宵夢
act.7 信頼
「、いるのか」
二月に入ったばかりのまだ寒い日の正午。ヒイロはの部屋のドアを叩いた。
手には茶色の事務用封筒。
サリィに、寮に帰るついでにに届けて欲しいと頼まれたものだ。
「・・・?」
どうも様子がおかしい。
たしかに部屋の中に人の気配はするのだが、返事が全く無い。
「おい、」
どうやら鍵も開いているようだし、これで返事が無かったらちょっと悪いが入らせてもらおうとかヒイロは考えはじめた。
その時、蚊の鳴くような微かな声が耳に届いた。
「はいぃ、開いてます〜・・・」
ヒイロが嫌な予感を抱きながらドアを開けると、物凄く悪い顔色をしたが薄着のままソファにもたれ掛かるようにして
立っていた。
「どうした、」
倒れそうになったのを慌てて抱き留めて、ヒイロは尋ねた。
「・・・あの、ちょっと風邪引いちゃったみたいで・・・医務室、行ってきたんですけど・・・」
熱の所為か潤んだ瞳で、は途切れ途切れに答えた。
「馬鹿、寝ていろ」
ヒイロはそのままを抱きかかえてベットまで運んで横たえた。
「すみません・・・・・・お薬も、もらってきたんですけど・・・なんかふらふらして・・・・・」
「寝ろ、休め、話すな」
「はいぃ」
三つそろえてヒイロに言われ、素直に布団を被る。
ヒイロは冷蔵庫へ直行し、氷を取り出した。
そこら辺にかけてあったタオルを氷水で濡らし、きつく絞っての額に乗せてやる。
「ありがとうございます・・・」
は荒い息の合間に笑った。
ヒイロは無言で台所まで折り返し、コップに水を汲んでテーブルの上に放置してあった薬を持って戻ってきた。
「・・・今日の夕食は作らなくていい。寝て、治せ」
「そんな・・・大丈夫です・・・・・」
は上体を起こしかけたが、そのままふらふらとヒイロの腕の中に落ちた。
「はっきり言う。今のままで食堂に行かれると迷惑だ。死ぬほどパニックに陥るであろう奴が何人か心当たりが
あるからな」
「はぁ・・・?」
はいまいち理解していない顔でヒイロを見上げた。
「他の奴等には俺が説明しておく。、お前は薬を飲んで寝ろ」
「はい」
今度こそ観念したのか、またはベットにからだを沈めた。
「・・・水、飲めるか?」
「多分・・・」
そうは言うものの、なかなか辛そうな顔をしている。
病院に行ったほうがいいんじゃないかとさえ思わせるが、一応寮の医務室に居る医者の腕はプリベンター寮
だけあって特級だ。それに関しての心配をする必要はないだろう。
そう結論づけて、ヒイロは錠剤タイプの薬を数種類、取り出してやった。
「本当にすみません・・・」
はそれを口に放りながら、すまなさそうに言った。
ヒイロはそれには答えず、コップに組んできた冷たい水を口に含んだ。
そのままを引き寄せて、口移しで水を与える。
「・・・ヒイロ、さん」
零れて首筋を伝った水を掬い上げるヒイロの名を、引き寄せられたままのは細い声で呼んだ。
「・・・・・何だ」
「優しいですね」
「・・・黙って、そのまま寝ろ」
何処までもずれた発言をするに、ヒイロも流石に赤くなってそっぽを向いた。
時計の針は午後2時を回った。
は安らかな寝息を立てて眠っている。
ヒイロは、何度目かのタオルの交換をしてやった。
大分静まってきたのか、顔色も徐々に良くなってきたようだ。
ヒイロはほっと一息ついた。
の髪を撫でてから、そろそろ他の寮住者に知らせに行こうと立ち上がりかける。
しかし。
髪を撫でた時に、が少し唸ってヒイロが起こしてしまったかと一瞬動きを止めた隙を突いた様にして、の
桜を解いたような色をした滑らかな手がヒイロの手を握っていた。
「・・・・・・・・・」
これを振りほどくのは勿体無い。
ヒイロはそう思った。
の手はまだ熱くて、汗ばんでいて。
そしてほんのり柔らかくてなんだか心地良かった。
そのままヒイロはベットの側の椅子に座り直した。
足元でさりあが細く鳴いている。
「あれ・・・?ヒイロさん・・・」
あれから更に一時間と半分くらい過ぎてから、は目を覚ました。
「起きたか」
「あの・・・ずぅっとついててくれたんですか・・・?」
「・・・まぁな」
「ありがとうございます」
はまだあまり良くない顔色で、それでも精いっぱい微笑んだ。
「気にするな。それと・・・そろそろ俺は知らせに行こうかと思ってるんだが」
「はい?」
「・・・手を離せ」
「あ」
はいまだにヒイロの手を握っている事に気がついた。
「ごめんなさい」
珍しくが赤くなった。
風邪の所為では、無く。
「構わない。・・・それより、まだ寝てていい」
「はぁ・・・ご迷惑お掛けします」
がすまなさそうに布団に身を沈めた、その時。
「ちゃーんっv風邪引いたって聞いたけど大丈夫ー?」
ドアの向こうから、場違いに明るい声が響いてきた。
「・・・あの馬鹿が・・・・・・」
「デュオ、みたいですねぇ・・・」
「追い返す」
「いいです、大丈夫ですから・・・」
「・・・何か中でヒイロの声しませんでした?」
「マジで?」
「・・・・確かにな」
「おいこらーっ!ヒイロお前何やってんだっちゃん大丈夫かー?」
...ばぁん!
