宵夢
act.3 感傷

時計の針が午後6時40分を差す頃、ミーティングを終えた5人はサリィに連れられて今はたいして使われない
食堂へと向っていた。
「なぁ、何処行くんだよ〜。折角ミーティング終わったらちゃんのところ行こうと思ってたのに・・・」
ふてくされたデュオが呟いた。
「まぁまぁ、デュオ。・・・・・ところで、このコースから行くと食堂に着きそうですけど、ココの食堂なんてあんまり
使われてないと思ってたんですけど」
「それ以前に俺達が入ってから開いているところを見たことがない」
カトルとヒイロがサリィに疑問をぶつけた。
「ふふふ、まぁ待ってなさいよ」
サリィが人の悪い笑みを浮かべた。
「ん?何かいい匂いが・・・」
デュオが呟いたとほぼ同じに、サリィが食堂の扉を開いた。
「あ、丁度良かったです・・・夕飯、出来上がりましたけど」
そこに居たのは、ブルーのストライプのシンプルなエプロンを着けて、味噌汁の味見をしながらにっこり笑い
かけるだった。

「・・・とまぁさんは実際管理人兼ディナー限定調理担当となった訳。ココの寮って不精者多いから夕飯
だけでもお任せしようと思ってね、どーせ貴方たちも自炊だからってたいしてろくなもん食べてないんでしょ?」

「へぇぇこれちゃん作ったのかぁ」
デュオがひょいっと煮物のジャガイモを攫うように口に運んだ。
「んっこの味付けはウマイ」
「ありがとうございます、デュオさん」
「和食か」
ヒイロは食台にならべられた料理を見て呟いた。
「これ、トウフのミソスープ(味噌汁)ですね」
「あ、お二人ともわかります?」
は嬉しそうに微笑んだ。
「・・・こっちは青菜の胡麻和えに魚の塩焼きか」
「なんだ、粉吹き芋まであるな」
「お二人とも正解です〜」
トロワと五飛に拍手を贈る
「なぁなぁちゃん、コフキイモって何?」
「えっと、ジャガイモの皮を剥いて、少し大きめに切ってから鍋で煮て、柔らかくなったら水を切って胡椒を振って
鍋に蓋をしたまま上下に振ると、粉を吹いたみたいになるんです」
「へぇ、これも美味しそうですね」

「・・・って私の話なんか聞いてないわけね」
はぁ、とサリィはため息を吐いた。


「いやぁ美味しかった美味しかった」
デュオが満杯の笑みで息を吐いた。
「そういってもらえて嬉しいです」
「・・・しかしこの寮の全員分の食事を作るとなると、ざっと30人分・・・。大分骨の折れる作業じゃないのか?」
トロワの言葉に、は優しい笑みをみせた。
「いいえ、ちっとも大変なんかじゃないです。自分の作ったものを、『美味しい』って食べてくれる人がいるのって、
とっても嬉しいんです」
は言い終えてから、少しだけ悲しそうな目をした。


「どうかしたのか?」
夜も更けたころ、誰も居ない屋上でぼんやりしている梓に声を掛けたのは五飛だった。
「月を、見ていました」
は感傷に更けっていたかのような切なそうな顔をして、五飛の方にからだを向けた。
「・・・こんな寒い夜にか?」
そんなに少し戸惑いながら、そんな素振りは見せまいと必死に冷静を装う五飛。
「五飛さんこそどうして?」
「・・・俺は、別段用事があって来たわけではないが」
実際は、夜食を買いにと外へ出た帰りに屋上に居るを見つけたからなのだが。
証拠に、薄着をしていたのために何処からか引っ張り出してきたショールを抱えている。
「そうですか」
くすくす笑いながらは言った。
「私、少し思い出していたんです。どこかに居る私の大切な人のこと」
「・・・男か」
こんな言い方しか出来ない自分を密かに怨みながら五飛は尋ねた。
「いいえ。・・・姉の様な人です。優しくて、綺麗でそして強かった人・・・」
「・・・」
「突然居なくなってしまったんです。私、終戦からすぐに地球に降りてきたんですけど・・・その人とは地球で
会ったんです。その人と一緒に暮らしてて、居なくなった日にテーブルの上に書き置きが有りました。・・・
『 さ よ な ら 』 って、それだけ」
は泣きそうな顔をした。
「もう、半年になります・・・。その人、信者でもないのに教会が好きで。あの雰囲気がいいって、よく教会に
居て・・・。だから、街々を流転しながら探してみたんですけど・・・」
冷たい夜風が、屋上に積もった粉雪を舞いあがらせた。
雪が月影に濡れて、まるで涙のように輝いて見えた。
「その人も、私の作った料理『美味しい』って誉めてくれました。お前いい嫁になれるよ、って。・・私、せめて
理由を聞きたかったんです・・・どうして、行ってしまったのか・・・私はなにかの足手まといになってしまって
いたのか・・・って」
溢れた涙を、五飛の指が掬った。
「・・・泣くな、泣いてるお前は見ていられん」
五飛はそう言うと、持っていたショールをに被せた。
「・・・・・・・ありがとうございます、五飛さん」
は暖かなショールに包って、少しだけ微笑んだ。
「風邪を引く。もう中に入れ」
五飛は少し頬を染めながら、を促した。
「はい」
「・・・それと、敬称なぞ付けなくていい」
「え?」
「五飛でいい」
「そうですか。なら、わたしのこともって呼んで下さい」
はまだ潤んでいる瞳を指で拭って、上目遣いに五飛を見て微笑んだ。
「まだ、一回も名前呼んでもらってないです」
「・・・っ」
五飛は真っ赤になって、それでも顔が赤いのは寒いせいだとか何とか強引に自分を納得させながらぼそりと
言った。
「・・・
「はい♪五飛」
の嬉しそうな返事に、ますます赤くなって視線を合わせられなくなった五飛だった。


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後書き
ヒロイン設定:料理がお上手。が追加されました(笑)さらに、ちょっと影のある過去。実は甘え上手。もプラスされて最強状態
(爆笑)に進展してきております。
デュオに引き続き五飛の書き易さ発覚(笑)。
カトル様が黒い分(おい)、五飛が純情化・・・(爆笑v)!?
そして自分でも今更ながら、『気付けば設定上真冬の一月じゃん(死)』・・・。
最初は三.四月だったんですけど、そうなるとバレンタイン通り過ぎてるような気がしないでもないのです(目的はそれかい)。
しかしそのせいで、アイスクリームと花束のネタがいまいち使えない・・・と(笑)。
さすがに真冬の公園でアイス食うバカップルはいないだろう(いたりして)・・・。

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