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■ 日本映画のこと■

□石井輝男映画vs鈴木則文映画 やさぐれ総括バトル!□

日本映画のあらゆるジャンルを縦横無尽に駆けめぐった二人の、ちょっとカルト入った映画に関する感想を集成。

「網走番外地」(輝男)

「続・網走番外地」(輝男)

「網走番外地・望郷篇」(輝男)

「直撃!地獄拳」(輝男)

「直撃!地獄拳・大逆転」(輝男)

「徳川いれずみ師・責め地獄」(輝男)

「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」(輝男)

「江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間」(輝男)

「ポルノ時代劇・忘八武士道」(輝男)

「やさぐれ姐御伝・総括リンチ」(輝男)

「実録三億円事件・時効成立」(輝男)

「ザ・ヒットマン〜血はバラの匂い」(輝男)

「現代ポルノ伝・先天性淫婦」(則文)

「徳川セックス禁止令・色情大名」(則文)

「温泉スッポン芸者」(則文)


「網走番外地」
(石井輝男監督 高倉健・丹波哲郎・嵐寛寿郎・安部徹ほか)

面白い!
娯楽映画の王道をがっちり抑え、一般観衆の心を鷲掴みの確かな映画作りを感じます。ヘンな方から輝男に入った人にとっては、「なぜだ!ヘンじゃない!」と思うかもしれないが(笑)見せ場見せ場をしっかり見せ、全体をあの超有名な歌でシメる、心憎いばかりのバッチリ演出。
雪原トロッコ逃走シーンのアクションは絶品!
日本娯楽映画の王道を見た!

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「続・網走番外地」
(石井輝男監督 高倉健ほか番外地ファミリー)

はじめての番外地シリーズだが、イケるね!
まさに、邦画における傑作B級活劇。寅さん的旅情と任侠映画のキップのよさを兼ね備え、石井輝男的独特ユーモアと洒脱さで料理したウェルメイド&チョイださの味わい。「イヨ健さん、三国一!」なんてぇかけ声も、かけたくなるってなもんです。ビデオだけど。

で、このシリーズ第二作はどういう話かというと、函館中央銀行から盗み出された高級ダイヤ、時価何億にもなろうというこの代物を中に仕込んだマリモをめぐって、宝石ギャングと健さん&ゆかいな仲間たちの大立ち回り。マリモまわりの変さもさることながら、相変わらずの由利徹の体当たりギャグも爆発力たっぷり、そして何とも言えないさわやかさを残す、ワルサーの使い手中谷一郎が忘れられない。アクション面での見物はクライマックス、火まつり会場でのひょっとこのお面をかぶりながらの大立ち回り。が、息絶える中谷一郎に哀悼の意をしめさんとばかりに死に顔にデスマスクよろしくひょっとこの面をかぶせる健さん、それはかなり違うぞ!一方ドラマは観る者のそんな想いをよそに、走行するダンプ・トラックの荷台の上での格闘シーンという燃える展開に一気になだれこむ。
このダサっぽさとかっこよさの同居が邦画B級を見る醍醐味であって、そういう楽しみに通じた粋人にとっちゃあ最高の見せ物といえるんではなかろうか。

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「網走番外地・望郷篇」
(石井輝男監督 高倉健ほか番外地ファミリー)

