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『ハンバーグセットがたべたいよう』

という意見が浮上する。思えば、昨日の昼も麺、今日の昼も麺だった。耕心村のある奥津を目指しながら食べる場所を探す。

時計はすでに午後6時をまわっている。

午後9時までに温泉に入り終えねばならないから、温泉に1時間程度の時間をさくとして、残された時間は微妙だった。

奥津に近づくほど繁華街ではなくなっていく。

食べる場所がないのか・・・と思われたころ、再び繁華街に入り、程なくハンバーグセットもあるであろうファミレスを発見する。

車を右折させる。と、そのファミレスの少しさきにある大きな『本』の字が目に入った。古本屋の万歩書店のようだ。

このファミレスに入らなければ素通りしたに違いない。ハンバーグセットが思わぬ偶然を呼んだ。

みんな気づいたのか?そうでないのか?気づかないフリをしているのか・・・ほどなく全員ファミレスの席につく。

時計を見る。すでに万歩書店に行くことを前提に時間を計算する。残された時間は微妙ではなかったか?

『食べ終わった人から万歩書店に行きましょう』

そういう意見が出る。時間的にも大丈夫であろうと思われた。

そのとたん、なんともいえぬ戦慄が、背筋をむずがゆく走り去るのをおぼえたのである。

と、そのテーブルは犬神佐兵衛翁の遺言状公開を待つかのごとき雰囲気となる。

みんな平静を装っているが、いやに口数が多くなる。談笑を続ける笑顔。笑顔。しかし目は笑っていただろうか?

そんな折、注文した食事が次々テーブル上に並んでいく。注文が届いたものから食事を始める。

みんな大人だ。万歩書店に向かうとしても会計のこともあるし、みんないっしょに向かうことになろう。

否!否!否、否、否!!

私も含め食べ終えたものから次々財布を取り出し、テーブル上にお金をおいてファミレスを出て万歩書店へ向かう。

お金を積まれたテーブルはまるで賭博場のようだった。


万歩書店へ入る。何人かはすでに店内にいるようだ。

私が初めて参加した時に比べると横溝オフといえど、みんなが横溝コーナーへ集中することはなくなっている。

それぞれが、それぞれに探す本の場所へ向かっている。

私はとりあえず島田荘司のコーナーへ。横溝正史のコーナーにも行ってみる。

ほかの人はどうだか知らないが、私は新書で手に入るものなら、古本で買うことはないと思っている。綺麗なことに越したことはないからだ。

だが、古本屋でしかないような本もあるし、本屋にも古本屋でもなかなか見つけることができない本もあるが。

ヴァン・ダインの作品を探すため推理文庫の場所へ。

ヴァン・ダインは本を探すのに苦労する。

本屋により『ウ』の項にあったり『ブ』の項にあったりする。

グレイシー・アレンの魅力満載で有名(?)な

『グレイシー・アレン殺人事件』を探す。ないようだ。

この『グレイシー・アレン殺人事件』。


真鍋博氏による表紙絵。少ない色使いのデザインにセンスを感じませんか?
持っているし読んでいるのだが、真鍋博氏の手による表紙のものを探している。表紙絵にセンスを感じるからだ。

海外ミステリーは名前が覚えにくいので読んでいないという人には『グリーン家殺人事件』はおすすめだ。

一族の話のため、ファーストネームで呼び合うし、さらに一人一人減っていくので読みやすい。

さらに、ほかにも思い当たる本を探した。

そのころにはすでに全員が万歩書店に集結していた。本探しも終結しているようだ。

ハードカバーを何冊か両手に抱えにやりとする者。手持ち無沙汰で歩いている者。夢破れた者。意外な本を手にする者等。

私も結局4冊ほど買ったが、ミステリーに関するものは2冊であった。


宴会のための買い足しをして、一路耕心村へ。

道が整備され、私の地図とは若干道が違うようだ。あたりはすっかり闇に包まれている。

時間はすでに午後8時が近い。温泉の閉まる時間を考えると、もう到着したほうがいいのだが。

左に道の駅奥津温泉をみて、トンネルに入る。トンネルを抜け、右に道を行く。

ほのかに明かりが見えやがて建物が確認できた。

その建物は、私の予想大いに違った。両脇に立つ巨大な門柱は、古木の太い幹を磨いて造られていた。

隆々とした瘤があちらこちらにあり、右のものには、瘤を避けるようにして、白い肌に『龍臥亭』という文字が、達筆で浮き彫りにされていた。


小雨にたたずむ耕心村2号棟
『龍臥亭事件』の引用だが、そこにはたして耕心村だった。

耕心村は3号棟まであるという。我々の泊まるべきは、そのうち2号棟だった。

そこにある建物はちょうど3棟、そのうちの一つに違いない。

一番大きなのは1号棟として裏手の2つのうち一つか?

右手の建物に近づく。違うようだ。左の建物に近づく。・・・・違う?!

明かりの漏れている一番大きな建物のはずはないが・・・やはり違う?!どういうことだ!

