楽 園 都 市 の 夢 『銀砂の絆』
第三話 楽園の双月
「あれ、外からのお客さんですか」
二人が門をくぐると、その先は陽の傾きかけた長い街道風のレンガの路が続いていた。
その片隅で、小柄な可愛らしい少女に声を掛けられ二人は振り向いた。
「今日はお客さんが多いなぁ。いつもは何ヶ月も人っ子一人来やしないのに、さっきも女の子が来たし」
「女のコ?・・・もしかして、額にバンダナをした」
「そうですよ」
少女は即答した。
「ふーん・・・。ありがと」
「いいえ。・・・あぁそうそう、2人とも外から来たんですよね。泊まるなら、うちの宿にしてくださいね♪僕、織鈴って言います。
すぐそこの、『full moon』っていうトコです」
「そうさせてもらおうかな。・・・織鈴ちゃん?」
「・・・えっと、男です僕」
織鈴は決まり悪そうに言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃぁ、織鈴君」
数秒間完全に硬直してから、ソルトはおずおずと訂正した。
「なんですか?」
「君、どこにいくの」
「僕ですか?狩です、狩」
「狩ィ?あんたが?」
アレイが首を傾げた。
「はい。首長龍とか、なかなか美味しいんですよ。結構高級珍味ってかんじで」
「へぇぇ、アレ高く売れたんだね。おしいなぁ、もってくれば良かった」
「・・・随分所帯染みた王子様ね、あんた」
あたし絶対食べたくないわ、とアレイは呟いた。
それ以前に織鈴が首長龍狩りに行くってことに疑問を持とう
「ねぇねぇアレイ、君は如何して楽園都市に来ようと思ったんだい?」
双子月が天高く輝く夜、『fullmoon』のバルコニーで、夜空を眺めるアレイにソルトはそう声をかけた。
「いたの、あんた」
「まぁね」
ソルトは肩をすくめた。
「あ、そう」
アレイは別段面白くもなさそうに鼻を鳴らした。
「だからさ、アレイ。君は如何してココを目指した?」
アレイはソルトを真っ直ぐ見つめ返して、僅かに口を開いた。
「・・・―――ためよ」
夜風が、微かな音を攫っていく。
「何?聞こえないよ」
ソルトは少し笑って、アレイの口元に耳を近づけた。
「殺されるためよ」
それにも動じることなくアレイは、まるで野原に花を摘みに行くような軽い口調で言った。
「・・・アレイ?」
「あたしは今まで、殺されるために生きてきた。だから、ココを目指したの」
青白い顔
冷たい唇
乾いた言葉
それでも、静かな炎を秘める瞳
ソルトはしばらく、その不思議な瞳に見入っていた。
「・・・だから、ソルト」
アレイは深呼吸をして言葉を続けた。
「邪魔、しないで」
アレイは静かに、ソルトの頬にキスを落とした。
そのまま、バルコニーから部屋の中に戻っていく。
「・・・だめだよ、アレイ」
アレイの遠ざかる足音を聞きながら、ソルトは誰とも無く呟くように言った。
「死なせはしないさ」
一対の昏い瞳が、そんな情景を眺めていた事を知るものはいない。