病弱薄幸ヒロインシナリオへの考察
   
1999.12.5


  コンシューマ、18禁問わず、この世にギャルゲーは数あれど、それらに登場するヒロインは、大まかに分けてだいたい数通りの
ステロタイプに分類することが出来ると思います。
 最もオーソドックスで多用されているのが、好意を寄せ合っている幼なじみタイプ。 
 有名どころとしてはTo Heartの神岸あかりやONEの長森瑞佳、新しいところで言えばときメモ2の陽ノ下光など。
(ちなみに藤崎詩織は違うらしい)
 次に、無条件で慕ってくれる妹キャラ
 同級生2の鳴沢唯、To Heartのマルチなど、ユーザー人気が高くなりやすいタイプです。
 それから忘れちゃいけないのが、勝ち気な転校生
 このタイプの代表格はONEの七瀬留美くらいしかいないのですが、とにかくインパクトが非常に強いため、何も考えずに
「転校初日に頭と頭がゴッツンコ。教室に行ってみたら同じクラスに転入してきて、何故か席も隣だった」
などとやると、まず間違いなくユーザーの冷笑を買います。
 あと、ここ一〜二年で増えてきたのがダウナー系ヒロイン
 ONEの里村茜、Kanonの川澄舞のように、人との交流を求めたがらないタイプ。
「しかしながら実は…」という裏設定が必ず存在していることもあり、やはり人気が出やすいヒロインです。
 このタイプは、エヴァの綾波レイ・ナデシコの星野ルリが大人気だった事に端を発していると思われます。
 そしてステロタイプの最後が、病弱なヒロインタイプ
 これはもう説明するまでもないでしょう、名は体を表すの言葉通りです。
 このタイプのヒロインのシナリオは、ある程度予想がつきます。
 ですから、他のヒロインタイプのシナリオに比べ、意外性が余り期待できなかったりもします。
 …が、ぼくが思うに、このタイプのヒロインのシナリオこそ、何よりもシナリオライターの力量が問われるのではないかと思うのです。
 久しぶりの今回のコラムは、このタイプのヒロインについてぼくなりの見解を書いてみます。
 以下の文章は、思い入れのある病弱タイプのヒロインのシナリオを思い出しながら読まれると理解しやすい…と思います、たぶん。
 
 
 
 最初に、分かり切っている事だとは思いますが、病弱タイプのヒロインの基本設定、及び基本シナリオ概要を簡単にまとめます。

…と言った感じです。
 途中の展開で分岐して、「手術を受けて治る」病弱ヒロインもいますが、それに関しては触れません。
 今回は、上のパターンを踏襲するタイプの病弱ヒロインシナリオにのみ話を絞ります。
 
 
 さて、んではまず、これ以降の展開を考えてみます。
 病弱ヒロインの場合、普通のヒロインと違い、
「病から助かることが出来るのか」「助かることが出来ず、死んでしまうのか」
の二点だけを考えれば済みます。
 たとえどんな展開になるにしろ、最終的にはこのどちらかしかあり得ないのですから。
 
 
一、助かる場合
 たいていのプレイヤーは怒ります。
 少なくともぼくは怒ります。
 上記したとおり、「治療が非常に難しい病気」でありながら、土壇場で「実は助かったんだよーん」なんてやられたらもう。
「ふざけんな! 何考えてんだ!」
と思います。
 そこに至るまでの主人公の長い長い苦悩も、ヒロインの悲壮な決意も、繊細の雰囲気の何もかもが全てぶち壊し。
 頭の悪い三流の喜劇にしかなりません。
 んじゃ死なせればいいのか? って事になりますが。
 
 
二、助からない場合
 これまた
「ふざけんな! 何考えてんだ!」
と思います。
 ぼくはやっぱり怒ります。
 何故そう思うのか、ということなんですが。
 これに関しては、実際に適当な病弱ヒロインシナリオをイメージしてもらうのが一番分かりやすいと思います。
 病弱ヒロインシナリオの場合、主人公もヒロインもすごく優しい人です。
 お互いがお互いを気遣い、思いやり、少しでも相手のためになろうとします。
 自分に出来ることを精一杯やり、どんな絶望的な状況になっても決して将来を悲観しません。
 何があっても希望を捨てる事なく、幸せな未来が来ることを信じて全力で病と戦います。
 主人公とヒロインはこんなにも努力し、微かな可能性に自分たちの未来を懸け、最大限の努力をしているのに、
どうしてその努力を無にするようなエンディングにしなきゃならないんだ?!
 エンターテイメントの基本はハッピーエンドです、なんて言うつもりはありません。
 ありませんが、
ささやかな幸せだけを求め、出来うる限りの力を尽くして懸命に生きようとした
人間を奈落の底に叩き落とす
ような事は絶対に賛同できません。
 だから、病弱ヒロインシナリオに於いてヒロインを死なせて感動を誘うのは、天下御免の愚策だと思います。
 
 
 
 以上のように、病弱ヒロインシナリオの場合、ヒロインを助けてもいけないし、死なせてもいけないんです。
 どちらにせよ下らない展開にしかならない。
 病弱ヒロインとは、そもそも「重病で苦しんでいる」からこそ存在意義があるのであり、何らかの形でそれを覆そうとするのであれば、
よほど説得力のある展開を用意しない限りユーザーは納得しないのです。
 本コラム冒頭で「何よりもシナリオライターの力量が問われる」と言った根拠は、この一点に尽きます。
 最終的にどういった結末を用意する事が出来るか、全てシナリオライターの技量一つに懸かっているからです。
 尚、エンディングとして、
「病気は重いけど、これからも一緒に頑張っていこう!」という形にすることもできるでしょうけど、ぼくはあまり好きじゃないです。
 これでは、エンディングに至るまでの展開とほとんど同じ終わり方じゃないですか。
 そこまでの延長でしかない。
 エンディングである以上、何らかの新しい展望が予感できる形にすべきだというのが持論です。
 
 
 
 …と色々書きましたが、ぼくは今までも病弱ヒロインタイプのシナリオは好きでしたし、これからも楽しみにしています。
 ゲーム会社のプロのシナリオライターが作ったシナリオが、ぼく如きの浅い思慮で推し量れるような低レベルなモノで
あるはずがないですからね。
 
 
 
追記
 
 1999/12/5現在、病弱ヒロインタイプのシナリオとしては、MemoriesOffの某キャラのシナリオ最高の出来映えだと断言します。
 詳しく書くのはネタバレになるのでしませんが、これほど美しい終わり方をしている病弱ヒロインシナリオは他にありません。