魂は、迷う。

悲しむ。

その全てが、力となる。

 

第一話『夜啼鳥』

5 lost sight

 

「サグナ・・・・・・俺と・・・一緒に居てはくれないのか・・・・俺と・・一緒に来てくれはしないのか・・・・?」

青年は虚ろで無感情な台詞を繰り返す。

非奈の顔色は、酷く悪く・・・それでも、青年から視線を逸らせない。

 

「騙されるな、非奈!」

 

葉月は吠える。

「ここの天候を操るほどの残留思念だ、引きずり込まれたら・・・」

再び閃光が煌く。

「・・・・・・・・・・・!!!」

葉月の顔が苦痛に歪む。

肺の圧迫感と共に、『目に見えない何か』に首筋を絞められているような感覚が葉月を襲う。

長い黒髪が乱れて、白い地面に踊った。

「は、づき・・・はづきっ!」

非奈は必死に葉月の体を揺さぶり、名を叫ぶ。

「・・サグナ、一緒に・・・来てくれ・・・・・・・」

青年は軽々と、非奈を抱えあげる。

「ひ・・・・・・・な・・・・だめ・・・だ・・・・・・・」

何とか止めようと、葉月は手を伸ばすが、むなしく宙を掻くだけだった。

「おにい・・・・・・・ちゃん・・・」

「・・・サグナ・・」

雷鳴が轟いた。

きゃっと叫んで非奈は震える。

雷を鳴らした後の青年の一瞬の虚を突いて、葉月の体が大きく撓った。

「・・非奈ーーーーっ!!!」

思いっきり青年を突き飛ばし、非奈の腕を掴んで引き戻す。

青年は柱に打ちあったった。

非奈は気を失っている。

「キサマ・・・」

しかし青年はさしたる怪我を負った様子も無く、ゆらりと立ち上がった。

「ちぃっ・・・・・」

葉月は気の遠くなるような眩暈を感じた。無理に体を動かしたせいか、吐き気もおさまらない。

 

その時。

 

「破ッ!」

 

衝撃が波となり青年を包む。

 

一瞬青年は苦しそうに悶えたが、すぐに闇に掻き消えた。

 

「し・・しょう・・・・・」

力の主を視界の端に捕らえ、確認した途端に眩暈に負けて、葉月は仰向けに昏倒してしまった。

 

腕にはなお、非奈を抱いたまま。

 

 

 

 

 

「・・・葉月、はーづきちゃん!」

聞きなれた声で葉月は目を醒ました。

「・・師匠・・・・・・」

頭はまだ痛む。しかし思ったほど外傷は無い。

「あー良かった良かった。起きなかったらどーしよーって思ったよもう。架羅んとこ行こうと思ったら雨降るし、

洗濯物の心配とかしてたらさぁ、いきなりどっかから紛れ込んで来た残留思念が暴走して・・・まあ無事で

なによりだったねホントにさ。葉月ってば結構無茶するんだもん」

師匠、皐はえへへとか笑って、それが葉月にとってなんだかとても心地よかった。

「・・・非奈は・・・・・・・?」

「ひーちゃん?もうすぐ起きると思うよ」

葉月は改めて周りを見回す。

仰々しい器具や配線、萌黄色の液体の詰まった巨大なカプセル。

「・・ここは・・・・・『樹の中』・・・?」

『樹の中』。

それは、この城の中央に位置する巨大な樹の内部に造られた施設群を差す呼び名。

病棟、研究棟、指令棟、転送棟…あらゆる中枢施設が設けられた区画のことである。

「そうそう」

ふと、寝台に力無く横たわる非奈を見つけた葉月はよろめきながら寝台を降り足取りの危ないまま傍による。

「う・・」

非奈がうめく。

「うん・・・・・ここ・・・」

ゆっくりと瞼を開け、怯えのこもった呟きを漏らす。

「おい非奈、大丈夫か?」

「・・はづき・・・・?」

葉月の姿を探してか、非奈の虚ろな視線は宙をさ迷う。

「・・・・・非奈?」

 

 

「はづき・・・なにもみえない・・・・」

 

 

葉月は、心臓が凍りつくように感じた。

 

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