宵夢
act.Final 探求

「そうそう、。ちょっと一緒に出かけませんか?」
が風邪から復活して4日ほど経った頃。
カトルが談話室でにこやかにに話し掛けた。
「何処にですか?」
は首を傾げた。
「ココの近くに、それは見事な寒椿が咲く所があるんです。暇だったら、一緒に見に行きましょう」
「寒椿・・・ですか。私、大好きです。喜んでご一緒させてもらいます」

は微笑んだ。
少しだけ、ぎこちなく。

「じゃぁ、皆さん誘って・・・」
「ああ、残念だけど皆任務があるらしくて・・・出払っちゃってますよ」
の先程の陰のある微笑みを少し気にしつつ、カトルは疑いようが無いくらい残念そうに言う。
実際、カトルはかなり綿密に(プリベンターの人事担当を笑顔で脅して)裏工作をしたのだが。
「そうですかぁ」
は疑いもせず呟いた。
「それじゃぁ、早速見に行きましょう」
カトルは徐に立ち上がって、に手を差し伸べた。


「わぁ・・・凄く綺麗です」
は感動を込めて呟いた。
目の前に広がるのは一面の紅椿。
「そんなに喜んでもらえて、僕も嬉しいですよ」
白い吐息で寒椿に見入っているの隣で、彼女の横顔を眺めながらカトルは笑った。
「ありがとうございます、カトル。こんな綺麗な場所に連れてきて頂いて・・・」
「いいえ。僕はの嬉しそうな顔が見れれば幸せですから」
「私の?」
は不思議そうな顔をした。
「ええ」
「・・・変なカトル」
にっこり笑っては、その一言で終わらせてしまった。


(・・・まぁ、いきなりそんな全部上手くいくとは思ってなかったけど)
帰り道。
カトルは心の中でそんな事を呟きながら、楽しそうに隣を歩くをちらりとみた。
(鈍いってことだよね、ようは)
この分じゃ皆も今まで苦労して来たんだろうなぁ、とかカトルはちょっと考えた。

すると突然、が弾かれたように顔色を変えた。

?」
カトルが尋ねるより早く、は風のように走り出した。
「アリサ!!」
は人込みを掻き分け、長い金髪の後ろ姿に追い縋る。
に腕をつかまれて驚いたその人物は振り返った。
割と見目の良い顔立ちをした細身の青年は困惑したように見える。
「あ・・・」
は悲痛そうに眉根を寄せた。
「すみません・・・人違いです」
「あ、いや、僕は別にいいんだけど」
男は、が打ちひしがれたように悲しそうな顔をするのを見て慌てたのか、別に自分は悪くないのにそれだけ
言ってそそくさと行ってしまった。
・・・」
カトルは俯いたに声をかけた。
顔を上げたは、見ていて心が痛くなってしまうような笑顔を浮かべている。
「馬鹿・・・・・・ですね、私。先程の方とアリサとは、髪の色とそれの長さしか、同じところなんて無かったのに」
涙が頬を伝った。
カトルは何も言えなくて、ただを抱きしめた。

はカトルの腕の中で、肩を震わせてしばらく泣いていた。


「ごめんなさい・・・私、取り乱してしまって」
寮に帰ってから、カトルの部屋に案内されたはすまなさそうに呟いた。
「いえ、いいんです・・・」
カトルは困ったように笑った。
「・・・は、本当にその『アリサ』さんが大切なんですね」
「・・・・」
は少し黙った。
「アリサさんのこと、聞いてもかまいませんか?」
「・・・ええ、でもどうして?」
「ちょっと、興味が湧いたもので」
−−−探し出して、を置いて失踪したこと、泣かせたことどちらも後悔させてやる。
腹中でそういう事を考えつつ、カトルは笑顔で梓を促した。


「えっ・・・と、アリサ・・・は、髪の色は金で、いつも後ろで一つに纏めてました。瞳は切れ長の二重のアイス
ブルーで、北欧系・・・だと思います。身長はゆうに180cmはあったかと」
「・・・・女性ですよね?」
カトルは思わず確認してしまった。
「はい。名字は・・・・・・知りません。・・・『自分でも知らないよ』って笑って言ってました。『私は私が誰だか
知らないけど、私はこれから私を探すから』って」
「私を探す・・・」
「・・・・すらりとした細身の身体つきで、さっぱりした感じの人で・・・強い人でした、銃火機の扱いとか、体術
とかそういうの得意で」
どんな女性[ひと]だ一体。カトルは本気で一瞬そう考えた。


「ありがとうございました、。おかげで大分参考になったし」
「参考・・・ですかぁ?」
は首を傾げた。
すっかりいつもの調子を取り戻したらしい。
「まぁ、いろいろと」
カトルは曖昧に笑った。
−−−さて、明日からデュオとか総動員して行方を調べるとしようかな。

心中の考えは一切顔に出さないあたり、最早その道のプロである。

、それと」
「なんですか?」
「泣く時は、一人で泣いていてはだめですよ。僕がいますから」
は少しの間きょとんとして、それから微笑を零した。
「はい」


「アリサ・・・・・・・・・・・絶対、生きててくれてますよね?」
数多の星が輝く夜、は白い月に向かって一人、呟いた。
手には、アリサが残していったメモ。

−−−−− 『 さ よ な ら 』

それに二人で撮った、たった一枚の写真とそれに添えられたメッセージ。

−−−−− 『 寒 終 の 月 に 二 人 、 紅 椿 の 前 で ・ ・ ・ 』


「私、待ってますから。−−−この場所で」

end.
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後書き
どうも。何だかもうドリーム小説ではなくなってしまった『宵夢』最終話をお届けしました。
正確に言うと、『管理人シリーズ第一部 - 完 - 』ってやつです。まだまだ続きます、多分。
好きなんですよ・・・この話の筋というか設定というか。
最初はギャグだったんだけどなぁ。あれよあれよという間にシリアスチックに。
しかも第一部の締めが何故かカトル様。いや、いいんですけど、カトル様(含む黒)でも。
・・・でもまさかこうなるとは。当初は絶対『ラストはデュオだよなきっと、ネタが出るし』と思っていましたが・・・。
第二部はもっとドリーム離れします(宣言)。石投げないで下さい(泣)。
自己満足作品になりつつあります・・・だってヒロイン絶対Gパイロット達よりアリサ氏に惹かれてますしね(死)。
つまり、現段階の本命はアリサ氏(死)です。

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