“0”<01>
君が別れを告げた日。僕は、それを知っていたかのように受け入れた。
コーディネイターの楽園(ホシ)、プラント。いつかは自分も行くことに...。
幼い頃からアスランの隣にいることが当たり前だと思っていた。
ずっと続くと思ってた、幸せな時間。
「アスラン...僕たちずっと一緒にいられるよね。ずっと...いつまでも」
別れの前日。泊まりにおいで、と誘われた。
いつものように大きなベッドに二つ枕を並べた。
いつものように、互いの体温の暖かさを感じて瞳をゆっくりと閉じた。
瞳を閉じた。暗闇が目の前を襲う。いつも生きていれば、繰り返されていることなのに。その日は恐怖で涙が流れた。
「ん?キラ、どうしたの?」
心配そうに尋ねてくるかたわらの少年は、すっと僕の目もとから小さな雫を拭ってくれた。なんでもない、と首を振りありがとう、と顔に触れる手を除けようとしたとき。
「キラ...」
「えっ?」
名前を小さく囁かれ、よく聞き取れず疑問を返した僕は、次の瞬間。
「泣くな」
アスランの手が髪を掬い、そこから全身へ腕をまわり優しく抱き締めた。
「ごめん、キラ」
言葉の続き。とぎれる意味を知らずに僕はアスランの胸の中、囁く。
「どうして...?どうして、アスランが謝るの?」
アスランの考えていること、言っていること。その頃の僕は知らなかった。
わかるのは耳元で打たれる心臓のリズム。だんだん自分もシンクロしていくように、その速さは心地好い。
「キラ...君に俺の本当の気持ちを伝えたら、君はそんな俺を嫌うかい?」
「そんなこと...僕がアスランを嫌うことなんて絶対ない。これだけは誓えるよ。なんでも言って」
”本当にキラは優しいね”
「...キラ、好きだよ...」
「え...?」
「ずっと前、出会った頃から。...好きだよ、キラ。愛してる...」
回された腕の強さが増した。もっと大きく心臓の音が聞こえる。
「...僕も...君のことは」
戸惑いを隠しきれない、そんな声。
「違うんだよ、そうじゃない。君の好意は友情の延長。けれど俺の好意は...こういうこと」
「っ...ん」
言葉の意味を行動で理解した。まわされていた腕がはずされ、かわりにその手に両手を拘束された。ベットがぎしっ、と音をたて軋んだ。アスランの唇が僕の唇に重なる。初めて感じる他人の唇。その相手が...アスランなんて。
「っや、やめてよ、アスラン...」
「駄目だよ、今夜は。君と居られる最後の夜だから...」
「最後っ...て...あっ、くぅ」
最後の夜。
確かにアスランはそう言った。
けれど、その意味を問おうよりも先にアスランの手が服の下の胸元を触り始めて。
僕から出る声は今まで聞いたことのない、鼻にかかるような、そんな声で。
真実を聞くことができず、ただ初めて与えられる感覚に自分のものではないその声をあげることしかできなかった。