SSとは何か?
   
1999.7.15
  
 
 ぼくはもともとLeaf系SSからネットを始めた事もあり、あちこちのサイトでたくさんのSSを読んできました。
 そのため、ぼくなりの「SS観」というものが固まってきたので、それを書いてみようと思います。
 誤解のないよう書き添えて置きますが、ぼくの書いたSSが面白いなんて事は全く言っていません。
 というより、以下の内容を鑑みると、むしろつまらないのかもしれない(汗)
 あと、基本的にSSを書く人向けの文章になってます。
 
 
 
 まず、SSを書く上で忘れてはならないことの一つに「何を書きたいのか(主題)をはっきりさせる」と言うことがあると思います。
 もちろん主題がはっきりしていれば面白いSSになるかと言うと、必ずしもそうではないんですが、ぼくが知る限り、主題があやふやで面白いSSは皆無です。
 はっきり言ってつまらない。
 別に銀英伝のような一大歴史絵巻を描けとか、ゲーム本編のような壮大で感動的なストーリーにしろとか言うつもりはありません。
 のんびりした日常を書きたいのならそれで良いし、甘ったるさに死にたくなるような話を書くのも良い。
 ダークでヘビーなストーリーでも良いし、胸が痛くなるような話でも問題なし。
 
 またSSを書く上で必要ならば、ゲームのイメージを壊すこともやむなしだと思います。
 が、キャラのイメージを壊すことだけはしてはいけないと思います。
 ゲームのイメージを壊すのは良いが、キャラのイメージは壊してはいけない…これは少し抽象的な話なので、LeafのTo Heart(以下TH)を例に挙げて説明します。
 THというゲームのイメージと言えば、どういった物を思い浮かべるでしょうか?
 学園モノ?
 ラブコメ?
 明るいほんわかストーリー?
 まぁだいたいこんな所だと思います。
 残虐な猟奇的ゲームだとか、ダークでヘビーなシナリオだとか、異次元人の襲来から地球を守るゲームだなんて思う人はいないでしょう。
 いたらその人はゲームを勘違いしてます、多分。
 しかし、そのイメージをそのまま引きずってしまうと、ほのぼの系なラブラブSSしか書けません。
 っちゅーかこのイメージのままで上記のようなハードな話書ける人いたら書き方教えて下さい。
 そーゆーわけで、THの世界観・キャラクターを用いて重い話を書こうとする場合には、どうしてもゲームの世界観を変える…場合によっては壊すくらいにまでする必要があるわけです。
 これは仕方のない事ですし、THというゲームの世界観を広げる事にもなるので、全然問題ないと思います。
 では、「キャラのイメージを壊す」と言うのが何故いけないのか?
 これは「SSとは何か」という命題にもかかる部分なので、そこから考えていきます。
 SSとは、ショートストーリー、サイドストーリー、即興小説等々のいわゆる「二次創作」です。
 「二次創作」とは、あるモノ(ゲームやアニメ)を題材とし、その世界観及びキャラクターを用いてユーザーがオリジナルのストーリーを、小説や漫画などで描くことです。
 ンなこたぁお前に言われんでも分かっとるわい!と思われるかもしれませんが、これが大事なんです。
 キャラクターのイメージを壊すと言うことは、すなわち既存のキャラクターではなくなってしまうと言うことと同義であり、SSの定義から外れてしまう。
 これもまたTHの例で考えるならば、例えば主人公である藤田浩之。
 彼自身に対するイメージは人それぞれでしょうが、基本的に前向きで行動的で穏やかなキャラだと言って間違いはないでしょう。
 そんな浩之が、SS内で碇シンジのような内向的で自虐的な人間として描かれたり、八神庵ライクに残酷で破滅的なキャラになったりしてはいけないんです。
 浩之は前向きで行動的で穏やかだからこそ浩之であって、そのスタンスを崩してしまうと浩之ではなくなるんです。
 もちろんSS内でのストーリー展開として、一時的に浩之がそう言ったキャラとして描かれる事は構いません。
 THストーリー本編から十年後の世界が舞台であり、五年前に浩之はマルチと悲劇的な死別を経験した、そのために浩之は心を閉ざし全ての事象を否定し傍観するようになった、とか。
 むしろそうすることで、SSとしての深みを出せる面もあります。
 しかし、例えどんな状況設定がなされていたとしても、ストーリー展開で最終的に浩之は前向きで行動的で穏やかなキャラにならなければいけません。これはmust、絶対条件です。
 何故なら、浩之は前向きで行動的で穏やかだからこそ浩之であり、それに反する人間となってしまっては、それはもう浩之ではないからです。
 さらに読者も、浩之というキャラに対してそう言った期待を持って読んでいます。
 SSは、読者の側で既にキャラクターに対する初期知識があるという事を前提として書かれています。
 そしてその知識に基づき、登場キャラクターに対して「原作のイメージ通りの行動をしてくれるだろう」という期待を持って読むのです。
 SS中でのストーリー展開がどうであれ、最終的にその期待を裏切ってはいけません。
 THの二次創作SSとして藤田浩之というキャラを用いている以上、TH本編で培われた藤田浩之というキャライメージを崩してはいけません。
 もし崩してしまったら、THの二次創作SSではなくなってしまうからです。
 「そーいった奇抜な手法を取れば、読者の期待を良い意味で裏切る傑作が書けるんじゃないか」と思われますか?
 いーえ、絶対に書けませんと断言します。
 ぼくが書けないと言うだけじゃなく、本職のシナリオライターでも書けません。
 悪い意味で裏切る話ならいくらでも量産できますが、傑作なんて書けるはずがない。
 実際にそう言った「原作のキャライメージをぶち壊したSS」と言った物も何本も読んだことがありますが、そのどれもがSSとして最低でした。
 文章力・構成力・ストーリー展開・キャラクター描写などなど、文章だけを見れば間違いなく一線級の物ばかりですが、SSとして先の定義を考えれば最低なんです。
 そんな話を書きたいのでしたら、オリジナルキャラクターを用いて書いて下さい。
 SSという形を取る必要はこれっぽっちもありません。
 上にも書いたとおり、SSは「作者・読者双方のゲームの世界観を広げる物」であり、よって「ゲームの世界観を根底からぶち壊す物はSSではない」んです。ここんとこちょっとややこしいですが、キャラのイメージを壊す=ゲームの世界観を壊す、であり、ゲームのイメージを壊す=ゲームの世界観を壊す、という事は必ずしもないと思います。
 インターネット上に公開している以上、SSを「自己満足の産物」にしてはいけません。
 そうしたいのなら、きちんと「これは作者である私の自己満足の産物です。読者の方の事は一切考えていません。読後に不快感などを感じられても、一切関知できません」と書き添えておいて下さい。
 原作のイメージを損なわず、尚かつ予想を裏切ってくれるであれば、これは間違いなく「良い意味で」裏切ってくれています。
 それが出来ず、原作のイメージを壊すような予想の裏切り方しか出来ないのであれば、そんな離れ業を演じてみせようなんて考えないで下さい。
 
