Moon Bow−月虹−

1


「基地南東方向にガンダム発見!MS部隊追撃態勢に入ります!」
OZのMS第一部隊が展開を開始する。
目標は、五飛の操るガンダム―――。

「・・・OZの追っ手か」
五飛は冷静にナタクの操縦桿を握りなおす。
敵はMSエアリーズが6機。
「すぐに済む」
五飛は操縦桿を前に倒した。
同時にナタクがエアリーズ一機の懐に飛び込む。
狙い違わず、エアリーズの胴体を真っ二つに切り裂き他の機体に体を向けなおす。
銃撃の嵐。
そんな中的確に敵を倒していく五飛。
あっという間に5機のエアリーズが爆炎に消えた。
最後の1機。
「・・・他愛も無い」
五飛はそのエアリーズに突進を仕掛けた。
ビームソードを携えたエアリーズと2.3合渡り合い、ついにその心臓部に深々と刃を突き立てた。
しかし。

「くっ・・・やはり俺達では無理だったか・・・あとは任せたぞ!」

最後の瞬間、渾身の力を振り絞ったエアリーズは3発、ミサイルを撃ち放った。
「ちっ!」
大したダメージは受けなかったが、着弾の際生じた爆煙が一時的に五飛の視界を奪う。
その瞬間―――。
爆煙を突き破り、1機の蒼いMSがビームソードを振りかざす。
「伏兵がいたのかっ!」
五飛は舌打ちをして、辛うじてそれを受け止めた。
「・・・新型か?」
MSは見た事の無い形状をしている。
そして操縦者は、女性。
まだ15歳・・・そう、ガンダムパイロット達と同じ歳の少女だった。
名を、という。
しかし五飛にそれを知る由は無い。
「私のエアリーズ05-VX・・・いくわよ!」
はもう一度五飛に仕掛けた。
ショートタイプビームソード一対、それに空中適応タイプライフルがのエアリーズの装備だ。
「速いな・・・っ」
五飛は舞うように斬りかかるのエアリーズ05-VX・・・通称ウィンドミルをかわしながら呟いた。
機動力が他のエアリーズとは段違いに高い。
一方、どうしても五飛に避けられてしまうは一旦距離を取った。
「・・・」
は音声拡張機のスイッチを入れた。

「勝負よ、ガンダム!」

は高らかに叫ぶ。
「女だと!?」
五飛が驚愕している間に、はガンダムに追いすがるほどの高い機動力を生かし、大きく跳躍した。
「くっ・・・!」
ばちばちと嫌な音がする。
ビームソード同士が火花を散らすようにして交錯する。
五飛が大きく薙ぎ払うようにしてそれを外すと、も瞬間的に態勢を立て直しまた斬り掛かる。
しかし一瞬遅く、ウィンドミルの右腕が砕かれた。
「っ・・・!」
は衝撃に顔を歪ませた。
そのまま後頭部を強打したの意識は深く沈んでいく。
コックピットに火花が散る情景が瞼にきつく焼き付いた。

−−−ああ、私は死ぬのね。




目が覚めたらそこは、地獄ではなかった。もちろん、天国でも。
夜の闇迫る、の所属するOZ基地に近い、森の中にいた。
恐らく衝撃によってできたであろう、鈍く痛む脇腹の傷と頭には包帯が巻いてある。
「目が覚めたか」
側にいたのは、黒い髪と瞳の少年・・・五飛。
そして、背後にガンダム。
「・・・・・・・・・・・あなたが、そのガンダムのパイロットよね」
はゆっくりと言った。
「どうして私を助けたの」
「・・・女は殺さない」
「甘いのね」
は呆れて笑った。
「私は貴方の顔を見たわよ」
「目が見えるのならそうだろうな」
「私はOZの軍人よ。わかるでしょ?」
はそのアイスブルーの瞳を見開いて、言葉を続ける。
「OZの情報力を甘く見ないで。わたしが貴方の事を上に話せば貴方の素性も、なにもかもOZに筒抜けになるわよ」
「何をそんなに吠える」
五飛は静かにそう尋ねかえした。
「甘いって言っているのよ!私をどうして生かしたの!?」
「死にたかったのか?」
「敗れればそれでおわりなのよ、私は!」
は小さい頃から、パイロット・・・いや、軍人になるべく育てられてきた。
正しく言えば、強い軍人・・・兵器として利用価値が高いために生かされてきた。

戦場で敗れればそれで終わる。
勝ち続けなければ意味はない。

そう教え込まれたは吠える。
「女だからって生かすの!?馬鹿げてるわ・・・何様のつもり!?」
「ならば聞く」
五飛はその黒い瞳でまっすぐにを射た。

「お前の正義とはなんだ?」

「え・・・?」
「お前は何のために戦うのかと聞いている」
「・・・・・・・・・・・私は・・・・わたしは」
は言葉がでてこなかった。
−−−私は戦う。
−−−そう、教えられてきたから。
−−−・・・・・・・・・・でも、それ以外に何も・・・ないの。
「・・・自分を律すべき正義が無い輩など、ただのMSの附属品にすぎない」
五飛はそう言い残して、ガンダムに乗り去って行った。
は虚ろな瞳で暫くそこに佇んでいた。




は基地に戻っても、五飛の事を口にはしなかった。
ただ、ウィンドミルの爆発寸前にどうにか逃れでて来る事ができたと伝えただけだった。
敏腕パイロットであると同時に、優秀な整備士であったは表立って責められ、切り捨てられる事はなかった。
・・・どうして言わなかったのか、は自分でも良く分らなかった。
療養のために少しの休暇を貰ったは、その殆どを自分の個室でぼんやりと空を眺めて過ごしていた。
頭の中に、五飛の言葉が残っている。
自分を律すべき、正義。
「・・・私は何のために戦うのかしら」
は一人、呟いた。

−−−私は今まで、どうして戦ってきたのかしら。
−−−・・・考えてみれば、そう教え込まれてきた・・・というだけだったわね。
−−−悔しいけど、あのパイロットの言うとおりなのかもしれない。
−−−私はMSのパイロットになるためだけに生かされてきたから。
−−−・・・・・・・・・馬鹿ね、私。
−−−ガンダムのパイロットなんかに気付かされるなんて。
は五飛のまっすぐな、澄んだ瞳を思い出した。

そして、ひとつ。

たった一つ、とてもおおきな事に気が付いた。

−−−・・・ああ。
−−−そうなの・・・そう、私は。
−−−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
−−−気が付いてしまったから、私はもう。
−−−もう、道は一つしかない。
はよろよろと立ち上がると、まだおぼつかない足取りで司令室へと向かった。

>>next.

後書き
はい、五飛ちゃん(笑)ですー。
シリアス風味ですねーなんだか。
しかもまた、感情移入し難いヒロイン。どうにかしろ自分。
ちなみにMoonBowはホントにあります。写真でしか見た事無いですが。

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