『剣』は『光』の為に在った。
『剣』は『闇』を裂く為に在った。
それでも『剣』は・・・『魂』は、『自分』であると言えるのだろうか。
第二話『神の剣』
6 BATTLE FIELD
「・・・ど、どうだ?居るか・・・?」
小さな、微かな声。
古遺跡の隅、崩れかかった白大理石の柱の影。
ルートは目を凝らして、様子をうかがう。
「・・・・・・いや、見当たらねぇ・・・」
「じゃぁ、アイツはもう・・・?」
「くたばったんなら、良いんだけどな・・・」
「希望的観測、ってヤツか?」
昨日のクミンと同じ台詞を吐いて、ルートはもう一度遺跡の奥を覗った。
・・・アイツが、そう簡単にくたばる訳ねぇ・・・
油断無く、矢をつがえながらルートは思う。
「・・・・・・あ、あそこを見ろ!」
小さく、それでも慌てた声が男達の誰かから漏れた。
彼の指し示す先、完全に倒壊したアーチの辺りに・・・。
黒く、禍禍しい『魔物』が蹲っていた。
・・・?
それを見て、疑問の念がルートの胸を満たす。
しかし他の男達にそれが伝わるはずも無く、ぎりぎりと弓を引き絞る音が響いた。
「待っ・・・!」
ルートの、制止の声も間に合わず。
幾本もの矢は風を切り、『魔物』に向かって殺到して行った。
しゅどしゅどしゅどしゅっっっ!!
矢は、鈍い音を立てて『魔物』の背に突き刺さった。
「やったか!?」
興奮して、誰かが声をあげる。
「ぐるるっ・・・!!」
唸りをあげて、魔物がゆらりと立ちあがった。
「っ・・・!な、なんかあんまり効いてないんじゃ!?」
紅い瞳を向けられて、思わずそんな弱気な声が、誰かの口を割って零れる。
「それに・・・昨日の傷も、全然治ってるみてぇだし・・・」
「るおおおぅっ・・・!」
『魔物』は一声唸り、一歩前に踏み出した。
一瞬声を無くした男達は、慌てて二、三歩退いて『魔物』との距離を取る。
10mほどの間隔を置き、『魔物』と対峙するルート達。
下手に背を向ければ、その鋭い爪か牙の餌食になってしまうだろう。
そして、永遠とも思える無言の緊張が、最高潮に達した時。
「ぅるぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
長い、長い咆哮。
喉を震わせ、『魔物』が上げた声に男達は思わず竦み上がった。
その一瞬の、空白に。
がさささささささっ!!!
男達のすぐ脇の薮が、高く鳴る。
振り向いた一人の男の目に映ったのは、狂気の瞳と振るわれた爪だった。
「ひっ・・・!!」
間一髪、男は飛び下がった。
しかし一瞬遅く、右の二の腕から血が、舞う。
緋色の獣毛をなびかせ、爪に残った男の血を舐め取るさまと、変わらずこちらを睨み据える漆黒の『魔物』
とを見比べて、呆然と立ち尽くす他の男達。
傷口を抑えてへたり込み、男は乾いた唇から絶望の声を漏らした。
「どう、して・・・・・・『魔物』が、二匹・・・?」
ルートは、自分の『嫌な予感』が当たった事に気付く。