永遠のヒト。+隣の居場所+
第2話 目覚めの朝、白い光と金の髪
「・・う〜っ?」
長く、優しいまどろみの中にいた。
ゆらゆらと、体が温かい水に浸されているような感覚。
安心感に満ちたそこから抜け出すのにひどく時間をかけながら、やっとは瞼を上げた。
(・・・・・・今日、何曜日だっけ・・・日曜日だったらいいな・・・・・もーちょっと・・)
起き抜けのボンヤリした頭でそんな事を考えながら、目の前に広がる白塗りの清楚な天井を見上げる。
(・・・ボクの部屋の天井って白かったっけ・・・?)
まだ、視界が定まらない。
霞掛かったようなレンズを通し、は首を傾げた。
(・・・ちーちゃんの部屋は白かったよね・・・そっか、ボクちーちゃん家にお泊まりにきてたのかな・・・・・
変な夢、見ちゃった)
自問自答しながら、は一人肯く。
(たしか、変な剣をもったゴリラみたいなのに追い掛け回されてー・・・)
そこまで考えてから、はたりとは気がついた。
やけに静かだ。
いつもの『ちーちゃん』の部屋なら、軽快なリズムの流行歌がラジオから流れて。
起きるのが遅いの為に、流しで朝ご飯を作る音がしているのに。
日の光が部屋の中に入ってくるほど明るくなっているのに、彼女がまだ寝ている訳がない。
そこではじめて、はがばっと飛び起きた。
見なれない部屋。というか、映画かなにかのなかにしか無いような、中世のお城を思わせるような部屋
の真ん中辺りに据えられた、大きな天蓋付きのベットには横たわっていた。
ここ、何処。
が呟く前に、天井から床まで届く長い白カーテンの陰から、声がした。
「体の調子は如何かな」
そちらを振り向けば、最初見回したときには気がつかなかった窓辺の藤椅子に、優雅に腰掛けて本を
片手にこちらを見ている人影に気がついた。
金髪の青年。
「・・・・・・」
一瞬、の思考が追いつかなかった。
朦朧とした表情のままのの傍に、きんいろの髪の青年が歩み寄る。
「疲れているなら、まだ横になっているといいでしょう。ただし二つ三つほど、聞きたい事があるけれど」
さらり、と小さな鈴が僅かになるような音を立てて流れる金糸を視界に入れてから、はやっと思考
能力を取り戻した。
「〜っ・・・!」
そして、両の目尻から溢れ出た涙を袖で拭った。
いきなり泣き出したに青年は戸惑う。
戸惑いながらも、小刻みに震えるの背を優しく撫ぜる。
それが一押しになり、はぐすぐす言いながらやっと言葉を紡ぎだした。
「良かっ・・・話の通じるヒトだぁ・・っ」
「は?」
「成る程。浅瀬の向こうで、オークに追われたのだね」
ベットの傍まで椅子を引いてきてそれに腰掛け、考え込むようにして青年は呟いた。
は首を傾げる。
「・・・おーく?」
「君を追ったものの呼称だよ」
「ふぅん・・」
はぼんやり、オークと呼ばれるらしい昨日のターミネーターもどきの姿を思い起こす。
オークといえば、昨今のファンタジーものに度々顔を出すモンスター役がまず思い浮かんだ。
「・・・・・・そうだ、ここ、何処?君、誰なの?」
「自己紹介が遅れたね。わたしはグロールフィンデル。この裂け谷に住むエルフだ」
「ボク、。だよ。・・・それで、グロールフィンデル。・・・裂け谷って、具体的に言うと何処なの?
