北海道旅行の2日目。今日の予定は「海線・山線めぐり」です。海線・山線とは道央圏の主要な鉄道路線である室蘭本線・函館本線を指します。両線の成り立ちについては専門書を読んでいただくとして、大雑把な紹介から。
「海線」こと室蘭本線(長万部−岩見沢・東室蘭−室蘭)は道央圏の南海岸を回り、一方「山線」こと函館本線(函館−旭川・七飯−森)は北側の山間を回ります。室蘭本線は長万部で函館本線から分かれているのですが、実際は函館〜札幌方面へのメインルートは室蘭本線で函館本線は裏街道といったところです。ちなみにここで「海線」「山線」と呼ぶのは長万部から札幌に向かう二つのルートのことで、函館−長万部の函館本線および沼ノ端−岩見沢の室蘭本線などは除外させてもらいます。
旅のはじまりは札幌駅のみどりの窓口から。今日の予定は札幌から千歳線経由で長万部までの海線体験乗車、長万部から札幌までの山線体験乗車となっています。前日にKazY先輩に教わった「一日散歩きっぷ(道央圏用)」を利用します。このきっぷは土日祝日に決まったエリア内の普通・快速列車に1日乗り放題となっています。ただ、この日は昼頃までに長万部に着きたかったため、途中の東室蘭までは特急を利用することにしました。「一日散歩〜」では一部を除いて特急には乗れないため、札幌〜東室蘭間のきっぷも合わせて購入しました。
最初に乗る列車は特急「スーパー北斗」函館行きです。在来線を走る列車の中では全国でも屈指の速度を誇ります。車両はキハ281系という、振り子式ディーゼルカー。振り子式車両とは、曲線区間を高速で走る際に乗客の感じる不快な遠心力を低減させるために、カーブの内側に車体を傾ける機構を持った車両のことです。高馬力のエンジンとこの振り子機構により高速運転を実現しているわけです。
札幌駅を出た列車はまず函館本線を東に向かい、白石から千歳線に入ります。千歳線の沿線は住宅が建ち並んでおり、近郊路線の雰囲気を漂わせている…と思ったのも束の間。いかにも北海道と感じさせる、原野や牧草地が続きます。が、しかし!車窓の変化に乏しい感じ…
そんなことを思っていたとき、ちょうど座席前のポケット部分にJR北海道の車内誌「THE JR Hokkaido」があったので読んでみました。この車内誌、飛行機の中に置いてある冊子を真似たものと思われますが、それらに比べて遜色ないというかむしろこちらの方が読み応えある良い冊子と思います。車窓よりむしろこちらにばかり目が行ってしまいました。
沼ノ端からいよいよ室蘭本線に合流して、苫小牧付近からは車窓に海が見えてきます。車窓から海が見える路線は好きなのですが、この日はあいにく曇りだったため「鉛色の海」でした。
この大きさの写真では分かりにくいですが、実はかなりブレています。さすがは北海道最速の特急と感じました。この列車の武器である振り子装置の方はと言うと、曲線区間でよく注意していないと動作を感じません。たしかに車窓から見える景色が傾いて見えるのは分かるのですが、非常に滑らかに車体を傾けるために気が付かないようです。最近の車両技術は進んでいるなぁと実感しました。
下の写真はいかにも北海道らしい、馬のいる牧場の風景です。こういう風景は日本離れしていると感じます。さすがにあっという間に流れる車窓から馬の種類まではわかりませんでした。体型を見たところ競走馬のようなんですけど…
札幌から80分足らずで東室蘭に到着です。ここから室蘭方面に乗り換える人が多いためか、「スーパー北斗」からはかなりの人が下車していました。
下車する人の多さに対して、駅周辺はなぜか人気がないというか活気のない感じです。この駅は乗り換え需要がほとんどなんでしょうか。駅前に古びた高層住宅が見えますが、こちらも生活感が感じられませんでした。あとから聞いた話によると、室蘭は製鉄の街のためこれらの住宅もそこで働く人のためのものだったということです。鉄鋼の生産量の減少で町の産業形態が様変わりした影響のようです。
スーパー北斗は特急のため利用できませんでしたが、ここ東室蘭から「一日散歩きっぷ(道央圏用)」を使用開始しました。売店に行くついでにいったん改札から出て、今度は「一日散歩きっぷ」を改札に通します。ここ東室蘭もそうでしたが北海道は自動改札化の進展が速いようです。乗り降り自由の一日散歩きっぷだと、まるで定期券感覚(券の大きさも含めて)のため改札も気楽に出入りできます。
乗り継ぎの間に、ホームから列車の写真を撮っていました。写真上は北海道で初めて導入された電車、711系です。711系も含めて、北海道で活躍する列車は冬の厳しい自然条件に耐えうる特別仕様となっています。そのため外観も本州の列車と異なっている事が多いです。711系は室蘭本線を中心に活躍しているそうですが、徐々に新型車両にその役目を譲りつつあるとのことです。