網走から流れ流れて、健さん、長崎に流れ着きますが、いきなり長崎が健さんの故郷っちゅうことになっている。えっ、そうだったっけ?などと思っていると、かつていた組の組長さんがアラカンだったりする。八人殺しの鬼虎じゃないのかよ!
さらに、続・網走で倒したはずの安部徹が横暴ヤクザの組長として君臨している。 といった調子で、続・網走までの設定がなかったことになっているという日本侠客伝殺法。なのに網走で一緒だった田中邦衛はまた出てきて、網走の回想シーンとかあったりするからもう無茶苦茶。
だが、結局面白かったりする。
続・網走のダイヤ入りマリモ争奪というバカバカしさ(これがどこまでマジかわからない所が石井輝男の底の深さだが)は影を潜め、黒人の女の子と健さんの心の交流といった、ヒューマンなテーマが通奏低音となって、網走とも思えぬポエジーが漂っている。
それにしても、明らかにニグロの女の子が「あたいの肌はなんでこんなに黒いンだろう」などと独白するのは良く考えると変だが、それに「そんなに黒かねえよ」とフォローを入れる健さん、さらに、比べてみればお兄ちゃんの方が全然白いじゃねえかと問いつめられ、言葉につまった健さんが
「いや、そりゃあおめえ、オレは長いこと病院入ってたから、その間に白くなっちゃったんだよう」と言い訳するのは、かなり無茶である。

ラストのなぐり込みはいきなり超かっこよすぎてビビる。変の次にいきなりCOOLになったりするこの変幻自在ぶりが、やはり石井輝男作品を観る醍醐味といえるかもしれん。

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「直撃!地獄拳」
(石井輝男監督 千葉真一・佐藤允・郷英治)

たった今、はじめてダパンプの一茶(ISSA)の上の名「辺土名」が「ヘントナ」と読む事を知ったが、その彼とSPEEDの上原多香子が主演する「ドリームメーカー」が今公開されている。で、現在「ウケている」同じ邦画とは思えぬほど、まったくその対極に位置している(と思われる)のが和製空手アクション喜劇「直撃!地獄拳」シリーズである。…どういう導入だ?
(その後、記事にはアヤマリがある事がわかった。「ドリームメーカー」全然人入ってなかったらしい。死人にムチ打つような真似をしてスンマセンでした)

麻薬取引でもうけるマフィーア(なぜかこんな発音)を壊滅させるべく元・警視総監池部良に雇われた甲賀忍者の千葉ちゃんだが、そのやることなすことダーティである。ヤク取引現場に潜入、証拠物件を盗み取るも、儲けを独り占めせんとばかりにブツを抱えて逃走。追いすがるマフィーアの手先の顔にペンキつきの蹴りをくらわし、地獄パンチを胸にくらわして、あろうことか心臓まで引きずり出す。お前はインディ・ジョーンズの人か?
が、摘出部分があまりにも適当なメイクのうえ、心臓はモロ理科模型というチープっぷりに、劇場は爆笑の渦に包み込まれるのだが…。
そもそも、冒頭から千葉ちゃんの独走ぶりは目をみはるものがある。忍者の修行に耐えられず、忍者の里からの脱出を度々試みる点では人間臭さを感じるのに、そのチャレンジの姿勢が途方もなく俗なばかりに観客に失笑を催させる男、それが千葉ちゃんである。
天井にはりつく奇芸を「霧隠れじゃ」とのたまう師匠についていけず、夜中にこっそりと着替えを持って抜け出す千葉ちゃん、暗闇の中で独白。
「こんな所にいつまでもいたら、俺の青春は灰色だ」
いい年して…
師匠に問いつめられて答える「べ…便所です」という弁明もほとんど小学生だ。

冒頭からこの調子なので、映画は全編にわたってバカの鉄砲水状態である。
あやしいインド・ガンダーラ拳法を駆使するというふれこみのターバン野郎が登場するが、やることは単に拳打つ前に「ガンダーラ!ウパニシャド!」と言うだけだったり、華麗なヌンチャク裁きを映すべきヌンチャク・シーンなのに、何故か千葉ちゃんのものすごい面相ばかりがドアップになってたり、疾走する車が女がパンツ干してるとこに突っ込んで、何故かパンツもろとも干してる女の着衣まで車にひっかかって持って行かれてしまい、全裸の女が「バカヤロー、どろぼー!」とダッシュしていくという、あまりに直截な観客サービスといい、あらゆる面において観る者のプリミチブな笑神経を直撃する。

