『光』は世界を愛した。

『闇』は世界を弄んだ。

それ故に、『光』と『闇』は争った。

その争いの中での、『光』・・・つまり『桜樹』の武器たるものが『剣』達であった。

 

第二話『神の剣』

4 花−flower−

 

「・・・ねぇ!皐さん、待って!」

既に、木の枝と葉の所為で天は昏く、零視界に近いほど茂った薮の中。

村に背を向け、森の中へ消えようとした皐を、クミンが必死に呼び止めた。

「ん、何?」

振り返った皐の顔は、もう落ち着いていた。

「・・・・・・ごめんっ、なさい・・・アナタの都合も考えないで、差し出がましいお願いを押し付けちゃって・・・」

 

「クミンちゃんが気にする事じゃないんじゃない?あたしは本当に、手伝ってあげる気は無いんだから」

 

「・・・・・・・・・」

皐の台詞に、クミンは一瞬哀しそうな顔を見せる。

「・・・ごめん、っていうのは寧ろ、あたしの台詞だよ?キミの恋人に怪我させちゃったし」

「こっ・・・!?ち、違います違います!誰があんなアホっ・・・・・・・!!」

「照れない照れない♪」

真っ赤になったクミンの額をてぃっと突ついて、皐は楽しそうに笑った。

「もぅ・・・・・・あぁ!!」

額を摩っていたクミンが、皐の衣を見て突如声を上げる。

「え。何?」

「皐さんっ、何?じゃないです!血でべたべたになってるし・・・」

クミンが引っ張る皐の衣は確かに、胸の辺りを中心にべっとりと血液で濡れていた。

「あー・・・そういえばそうだねー・・・」

「そうだね、じゃないです!」

呑気にも、まじまじと自分の衣を眺める皐にクミンが大声を上げる。

そして徐に皐の手を取ると、ぐいぐいと引っ張った。

「え?クミンちゃん?」

 

「家に、来てください!服、貸しますから!まずお風呂で体流して、この服洗って、ご飯食べて・・・」

 

言う間にも、自分を村のほうへ引きずっていくクミンに、皐は仄かに笑いを零した。

「・・・皐さん?・・・・・・・あ!ごめんなさい!またあたしってば、・・・」

「いーよ。たまにはお節介やかれるのも悪くはないし、ね♪」

 

本当のところ、その時皐の言葉と笑顔に、クミンは罪悪感を感じずにはいられなかった。

 

もしかしたら、もっときちんと頼んだら、『魔物』退治の手伝いを引き受けてくれるかもしれない。

 

そんな淡い期待と下心故に、クミンは皐の後を追ったのだから。

けれど皐は、子供のように無邪気で純粋なように見えた。

 

綺麗なひとだ。

 

それがクミンの素直な気持ちだった。

容姿だけではなく、彼女という存在自体が、綺麗なものに思えた。

 

「あたしは、汚いよ」

 

心を読まれたような気がして、またそうとしか思えないタイミングで呟かれて、クミンは驚いてぱっと皐の顔を見た。

微笑っていた。諦めたように。

 

それでも、クミンは皐が、やっぱり霞がかった記憶のなかの花のようだと思った。

 

儚げで、美しかった。

 

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