写真下はコンテナ列車です。北海道の物流を支えていると言って過言ではないでしょう。室蘭本線は特急列車が数多く運転されているだけでなく、実は貨物の大動脈なんですね。コンテナ車を牽引しているのは最新・最強のディーゼル機関車DF200です。ディーゼルエンジンで発電し、その電気でモータを回すというメカニズムが搭載されています。北海道の機関車ということで、最近になって「RED BEAR」の愛称が付けられました。
東室蘭からは普通列車に乗り換えます。列車は2両編成で、後部(写真に写ってる方)がキハ150系という割と最近造られた車両です。前部は旧式の車両(形式覚えてません)。とりあえず後部の車両に乗車しました。
以前訪れた九州でもそうなのですが、北海道でもほとんどの普通列車はワンマン運転となっているようです。この列車のような2両編成の場合は前の車両からでないと乗り降りができないため、我々のような旅行者は戸惑うことが多いです。当然のことながら地元の(と思われる)人は当たり前のように乗降しているんですけど。
東室蘭を出たあたりは巨大な石油タンクなどが目に付き、いかにも工業都市的な風景です。そんな中、美しい吊り橋が見えてきました。半島になっている室蘭市中心部に渡るための橋と思われます。工業都市と吊り橋の組み合わせは何となく関門海峡の雰囲気と似ている気がしました。
15分ほど経つと、室蘭とはうって変わってのどかな風景が広がっています。海辺の平らな土地は広大な農地となっていて、とうもろこしや稲が育っているのが見えました。
とうもろこしはどうなのか分かりませんが、この時点では米はまだ色づき始めたところといった感じでした。この日は天気も悪く田畑は暗く沈んで見えましたが、もう少し経って、稲穂が金色に輝くような状態ならばまた違った風景に見えることでしょう。
畑を過ぎると線路は海側を通ります。目の前に広がる海は内浦湾ですが、対岸がまったく見えないため太平洋のような外海だと思っていました。この時はまだ波も穏やかでした。
有珠駅に停車中に撮りました。この付近は例の噴火で長期に渡って列車が不通になっていました。最近は火山活動も収束に向かっているということですが、沿線から有珠山は直接見えないものの山と山の間からは水蒸気とも噴煙ともつかない煙が立ちのぼっていました。
修学旅行で北海道に来たときは洞爺湖温泉に宿泊したこともあったので、状況が気になっていたのですが、温泉旅館も営業を再開しつつあるという話を聞いて少し安心しました。今回は通り過ぎるだけでしたが、洞爺湖や有珠山もぜひ再訪したいと思っています。
豊浦駅で後ろ1両を切り離します。私を含めた後ろの車両の乗客は、車掌さんから前の車両に移るよう促されました。この切り離し作業のためしばらく停車していたのですが、この間に天気が変わってきたようです。 車窓から見える海が、先ほどとはうって変わって「冬の日本海」状態になっていました(もちろんこの海は日本海ではなく、内浦湾ですが)。暗い空に荒波が砕け散っている様子は9月とは思えない雰囲気でした。
東室蘭からおよそ1時間45分で長万部に着きます。この区間は特急だと1時間足らずで走り抜けて行くので、普通列車がかなりのんびりと走っていることが分かります。程なく後ろから特急「北斗8号」が来るということもあり、駅構内は多くの人がいました。
長万部で有名な駅弁「かにめし」も構内で売られていました。ちょうどお昼時ということもあり買い求める人も多かったです。もちろん私も購入しました。そもそもこの時間を狙ったかのように列車が到着しているようにも感じました(室蘭本線からの次の列車は13時、その次は15時台なので必然的にこの列車になってしまったわけですが)。
かにめしも買い終えて、次に乗る函館本線の列車を待ちます。長万部から小樽方面に向かう人は思った以上に多く、普通列車も3両編成となっていました。グループ旅行と見られる人も多くいて、特急だけでなく普通列車を利用する旅行者も多いんだなと感じました。もっともこの頃は「青春18きっぷ」が使える最後の時期だったため、それで普通列車の利用となっていたのかもしれませんが。おそらく、私のように小樽まで通しで乗るのではなく、途中のニセコ・比羅夫といったリゾートに行く人が多く含まれているのでしょう。
ちなみにこの時は空模様の関係もあり、9月の割に気温はかなり低かったです。大阪の晩秋と同じくらいといったところでしょうか。ホームで立っているときは結構きつかったです。写真では半袖の人も写っていますが、見ている方が寒くなるほどでした。
