永遠のヒト。+隣の居場所+
第1話 追跡者といっしょ

、それじゃぁね!変なおじさんについていっちゃ駄目よ!」
「わかってるよ〜、ばいばいちーちゃんっ」
夕暮れ時の、街の一画。
交差点で互いに手を振り、別々のほうへ歩く凸凹な組み合わせのふたりの少女が居た。
いや、その片割れ・・・薄く化粧をして、背が高く、もう一人の少女を気遣うような言葉をかけたほうは、すでに成人
した大人の女のようだ。
そして、彼女を「ちーちゃん」と呼んだ背の低いほうは、まるきりの子供のよう。
これでは、「変な人についていくな」と言われても文句のひとつも言えないだろうか。
ちなみに名前を、という。
尻尾のように後ろの一部分だけ長い黒髪を揺らしながら、せわしなく変わっていく街並みの中、家路を急いでいる。
の小柄な体には少し大きめのニットのハイネック、そして対照的に脚のラインをはっきり示すジーンズ。
ショルダーバックに片手をかけ軽快な足取りで、は少し古ぼけた感の有る塀の角を、右に曲がった。
そうするとの目に飛び込んで来るのは、住み慣れた小奇麗なアパート。
で、有るはずなのに。


「・・・あれ?」


は目を瞬いた。
目の前に広がるは、ただひたすら連なる緑の木々。
果ても見えぬ原生林だった。
思わず後ろを振り返ってみても、最早あのちょっと古風な感じが気に入っていた堀の片鱗すら見当たらない、
前方と何ら変わらぬ森だけが広がっていて。
は首を傾げた。
「・・・・・・ボク、夢遊病か幻覚症状の気があったのかな?」
ありえない事を口にしてみてから、は首を振った。
「・・・ここ、どこだろう」
急に、心細さが襲って来る。
何の前触れも無しに、目の前の景色ががらりと変わってそこに一人放り込まれたのだから、どちらかというと
反応が遅いほうかもしれない。
ぎゃっぎゃっ、と嫌な鳴き声と葉擦れの音をたてて、真上の梢から数羽の鳥が飛び立った。
思わず見上げてみても、全然見覚えのない鳥ばかり。動物好きで、家の本棚に何冊も鳥獣図鑑を積み上げ
ているが言うのだから間違いなく日本近辺に生息する鳥ではないのだろう。
「だれか、いないのーっ!?」
は両手でメガホンの形を作り、叫んだ。
それに答えるのは只、木々の合間を吹き抜けていく風の音だけ。
「・・・・未開の樹海で一人野垂れ死にってのは嫌だなぁ・・・流石に」
呟いて、もう一度あたりを見回した。
「誰かー・・・」
そしてもう一度叫ぼうとし、中途なところで吐息は途切れた。
大きな薮の向こうから、こちらを覗く一対の紅い瞳と。
目が合った。
はほぼ本能的に後ずさった。
なにか、とても嫌な気配が、予感が、する。
背筋を冷たいものが伝った。

...がさり。

薮が鳴る。
ぬぅ、っとその姿を現したのは、はおろか地球上のどんな人も目撃した事がないであろうモノだった。
何というべきか、もう雪男やネッシーなんかメじゃないのではと思う。
かろうじて解るのは、ソレが「見慣れないというかそんなもんどーしてあるんだ」と現代人がツッコミを入れたく
なるような鎧を纏い剣を手にしていて、原獣生物ではないこと。
そしてその剣により、友好的な感情を持たれていないこと。
それだけで十分だったはずが。


「・・・あ、ごめんなさいおどろいていきなりだったから。ところでココってどこなの?できれば帰り道も教えて
くれると嬉しいなーなんて思ってるんだけどさすがにそれは厚かましいよね」


ひたすらフレンドリーに、はにっこり笑ってソレに尋ねた。
マトモな思考回路を持つ人間なら、「こいつバカか」とかなんとかツッコミを入れてくれそうなものだが、また
諌めてくれそうなものだが生憎『ちーちゃん』を筆頭とするそのテの人種は今此処にはいない。
ちなみに今の発言は、明るい屈折回路を持つのほんの一面である。
しかしソレにもが言ったことは通じたのだろうか。
対する人外魔郷生物(仮)も暫し思案するようにその動きを止めた。
しかし。