最近腹の底から笑ってないって?もしあなたが「直撃!地獄拳」をまだ見ていないなら、それはすぐにでも解決される悩みといえよう。

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「直撃!地獄拳・大逆転」1974年東映東京
(石井輝男監督 千葉真一・佐藤允・郷英治)

「直撃!地獄拳」の続編。前作でとことん我々の片腹を痛めつけまくってくれた超人バカ三人が、巨大金庫の中に隠されたダイヤを狙う。前作にくらべてチョイと都会派でイキな映画だが、強力接着剤でテーブルに手を貼りつかせてしまった郷英治が、その後ずっとテーブルを手につけたまま行動してしまう(時折ヤスリで削っている)といったアナーキーぶりは健在。
俺としては、ウイスキーにハナクソを入れる佐藤允の顔が異様にテンション高いのがたまらない。そんな核ミサイルのボタン押すみたいな顔しなくても…。おかげで、近作「死国」のラストで雷とともに登場ましました時も、劇場で一人笑ってしまった。同種体験の報告を求む。
ラスト、「現金に体を張れ」よろしく、札ビラが風で舞い、車が爆発炎上する中での決戦のかっこよさは、凡百の映画を全然超えており、とことんシビレさせる。敵のボス名和宏(そういえば、名和といえばのお色気シーンがこの時はなかったナ…)を生きたまま解体する千葉ちゃんは実に爽快。その後の驚愕のオチに関しては、とりあえず「網走番外地」必見!とだけ言っておこう。

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「徳川いれずみ師・責め地獄」1969年東映京都
(石井輝男監督 吉田輝雄・小池朝雄・橘ますみ)

石井輝男のメーターが振り切れ、完全に趣味が爆発しきった映画である。
それだけに、ついてこれる人とこれない人が極端に分かれるであろう。
見世物小屋、闇市の混沌とした雰囲気などに対してオマージュをささげる用意のある人には、生涯の傑作になるかもしれん。
映画の構成としてはかなり無茶だ。何しろ、前半のストーリーをひっぱっているヒロインが、海上火刑という超ショッキングな形で亡くなってしまうのである。石井輝男は数本分の脚本を一本にまとめてクライマックスだらけの映画をつくるそうだが、やりすぎじゃないのか(笑)?
とは思うものの、後半は前半よりもさらに魅惑・幻惑的なイメージに満ちている。日本の田畑畦道を西洋馬車が疾駆する映像など、いったい他のどの映画で見られるであろうか!?

(再見時の記事)
1年くらいぶり二度目ですが見てきてしまいました。
いや〜面白かった。前見たときはインパクトしか頭に残ってなかったですが、実は筋もけっこう面白い事が判明。やっぱ石井輝男は見る度に発見がありますね
それにしても、若い世代の石井輝男ファンは、ってオレもそうですが、もう石井輝男というと笑うもんと思っていて、箸が転がっても面白い年頃でもあるまいに、比較的フツーのディティールでも遠慮なしに爆笑しているのには、さすがにオールド・ファンの咳払いなぞ聞こえましたが。
しかし、ラストで吉田輝雄が、恋女の仇とばかりに敵ボスの娘さんを幼女誘拐した上に変ないれずみ(笑)を彫り込んだ上、敵との直接対決時にもさんざん人質として利用するという極悪非道ぶりをぶちあげたあげくに、いざ自分が死ぬとなると
「オレはなんということを!心優しい少女になんという罪深いことをしたのだ!」
と反省する無茶苦茶ぶりには、やはり心底爆笑させられました。
敵のボス、オランダ商館長役のユセフ・オスマンが吉田輝雄に詰め寄られ
「ワタシはなんにも知らない!悪いのはみんなこの二人デース!」
は相変わらず面白かったが、その後
「ス、スマナンダ!」
と言っているように聞こえたのだが…オレの耳のせいか?
劇中盤、何の説明もなくいきなり島流しをくらっている吉田輝雄が「おれをこんな目にあわせた奴は誰だ!」と独白しているシーンでは「またかよ!」と思い笑わせられたが、会場のうち4,5人くらいから同様に笑い声が聞こえたのには「あ、わかってる人たちだ!」と不思議な連帯感にとらわれたり、色んな意味で考えさせられる上映会でした(笑)。