今回の行程の折り返し点に当たる長万部を出発し、復路となる「山線」こと函館本線に入ります。先ほどまでの海沿いの風景は消え、だんだん山間部に入っていくのが分かります。上の写真のように、農地も台地に囲まれたような形態となってきました。このあたりの作物が何かはちょっと分からなかったのですが、少なくとも米やとうもろこしでは無いと思われます。気候も海沿いとはいくらか違っているのでしょう。
上の写真を撮ってから1分と経たないうちに、今度は美しい川が見えてきました。車窓からでははっきり見えなかったのですが、川の水は澄んでいるように見えます。川の周辺は治水も兼ねているのか堤防が出来ていて自然の風景とは言えないのですが、都市部に流れる川のように堤防から川底までコンクリートで固めていないのが救いです。都市に住む人間から見ると十分「大自然」のように見えます。そう言えば、この川が何という名前なのか調べてませんでした。もし函館本線沿いのこの川の名前をご存じの方がいらっしゃいましたらご一報ください。
二股駅あたりで、いよいよ「かにめし」に手を付けます。7年前に北海道に来たときは、ドライブインで食したため雰囲気は今ひとつ、味の印象も薄いのですが、今回は自然の風景の溢れる函館本線の列車で食べるわけですから格別です。
気になるお味の方ですが…ちょっと塩辛いかな? ご飯の上にかかるカニは濃いめの味付けでした。駅弁とともにお茶も買っておけばよかったと後悔しました。
かにめしを食べている間、車窓は気にも留めていなかったのですがこのとき事件が発生していたのです(大げさ)。同時期に北海道へ来ていた友人のK氏がクルマで私を追っていたのです。私の乗っている2937Dを要所で先回りし、駅ホームで待っているという「鉄○DASH」張りの追跡をしていたわけです。黒松内駅から追跡されていたとのことですが、私は目名のホームで手を振る彼を見るまで事態に気がつきませんでした。
各駅に止まる普通列車と、交通量が少なく全線90km/h出せるクルマとでは(速度的には)全く勝負にならないということを実感しました。もちろん90km/hでは周りの景色を見る余裕もなかったことでしょうけど…。
この後、蘭越・昆布と続くのですが困った事態が発生。この旅行での必需品であるデジカメが電池切れに! たしかに前日から100枚くらい撮り続けていたので仕方がないです(ここで載せているのはホンの一部です。ゴミのような失敗写真が他に多数あり)。しかも予備の電池は持ち合わせていなかったのでデジカメでの撮影を中断。ここからは銀塩のカメラで撮影しました。と、いうことで小樽までの写真は未掲載です…
ところで「昆布」という駅名の由来が気になります。海藻の昆布は北海道の名産の一つですが、この駅はおおよそ昆布とは縁遠そうな山間にあるわけです。もしかしたら「こんぶ」という音の地名で、漢字は当て字なのかもしれませんね。こちらの方も識者の方にご教授願いたいところです。
昆布の次は全国的に有名なリゾート地の駅、ニセコです。片仮名だけの駅名は今でも珍しいです。当初の予想通りニセコでは多くの人が乗降し、車内は入れ替わったような雰囲気でした。その次の比羅夫も同じく有名なリゾート。こちらでも多くの人が乗ってきました。この時はホームの後ろの方にたくさんの人が待っていたのですが、例によってワンマン運転のこの列車、ドアが開くのは前の車両だけです。列車到着時、ドアが開かないのに気付いて、大勢が慌てて前の車両の方へ移動していきました。室蘭本線と違ってワンマン慣れしてない人(すなわち私のような旅行者)が多いのを実感しました。
この一帯の車窓で一番の見所は羊蹄山(蝦夷富士)なのですが、残念ながら雲が多く全貌を捉えることは出来ませんでした。いちおう写真も撮ったのですが、おそらく何が写っているのか分からないと思われます。今回のツアーの目玉となるはずだった羊蹄山なのでかなり悔しかったです。また来ないといけません。
さらに次の倶知安は割と大きい駅でした。対向列車の行き違い等で数分の停車となります。ここでもK氏が先回りしており、外から私を写真に撮っていました。停車時間の間、ホームに降りてK氏から「追跡劇」の全容を聞き、感心するやら呆れるやらでした。ここから先は道路も混んでくるだろうということで、もう列車は追わないとのことでした。
倶知安でも多くの人が乗ってきて、座席は全て埋まった状態になりました。これくらいになると、車窓を撮影するのもためらわれます。撮影しないとなると、退屈で眠くなって…
…気がつくと余市を過ぎたあたりでした。余市というと宇宙飛行士の毛利さんの出身地、であることくらいしか知りません。雑誌によるとニッカウヰスキーの工場があるということです。小樽からそれほど遠くないので観光コースに含まれているのかもしれません。
