『生きる』
その意味を探して
『剣』はさ迷っているのかもしれない。
『影』も、また。
第二話『神の剣』
8 戦力対比評価
「んー・・・教えてやっても構わないんだけど」
楽しげに笑う、リース。
2匹の『魔物』よりも遥かに深く、激しい。
『狂気』を内に秘めた者。
「答えな」
皐の言葉は、冷たく鋭い。鋭利な刃物のような瞳で、リースを射る。
皐がこんな声と表情をするなど、思いも寄らずただ硬直していたルートは、その考えの愚かさに気付いて自嘲した。
自分は、皐の事など何一つ知らないのだから。
「・・・なぁに、俺はただ、もう一度この世界に『戦乱』を呼んでやろうと思っただけさ」
リースの、こともなげな言葉は、続く。
「このあたりの古遺跡にゃ、むかしむかしの『魔法』の技術が眠ってる。ソイツを掘り起こして、ぶちまけてみようかって
思い付いてね。結構探すのに時間が掛かっちまうから、暇つぶしにコイツらを嗾けてみたまでさ」
「暇・・・つぶし・・・・・・だと!?」
ルートの口から零れたのは、掠れた呟き。
怒りの前に、その台詞の意味するところが信じられなかった。
「・・・ふーん。あんたにしちゃ、随分スケールのちっさい暇潰しだね?」
けれど、皐の声音は冷静だ。少なくとも、そう聞こえる。
「まぁな。けど、いいじゃねえか。別に、でけぇ街に『魔獣』を放したって構わなかったけど、『古代の遺産』を見つける
前に手前らに嗅ぎ付けられても困るしな」
「嗅ぎ付けたじゃん、現にあたしがここにいる」
アンタってほんと馬鹿だよね、と付け加えながら皐は半眼になって言い放つ。
「ああ、計算外さ。・・・残念だが、お遊戯はここまでみたいだな。『剣』に『魔物』を嗾けたところで、一瞬で八つ裂き
になるのがオチだろーし・・。ま、俺はココで退かせてもらうさ、アンタと俺が闘ってもいいけど、めんどくさいし」
「そう簡単に、逃がしてやると思ってんの?」
「絶対逃げられるって確信してなきゃ、簡単に『退く』なんて言わねぇよ?」
言うと同時に、リースは後ろに大きく跳躍し、2匹の『魔物』もそれに続く。
すると、途端に空が昏くなった。
嫌な風が吹く。
「・・っ!!ルート!あとその他大勢!さっさと退がって、あたしに手ぇ焼かせないでよ!!」
皐の鋭い叫びに、ルートと『その他大勢』として一括りに纏められた連中は、とりあえず従って森の際まで退がった。
それを見届けてから、皐はあの金細工のものを取り出した。
「何だよ、それ」
「挟時空通信機!」
「は?」
聞きなれない言葉に首を傾げるルートをさて置き、皐は挟時空通信機・・・通称スフィアの上蓋を開く。
すると今度は、球体が浮かび上がると同時に機械的な『声』が響いた。
『シャドネス・・・出現予想位置RSW:E96、S18・・・戦力評価、現状と比較し小、出現予想時刻まであと35』
「シャド・・・?」
「『闇』の呼称。言うなら世界を壊すコンピュータウィルス・・・ってここそういう技術なかったっけか。・・・あー
もうめんどくさい!とにかくいきなしぱっと現れてあたりをぶち壊す怪獣みたいなモンなのっ!!」
皐は面倒くさげにかぶりを振りながら、『出現予想位置』を睨み付ける。戦力評価は『小』。
特に邪魔が入らなければ、勝てるはずだ。
リースはとうに逃げた事に気がついたが、とりあえず放って置く事に決めた。
『戦力評価修正・・・・・・・』
「は?」
しかし突如として、スフィアから響いた声に皐は思わず間抜な声を上げた。
『シャドネス戦力評価、現状と比較して大。・・・出現予想時刻まであと10』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっそでしょー・・・」
皐は頭を抱えて、掠れた呟きをもらす。
『あと6』
「・・・・・・・あのすちゃらか機械マニア・・・判定能力の向上に努めてるとか言ってたの大嘘な訳っ!?」
『あと4』
「おい、皐・・・!?」
「あああああもう!間に合わないっぽいけど退却してーーーーーー!!!」
『あと2』
慌てて森の奥へ誘導するルートと忌々しげにのたうつ皐。
しかしスフィアは機械的に、無情のカウントを刻んでいく。
『あと1』
「あたしが足止めするから!アンタは村までダッシュでクミンちゃん連れてとっとと逃げてよねー!!」
駆け落ちじゃなくて避難だからねー!と訳の解らない叫びを上げる皐に、ルートは一瞬足を止めた。
「足止めって・・・お前!」
「いいから行ってってば!!」
『カウント、0・・・出現』
途端に。
空間が歪んだ。
現れ出たのは・・・闇。
融けたヘドロのような、闇色の躯。
例えるなら、泥を積み重ねて創った山をそのまま大きくしたような形状。
ゆうに、体長は10mを超えるかと思われる巨大なシャドネス。
紅く、淀んだ一対の丸い瞳。
「・・・・・・・・・・・・・・・おちゃらけマシンフェチ、あたしが生きて帰れたら絶対締めてやる」
皐の呟きは、シャドネスが巻き起こした淀んだ風により吹き飛んでいった。