母なる神、その御名は桜樹。

全ての世界を産み、司る『光』。

そして、さ迷える魂たちを導き、『闇』に対抗する力とする者。

 

第一話『夜啼鳥』

3 開催、井戸端会議

 

「・・・以上で文月の月例を終了いたします・・・・」

広い会議室に涼やかな声が響いた。

妖精の流した涙のようなクリスタルのはめ込みの巨大な出窓を、金糸の房の紅いビロードのカーテンが彩る。

足首が埋まる程長い毛の深い緑の絨毯に、銀に輝く机と椅子。

そこに十数人の若い男女。

その場所からのイメージで、皆神妙な顔をしているかと思いきや、一応正装を纏ってはいるものの砕けた雰囲気

で談笑している。

「でさーうちの弟子ねーんもー最近自信ついたらしくってーすんごい生意気になっちゃって、あたしの初めての弟子

だしぃ、可愛いんだけどー」

一際高い声で、零れんばかりの笑みを浮かべながら話している女性がいた。

青い海に紅の鮮血を流したような紫色のセミロングの真っ直ぐな髪、朱い澄んだ瞳、健康的な肌。裾の長い服を

うざったそうに撫でている右手には光る紅玉。美人、と言っていい娘。

ところで、『玉』は階級を表すものとされていて、一般に紅が神、仙人などと呼ばれるもので碧が道士、天使と

呼ばれるものである。ちなみに黄玉は四方守護の長など特別な役職のものを表す。

そしてその紅玉階級に属す女は、隣りに座った女に話しかけている。

「あらやだそーなの?アタシの所の秋はあれね、口数少ないし無表情なもんだからあんまり社交的じゃない

のが問題なのよねー」

此方もたいそうな美女で、冷たく光る蒼色の色香が隠る垂れ目、白大理石の様に滑らかな肌。

そして、翡翠色の長い髪を左前髪だけ額に垂らしている。そして手にはやはり紅の玉。

「へぇーそーなの?雷華んちの秋ちゃんってば。でも妹弟子の依綱ちゃんとは結構仲いーじゃん。うちの葉月

とか利心とこの破夜ちゃんなんかともー」

「ああ依綱はほらあれよーシスコンよ、べったりだもの」

「えー?依綱ちゃんクールじゃん」

「表向きはね」

「ふーん」

 

「それにしたって、あの絹亜んとこの永綺ちゃんは良い子よねー」

 

ふっとため息をもらして『雷華』が呟く。

「そーそ、なんたってあのクソバカ絹亜の手綱、ちゃんと握ってるもんねー」

『皐』と呼ばれた紫の女もどこか遠い目をして言う。

「それに、なんか永綺ちゃんってば皐んとこの葉月ちゃんとは違った意味で、すんごい綺麗だものね。どこか

儚くて壊れやすそうみたいなー・・」

「うんうん。うちの葉月は完璧女顔だからねー・・・・・あ、そーだ」

ちょっと何か思いついたらしく、皐が席を立った。

「どしたの?」

「ちょっと用事。今日中に南の架羅んとこまで行かなきゃいけないの忘れてたあははははははは」

「・・・・・・・・・・。まぁ、道中気をつけなさいよ、皐」

雷華は、薄く笑って手を振った。

 

 

 

 

「いよぅ、利心。今日は皐と一緒じゃないんだな」

琥珀のつり目に短く切りこまれた赤銅色の髪、引き締まった体格の大柄な男が声をかけたのは、『利心』という

名の白い女。

白い、という形容詞が一番当てはまる。

純白の髪、白銀の着物風の衣装、透けるように白い肌。そしてそれらは、印象的な紫綬の瞳と紅い髪結紐をいっそう

引き立てるのだった。

「絹亜さん、頬」

利心は『絹亜』の問いかけに答えずに、春のような微笑を浮かべて軽く彼の頬を撫でた。

赤く腫れている。

「・・・ああ、これな」

絹亜はちょっと気まずそうに、視線をはずした。

「えーっとな、うん・・・なんつーか」

「永綺さんに打たれたんでしょう」

利心は絹亜のハッキリしない物言いを遮って、今度は露骨に可笑しそうな含み笑いを込めて言った。

「う・・」

ずばりと見抜かれて、たじろいだ上に沈みこんでしまう絹亜。

「お見通しですよ」

くすくすとまた笑って、ツンと絹亜の鼻先をはじく。

「へぇ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか、利心?」

一瞬で復活し、利心の手を取ってそう言うあたり、それなりの単純性格なのだろう。

「おほほほほ、そーゆう性格だから永綺さんに叱られるんです」

利心は軽く振り払って神か仏のような微笑を浮かべた。

 

平和な風景。

 

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