でんしゃのはなし

このコーナーでは、雑誌・新聞・インターネットから得た情報についてのコメントや、「そういえば昔、こんな事があったな」という話を不規則に載せていく予定です。

その4−2・続 路面電車運転体験

〜前回までのあらすじ〜

土佐電鉄が行う路面電車体験運転に当選、単身で高知市の土佐電鉄本社に乗り込んだ筆者は色とりどりの電車群に感激!
会場での手続きも終え、いよいよ車両に乗り込むのですが…

 まずは、止めてある車両に数人に分かれて乗り、体験運転で行う一連の操作・動作を練習します。
 運転台に座り、最初は圧力計(空気タンクに蓄えられている空気圧を示す)を確認します。圧力計の針が適切な圧力(赤色で示されている)であれば、動かすことが出来ます(いつでも車両を止められる用意が出来たという意味です)。
 圧力計を指差しながら確認したら「圧よし!」と喚呼。
 次に前方に危険がないか確認し、良ければ「前方オーライ!」と指差し喚呼。
 上記の確認により、発車しても差し支えない事が分かれば「発車オーライ!」と喚呼したのちに発車させます。

運転席の各機器

 発車するにはまず逆転把手(前進・切・後進を切り替えるレバー)を前に動かします。このレバーが思った以上に固くて大変です。
 次に制動把手(ブレーキシリンダの空気圧を調整するためのハンドル)を左へ回し、ブレーキを緩めます。このとき「シューッ」と音がして、空気が抜けていくのが分かります。空気の音がしなくなると、ブレーキは完全に緩んだ状態です。
 ブレーキが緩むといよいよ制御器のハンドルを回します。ハンドルの根元には目盛が振ってあり、各目盛のところでは軽く引っかかるような感触があります。この引っかかりを「ノッチ」と呼んでいて、ハンドルを回していくことを「ノッチを刻む」と呼んでいるそうです。

制御器の動き

←制御器はハンドルを右に回すことで車両が加速します。
制御器の動きを動画にしてみました。
mascon.avi 204KB


 発車の際はハンドルを一気に回してしまうのではなく、1段ずつ回すように教わりました。「ガチッ…ガチッ…ガチッ…」と、およそ1秒ごとに1段回すような感じでした。ちなみに段と段の間はゆっくり動かしてはいけないそうです。マスコン内部にある回路の接点が中途半端に接触して、スパークしてしまうとか。手早く、確実に動かす必要があるのですね。
 ハンドルを4段目まで回したところで数秒保ち、教官の「オフ!」の声に合わせてハンドルを元の「切」位置に戻します。この状態で車両は惰性で走っていることになります。

制動把手の動き

←制動把手はレバーを左右に動かすことでブレーキシリンダの空気を入れたり抜いたりします。
制動把手の動きも動画にしてみました。
brake.avi 181KB


 停止線が近づくと今度はブレーキをかけて車両を止めなければなりません。
 鉄道車両の運転の難しいことの一つは車両を止めることです。ことに、路面電車のブレーキは自動車のそれとはかけ離れた操作法になっているため、素人にとっては止めることをより難しくしています。
 制動把手を中央より右に回すとブレーキシリンダに空気が入っていきます。回している間ずっと空気が入り続け、ブレーキシリンダの圧力がどんどん高くなってしまう(強いブレーキになる)ので、適切な圧力で保つためにハンドルを中央に戻します。またブレーキが効き始めて速度が落ちると、同じ圧力でもブレーキ力はより強くなります。そのままでは乗っている人に激しい衝撃を与えてしまうので今度は制動把手を左に少し回し、ブレーキを少し緩めてやります。速度が落ちたらまた緩める…という操作を3回繰り返して完全に停止させるというのが基本だと教わりました。

 止まっている車両でこれを何度か練習したのち、実際に体験運転する車両に移ります。体験運転では、教官が動かすハンドルに手を添えた状態で1往復、その後は教官は手を触れず自分だけの操作で動かすのが2往復となっています。
いよいよ1往復目の体験です。体験者は全員乗車して、1人ずつ順に運転席に座ります。先ほど練習したとおりに安全確認、かけ声のあといよいよ発車します。

 モータ音がうなり、気持ちも高まります。少しスピードが出たなと思ったら、すぐ停止位置が近づいてきます。すると教官が素早く制動把手を動かし始めます。練習の時よりずっと素早い動きです。ブレーキシリンダに空気を込めるのはホンの一瞬(0.2〜3秒程度?)、ブレーキが効き始めたと思ったら今度は空気を抜きます。これまた1秒足らずの短い時間。空気を抜く操作を3回繰り返すうちに、車両は滑らかに停止することが出来ました。今回体験運転に使用した車両は特にブレーキの効きがよい車両とのことなので、上記のような素早い操作になったのかも知れませんが、それにしても想像以上に「小刻みに」ブレーキ操作を行われていました。

