楽 園 都 市 の 夢 『銀砂の絆』

第ニ話 深き森にて

 

 

「ココからは歩かないとダメね」

 

ライクを出て一週間。

アレイはサーバーンの背からひらりと飛び降りた。

「・・・空の旅もまぁ愉快だったわね」

カルバなら3ヶ月はかかる道のりである。

目の前は、壁のようにそびえる霧の渦。

 

楽園都市は、恐ろしく厚い霧の層の中に有ると言われている。

そこには、サーバーン等のシューヴァ鳥種、カルバ馬種はおろか全ての騎乗動物の中で1番勇敢とされるマルラ竜種さえ

足を踏み入れることができないのだ。

 

幻、伝説に近いほど情報が少ない楽園都市。

二人は霧の中を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん、さすがは楽園都市。こーんな古代種の魔物もいるんだね」

 

ソルトは頷きながら、目の前の巨大な首長龍の群れを見上げた。

「なに落ち着いてるのよ、さっさと突破するわよ」

アレイは言うが速いか、地面を蹴って大きく跳んだ。

 

ぐぼぅっ!

 

そのまま魔法を放ち、首長龍の群れが怯んだ隙に言葉どうりさっさと霧の向こうへ駆け出した。

その後ろに翼を広げたソルトも続く。

 

 

 

 

 

 

行く手に、今度はバルバス狼種の魔物の群れが立ちふさがった。

「・・・何でこんなにうじゃうじゃうじゃうじゃいるのよ」

「・・・さてね」

ソルトは油断無く身構えた。

その時。

 

・・・ごうん!

 

爆音と共に魔物達が吹き飛んだ。

「っ!」

「何だ!?」

爆音はアレイ達の左側の崖下から響き、爆風で二人もすっ転んだ。

「〜〜ったぃわね!」

頭を抱えて悪態をつきながらアレイが顔を上げた。

 

霧と爆煙の合間に、一つ人影がゆれた。

 

「誰・・・かしら」

アレイの小さな呟きは、爆煙に飲まれたソルトまでは届かない。

 

淡いモスグリーンの短い髪、琥珀色の瞳、白い肌。

それに、額をすっぽり隠す淡雪色のバンダナ。

 

見目14歳程度の少女が、先ほどの爆音を起こした張本人だった。

 

少女は二人を一瞥した後、足早にそこを去っていった。

 

 

 

 

「なんだっていうのよ、さっきの」

アレイは不機嫌そうに藪をかき分けながらずかずかと進んでいく。

「まぁ、楽できたし何だって良いさ。違うかい?」

「違うわよ。重要なのはあの小娘の爆風のせいであたしがもんどりうって腰を打った事じゃ な く て 、そう、なんで

あんな強大な力をさっきのコみたいなちっさい女の子が扱えるかってこと!!」

アレイは怒りながら言う。

「ふーん・・・そーゆー考え方も有ることはあるよね、うん」

ソルトが頷いたとき、藪がざわざわと鳴った。

「ん?」

 

がささささっ!

 

「・・・・・いー加減うっとおしいわねあたしの前から消えやがれ!ファイア・・っボルト!!!」

 

ドガふっ!!

 

目の前に飛び出してきた魔物を、アレイは一閃の元吹き飛ばした。

 

合掌

 

 

 

 

 

 

「やっとゴール・・・かな?」

ソルトは呟く。

「・・・そうらしいわね」

アレイが答えた。

目の前にそびえるのは巨大な城壁。

その向こうにうっすらと城だか樹のようなものが見える。

 

堀に囲まれた城壁には門があった。 

そして橋を渡った先のその門の隅に、一体の『人形』がすらりと立っていた。

 

《ようこそいらっしゃいました》

 

 女性型の『人形』は蒼い硝子玉のような目で二人を見つめて静かに言った。

 

《この門の向こうは『選択の地』となっております》

 

「『選択の地』?楽園都市ティ=クルじゃ無いのかい?」

 

《さぁ、そう呼ばれることも有ります》

 

「どぉでも良いわ、さっさとこのバカでかい扉、開いてくれないかしら」

 

《アナタ方が『選択の地』にふさわしいものの限り、この扉は自動で開きます》

 

人形は静かに告げた。

「ま、ここまで来て扉が開かなかったら、笑いものだよね」

ソルトが可笑しそうに呟いた。

「その時は扉蹴破ってでも中に入ってやるわ」

アレイはこともなげに言った。

「それもそうだね」

ソルトも笑って言う。

 

二人は扉の前に立った。

 

 

 

するりと手を伸ばして、アレイが扉の中心に据えられた七色に輝く宝玉に触れた瞬間、扉は音も無くひとりでに開いた。

 

 

 

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