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「明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史」1969年東映京都
(石井輝男監督 吉田輝雄・小池朝雄・阿部定)
東映・異常性愛路線の急先鋒として怪作を世に問いまくっていた時代の石井輝男監督による、オムニバス異常犯罪映画。
冒頭、いきなり異常犯罪の毒牙にかかって殺された自分の妻を解剖するはめになった監察医の吉田輝雄、この異常犯罪という人間心理の謎を解くべく、過去の事件ファイルをひもとく。
そこから、「オレの妻をこんなふうにした奴は誰だ!?」という独白とともに一気に画面がポワポワ〜ンとなって話に飛んでいくあたり、いつもながらの輝雄話法という他ない。
4つある話のうち、最初の二つは極悪女が勝手に家を燃やして自滅したり、本物の阿部定が「生きていた阿部定さん」という、でけーテロップと共にご登場する他はさして注目すべき所もないが、「この阿部定事件以来、模倣事件が全国に広まった…」という輝男独白とともに展開する由利徹、大泉晃のコメディ・リリーフ(ちょんぎられたチンポの跡をおさえて「な、ないィ〜」とのたまう大泉が素晴らしい)は、こっから先の箸休めですヨといわんばかりの、3つめのエピソードのドス黒さがすごい。
事件そのものは行きずりの強姦連続殺人というこの映画では珍しくもない感じの犯罪なのだが、この犯人役の小池朝雄!おそらく、かつて銀幕に投影されたうちで最も狂った異常犯罪者の一人である。
怪演というか、名演というか…とにかく一見の価値あり。
この衝撃的な小平義雄事件の後、土方巽が謎の特別出演(首切り役人の役)をしている他は蛇足としか思えぬ高橋お伝事件を最後に回想を終えた吉田輝雄、
「やはり分からない!」
の一言を残し、資料室を去っていく。…何だったんだお前は!?

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「江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間」1969年東映京都
(石井輝男監督 吉田輝雄・土方巽・小池朝雄)

大井武蔵野館までなくなっちゃった今、この映画を見る機会ってもう巡ってこないかもしんないですね。まあ、オレはもう4、5回見たのでもういいやっていえばいいかもしんないけど。
それにしてもこうして並べてみると、「徳川いれずみ師〜」「〜猟奇女犯罪史」そしてこの作品と、1969年という年はまさに異常という他ない盛り上がりを見せていたんですな…一部で。
「あの態度、ただの関係ではない!」とか
「弾丸は抜いておきましたよ」とか細かいところもオカシイ。
土方巽のあの波打ち際のシーンは一度見たら一生忘れられないだろうし、やっぱり日本が世界に誇れる記念碑的傑作カルト映画でしょう。

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「ポルノ時代劇・忘八武士道」1973年東映京都
(石井輝男監督 丹波哲郎・伊吹吾郎・遠藤辰雄)

公開当時「もっとも狂った時代劇」といわれたんだそうだが、石井輝男の狂気を知る者にとってはこれは比較的整った映画といわねばなるまい。
というか、本来石井輝男というのは、ヘンなとこ抱えながらも整った映画を撮る人なんだが。たまにメーターが完全に振り切れちゃう事が(笑)
そういう事情も加味すると、これを見て狂った時代劇と言う感想を抱くのもわかる。 何しろ、芸者がゴロゴロ地面を転がりながら火を消しますからな。そば屋に化けた忍者が放った火から丹波を守るために。
ほかにも、チャンバラですぽんすぽん飛ぶ手、足、首。バラバラ殺人のライブ・パフォーマンスみたいである。
そして、かつてこれほどのインパクト正月があっただろうかという、吉原全裸芸者大集団の元旦挨拶の儀。まさに初夢である。
あのウルトラセブンのアンヌ隊員が惜しみなく脱いでいるところも、受ける筋はあるでしょう。石井監督によれば、文句ひとつ言わず地面をゴロゴロ転がってくれたとても気のいい子だったそうですが…。裸女同士のキャット・ファイトを眺めながら、ニヤけた顔で外人女の胸をもんでいたショットがわたくしには忘れられない映像として残っております。

