「子供のピアノのおけいこ」について(1998年10月11日掲載)



「子供のピアノのおけいこ」について



 趣味や情操教育の一環としてピアノを習う子供達へのメッセージをピアノ・レスナーの立場から少しずつまとめてみたいと思います。

 項目は次の通りです。

1.ピアノをはじめるのに適した時期は?

2.ピアノの先生捜し

3.練習用の楽器を用意しましょう

4.月謝について

5.レッスンでのマナー

6.お家での練習の仕方

7.ソルフェージュは大切な基礎教育

8.絶対音感は必要でしょうか?

9.出張レッスンは出来るだけ避けたいものです

10.親の役割

11.レッスンを重荷に感じた時に

12.楽しんでソナチネを弾きましょう

13.色々な演奏会を聴きにいきませんか?



1.ピアノをはじめるのに適した年齢は?

 常識的に考えて、幼稚園の年中〜年長(5〜6歳)ぐらいが、おけいこ事がスムーズに行える歳のようです。
 "早期教育"が流行のようですが、これは環境やその他諸々の条件が必要となりまして、早ければ全て良い訳ではありません。
 3〜4歳ぐらいは、まだ指もフニャフニャですから無理してピアノを弾くレッスンをさせるよりも、まずご両親が、音楽に親しませるような環境作りをしてあげる方が効果的だと思います。(例えば、昔の童謡をお子さんと一緒に歌ってみる。又、気持ちを穏やかにさせるような美しいメロディーのCDを捜してきて聴いてみる等....。)

2.ピアノの先生捜し

 これは口コミが一番よいのではないかと思います
 お知り合いがなければ、楽器店などに相談されるのが良いでしょう
 導入期や初歩の指導はこれからピアノのレッスンを続ける上での最も大切な基礎工事ですので、先生の具体的な指導法が知りたい時は、発表会や他の生徒さんのレッスン風景を見学させて頂くのも悪くないと思います。但し、相性というものもありますので、レッスンを見学した結果、余り気が進まない場合は、「ウチの子供にレッスンを受けさせるのは、まだ一寸時期が早いように思いますので、もう少し待ちます。」等、出来るだけやんわりと退散するのが、エチケットでしょう。

3.練習用の楽器を用意しましょう

 ピアノやヴァイオリン等音楽関係のレッスンは、必ずお家での練習が前提になりますので、楽器が必要になります。
 ピアノ・レスナーの立場としましては、音楽を味わう耳を作るために、エレピアン等の電子楽器よりもアップライト等の本物のピアノをご用意頂きたいのですが、これは経済的な問題もあるので、各ピアノ・レスナーによく相談されるのが良いと思います。又、中古のピアノもありますので調律師さんや楽器店に相談なさって紹介して頂くのも良いのではないでしょうか。

4.月謝について

 ピアノのレッスンの月謝の協定料金はありません。これはひとえに、各ピアノ・レスナーの良心によるのではないかと思います。信頼出来る各ピアノレスナーは、今の時代では、個人宅指導のみという方は比較的少なく、各音楽教室の講師を兼ねている場合が多いので、教室内でのカリキュラムや月謝額を参考にしていらっしゃる方が殆どだと思います。
 月謝額の段階としましては、楽曲の進度に従って、必要になるレッスンの時間帯も長くなり、その都度、額も上がっていくしくみです。
 月謝の支払い方法には、例えば、月3〜4回(レッスンの曜日は決まっている。)のレッスンで−円と決まっているいわゆる月謝とワンレッスン型(レッスンの曜日を特別には決めないで、レッスンに来る度に支払う方法)が、ありますが、お子様には定期的なレッスンを行った方が効果的ですので、特別な場合を除いて、ワンレッスン型は少ないと思います。

 それから、ピアノ・レスナー同志でよく話題になるエチケットに関する事ですが、やはり月謝は必ずその月の内にご用意頂きたく思っています。又、例えば月謝が8500円だった場合に、1万円札を持っていらして、「おつりを下さい。」と平気でおっしゃるお母様が時々いらっしゃるようですので、遣り繰りは確かに面倒ですが、音楽教室ではなく特に個人宅指導のレスナーに習われる場合は、まずおつりのないように気を配るのが、最低限のマナーではないでしょうか。