 
 ところで、ここで勘違いして欲しくないのが、「ゲームのイメージを壊すのはあくまで手段であって、目的ではない」と言うことです。
 THのホンワカ学園ラブコメディと言ったイメージでは、ハードなアクションストーリーやダークな話を書くためには不都合です、というよりこのイメージでハードな話を書くというのは不可能。
 だからゲームのイメージを変え、壊す。
 しかし、ゲームのイメージを壊した事に満足したり、あるいは壊す事そのものを目的としてはいけないんです。
 壊したことで何が書きたいのか? それを問われるわけです。
 イメージを壊して新たに作り上げた世界観を描写するだけではいけないんです。
 この手段と目的を取り違える・もしくは混同しているようなSSも最近幾つか読んでいますが、やはりつまらない。
 でも、主題がしっかりしているSSは面白い。
 だから、使い方さえ考えれば、面白いSSを書くための効果的な演出になると思います。
 
 
 色々書きましたが、結局は熱意の問題なんだと思います。
 SSってのはもともと、原作が好きで好きでたまらない人が作るモノだと思いますから。
「少しでも面白いSSを書きたい!」という向上心と、「読んでくれた人に楽しんで欲しい!」というエンターティナーとしての誇りさえあれば、どんな人でも面白いSSを書けるんじゃないでしょうか。