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「やさぐれ姐御伝・総括リンチ」1973年東映京都
(石井輝男監督 池玲子・内田良平・遠藤辰雄ほか)

「どういう映画なんだ!?」
と、問い質したくなるタイトルである。
どうせ東映だ、適当に流行りモノから付けたんだろう!と言うとその通りで、公開当時、世間は連合赤軍事件で揺れていたらしい。
ところが、見終えてみると、たしかにこれがやさぐれ姐御が男どもに総括リンチを食らわせる映画になっているのだから、石井輝男はあなどれない。

一応(?)、同年二月に公開された鈴木則文監督の「不良姐御伝・猪の鹿お蝶」の続編であるが…二月に封切られた映画の続編が同じ年の六月に封切られるんだからすごいよね。東映不振期とはいえ、このころの映画は、今時の映画とは違うギアで走っていたんだなぁという思いを強くせずにはいられない。
賭場を仕切りながら放浪する姐御である猪鹿お蝶は東映セクシー路線を負って立つ池玲子。ボインボインの胸と口元のエッチ黒子はとても18歳とは思えないセクシー度であるが、この年不相応の色気と石井輝男の確かなアクション演出がうまくマッチして、まれにみる超カッコいい女闘アクションの快作(いや怪作か…)となっている。
「先天性淫婦」の時までは、同じ東映セクシー女優でも杉本美樹の方が全然好みだナァと思ったオレだが、池玲子も結構イケてる、と思うようになったが、それはこの映画の容赦ない全裸アクションのサブリミナル効果かもしれん。
そもそもタイトルバックの、今となってはどういう文脈で行われたアクションだったかさっぱり分からぬ斬り合いで、意味もなく服だけが破れ、必然的に全裸となるシーンから何か意図的なものを感じていたが、とにかくこの映画、全裸アクションのオンパレードなのである。とにかく脱ぐ、脱ぐ。
対立する二つの女不良グループが手打ちをするシーンでも、「裸と裸のつきあいだよォ」という言葉とともにカメラが引くと、どちらのグループの女も全員裸である…といった徹底ぶり。そこで行われる「全裸三本締め」は石井映画の無軌道っぷりの一つの象徴とすら言えよう。ラストの文字通り「総括リンチ」でも、当然のごとく全裸となる女たちの大集団が悪党どもの腸は引きずり出すわ、もうハチャメチャなのだが、その後、いきなり池玲子が歌い出す「お蝶のブルース」の歌詞「ついてくる奴ぁ、ついてくる」とは、夕陽にむかって歩き出すお蝶の後にまんま全裸でついていく女たちと同時に、われわれ観客にまで向けられたメッセージなのではないだろうか。そして、反・異常性愛路線の逆風の中で歩く監督自身の心の声でも…って美化しすぎか?!

なんだかやたら長くなりそうなので、後は池玲子の向こうをはる内田良平について一言。
「忘八武士道」でも、意味もなく女の胸をわしづかみにする謎の忍者を演じて我々の眼をくぎづけにしたこの男、この映画でも、とにかくスゴ腕の男を演じている。どのくらいスゴ腕かというと…
敵である親分の前で、親分の拳銃を取り上げ、弾丸をテーブルの上にバラ巻くのだが、そこへ「なにしやがる!」と子分どもが襲いかかる。瞬間、内田がその弾丸を片手でブワッと払うと、その弾は正確に、子分の鼻の穴に向かってヒュ〜ンと飛び、スポッと入って倒してしまうのだった。
快傑ズバットか?!