5.レッスンでのマナー

 これは、各家庭での躾にまで関与してしまう問題かもしれませんが、ピアノのレッスンをスムーズに行う為には、たとえ趣味の域で習われるにしても、ある程度の厳しさは必要になります。
 "最初が肝心"ですので、基本的なマナーだけは家庭内で繰り返し、繰り返し言い聞かせるようにして頂きたいと思います。
 例えば...
      挨拶をする。
      自分で靴を揃える。
      お菓子を食べながら来ない。
      手が汚れている時は、ピアノを弾く前に洗う。
      レスナーがレッスン中に注意の為に話しをしている時は静かに聞く。  等々
 どれもこれも当たり前の事なのですが...。
 ある機会にヴェテランのピアノ・レスナーがおっしゃっていました。
 「常日頃、ご飯をガサツに食べている子は、演奏もそのままザツね。生徒のお行儀が良くなると、自然にピアノも上達していくのよね。」

 この続きは 「9.出張レッスンは出来るだけ避けたいものです」、「10.親の役割」の中で触れたいと思います。

6.お家での練習の仕方

 通常のピアノのレッスンでは、次回までに練習をしてくるべき課題が必ず出されます。それを1週間ぐらいで自力である程度まで弾けるようにしてこなければならないのですが、この家庭での練習がスムーズに行えない事が、親子ゲンカの原因になったり、特に、幼稚園〜小学校2年生ぐらいの小さなお子様に、自分から練習を始める習慣を付けさせるのに、大変に苦労をされるご父兄が多いようです。このぐらいのお歳の時は、色々な方面に興味があって、とにかく遊びたい盛りでしょうし、それを無理矢理ピアノの前に縛り付けようとするのは、逆効果です。
 では、どうすればよいのでしょう?
 今までにお勧めして、一番成功した方法は、まず、一日の内の時間割を親子一緒に考えながら作ってみる事です。この際、時間的なものを余り欲張らず、とりあえず30分 程ピアノを弾ける時間帯を決めてみて下さい。(例えば17:30〜18:00という風に。)実際に音を出して練習をするかどうかはともかくとして、17:30になりましたら、とにかくピアノの前に座る約束を親子で交しましょう。そして、その約束を守れましたら、とにかくほめてあげて下さい。勿論、程度問題ですけれども、けなしてばかりいらっしゃると、お子様は心を開かなくなってしまいますので、少しでも良い所が見付かりましたら、それを大いに評価して、自信を持たせてあげて下さい。
 それから、もう一つお願いしたいのは、お子様を過保護にしない事です。ピアノになじめなかったり、練習嫌いになる主な原因は音符がスラスラ読めない事による様です。このような悩みを持つお子様達の過去を調べてみますと、最も大切な基礎工事の時期に自力で音符を読ませる訓練が実にいい加減であったり、お母様の方が先走りして、譜を読んであげていたり、(まあこれはレッスンで恥をかかないようにとの気遣いなのかも知れませんが。)ゆったりと時間をかけながら、お子様の自主性を促す忍耐力に欠けていたケースが目立ちます。
 良心的なレスナーであれば、お子様の本来の姿を知りたいと思っていらっしゃるはずです。もっと各レスナーを信頼して頂いて、練習の仕方や、改善方法を直接相談なさってみては如何がでしょうか?それが、建設的なピアノのレッスンへの一番の近道であると思います。

7.ソルフェージュは大切な基礎教育

 「先生。趣味で習わせているウチの子なんかに、"ソルフェージュ"が必要なんでしょうか?」
 正直な所、この手の質問には、本当にがっかりしてしまいますが、ソルフェージュ教育と云うものが、一般的にいかに片寄った捉われ方をしているのかが、よく分かります。
 ソルフェージュ教育とは、元々は18世紀頃に読譜力や歌唱力を付ける為に生まれた声楽の為の教育法なのですが、これが19世紀には、フランスやベルギーで更に発達しまして、音楽の基礎教育を総合的に学ばせる目的で、日本にも輸入されたものなのです。−−音楽の基礎教育とは例えば、音程、リズム、音部記号の読譜、視唱練習、和声感の構成、暗譜、聴音等を指します。−−

