久遠の絆/PS
  
1999.1.2
  
キャラクター  ◎
演出  ○
CG  ◎
シナリオ  ◎
システム  ○
総評  ◎
  
・概要
 
 新進のクリエイター集団F・O・Gの三作目にあたるソフトであり、そのジャンルは「シネマティックノベル」。
 言い回しこそ違いますが、要はサウンドノベルです。
 このタイプのソフトは、シナリオはもちろんのこと、サウンドやユーザーインターフェースの度合いもゲームの評価に直結します。
 だから、本当に実力のあるクリエイターが作らない限り、ただの駄作以下で終わってしまう危険性も高いのです。
 シナリオライターとして著名な作家を招き、発売前には少しは雑誌等で紹介されたが、発売後は見向きもされない、という筋道を辿ったソフトも少なくありません。
 その点、この「久遠の絆」はどうなのでしょうか。
 
 
・王道モノの展開
 
 このゲームは、良くあるタイプの設定である、「平凡な高校生だと思っていたら、実は○○の力を秘めていた」という男子高校生を主人公にしています。
 そのため、ゲームの展開そのものがどうしてもお約束に準じた物となってしまいます。
 すなわち、ゲーム中に、「初めて読み過ごした時には意味が通じない、後々の伏線」をわざと多く張り、その伏線を少しづつ解消していくことで、プレイヤーをシナリオに引き付けているのです。
 もちろん、これは悪いことではありません。
 シナリオが愚にもつかないような物だったなら、たちまちのうちにユーザーはゲームを投げ出してしまうでしょうが、「久遠の絆」はシナリオが非常に優れているので、十分な利点となっています。
 このシナリオは、「悲恋」を主なテーマとしており、それを実に上手く描いています。
 現代、平安、元禄、幕末、それぞれの時代で、様々な理由から悲恋を経験することになります。
 時折猟奇的描写などもありますが、 展開上自然な形で描き出しており、総じて感動的なストーリーです。
 このシナリオ、とにかく恐ろしいまでのテキスト量を持っており、ファーストプレイ時には最低十五時間はかかります。
 テキスト量を増やすというのは、ゲームのボリュームを増やす事に直結し、何よりストーリーを壮大な規模で描いていけるため、素直に良い事であると言えると思います。
 さて、そのテキストを文章のレベルという点で見ると、レベルは決して低くはないのですが、読みやすさに考慮した文体であるとはお世辞にも言えません。
 文字フォントの問題は、PSというプラットフォームであることを考えれば無理のない事なのかもしれませんし、そのうち慣れるので特に困ることはないのですが、「やたら冗長な主語を持つ、五〜六行くらいに連なる一文」などが、ごろごろあるからです。
 わざと使っているのでしょうが、難しい言い回しも多く、()のルビ無しでは読めない漢字もありました。
 多分常用漢字ではないでしょう。
 また、誤字・脱字が少なくなかったのも残念です。
 文章に関しては、純日本的な文学的イメージを作りたかったのかもしれませんが、もうちょっと読み手の事を考えてもよかったのではないかと思います。
  
 では、システムについてですが。
 もっとも近いのは、リーフの「痕」です。
 文章の背景絵に登場キャラの立ちポーズが重なり、キャラが感情変化を起こした所で随時立ちポーズ変更。
 しかし、残念ながら、この立ちポーズ変更に少々時間がかかってしまっており、結果として、ゲームそのものが『重く』なってしまい、テンポが悪くなってしまっています。
 せっかく作られているメッセージスキップ機能も、この立ちポーズ変更に時間をとられてしまい、少々時間のかかるスキップ機能となっています。
 また、セーブ方式はシステムファイル1ブロック+セーブファイル3つで、ファイル1つにつき1ブロックを使用します。
 ですから、システムファイル作成しつつセーブファイルを3ファイル作ろうとすれば、それだけで4ブロック消費してしまうのです。
 これは、効率が悪いのではないでしょうか。
 せめてシステムファイル1ブロック+セーブファイル1ブロックで、1ブロック内で5ファイル分くらい作って欲しかったところです。
 また、PS成熟期に発売されたソフトとしては、セーブ・ロードにやや時間がかかるように感じられました。
 ゲームクリア後のお楽しみとして、BGMモード・CGモードに入ることができたり、おまけシナリオが追加される等、よく考えられているだけに、残念でした。
 また、このゲームでは戦闘シーンに、『法術戦闘』という独自のシステムを用いています。
 プレイヤーはまずカーソルで敵に狙いをつけ、次に印を☆型に斬るのです。
 この☆型が上手く描ければ、敵を攻撃することができるのです。
 これはとても面白い戦闘システムなのですが、惜しむらくは使用場面が少なすぎることです。
 いかにも日本的な戦闘演出でかっこ良いのですが、もっと多くの場所で使えるようにして欲しかったところです。
 CGに関しては、このゲームのCGは非常に美しく、色彩鮮やかな世界を見事に描いています。
 従来ゲームのCGはどちらかと言うと「アニメ絵」を追求したものですが、このゲームの場合は肉感的な美しさの方向で描いているようです。
 ストーリー自体も、PSの倫理規定に抵触してしまいそうな物となっており、むしろ相応しいのですが、これは18推などの年齢制限ソフトの作り方ではないでしょうか。
 サウンドは、素晴らしくハイクオリティに仕上がっており、純和風のイメージを損なわず、むしろかき立ててくれます。
 例え曲が良くても、使い方が悪ければ全て水泡と化してしまいますが、「どういった場面でどういった曲を流せばよいのか」と言うことをよくわかって作られているので、雰囲気を盛り上げてくれこそすれ、気分ぶち壊し、などと言うことはないので、その点の演出は非常に上手いです。
 
 
・改善点?
 
 このゲームには、特に大きな失点はないでしょう。
 上記したように、こまかくみれば問題もあるのですが、どちらかと言えばあら探しですし、何よりこのゲームはストーリーを楽しむゲームなのですから。
 プレイ中に、文章表記でCD読み込みに待たされることはほとんどありませんし、シーンが変わる毎に表示されるアイキャッチも上手い。
 ただ、太刀による攻撃の軌跡を表示する際には、若干読み込みに時間がかかるので、これは少し鬱陶しく感じられることもあります。
 また、一部の箇所で意味の通じない文章もあるのですが、これはサウンドノベルタイプのゲームの宿命とも言えることだと思います。
 全パターンに気を配ることなんて、時間的にも容量的にも労的にも無理でしょうから。
 むしろ、全体の容量との比率でみれば、かなり頑張っていると思います。
 
 
・98年の締めに相応しい
 
 これだけ壮大な規模でストーリーを描いたゲームは、そうそうないでしょう。
 98年のPS業界としては、特にこれと言った大作ソフトもなかったことですし、小粒ながらピリリと辛いソフトとして、一年を締めくくる一本になったと思います。
 ただし、このゲームの場合は特にストーリーに感情移入できないと辛いので、ゲームにのめり込む事が出来ないタイプの人は、やらない方が無難でしょう。
 ライトユーザーに遊べる代物ではありません。
 …そう考えれば、むしろSSやPCで出すべきソフトだったのかもしれませんね。
 サターンやパソゲー業界には、濃いゲーマーがたくさんいますから。