下の懲役
「請託」とは、特定の職務を行なうことを依頼すること
2 加重収賄罪(197条の3)
公務員が不正な職務行為を行なった場合、または、行なうべき職務を行なわなかった場合
第5 あっせん収賄罪(197条の4)
公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるようにまたは、相当な行為をさせ
ないようにあっせんすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受または要求、約束したもの
5年以下の懲役