 音楽的な感性は、勿論、持って生まれたものに大いに左右されるものですけれど、後天的に学んだ、具体的な理論的な知識があってこそ、現実的な手応えとして生きてくるものです。ただ漫然と指を動かしていても、決してピアノは上達しないのです。
 例えばピアノを弾いていて、リズム感の良くないお子様は、ソルフェージュのリズム打ちも弱いようです。苦手意識を持たせないように、指導には工夫が要りますが、かかさずリズム打ちの訓練を行う事によって、徐々にコツが飲み込めるようになり、自然とピアノの演奏の方もキレが良くなります。

 まあ一朝一夕に結果が出る訳ではありませんが、これはどの分野においても同じではないでしょうか?「頭を使って、”自分のどういう所を直していけば、良い演奏になるのか”を認識させる」作業がいかに大切かを、ご理解頂きたいものです。
 ソルフェージュは理論の為の理論ではありません。実に音楽的なものに関連している良心的な基礎教育です。

8.絶対音感は必要でしょうか?

 音楽の専門家を目指すのであれば、やはり身に付いていない場合、不便ですし、その音固有の持つ微妙な響きや、調性の持つそれぞれの性格の違いも感じ取りにくい訳ですから、片手落ちである事は確かです。
 しかし、一般に、”絶対音感”(abusolute hearing)と云う単語が、何か特別なスゴイものとして、一人歩きしている様な気がするものですから、それに対しては異を唱えたいと思います。
 現在のピアノは、大体441〜443Hzに調律されています。そのピアノを使って他の音に音程的に関係づけずに、音を無差別に、「ポン、ポン」と弾いてみせて、その音高、音名を間違えずに答えられるのが、いわゆる”絶対音感”なのですが、これを身に付けた事が、直接音楽的なものに結び付く訳ではありません。
 絶対音感はあくまでも機械的な一つの点であるにすぎません。音楽で一番大切なのは、音のピッチを正確に聴き取れる能力ではなく、”歌心”の方です。特に趣味や情操教育で習うお子様達には、自分の身体で音楽を奏でる喜びを充分に味わって頂きたいなあと思っています。ある音から次の自分の出そうとしている音までが、どの位の隔たりがあるのかを感じ取る能力(相対音感)を養う方が実際的な表現に結び付くのです。


9.出張レッスンは出来るだけ避けたいものです

 ピアノ・レスナーが、生徒の家に出掛けて指導する出張レッスンは、経験上、余りお勧めしたくありません。諸事情で、お子様を外に習いに行かせられないご家庭もおありだと思いますが、レスナーの家が、それ程遠い地域にあるのでなければ、小学校2〜3年生ぐらいのお子様には、自分の足で歩いて通わせたり、バスや電車に乗って通う経験をさせた方が、得策であると思います。
 具体的にどんな所がデメリットかと申し上げますと...。

  1. 正しく調律されたグランド・ピアノで指導出来ない。
       (アップライト・ピアノでは機能的に違うので、理にかなった説明がしづらい。)
  2. 自宅で指導してもらえる気安さで、お子様がどうしても緊張感に欠ける。
  3. 2とだぶりますが、甘えから来ると思われる練習不足が目立つ。
  4. よその家に習いに行けば自然に学べる礼儀作法が、身に付かない。
  5. 自宅にレスナーが来る事で、お母様の方も必要以上に気を遣ってしまい、部屋の掃除、レッスン後のお茶、お菓子と肝心なレッスン以外の所で忙しい。(どうぞおかまいなく。)
 「自分で習いに行く」と云う基本的な姿勢は崩さない方が良いのではないでしょうか?
 そもそも「ラクをして習う」発想が許せませんね。

