狭霧
act.1 潜入
「、着いて来ているか」
「はい、ちゃんと居ます」
暗く、狭い場所。
慎重に消された二人分の気配があった。
ヒイロ=ユイと=。
2人とも、隠密活動時に便利な設計となっている、薄い黒無地のスーツを身に纏っている。
所持品は、必要最低限の武器類とテグスなど。それに、最新型の片目用小型暗射スコープ。
先を征くヒイロは、侵入路の下り傾斜に気がつき、手で合図する。
後ろについているがそれを見てにっこり笑い、『了解した』と合図を返す。
それを確認した後、ヒイロは摩擦音を最低限にとどめながら、傾斜を滑り降りた。
もそれに続く。
その暗く狭いダストシュートの先は、とある巨大シンジケートの中枢区−−−。
今回の任務は、その中枢区から、反乱の決定的証拠を持ち帰ること。
地球圏からMSが消え、平和が訪れたといっても、それはあくまで表立ったこと。
未だ、各方面での武力制圧の野心は絶えることがない。
密造MS等による、武力蜂起。
それを未然に防ぐのがプリベンターの仕事である。
しかし、何故が任務を任されているのか。
その理由は、プリベンター内における致命的な人員不足に在った。
無駄に飛び交う武力蜂起の怪情報、その度にプリベンターを派遣し調査。
その中にデマもまた多く、処理しても処理しても追いつかないのだ。
また、プリベンターとしての素質を兼ね備えた者の少なさも致命打撃である。
未熟な者が多かったり、危険な任務には使い物にならないような者も結構いたり。
故に。
日本式隠密術免許皆伝のが、緊急招集された臨時職員の一人に抜擢されたのである。
・・・一部からの猛反対も在ったには在ったのだが。
本人はまるでお使いでも頼まれたかのように「いいですよ〜」と二つ返事で承諾。
そして、今日がヒイロとデュオをオペレーティングメンバーに迎えての初任務であった。
「・・・緊急連絡は無し。よって、定刻通りにデュオが表で騒ぎを起こす。・・・その隙に中枢侵入だ」
「了解です〜」
相変わらず緊張感のカケラも無いの返答に、ヒイロは少し苦笑した。
その反面、小型デジタル時計のカウントも怠らない。
そして。
...どぉ・・・ん・・・・・
そうは離れていない地点で、爆音が起こる。
「始まった」
ヒイロは呟き、を促す。
は肯いて、ヒイロに続いて漆黒の通路を走り抜けた。
...カタカタタ・・・・ピピッ
微かに、電子音とキーを叩く音が響く。
ドアの外には、昏倒させられ縛り倒された警備員。
ビル25階の一画、コンピュータ制御室に辿り着いた2人は、極秘データの検索を行っていた。
「見つかりました?」
黒い画面にエンドレス表示される文字の羅列を眺めながらはヒイロに尋ねる。
「当たり前だがプロテクトが掛かっている。・・・パスワード入力か」
ヒイロはせわしなくキーを叩く。時間は無制限ではないのだから。
「・・・これも違うか。定型数字だと踏んでいたんだが」
「あ、ヒイロ。誰か来ますよ」
頭に叩き込んできたパスワード候補を次々と打ち込むヒイロに、がのほほんと声を掛ける。
響くのは、恐らく一人分の足音。
「ちっ」
「どうします?」
「・・・そこに転がってる奴に撃った弾で麻酔銃は打ち止めだ」
かしゃん、と銃のリボルバーを開きながらヒイロは呟いた。
足元に転がされている、中年の警備員を見遣っては肯いた。
そんな間にも、刻々と足音は近づいてくる。
「そろそろ表の騒ぎも収まっちゃいそうですよね。・・・了解しました、私に任せて下さい」
「何をする気だ」
ヒイロの問いに、は微笑みを返す。
そして、ドアを少し開け、外の様子を伺った。
規則的に響く足音。恐らく巡回の警備員であろう。
すぐそこまで来ている。
あと一つ、角を曲がってこられたら視界に入る。
狙うは、その瞬間。
は、そっと自分の首筋に手を触れ、隠し持っていた細く長い飛針を取り出す。
そして。
...ひゅんっ!
