宵夢
act.2 追憶
ヒイロは独身寮の玄関先の庭に一人佇んでいた。
別になんて言う事もなく、することが特に無いからこうしてぼんやりしているのだ。
まぁ、それ自体かなり彼としては珍しい行動なのだが。
(そう言えば、サリィが言っていた管理人・・・来るならココを通るな)
ヒイロは通りに目を向けた。
世界情勢の裏側を飛び回るプリベンターに関わろうとする奇特な(と思っている)まだ見ぬ人間にヒイロは少しだけ
興味を覚えた。
しかしそれもすぐに胡散霧消し、また視線をさ迷わせる。
(別になんてことはない)
今日の自分の行動が少しおかしい事に気付いてヒイロは自嘲した。
(デュオの大声で頭が痛くなったせいだろう)
ムリヤリに理由をこじつけて、デュオと同じく夜勤明けの疲れた頭のせい、と強引に納得し掛けた、その時。
「あの、プリベンターの独身寮・・・って、ココでよろしいんですよね・・・?」
鈴を転がしたような、透明で綺麗な声がした。
「私、=と言います・・・。プリベンターの方ですか?」
ヒイロは言葉が出なかった。
−−−お兄ちゃん、どうしたの?迷子?
−−−私は迷子じゃないよ。メリーの散歩してるの!
(あのときの・・・!?)
ヒイロの脳裏に、あの日自分のミスで殺してしまった女の子と仔犬の影が過ぎった。
目の前のは恐らく性別以外で共通したところなどないはずなのに、一瞬あの日に自分が立ち戻っていった
と錯覚されられたのだ。
「あの・・・?」
(そんなはずはない。そんなはず無いんだ・・・)
「大丈夫ですか・・・?顔色、悪いです・・・」
心配そうにが声を掛けた。
「お前・・・」
「はい?」
「、お前何処から来た・・・?」
「私ですかぁ?」
はちょっと首を傾げた。
「L−1コロニーです」
「そう・・・か」
「どうかなさったんですか?」
「いや・・・なんでもない・・・・・」
ヒイロは目を伏せて呟くようにいった。
「・・・・」
はちょっと考えるようにしてから、右手でさらっとヒイロの髪を撫でた。
驚いたヒイロが顔を上げると、
「そんな顔、しちゃだめです」
は笑ってそう言った。
「あ・・・ああ」
ヒイロは少し動揺して、くるりと玄関の方にからだを向けた。
「独身寮はココだ」
「そうですか」
くすくすとは笑った。
「あの、お名前は」
「・・・ヒイロ=ユイ」
ヒイロはに背を向けたまま、ぼそりと応えた。
「あら・・・素敵なお名前ですね」
はヒイロに追いすがるように隣に並んで、
「これからよろしくお願いします、ヒイロさん」
天国の春陽気みたいな笑顔で言った。
ヒイロは今度こそ赤くなった。
「ちゃんじゃないかっvどーしたのこんな所で」
午後二時。
ヒイロに案内されて、談話室に入ってきたを一番に出迎えたのはもう無茶苦茶に嬉しそうな、デュオの声だった。
「が管理人だからに決まってるだろうが」
「何でお前にそんな事言われなきゃ・・・っつぅかなんでヒイロが一緒に居るんだよーっ!」
「デュオさんもプリベンターの方だったんですかぁ・・・」
ほやほやとが呟いた。
「・・・あら、さんお知り合い?」
サリィが意外そうな顔をして尋ねた。
「はい、ちょっと今朝」
「ふーん・・・」
サリィはちらりと横目でデュオの方を見た。
何やらヒイロに食って掛かっているが、当のヒイロは完全に無視している。
(なんだか面白くなりそうじゃない)
内心 か な り
わくわくしながらにやりと笑うサリィ。
密かに、カメラをズーム性能の高いものに買い替えようとか頭の隅で考えていたりする。
「今日は。貴方が新しい管理人の方ですね?」
デュオがごたごた言っている間に、カトルがにっこり微笑んでに話し掛けた。
「はい・・・。あの、はじめまして。=と申します」
「ええ、こちらこそ。僕はカトル=ラバーバ=ウィナーです」
「ほら、貴方たちもちゃんと挨拶しなさいよ」
サリィがトロワと五飛を急かす。
「トロワ=バートンだ」
「・・・張五飛」
「よろしくお願いします、トロワさん五飛さん」
はまたあの必殺スマイル(笑)で挨拶をした。
(・・・っこれはレディ・アンやノインにも教えなきゃいけないわね)
最早、込み上げてくる笑いを内に秘める事が出来なくなりつつあるサリィは、無茶苦茶珍しく頬を染めて視線を
逸らした二人に見えないようにお腹を抱えて小さく笑いを零していた。
「・・・サリィさん?」
「ごほっ・・・あっ、ごめんなさいねっさん・・・げほげほっ・・・」
「何むせてんだよ・・・・・あんた・・・」
デュオが呆れたように呟いた。
「いえいえ・・・とっところでさん。部屋、玄関の隣のところだから、他の入居者には後で紹介するわ。
悪いんだけど荷物運び入れておいてくれないかしら。それからあの件も」
「はい、わかりましたぁ」
「あっちゃん手伝おうか?」
「はいはいはいはいデュオ、みんなはこれからミーティング」
の後に付いて行こうとするデュオの襟首をつかんで引き戻すサリィ。
「大丈夫です、大きな荷物は後で届くので・・・」
くすくす笑いながらが言った。
「ちぇーっ」
デュオはサリィに引き連れられながら舌打ちした。
「ふーんだ、他の奴にちゃん紹介する必要ないのになぁ」
「そーゆー訳にはいかないでしょ?」
「でも、良いんですか?ココの寮男の人ばかりじゃないですか」
「そうそうそうそう!危ないよなァ、やっぱり俺遊び・・・いや護衛に」
「おい」
「そーゆーお前が一番危ないだろうが」
「う・・・ヒイロ、五飛そこまで言うか」
「大丈夫よ、彼女あれで強いんだから」
「・・・どういうことだか説明して欲しいな」
「いいトロワ、あと他の皆。プリベンターの人事部だって阿呆じゃないわよ。さんはああ見えても、ええとなんて
言ったかしら・・・・そう、日本式隠密術・・・なんとかかんとかの免許皆伝の腕前なんですからねv」
「・・・マジで?」
其の後のミーティングに、皆手が付かなかったのは言うまでもない。
>> next.
<< back.
後書き
管理人シリーズ(何)第二弾のお相手はヒイロ(つかパイロット全員・・・)でお贈りしましたv
・・・ところで、ノインさんはやっぱりゼクス氏と宇宙の彼方に旅立ってしまったんでしょうか。
すみません、まだ全部見てないんです(死)
1〜6巻と、エンドレスワルツしか見てないんですよう・・・。
だからですね、矛盾があってもそうあんまり気にしないで下さい(爆)。
そうそう、act.2に仮題をつけるなら「ヒロインその母性と天然っぷり発揮の巻」(何)でしょう。
<