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「実録三億円事件・時効成立」1975年東映京都
(石井輝男監督 金子信雄・小川真由美)

このイロモノ臭ただようタイトル!「やさぐれ姐御伝・総括リンチ」のような「どういう映画なんだ!?」と言いたくなる謎っぷりの対極にある、明快すぎるタイトルであります。
ところが、これが単なる時事にあわせたイロモノ(東映のお家芸!)の枠におさまっている映画ではないのである。途中まではそうかなと思わせるのだが、ラストに到っていきなり頭一つぶちぬけて、日本における和製フィルム・ノワールの最高の結実とでもいうべき世界がひらける。
まさに、石井輝男こそ、狂気の天才、しかも自分が天才だとは全然思っていないという理由において、真の天才の名にふさわしい人物といえるのではないか。

具体的なことを書きますと、この映画は有名な白バイ偽警官による三億円強奪事件に材をとり、ある男女を犯人と仮定した犯罪映画で、前半は岡田裕介と小川真由美のカップルによる三億円強奪の実行を描き、後半は金子信雄扮するヴェテラン刑事によってこのカップルが追いつめられていく状況を描く。
で、前半は石井輝男の娯楽映画監督としての確かな手腕が存分に発揮され、大変面白く見れる。
後半になると金子信雄の、「仁義なき戦い」の山守義雄を思い出すイヤラシ〜イ過剰演技が、「これはカッチョイイ(死語)つもりなのか、それとも笑わせようとしているのか?!」と大いに困惑させられ、また、小川真由美が銭湯に入るのを尾行するシーンで、どうせやるんだろうと思っているとやっぱり番台の隙間から女湯を覗くシーンでは、実際に爆笑してしまったが…、
だいたい、金子信雄が尾行なんぞすると、必然的に物陰からチラチラとあの見事すぎるハゲ丸頭が見えたりするわけで、普通ならばおもしろいだけで終わるのだが、この後、いよいよ岡田裕介が捕まり、拘留される中で金子信雄との自白合戦になるところから、映画のトーンは一変するのである。
ここからの金子信雄は、とても「金子信雄のおかずのクッキング」で「あなた今夜はなに〜を召し上がりますか〜♪」という歌をバックに男の食彩やってたとは到底思えない、犯人追及の執念と恐怖のかたまりなのである。
最初は、ただブーたれているだけだったこのハゲおやじが、岡田裕介の首をつかみ、デスクにたたきつける時の表情たるや、「キー・ラーゴ」のエドワード・G・ロビンソンもかくやというド迫力なのである。
そして、時効成立の12時の鐘。
釈放される岡田裕介を、小川真由美の抱いた子犬の声が迎える。階段を降りてきた金子は「今、辞表を出してきた所だ…貴様をどこまでも追いつめてやる、完全犯罪なんてものはあり得ないんだ!」と告げる。
そして、この三者がそれぞれの思惑をはらんだまま踏み出す一歩を捉えたストップ・モーションのかっこよさ!
ここにおける石井輝男は、あの淀長さんもほめたという「ライン・シリーズ」での都会派フィルム・ノワールの監督だったのである。金子信雄の頭のテカりでずっと気づかなかったが…(笑)
冒頭から競馬場のシーンだったりして、明らかにキューブリックの「現金に体を張れ」に対抗した映画であるこの 映画だが、フィルム・ノワールの記号論を持たない日本映画の土壌の中で、それに拮抗する畏るべきラストシーンを撮りあげた石井輝男は、キューブリックよりもより勝る天才ぶりをここで発揮しているのだ。
なんて、ちょっと思いあまってるかもしれませんが(笑)
書き落としましたが、「刑事の執念」の向こうをはるのが小川真由美の「女の執念」で、こちらのほうもなかなかの名演であります。

