『未来(さき)』だけを直向きに追い、
『現在(いま)』を頑なに生きる『剣』。
彼らは『過去(うしろ)』を振り返り、
受け入れる事が出来ずに居る。
第二話『神の剣』
10 金糸の大鳥
ばじぃッ!
「・・・っ!」
球体の一つが、腕を掠めた。同時に走る、雷撃。
触れた部分から、体内の『気』を吸い取られたらしく、軽い眩暈が皐を襲う。
球体は一旦本体と融合し、奪った『気』を供給する。
___たりないぃぃぃぃぃ・・・・まーだーぁぁぁ・・・もっとぉっ・・・・・・!!
シャドネスは、ゆらゆらと躯を揺らしながら、長く短く、抑揚の有る声で叫びつづけた。
「ち・・・っ!」
ルートには、目の前で繰り広げられる攻防の大半は目に映らない。
しかし、膝をついた皐に気付いて矢を番えようと手を伸ばした。
効果は無いだろうと言う事は判っていた。自分と皐の身がさらに危うくなるかもしれないと言う事も理解していた。
けれど、ただ手を拱いて見ているだけなど、ルートには到底できそうに無かった。
シャドネスの片割れにねらいを定め、今まさに引き絞った弓を放とうとした、その瞬間。
「やめときな」
新たな声。
おそらく男のものであろうか。
驚いて、ルートが振り返ると。
肩口を、金の風が過ぎて行った。
「皐っ!」
鋭く名を呼ばれ、反射的に皐は声の出所を仰ぎ見た。
空。
影が、一つ。
「アウラ・・!」
影は、鳥の姿をしていた。
金に輝く、体長が人の子供程もある大鳥は、急下降しながら叫んだ。
「パスだ、受け取れ!」
その言葉が耳に届くと同時に、皐は空へ向かって片手を突き出した。
きぃぃぃぃぃぃ・・・ん・・・・・・
光と、音。
それが収まった頃の、冴えた瞳でシャドネスを睨みつける皐は、別人のようだった。
「・・・?」
何があったのか、ルートにはわからない。
ただ、上空からあの声の主らしい鳥が落としたキラキラ光る何かと、皐の右手が触れた瞬間光と音が
弾けたのだけは認識できた。
そう。
制限装置の、解除。
アウラは『桜樹の剣』とちがい、秀のように桜樹に作られた、伝達の役を担うものだ。
普段は鳥の形状をしているが、時と場合に寄れば若い男の姿にも成る。
そう。彼は、皐の危機を察した城の管理部から緊急派遣されて来たのだ。
「・・・・・さて、と」
皐の声は、落ち着いている。
「アウラのおかげでリミッターも外れた訳だし・・。思う存分今までの借りを返させて頂くとしましょーか」
皐が棒を握ったまま手を翳し、もう片方の掌を胸元に置き、不可思議な『詔』を唱えはじめる。
それと同時に、あの青い文字が空中に文字を綴りはじめた。
二匹のシャドネスを中心にして、それを囲うように文字のリボンが球体を描いていく。
シャドネスは体を捩じらせ、それから逃れようとするが、一向に叶いそうも無い。
形勢は、一転した。
そして、皐が『詔』の詠唱を終える。
「『天球抱擁(プラネットホールド)』!!」
途端に。
青い文字が弾け、空間が揺れた。