・・・やっぱり、日本っていうか地球じゃないよね」
たは、と少し情けない微笑を浮かべながらは尋ねた。
「ニホン?チキュウとは、海の向こうの国かな?」
「あー、やっぱり違うんだねー・・・」
は少し顔を曇らせた。
「ボク、気がついたら森の中にいたの。一瞬前まで、多分ここじゃないところに居たハズなんだけど」
「中つ国ではないところから、やって来たと?見たところ、は人間のようだが・・・」
「っていうか、地球にはこんな見かけの人は人間しかいないんだ。こっちには、人間とか、グロールフィンデル
みたいなエルフとかが居りゅの?」
むに、と自分の頬を抓りながらは言う。痛いし喋りにくい。
「ふむ・・・どうやら君は、嘘は言っていないようだ。早急に、エルロンド卿に伺いを立てるべきだろう」
「・・・嘘ついてないけどどうしてわかるの?そんなに分かり易いかなぁ、ボク」
首を傾げるに、グロールフィンデルは微笑って言った。
「エルフの地で、エルフに問いただされて嘘を言えるものは少ないから」
「フィンデル!グロールフィンデルっ!拾って来た小猫はここ?」
「・・・・アルウェン姫、別にわたしが見つけて来たのは猫じゃ・・・」
とりあえず卿のところへ、と腰を上げかけたところに響いたノックと声に、グロールフィンデルはややげっそりした
ような声音でドアを開き、声の主を迎え入れた。
「可愛い造形のものは大抵小猫か小犬で通じるものなのよ」
「・・・・はぁ、そうですか」
優雅な、鈴を転がしたような声の、アルウェン姫と呼ばれた女性は微笑んで言う。
グロールフィンデルは、この妙なトコロでエルフらしくない姫君に対して、少しばかり投げやりだ。
しかしアルウェンは、さして気にもとめずにの傍まで歩み寄る。
「わー、綺麗なヒトっ。ねぇねぇグロールフィンデルっ、このヒト誰?」
「あら、フィンデルはもう懐かれたの?ずるいわ」
つんつんとグロールフィンデルの服の裾を引っ張るに、優しい視線を投げかけながら悪戯っぽくアルウェン
は言う。ここまで来ると或る意味グロールフィンデルはひたすら不幸だ。
「はじめまして。私はアルウェンといいます。貴女は?」
「ボク、だよ。はじめまして、アルウェンっ」
にこー、と柔らかく笑い、は差し出された滑らかな手を握った。
「そう、って言うのね。これからお父様に会いに行くんでしょう?私もついて行っていいかしら」
「全然オッケーだよっvね、グロールフィンデルっ」
無邪気な、いかにも含むモノのありそうな笑顔のアルウェンのWアタックに対して、グロールフィンデルに
抗う術はなかった。・・・合掌。
その後は2人に連れられてエルロンドの元へ赴き、成り行きを一通り説明してから中つ国の事、地球の
事、そして元居た地球という世界に戻る術について話し合っていた。
ちなみには借り受けた紙と羽ペンで、日本語でメモを取りながら中つ国の話を聞いていたのだが。
「・・・えっと、ちょっと待って」
掌を見せるに、エルロンドは一旦言葉を切った。
「・・・・・・モルドールを中つ国が最終戦争で何年前・・?」
どうやらの頭の中で、混乱という名の歪みが弾け大地震が起こり、只でさえ絡まり易い話の糸が救い
ようもなくこんがらがったらしい。変な単語もちらほら混じっている。元々難しい話は得意じゃない。
優しく微笑み、アルウェンはの頭を撫ぜながら言う。
「良いのよ、一気に全て憶えようとしなくても。大事なのは、私たちが貴女に好意を持てる事なのだから」
「ありがと、アルウェン・・・」
てしてし、と撫でられた頭の上を触りながらは微笑んだ。
「ふむ・・・しかし、残念なことだ。すまないが、私たちは・・・少なくともこの谷に住むエルフは、を元の
世界に戻す方法を知らないのだ」
「・・・うん、やっぱり・・・そう簡単には帰れないよね・・・・・」
は顔を曇らせて、少し俯いた。
「・・・・・しかし、ともかく身の安全は心配しなくとも良い。暫くの間、つまり元の世界へ戻る方法を探し出す
まで、裂け谷はを歓迎するぞ」
「お父様ならそう言うと思っていました」
花のように微笑んで、アルウェンは嬉しそうに言う。
「ボク、ここに居ていいの?」
少し驚いたように、が鸚鵡返しに問うた。
「わたし達が、途中で投げ出してしまうと思うか?」
すこし悪戯っぽく笑って、グロールフィンデルが言う。
は泣きそうな微笑みを浮かべて、飛び上がるように彼に抱き着いた。
「ありがとっ・・!」
「・・・フィンデル、ずるいわ」
「・・・・・そう言うな。アルウェン頼むから何事か画策するのは止すんだぞ」
そんな親子の会話を耳に入れたグロールフィンデルは、ちくちくと胃が痛むのを感じていた。
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後書き
壊れました。なんか壊れましたごめんなさい。
前回よりさらに病状が進行してしまいました・・・。
なんだかアルウェン様が変な人になってしまいました。
微妙にフィンデルさん不幸です。
ちなみに、この永遠のヒト。シリーズはお相手グロールフィンデル固定のシリーズです。
口調が解らないのが結構痛いデス(泣)。
映画に出てこないんだもんな・・・(遠い目)。