時渡城は癒しの地。
生に傷付き、死に傷付いた者達の最後の居場所。
そして、全ての世界の母なる神がその身に抱く、転生を司りし処。
第一話『夜啼鳥』
2 絆と信頼
場所を戻し、破夜と水面。
破夜はふくれっ面で大きな瞳に涙を溜めて、水面はもう何も知らないといいたげな表情でそっぽを向いている。
「うぅぅどうしよう・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「御師匠様夕方まで帰ってこないしなぁ・・・」
落着かない様子で、破夜は手にした杓と水面をかわるがわる見つめながら呟く。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「何か言ってよぉ水面・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
「ふみぃぃぃぃぃ・・・・・・・」
まためそめそ泣き出す破夜。
『・・・・・・・・全く・・・・・・・・・・・』
「・・・ふぇ?」
『とんでもない人の下についちゃったわね』
「・・・・」
『でも、ハヤの面倒みれる式神なんてそーはいないもの』
「?」
水面は優しくほほえんだ。
『ハヤのために頑張ってあげるわ。愚痴だって聞いてあげなきゃね』
「・・・水面」
破夜は涙を拭いて、じっと水面を見つめた。
「ありがと・・・」
大樹の滴が地に落ちて、一瞬それは美しい水冠を描いた。
水冠に二人の姿が揺れた。
「あれ、葉月くん」
ぴょこっと茂みから顔を覗かせて、破夜は呟いた。
「よう。どうしたんだ?」
「別に?今から帰るところだよ」
もう当たりは薄暗く、破夜は水面を第1界・・・つまり自然界に帰して帰路についたところである。
ちなみに第2界は物質界、第3界は精神界である。
「・・・お前、目が赤い」
「えええっ!?」
ぱん、と破夜は自分の頬をたたいた。
狼狽している。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
気づかなかったのか、と少しあきれて葉月は言った。
「そこの泉で顔を洗ってけば顔の皮膚の突っ張りが少しは緩和されるんじゃないか?タオルなら貸すぞ」
「う、うん。ありがと・・・御師匠様に心配されちゃうもんね」
「・・・ほんとに利心師(さま)好きなんだな」
「葉月くんは違うの?」
「・・・・・・馬鹿師匠だからなー」
「でも好きだよね?皐師のこと」
「・・・・・・・・」
葉月は視線を宙に彷徨わせる。
「・・タオル借りてくね」
破夜もそれ以上突っ込んだことを言わずに、泉へと走っていった。
「好き、か・・・・あの師匠ねぇ・・・・・・」
一人、葉月はため息をついた。