「オオォォオォォオオオぁぁあ!!!」

長い、大地を揺るがし空気を震わせるような咆哮をあげて、ソレは剣を振りかざした。
「え、えぇっちょっとっ!!?」
流石のも、その恐ろしいまでの怒りの染みた叫びに身を引いて、顔をひきつらせた。


「やっぱり日本語通じないのー!?」


それはそれで違う。違うのだが。
とにかくはUターンでソレに背を向け、下草を踏み分け逃走を開始した。

「オオオオオッ!!」
「やだちょっと待ってよー!!ボクも少しだけなら英語話せるしー!」
英語が通じる保証も無いが、とにかくも必死になっていた。
「ヒトってねー!脆いんだよそんなギラギラ光る剣でずばっとやったら一発お陀仏なんだよー!?」
走りながら叫んでいる為にかなり乱れた息に乗せて、は叫ぶ。
状況はすこしも変わりはしないが。
「もー、・・疲れたよぉっ!」
半分キレながらは倒れ朽ちた大木を飛び越えた。此れでも陸上部員だったから、脚に自身はある。
これだけ障害物の多い森の中で、どうにか逃げ回っていられるのもその経験の賜物だろう。
長い黒髪がそれこそ尻尾のように、右へ左へ上へ下へとの動きに合わせて背中を跳ね回っている。

と、方角も道も分らない獣道をひた走っているうちに、ぱっと目の前が開けた。

薄暗い森の中から光り溢れるところへ出たので、は思わず目の上を覆う。
さらさらと、また時にはばしゃばしゃと、楽しげに流れる水がの足元の岩を叩く。

「きれーな川・・・」

綺麗な景色に、は後ろから迫る存在も忘れ、その流れに手を浸した。いい加減息も切れている。
指の隙間を流れていくひんやりとした水の感覚が心地良い。ふー、と長く息を吐いた。
涼しげに、川の流れは唄っている。

しかしがさがさと鳴る後ろの繁みでは現実に引き戻されてしまい、慌てて流れの中の岩を伝った。

「あれ?」
川の中間当りで後ろを振り返ると、ターミネーターの如くを追い回していたソレは川の流れの前で足を
止め、いかにも悔しそうな表情でこちらを睨んでいる。
「・・・来ないの?」
思わずは首を傾げた。川はそんなに深くはない。恐らく、小柄なが身を投じても腰くらいまでしか
沈まないだろう。
しかし、ソレは動かない。
つい、もそのままの体勢で成り行きを見守っていた。
足首のあたりを、細かい水滴が濡らしていく。
そして暫しの間をぎっ睨みつけてから、ソレはくるりと背を向けて再び深い森の中に消えていった。
「・・・・・・・・なんだったんだろ、一体」
は川を渡り終え、木陰に身を投げ出して呟いた。
今気付いた事実だったが、あれだけ必死に逃げまわっていながらショルダーバックはしっかり無事だった。
はそれを抱きしめ、木の葉越しに青い空を見上げた。
「ボク、帰れるのかな・・・・」
ココが何処かも解らない。
いきなり出て来た人外魔郷生物(あくまで仮)にも追い回されて。
『話の通じるヒト』がいる場所はおろか、その存在すらも確かめられず。
ひとつの危機が去ってから、再び鎌首を持ち上げて来た不安にはちょっと泣きそうだった。
「ちーちゃん・・・りっちゃん・・・・えっちゃん・・っ・・・・」
膝を抱いて、親しい友人達の名前を呟く。
そのうちに、だんだん瞼が重くなって来た。

変わらず目前に広がる景色に愛想を尽かして、はすぅっと眠りに落ちた。


後少し、目を覚ましていたのなら。
金糸の髪を、もっと早くに目にした事だろう。

>>next.

後書き
・・・えっと、済みません(謝)。
本人は書いててえらく楽しかったのですが、なんかもう末期で駄目ですね。
やってみたかったんです、召喚(?)。放り出されて別世界。
まだ出てこない相手役(オーク・・・?/嫌)。どうする自分(聞くな)。
またもや、一癖あるドリ主になってしまいましたが。感情移入し難いキャラ・・・(一人ツッコミ/哀)。
けど、女の子で一人称がボクって萌えませんか(笑)?あたしは萌えます。