「誰が何してるって言うんだお前はっ!」
ヒイロが怒ってドアを蹴破るに等しい勢いで開ける。
案の定、ドアの外にあったのはデュオ以下見慣れたメンバーの顔が全員。
「・・・おまえら・・・・・・・」
「あっ、やっぱりヒイロ居ましたね」
カトルがにっこり笑い掛けた。
声音は優しいが実際かなり黒い。ヒイロもちょっとたじろいだ。
「・・・何処から情報仕入れてくるんだ・・・・・・」
「デュオが医務室に行ってきたからな、話を聞いてきたらしい」
「ははははは、階段からこけちまって」
「プリベンター失格だ」
五飛はふんと鼻を鳴らして突っ込んだ。
「ところでの加減はどうなんですかヒイロ」
「寝てれば治るだろう、多分」
「ふーん・・・で、ヒイロほんとに何もしてないんだろうなぁ?」
「してないと言ってるだろう、帰れ」
ヒイロはしっしっとデュオを払う。
「何てこと言うんだよヒイロぉ。折角お見舞い持ってきたんだぜ」
ほら、とデュオは花束を見せる。
「ありがとーございますぅ」
がベットから起き出してきた。
「・・・寝てろって言っただろう」
「だって、皆さん来てくれましたから」
「・・・無理はするな。顔色が悪いぞ」
「ありがとうございます、五飛。でも、もう大丈夫ですから」
「何が大丈夫だ、何が」
ヒイロは呆れてため息を吐いた。
何だかんだで皆が帰った後(デュオなどは徹夜で看ててやるとか騒いでいたが)、ヒイロも帰り支度をはじめた。
「今日は本当にありがとうございました、ヒイロさん」
は戸口まで見送りに来て言った。
「・・・ああ。、お前は粥を食ったらさっさと寝るんだぞ。・・・それにわざわざ敬称なんか付けなくて構わない」
テーブルの上には、皆でおーさわぎしながら作った白粥がある。
それを視線で示してヒイロは言った。
「ええ、ヒイロ」
「・・・何かあったら電話しろ。寮内通話の**-****、夜中でもいい」
「何から何までありがとうございます」
はにっこり笑った。
「気にするなと言ってるだろう」
「すみません」
くすくすと笑いながらは答えた。
次の日の朝。
すっかり元気になったは、お礼のお菓子を持ってヒイロの部屋を尋ねた。
「元気になったようだな」
「はい、おかげさまで。ありがとうございました」
ヒイロはそれには答えずに、の頬にキスをした。
「任務完了」
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後書き
定番風邪引きネタです〜。
そしてさり気なくちゅー(止めろこの表現)してたり・・・。
実は最後の「任務完了」を言わせたいが為にコレ書いたとか、実はGパイロット5人分全パターンの構想が練ってあった
とか、口移しでラヴラヴネタは実は漢方薬付きの五飛だったとか、そーゆー事は一切秘密ですv(いや、言ってるし)。
あとカトルはもっと黒かったとか・・・←機密事項。
しかし、ここまで来るとなんだかデュオが哀れに(苦笑)・・・。一番アタックしてるのにねぇ。
そしてヒロインちゃん、やっと恥じらいが(いや、トロワ編@でもちょっとあったけど)・・・。
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