感情は、時に枷となる。

忘却の棺に封じ込めたほうが幸せな、

古い記憶、儚く淡いきもち。

いっそ操り人形となったほうがいいのかもしれない。

けれど『光』がそうしない理由。

それ即ち、

『世界』への愛情、『剣』への愛情。

 

第三話『恋歌』

2 招かれざる客?

 

「ココが、機工士寮の私の部屋。一人部屋だから気兼ねしなくて良いのよ」

鍵を開け、葉月を中に招き入れながらオディットがにこやかに言った。

「・・あの」

「こっちがお風呂こっちがトイレ、そっちがキッチン」

「あの」

葉月の問いも聞こえないかのように・・・本当に聞こえていないのだろう、各部屋の説明をするオディット。

「寮母サンには遠縁の子だって言っておくから・・・・・」

「おいっ!」

ごうを煮やした葉月にやっと気がついて、オディットは振り返った。

「何?」

「オディット、あんた勘違いして無いか…?」

ふぅぅぅ、と葉月は長く息を吐く。

 

「俺、男なんだけど」

 

 

 

 

 

「それで、一人称は『私』にしてね。ハヅキは線が細いから、私の服も兼用できるし。なるべく女のコっぽく

振舞えば、楽勝よ」

相変わらず・・・いや、寧ろ先程より楽しそうな様子でオディットはニ脚のカップにお茶を注ぐ。

リビングに通された葉月は、テーブルの上で頭を抱えていた。

どーしてこーなるんだ、と。

「うちの寮、独身寮だから男性御法度なのよ、ごめんなさいね」

「追い出しでもすればいいじゃないか」

元々、半強制的にここまで俺を連れてきたわけだし。と葉月は呟く。

「『私』よ、ハヅキ」

お茶を口に運びながら、オディットは言う。

「いいのよ。だって楽しいじゃない?ハヅキはキレ―だから、飾りがいがあるしねv」

「そーじゃなくて・・・」

ふー、と再び葉月はため息を吐いた。

「・・襲うぞ」

「ハヅキにそーいう甲斐性はなさそうだけどね」

あっさりと切り返されて、葉月はがっくり頭をたれた。

窓の外は、もう夜の帳が降りていた。

 

 

 

 

「・・・・これ、何の格好なんだ?」

手渡された服に別室で着替えてから、怪訝そうに葉月が尋ねた。

夜は明けて、朝日が浅葱色のカーテンの隙間から差し込んで繰る時間帯。

 

「ハヅキは何色でも似合うわね。気に入らなかった?」

 

上機嫌で、オディットは問う。本人は機工士スタイルだ。

葉月の格好と言えば、緑色のハイネックの上着に、白いスラックス。

いたってシンプルなそれらは、言わずもがな女物である。

「そうそう、ハヅキ。男言葉を使っちゃダメよ。女言葉が嫌なら敬語とかそういう風に」

「質問の答えになってない・・・」

「私、あんまりスカート履かないから。ハヅキもいやでしょ?流石に」

「当然」

ふん、と鼻を鳴らして、葉月は自分の着ている服のすそをつまんで引っ張った。

オディットはにっこり微笑む。

 

「今日は私の友人達に、ハヅキをお披露目に行かなきゃね」

 

今回の葉月の受難録は、まだまだ始まったばかりである。

 

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