10.親の役割

 これは、余りにも広い範囲の問題を含んで居りまして、的を絞りにくいものですから、ここではあくまでも趣味として、お子様にピアノを習わせていらっしゃる方々へのメッセージにさせて頂きます。

 まず、声を大にしてお願いしたいと思うのは、可愛いお子様のご成長を、気長に暖かい目で見守って頂きたい事です。よくある事ですが、曲の進度を気にしたり、よそのお子様と較べたりするのは、やめて下さい。(お子様を傷付けますし、個性はそれぞれ違って当然なのですから…。)進み具合よりも、正しい積み重ねがあるかどうかを心配する方が大切です。

 お子様をレスナーに預けっぱなし、ピアノには全く無関心と云うのも困ります。過干渉と同様に、罪が重いです。
 お子様は、親の態度を実によく観察しています。お母様が音楽を好きでいらっしゃったり、少しでも関心をお持ちですと、お子様にも、それが、はっきりした形で伝わります。たとえ、それ程までに、興味をお持ちでなくても、現在、我が子が何の曲を弾いているのかぐらいは、把握していて頂きたいものです。

 5の"レッスンでのマナー"でも述べましたが、最低限の礼儀作法は、家庭内でも繰り返し、繰り返し教えるようにしてください。(勿論、こちらでも努力いたしますが…。)

 最後に、ピアノのレッスンは、お子様、レスナー、親の三角形で成り立っている事を理解して下さい。
 何か問題のある時は、とにかく各レスナーを信頼して、直接、相談にのって頂きましょう。たった一人だけで悩んで結論を出すのは、お子様の将来の為にも、良くありません。
 --最初から、何もかも上手く出来る人なんて、居ません。--

11.レッスンを重荷に感じた時に

 趣味で何年間かピアノのレッスンを続けてきた子供達が、レッスンをやめる時期は、何故か共通しています。大体の方が、小学校卒業時や、中学生になって部活動や受験勉強が中心の生活になるらしく、ピアノは結局、切り捨てられてしまいます。
 どのような習い方、やめ方をしても、それは個人の自由ですけれども、レスナーの立場といたしましては、生徒さん一人一人の個性に合わせて、計画をたてながら、指導法を工夫したり、日夜努力をしているものですから、突然、「やめる。」と宣言されると、予想をしていた事態ではありましても、一体何なのだろうと思ってしまいます。せめて、事前にご相談頂いて、大切なお子様の今までの”頑張り”を確認してから、ケジメを付けさせるような思いやりを、持って頂きたいものだと思います。”もの”にならないからと、中途半端にやめさせて、お子様に挫折感を味わわせてしまうのは、最低です。


12.楽しんでソナチネを弾きましょう。

 各ピアノ・レスナーによって、指導法や教材の選び方は実に様々ですが、例えば、バイエル、メトードローズ等の初歩から練習をはじめて、クレメンティやクーラウのソナチネを正しい奏法で、楽しみながら弾きこなせる状態になっていれば、趣味の範囲としてのピアノの実力は、ほぼついたと看做しても大丈夫でしょう。
 この程度の曲を弾ける読譜力が身に付いていれば、ドラマの主題歌や、好きな歌手の楽譜を眺めながら、楽しんで弾く事も可能です。
 問題なのは、ソナチネまで到達しないで、中途半端な状態でやめてしまった場合です。これは、もうどうしようもありません。


13.色々な演奏会を聴きに行きませんか?

 何かのきっかけで、お子様が、音楽の本当の楽しさ、美しさに目覚める事があります。最近は、ファミリー・コンサートや、ピアノをはじめたばかりの小さなお子様も楽しめるような演奏会も増えてきています。親子一緒に楽しい雰囲気に浸ってください。
 もしかしたら、ピアノやヴァイオリンのソロのリサイタルは、やや専門家向きかもしれませんので、視覚的にも面白いオーケストラの演奏会等は、特にお勧めしたいと思います。(最初の内は、ポピュラーな選曲をしている演奏会を捜して行かれると良いと思います。)




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