『剣』は知っている。
過去と向き合う事によって、自分が深く傷付く事を。
過去を乗り越えることは、酷く難しい事を。
それでもいつか、それが出来れば良いと、
『光』は想う。
第二話『神の剣』
11 全てが戻る時
「・・・こいつらは!」
「知り合い?」
力の波動が収まった頃、シャドネスは無に帰っていた。
まるで、最初からそんなもの存在していなかったかのように。
そしてルートが見たものは、祭壇の影に力無く横たわっている、行方不明になっていた村の知り合いだった。
「『魔物』が・・・現れる半日位前から居なくなってた奴・・・それに、『魔物』の襲撃のあった晩から居なくなってた奴だ」
「ふぅん・・・・・」
黒髪と赤毛、2人の青年は気を失っているだけらしく、ぐったりとしてはいるが息があった。
ルートは安心して、ふぅっと力を抜いた。
けれど。
「・・・ルート、あたしの話を良く聞いて」
皐の、冷静な声。
「・・・・・・村に帰ったら、こう言って。新手のへんなのは皐が倒した。そのあとに、鳴りを潜めてた二匹の魔物が襲い
掛かってきたから、倒した。倒すと魔物は溶けるようにして消えてしまった。あの紅蓮の髪の男を追って、皐は行った。
魔物の巣らしい処から、この2人を見つけて、連れ帰った・・・ってね」
「・・・そんな回りくどい事、なんでだよ?」
「・・・・・」
皐は暫し、言うべきか言わざるべきか迷うように沈黙したが、意を決したように口をひらいた。
「二匹の『魔物』の正体は・・・そのひとたちだから」
ルートは、声が出なかった。
信じられなくて、ただ皐の次の言葉を待った。
「最初に居なくなった、そっちの赤毛の人・・・そいつにリースが『魔術』を施して『魔物』に変えたんだよ。・・・自分
の手下を使うよりも、楽しいって思ったんだろーね。そのあと、手ごまが足りなくなったから2人目の、黒髪の人を
攫って二匹めの『魔物』に変えた・・・ってわけ」
皐の口調は、淡々としていた。
「・・・リースはとっとと逃げたから、『魔術』の効果が切れて元に戻ったんだと思う。『魔物』だった頃の記憶は
抜け落ちてるはずだから、大丈夫だよ」
「・・・・・・お前は、どうする気だ?それに、さっきの鳥は?」
「あたし?」
皐は意外そうに、首を傾げた。
「変なの。あたしの事より、今聞いた話について取り乱して質問するかと思ったのに」
「・・・・じゅーぶん取り乱してるよ、俺は。だから肝心な事より、どーでもいいことを聞いちまうんだ」
「そっか。・・・・・あたしは一旦、『時渡城』・・・本拠地に戻るよ。あいつらの眷族なんか腐るほどいるから、
リース一人を追うのは難しいし、鳥・・・アウラはあたしに鍵を渡したらとっとと帰っちゃったよ。あれでも
忙しいんだってさ」
皐の返答に、ルートは長く息を吐いた。
夢か、嘘のようだ。そう、思った。
突如現れ、村の長い静寂と平和を乱した、悪魔のようなもの。
そいつと同じように強大な力を操り、正体の知れぬ敵と闘う。
皐は、とてもそんな風にはみえないけれども。
まさに、世界は広い。自分の知らぬ事など、まだまだたくさんあるのだから。
遠くから、自分の名を呼ぶクミンの声が聞こえる。
「勇敢な姫君、女戦士は、居ても立ってもいられなかったみたいだね。・・ホラ、この2人担いで、クミンちゃんと
一緒に村に帰りなよ。あたしはもう、行くから」
「・・・村に寄っていかないか?多分、大歓迎だぜ」
ルートの誘いに、皐は苦笑を漏らす。
「そーしたいのはやまやまだけどね。・・・時間に厳しい司令官がいるもんで」
それじゃぁね。
その言葉と一緒に、皐の姿は霞のように消えていった。
空は、抜けるような青空だった。
end.
後書き
後半の構成がどうも危うい、時渡城シリーズ第二話『神の剣』、完結です。
これもまだまだプロローグですね。今回は敵サイド紹介でした。
・・・って、全然紹介してないし。
はっきり言って、『シャドネス』は下っ端です。
あちこちの世界にぱっと現れ、コンピュータウィルスのように侵食していくやつですが、一般に知能が低いので自分の本能
のままに動きます。また、シャドネスは世界と世界の間・・・『次元の海』の歪みから産まれます。
(次元の海は、一つ一つの世界を惑星に見たてた場合の宇宙空間に当たる部分です)
で、リースも親玉じゃないです。リミッター外した皐と同じくらいの強さなので、敵さんの中では平均的な力を持っています。
皐たち『桜樹の剣』は、今回のような感じでいろいろな世界に出向し、シャドネスを駆逐してリースのようなのを排除するのが
主な仕事です。たまに、特例も有りますが。
ルートやクミンのように、出向先の世界の住人は多分再登場しません(汗)。もう一度、オブシダンに出向指令があったら出る
かも知れませんが。
とりあえず、プロローグ第二段。『神の剣』、少しでも楽しんで頂けたのなら光栄です。