微かな風切り音。
瞬時にドアを開き半身を乗り出したが放った飛針は、狙い違わず角から姿を現した警備員の肩に突き刺さった。
巡回警備員は、小さな呻きを残してその場に倒れる。
は彼に歩み寄り、完全に眠りに落ちたのを確認してからドアを閉めた。
「・・・何をした?」
「強力な即効性の眠り薬を塗った飛針です。・・・当分目を覚ましませんから大丈夫ですよ」
訝しげに問うヒイロに、はにっこり笑って応えた。
それと同時に、ピピピッと短い電子音が鳴り響き、画面に『password
...OK』の表示がされた。
「・・・決定的だな。旧連合の生産プラントを利用したMSの生産状況の詳細記録だ」
かしゅん、と軽い音を立ててデータのコピーが済んだMOディスクが取り出される。
それを仕舞い、ヒイロはコンピュータの電源を落とした。
「つまり、こちら様は黒だったのですか?」
「そういう事になる。・・・どうやら当たりくじを引いたらしいな」
「良かったですね〜v」
いや、別に良くはないんだが。と言いかけてヒイロは止めた。
にとって、そんなことはどうでもいいに違いないのだから。
「ああ。・・・脱出するぞ」
...ドンドンドゥンっ!
銃声が響く。
「で、やっぱりこうなっちゃうんですね」
壁越しに警備員達と銃撃戦を繰り広げながらはまた、のほほんと呟いた。
「黒と判明した以上遠慮は要らない。手加減は無しだ」
「そうですねー」
会話する間にも、は投げ込まれた手榴弾を冷静に投げかえす。向こうはパニックだ。
少しの間の後には、爆音と爆煙と悲鳴。
その隙にさっさと2人は駆けて行く。
「、テグスはあったか」
「はい、ありますよ?強化なんとか製っていうのが」
円形のケースに収められたテグスをヒイロに手渡しながらが答える。
「デュオが車で待っている手筈だ。・・・見付かってしまった以上、20階分降りるのは手間だ、飛ぶぞ」
「はい」
ヒイロの言わんとすることを理解したは短く返事を返す。
目の前には強化ガラスが一面に張られた壁。
ヒイロは手榴弾を投げつけた。
...ドォンッ!
爆発と一緒にガラスの破片が空に舞う。
闇夜に輝く街のネオンと爆炎に照らされて、舞い散り煌く。
ヒイロは冷静に、テグスの端を爆発の所為で拉げた鉄筋に括り付けた。
引っ張ってみて外れないのを確認してから、ヒイロはを手招く。
「行くぞ」
「ええ」
時間稼ぎに、ともう一発通路の向こうに手榴弾を投げてから、を抱えてヒイロは床を蹴った。
視界に広がるのは、眠らない街並み。
落下感。
着地の瞬間は、にとって思いのほか柔らかかった。
「大丈夫か?」
地面に降り立ってから、ヒイロはの顔を覗き込む。
「ええ」
いつもと変わらぬ微笑みだった。
「怪我は」
「無いです。ヒイロは?」
「問題無い」
実際は、窓に残ったガラスで少々肩を切っているのだが、ヒイロはそれを口にしない。
けれどはあっさり見破った。
「駄目ですよ、ちゃんと言って下さい」
心なしか、は少し怒っているようにも見える。
の珍しい表情に、ヒイロは少し驚いた。
「早く、デュオと一緒に帰りましょう。傷の手当、しなきゃ駄目です」
自分の腕を引くの、凛とした横顔に。
強さを見た。
>>next.
後書き
管理人シリーズ第二弾、『狭霧+サギリ+』第一話です。
どうした私。なにかあったのか私。
アクション物ってどうよ(聞くな)。
ドリームじゃないです。非です。似非です。
まぁ、『宵夢』の方だと折角の『日本式隠密術免許皆伝』という設定がちっとも生かされてなかったので・・・・。
まぁいいかな?っと一人納得。
彼女、実は強かったんです(力説)。強いヒロインって自分、かなり萌えるんですが(は)。
とりあえず、『狭霧』ではもうちょっとアリサ氏の謎に迫ろうと思います。多分。
よって、オリキャラ増えます(断言)。アリサ氏の過去関わりの方が。
そして疑問。Gパイロット全員分の話書けるかしら(爆)。
・・・どうでしょうか。また小犬ネタ(さりあ♂)使いたいし・・・。
とりあえず、act.2ではデュオ&ヒイロと一緒にカーチェイスでv
銀のクラシックカー(ディープに改造済み)で逃げまくるプリベンターズ(ぷっ)!
追うは(古典的に)黒塗りの高級車(カーチェイスに向かねぇだろうが)!
敵の中に見知った顔を見つけて驚くヒロイン!一人ほくそ笑む謎の人物!
次回:カーチェイスでGoGo(大嘘でノリノリ)!!
<