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「ザ・ヒットマン〜血はバラの匂い」1991年東映
(石井輝男監督 西城秀樹・七瀬なつみ・丹波哲郎)

石井輝男監督のVシネマ作品。
見どころは、丹波哲郎の超マイペース演技。もはや「独演会」と化してます(笑)
主人公の恋人の墓が変。これは、見てもらうしかない。なんか犬の墓みたいです。
それから、七瀬なつみ様が胸をお出しになっております。今となってはお宝か。
新宿で中古500円で売っていたので思わず買ってしまいました。我が青春に悔いなし。

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「現代ポルノ伝・先天性淫婦」1971年東映
(鈴木則文監督 池玲子・宮内洋・サンドラ=ジュリアン)

フランスのポルノ女優、サンドラ・ジュリアンと東映の誇るお色気女優、胸プリンプリンの池玲子を絡ませようという趣向の一本。池玲子は冒頭でいきなり母の情夫に強姦され、それ以後、男漁りをしまくるムセッソーな女を演じるが、何しろ母親が新東宝のお色気海女女王、三原葉子なので仕方ないとも言える、…のか!?東映特撮ファンならば「仮面ライダーV3」「快傑ズバット」の宮内洋が、ウッフ〜ンとばかりに誘惑する池玲子にタジタジ、というレアなシチュエーションを楽しむこともできよう。サンドラ・ジュリアンはメチャメチャ可愛いが、まるで友情出演のようにドラマ途中でお話から離脱、ストーリーは結構ドロドロな展開へ突入していくのであった。

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「徳川セックス禁止令・色情大名」1972年東映
(鈴木則文監督 杉本美樹・名和宏・サンドラ=ジュリアン)

東映きっての「女の敵」名和宏に、対するは池玲子の衣鉢を次いで東映セクシー路線をしょって立つ杉本美樹の、エロス関ヶ原か!?と、ここにおフランスから、白い肌の側室サンドラ・ジュリアンが加わり、三つ巴の色事大戦争。
それまで、いたしたことがなかった徳川時代のお殿様なんですが、その味をおおぼえになるとおハマリになり、「こんなイイ事はわしだけが独占したいものじゃ」と領内にセックス禁止令を布告なさる。
禁止令に背いてる真っ最中の鳳啓助と京唄子が摘発されるシーンのばかばかしさ!
まあ、例によってストーリーはほとんど記憶にない則文映画ですが、やっぱり忘れられないシーンはいくつもあって、なんと申しましても殿山泰司の家老が色情大名に、はじめて「いたし方」を教えるところがすごいです。
「三太夫(笑)、わしはどのような手順でやったものか見当がつかんのじゃ」
「では、このようになされませ!じいが天守閣に登って太鼓を叩きまする、一の太鼓をドンと叩きますれば、入れられませ!ニの太鼓をドンと叩きますれば、次は抜かれませ!」
そのような調子でコトにいたるわけでございます。
ドン、ドン、ドンドンドンドン、と太鼓をテンポアップさせていく、じい。
映画史に残る笑激シーンである。

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「温泉スッポン芸者」1972年東映
(鈴木則文監督 杉本美樹・名和宏・山城新吾)

すっぽんの様な名器を持つ芸者と、女を斬りまくってきたサオ師との対決という、気の遠くなるようなくだらないストーリーを、徹底的に俗な描写で貫いた鈴木則文の怪作。
話の展開そのものは、複数で見ないとたえられないかもしらんほどローテンポな感じなのだが、時折すごい描写にぶつかり開眼する。
ラストの「すっぽん、すっぽん、すっぽんぽん」というバカとしか言い様のないテーマ曲をバックに、芸者姿のままバイクで疾走する杉本美樹!
一度見たら絶対に忘れられない衝撃映像だ。

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