教官がブレーキに手を添える

←教官のブレーキ操作に逆らってはいけません。


 このあとの運転は自分で操作しないといけないため、1往復目でおおよその車両のクセを覚えてしまうことがポイントです。体験運転に関しては教官の操作するタイミングを身体で覚えるのがコツかも知れませんね。


 一回目の体験が終わった後は再び練習用車両に行き、先ほどの動かした感覚を忘れないようにイメージトレーニングに励みました。思っていた以上に(と言うか、ゲームと比較してですが)ブレーキが強く効くため、常に素早く動かすことを意識していました。
 とは言え止まっている車両では「減速感」が得られないため制動把手の動きとブレーキ力の関係は体得することができません。こればかりはぶっつけ本番になってしまうわけですが、教官に動かされる手首の感覚だけを頼りにしていたわけです。

 何度か練習した後に、また体験運転車両に呼ばれました。ついに自分の手で運転することができます。1回目のように教官の手が添えられることもないので、余計に緊張します。私が運転するのは2番目だったので、緊張しつつ1番目の人の運転を体験します。やはりブレーキの効き具合に苦戦していると見え、すこし急ブレーキ気味だった気がします。そうしているうちに私の番が…

 加速については何も考えなくても操作できるわけですが、ブレーキはやはり焦って操作していました。停止線がまだ遠いうちからブレーキをかけ始めると、みるみる速度が落ちていきます。このままでは停まってしまうので一回ブレーキを緩めてじわじわ停止線に近づいて…と思っていると停止線は目前に。ここで再度のブレーキ操作を慌てて行ったら「キキーッ」と音を立てた急ブレーキになってしまいました。
 この時自分は気づかなかったのですが、運転席横のミラーで見ると車両先端がちょうど停止線上にかかっている状態だったんです。ゲームで例えたら誤差3〜4センチと言ったところでしょうか。車内外から拍手をいただきました。

まぐれでピッタリ

←ゲームでもなかなかできなかった停止線ドンピシャ停車。なお停止線は体験運転のために仮設したもののようです。


 初めにしてはなかなかの出来に喜びながら、帰り(反対方向に進む)を運転。今度はブレーキを緩やかにかけることを心がけたら停止線よりかなり手前に停まってしまいました。こうして2回目の体験運転1往復が終了。

 そのまま続いてあと1往復、すなわち3往復目の運転です。ここでもブレーキを緩やかに、緩やかにとそればかり考えており、停止線より手前で減速し過ぎの状態。急停止にならないようにブレーキを小刻みに緩めたりかけたり繰り返した結果、ようやく滑らかな停止となりました。しかしこの時の停止位置はかなり手前でした。最初に聞いたように3回の緩め操作だけで停止するのは非常に難しいということを実感しました。往復ともそういう傾向で、結局3往復の体験運転は終了しました。「ブレーキの小刻みな操作が目立ったが、まぁ合格点」と教官のお言葉も頂いて、とりあえず満足です。

 自分の番が終わったあとは、車内で他の人の運転を楽しみます。インパク担当のNTTの方に色々な話を伺ったり(本当は参加者インタビューだったんですが…)しながら楽しく過ごしました。

 全員の体験運転が終わると、最後に教官の「プロの技」を拝見できることに。ブレーキは無駄のない操作で、基本通り3回の緩めでピタッと停まりました。「外の方も見てや〜」と言われて車両から降りると、これまた停止線にピタリで驚きました。やはり経験を積んだプロとアマチュア(しかも初体験)では全く違うということなんでしょうね。

運転体験証書

 体験運転が終わると最初の集合場所に戻り、一人ずつ体験証書授与が行われました。さらに記念品として路面電車の一日乗車券、Tシャツ、テレホンカード、さらに当日撮影されたデジカメプリントを頂きました。あれだけ体験した上に記念品も貰えるとは、参加費の\5,000が安く感じられるほどでした。


今回運転した電車

 ←今回運転した、1002号電車です。車体は近代的ですが、メカニズムは昔からのタイプです。土佐電鉄の電車で一番ブレーキの動作が素直?とか。



 かくして幕を閉じた私の体験運転でしたが、これは病み付きになりそうな感じです。土佐電鉄の体験運転は今年いっぱい行われるのでぜひもう一度トライ!と言う声も会場のあちこちで聞かれました。また私にとって印象的だったのは参加者同士の雰囲気が良かったこと。上手な運転には拍手喝采。失敗には笑いが起こることもありましたが、マニア向けイベントにありがちな閉鎖的な空気が感じられなかったのが良かったです。
 ちなみに、土佐電鉄での好評を受けて他の地方私鉄でも体験運転イベントが企画されているようです。その会社により運転できるのが路面電車だったり一般の(鉄道用)電車だったりと様々ですが、これらを乗り比べ(運転比べ?)してみるのも面白そうですね。電車に少しでも興味がある人はぜひ体験してもらいたいイベントだと思いました。

 一部画像は、土佐電気鐵道株式会社より頂いたビデオから引用しました。


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