このあたりの車窓は、見覚えのあるものでした。と言うのは、列車運転シミュレーションソフト「Train Simulator JR北海道」の運転区間に含まれていたためです。初めて来た場所なのに見覚えがある(既視感とは違いますが)という、妙な感覚でした。と言ってもシミュレーションで使われた列車とは車両が違っており、速度も全然違っていたんですけど。「たしかここら辺が70km/h制限だった」とか思い出すものの、ずっと70km/h足らずの低速で走っていたために制限速度があったのか無かったのかも気になりませんでした。
車窓に建物が目立つようになってきたな、と思ったらまもなく小樽に到着しました。さすが観光地ということもあり駅はそれなりに混んでいました。とりあえず売店にて乾電池を購入し、デジカメの電池交換をしました。これで残る区間の撮影もばっちり、としたいところです。
小樽の駅舎は上野駅とよく似ているとKazY氏から言われていたのですが、実は上野駅って行ったことがあまりなく、似ているかどうかはちょっと分かりませんでした(後で調べてみたのですがたしかに似てますね。大きさは全然違いますが)。このような存在感のある駅舎はだんだん数が少なくなってきてます。新しい駅も良いのですが、風格がある駅舎は失いたくないですね。
ちなみに小樽の駅舎は従来の建物であるものの、中は新しくなっています。特に地下道やホームの風よけ(ガラス張りで、階段とホームを仕切るものです。本当は何と呼ばれているのか知らないです)は現代的ですがいい雰囲気にまとめられていました。現代文化と伝統がうまくミックスされていると感じました。
また、ホームの照明はランプ型となっています。白熱電球の暖かみのある光で、ホームは幻想的な雰囲気です。蛍光灯の光では殺風景になりがちなホームですが、見事に変身しています。個人的に白熱灯が好きなので、小樽駅は私内部ランクのかなり上位に入りました。
最後を飾るのは快速「エアポート」721系電車です。前日に乗った列車も「エアポート」でしたが、今度は純粋な快速用の車両です。座席はいわゆる「転換クロスシート」で、背もたれを前後に倒すことで向きを変えるようになっています。関西や東海の近郊電車でも見られるタイプです。しかし車内はドアとドアの間が小さな部屋のように仕切られているため、他の地域の電車と雰囲気がかなり異なっています。これは防寒対策なんですが、特急列車も同様の構造(デッキつき)となっていることも関連して、落ち着いた雰囲気にも思えます。
小樽発車時は車内は空いていたのですが、小樽築港で多くの人が乗り込みました。大型ショッピングセンター「マイカル小樽」が近くにあるためだそうです。沿線に集客力のある施設ができると人々の流れが変わるという、実例の一つですね。
小樽築港を出て5分も経つと、車窓には日本海が見えてきます。このあたり(朝里付近)は入り組んだ海岸に沿って線路が敷かれており、右・左とカーブが続いています。海岸は主に小石から成っているようで、砂浜という雰囲気ではないのですが、所々に見られる漁網(?)がこの地域の海の幸を物語ってるようにも思いました。
この辺は列車写真の好撮影地のようで、雑誌にもこの付近で撮影したと思われる写真が散見されます(この旅行記も、その手の雑誌を参考に書いてたりしますが…)
ちなみにこの列車に乗ったときは、車内の音を録ろうと必死だったために殆ど車窓を撮っていませんでした。もっとも海岸を離れると札幌都市圏に入ってしまい、それほど目を引く景観もなかったようですが。しかも、目的の録音は失敗していたし…
小樽から30分少々で札幌に到着です。停車駅も少ないため、あっという間に着いたように感じました。ホームには大勢の乗客が列をなしていて、この列車にとっては札幌から先が本領発揮なのかな、と感じました。他のホームには特急列車が何本か入線しており、こちらもかなり活気がありました。「エアポート」の隣に写っているのは特急「とかち8号(札幌止まり)」です。さらに向こうのホームには、話題の豪華寝台特急「カシオペア」も見えました。
…朝から夕方まで、およそ1日かけて回った「海線・山線めぐり」、やや疲れたものの北海道の広さをわずかながら体感できました。全体的な印象としては「海線」は直線的なルートで景色の変化が少なく、「山線」は北海道らしい大自然を見ることができるといった感じでしょうか。やはり前評判通りの評価となってしまいましたね。もともと都市間利用の多い「海線」だけでなく、点在するリゾート地を経由する「山線」も観光客にとってかなり有用な路線であるというのが、今回の発見でした。
一番残念だったのが、何度も書いているように天気のことです。こればっかりはどうしようもないことなんですが…やっぱりまた来るしかないんですね。