絆
窓越しの宇宙<ソラ>は、何処までも暗く、そしていまも数多の星々が輝いている。
美しく、そして冷たいその輝きに目を奪われて。
小さく、問い掛ける。
キミは、今何処に居るの?−−−アスラン・・・
『トリィ?』
「・・・大丈夫だよ、ごめんね、トリィ・・・」
自分の肩の上で鳴く、幼馴染みの忘れ形見・・・にはならなかったが、トリィに悲しげな笑顔を向けて、キラはそっと、廊下の窓から離れた。
昔、月に居た頃は、夜更かしをして星を眺めていることが多かった。
・・・大事な幼馴染み、アスランと、一緒に。
駄目だ、思い出すな。
自分に言い聞かす。
過ぎ去った思い出はもう戻ってこない、過去のものになってしまった。
戦場で対峙したあの瞬間のイメージが、現実が、思い出を次々と塗り変え、化石にしてしまう。
思い出すな、悲しくなるだけだ。
何処ですれ違ったのだろう。
思い出しても胸が痛むだけ。
何処で選択肢を間違えたのだろう。
考えることを放棄せよという警告と、螺旋階段を降りていくかのような思考が、溶けあうように頭の中を、果ても無く巡っている。
足を止め、キラは壁に手をついて、俯いた。
「・・・どうした?気分でも悪いのか、坊主」
いつもそうやって自分を子供扱いする、それでいて認めてくれる、導いてくれる。
声が、今もまた、耳に届いた。
「フラガ・・・大尉・・・・・」
「弱重力に酔った・・・わけじゃ、なさそうだな」
覚束無げにゆっくりと顔を上げたキラの表情に、フラガはすこし真剣な表情になる。
「どうした?」
もう一度尋ねる声に、キラは瞳を伏せる。
「・・・・すみません」
「責めてなんか無いぞ?」
「謝りたいんです。・・・すみません」
「・・・」
「僕は・・・まだ、迷ってる」
あのとき。
あのときは戦えた。
でも、次は?
また、アスランと戦場で対峙したら。
自分は、戦えるのか?
「迷うことは・・・悪いことじゃないさ」
フラガの言葉に、キラは少し顔を上げた。
苦笑して、フラガは続ける。
「戦場では確かに、一瞬の迷いが死を招く。けど、ここは違う」
「・・・ここ、は・・?」
「坊主が護りたいって思ってる、友達もいるんだろ?あいつらだって、護られてばっかりじゃ嫌だと思ってるさ。たまには弱さも見せてやれ」
ぽん、と肩を叩いて。
「それが、友達の絆ってもんだろ?」
「・・・・・・・・ありがとう・・・」
キラはまた下を向く。今の自分の顔、見られたくない。
また、甘えるのか?
頭の奥で声が聞こえた。
胸に宿った暖かい何かが、急速に風化していく。
色褪せていく。そして、代わりに。
ここは戦場ではない。
ほんとうに?
ここが戦場になりうることは、ない?
声が、強く、尋ねる。
「・・・でも、僕が戦わなきゃ・・・・」
硬質な床。
視界に入るそれを、虚ろに見つめながら、キラは無意識のように呟いた。
「おいおい」
フラガはまた苦笑して、肩を竦めた。
「坊主は考え事をし過ぎだぞ?」
「でも・・・そうでしょう。貴方がそう言った」
「・・ああ、確かに言ったな」
フラガの肯定。
キラの中の声が、得意になったかのように大きくなる。
そうだ。
所詮、どちらか一方しか選べない。
今更何を迷う?
いちど、友達を護ることを選んでおきながら。
悩むな。迷うな。
敵を屠れ。
「言った、が」
声が止み、代わりにまたフラガの言葉が耳に流れ込む。
「俺はこう言ったはずだ。この艦を護れるのは『俺とお前の2人』だけなんだぜ、ってな」
少し悪戯っぽく笑って、フラガは続ける。
「俺も戦える。まぁ、正直G4機の相手はしんどいがな」
「なら・・・」
「まぁ、待て。言いたいのはその先だ。さっき友達の絆、って言ったが・・・それなら、仲間の絆ってものもあるだろ?」
何を言われたのか一瞬分からなくて、キラは反射的に顔を上げていた。
「自分一人の中で全部片そうとするからだ。友達に戦場のことで心配かけたくないなら、同じその『場所』にいるやつにでもぶちまけてみろ」
キラの髪をくしゃっと撫でて、笑う。
「ろくなこと言えんかもしれんが、どんなに後ろ向きなことでも聞いてやることはやるから、な」
だから、泣くな、と。
彼が、言った気がした。
声は、もう遠くへ行ってしまったらしかった。
後書き
・・・あの、間違いなくあたしの脳内ではアスキラになるはずだったんですけど・・・・。
ど、何処で間違えたかなあ?(焦)
無理矢理こじつけるとアスキラ前提、さらにCPじゃなくてあくまで友情!なんですけど・・・(滝汗)。
ていうかあたしムウキラプッシュしてないですし!だからこれはあくまで友情!(欺瞞だ・・・)
このままではサンショに何言われるか分らないので、フォローになっているのかカナリ謎ですがオマケも見てやって下さい。アスキラ、クルムウです(笑)。
壊れきってます。ええ、あたしが。