小雨が降りしきる中、もう一度確認に右へ左へ走る。ほかの者たちも車から出て待っている。

その時だった、どこからか子供のかん高い声がした。何を言っているのかは不明だったが、ひと言『ママー』という声が聞こえた。

光線の下に、右手から一人の小さな女の子が走り出してきた。子供は四、五歳だろうか。

『ママー、こんなところに人がいるよー』とその子は言ったのだった。

そんなことを言われても、私としてはここ以外どこにもいようがなかった。

子供に呼ばれるような格好で、母親らしい女性が暗がりから急ぎ足で出てきた。

また『龍臥亭事件』の引用だが、ミチさんとユキちゃんは出てこなかった。私が管理人に電話をかけたのが本当だ。

管理人の到着を待つあいだ、もう一度、あたりを回る。小川にかかる小さな橋を見つけた。

奥に2つの建物が、一つは明かりが点いている。一つは明かりが点いてない。これか?!表に回りこむ。そこには2号棟と書かれた表札が!!

あった!やはりそうだ。ついに見つけた!ついにたどり着いた!長かった!今回は苦しかった。もう駄目だと、つい今しがたまで諦めていたのだ。

と『飛鳥のガラスの靴』の吉敷竹史ばりの歓喜に満ち溢れた。しかし、管理人に連絡をしてしまった。そのまま管理人の到着を待つことに。

2号棟の鍵と温泉の入浴券を持ち、到着した管理人に温泉の場所を聞き、そこを目指す。

話では、トンネルを出てすぐ右を行き、突き当りを左に行けばすぐわかるということだった。

聞いたとおり、トンネルを出てすぐ右を行き、突き当りを左に・・・・もとの道に戻ってきてしまった。

管理人さんは、どうやら最初に右に折れる少し小さな道を数えずに言ったようだ。程なく花美人の里にたどり着く。

どちらにせよ管理人に温泉場所を聞かなければわからなかったように思う。

この温泉の閉まる午後9時まで1時間を切っていた。ばたばたしながら温泉へ向かう。・・・が、この時すでに事件は起きていたのだ。


温泉に入る。終りが近いせいか日曜日だというのに人は少ない。いろいろ湯船に浸かった後、サウナを見つけ中へ入る。

サウナはわりと好きなほうだ。5分の砂時計があったので、回す。5分は程なく過ぎるだろう。

と思われたが、暑い。暑い。私には暑すぎた。一度サウナを出て、水を浴び再びサウナへ・・・無念。サウナに5分で2敗を喫してしまった。

外に出ると、一人を残してみなそろっていた。程なく蛍の光が流れ始める。全員そろった所で耕心村まで帰る。

耕心村に到着。2号棟の鍵を・・・鍵・・・鍵?・・・もしや?!

『鍵がなーーーーい!!』

またかよ。ポケット、鞄、車の座席、足元・・・ない。本当にないようだ。思えば、耕心村に到着してから、時間に縛られたため、ばたばたしていた。

みんなを残して、もう一度花美人の里へと戻る。駐車場には落ちていないようだ。ならば中か?!

無常にも、花美人の里の入り口は閉じている。明かりは漏れているものの、人の姿はない。

仕方ない、一度耕心村まで帰ろう。鍵には耕心村の名が刻んであった。温泉に忘れているなら連絡もあろう。

車に戻り背筋を伸ばす。不自然に頭に何かが触れた。

『この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君』

と『姑獲鳥の夏』(京極夏彦)の京極堂の言葉ではないが、不思議なことは何もなかったのだ。

はたして鍵は運転席の頭上に差し込まれていた。下を探しても見つからないはずだ。ばたばたしていたので忘れていたようだ。


耕心村へ帰り、中へ入る。ここは基本的に自作自演・・・ではなく自分のことは自分でやらなければならない。

先にみんなで寝床を用意し、宴会の準備をした。冑の下のきりぎりす・・・もといテレビの下のビデオデッキを見つける。

先日の稲垣金田一『八つ墓村』を録画したビデオを持ってきていたことに気づく。

せっかくなので全員で見ることに。今日回った場所との検証もできよう。

始まるや否や、どう考えても籤殺人というたとえはおかしいという話になる。詳しい説明は控えるが、あれが籤殺人ではおかしいようだ。

ところが、この籤殺人という言葉、結局今オフの終りまで何かにつけ、たとえ話として引用されることになる。その意味では正解だったのか?

ビデオを見て、昨日広兼邸の坂を上った門の所の格子から顔を出した人たちの意味がわかった。稲垣金田一と橘署長がまさにそれをしていた。

要蔵が鶴子をさらった扉が開かなかった訳もわかった。扉は上げて開けるようだ。どちらにせよ開かなかっただろうが。

あとは、あの洞窟はセットだ。本物だ。セットだ。本物だ。セットだ、セットだ、本物だ。など盛り上がりを増していく。

途中、ある人の電話にしまピーさんから電話がかかり、みんなで電話をする。

『いまどのあたりですか?いつごろこちらに到着できそうですか?』とりあえず、これは言っておいた(爆)

電話ではありがとうございました。また機会がありましたらお会いしましょう。

充実に満ち満ちた一日がこうして終わった。

後は、明日の八塔寺ふるさと村を残すのみとなった。
オフ二日目(下) 『龍臥亭事件』おわり

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