でんしゃのしくみ

第4回・車両のしくみ(その3)


 前回、電車がモータを回して走るまでを紹介しましたが、今回はその逆の「止まる仕組み」を紹介します。

電車の特性

 自動車と比較した場合の電車(というか鉄軌道系)の長所として、第一に挙げられるのが「少ないエネルギーでより多くの人・モノを運べる」ことがあります。この理由は、電車が鉄でできたレールの上を同じく鉄でできた車輪によって走ることによります。ゴムタイヤで走る自動車の場合、路面と接触しているところのタイヤは若干変形します。これに対し電車の場合はレール・車輪ともゴムと比べるとずっと硬いため変形もわずかです。変形が大きいゴムタイヤは路面と広い面積で接触しますが、鉄車輪がレールと接触している面積はわずかです。

ゴムタイヤ鉄車輪

接触面積が大きいゴムタイヤでは、車輪が転がるときの摩擦力も大きくなります。摩擦抵抗で失ったエネルギーを補うためにエンジンを回して速度を維持しなければなりません。接触面積の小さい鉄車輪では、いったん車輪が転がり始めるとかなり長い間止まりません。これによってある速度まで加速したらあとは惰性で走るようにでき、加えるエネルギーも小さくて済みます。

 ところが、摩擦力が小さいということは、いざ止まろうとするときは大変です。何らかの方法で車輪の回転を止めたとしてもレールの上を滑っていってしまいます。こういう特性のため昔から電車のブレーキには様々な工夫がされて現在に至っています。

いわゆるブレーキ

 基本的な仕組みの一つに、車輪を外側から押さえつけて回転を止めるものがあります。車輪のレールと接する面(踏面:とうめんと呼ぶ)をブレーキシューという部品を押しつけるわけです<下図>。

踏面ブレーキ

 このタイプのブレーキは昔から多くの電車に用いられています。駅に止まる電車が「キィーッ」というような耳障りな音を立てるのは、車輪とブレーキシューが擦れ合っているためです。

 もう一つが、自動車やバイクにも付いている「ディスクブレーキ」です。車軸に(または車輪自体に)円盤を取り付け、この円盤をブレーキパッドで挟むことによって回転を止めます。

ディスクブレーキ

 ディスクブレーキは踏面ブレーキと比べると耳障りな音は少なく、またブレーキ力も強いです。これらのブレーキを動かすのには、主に空気圧シリンダが使われています。電車が発車するときに「プシューッ」と音がするのは、ブレーキを緩めたときに空気が抜けるためです。再びブレーキをかけるためにはまた圧縮空気を補充します。電車には圧縮空気を作るコンプレッサーが搭載されています。駅に停車したときなど、電車の床下から「ゴトゴト〜」と音が聞こえることがあると思いますが、これはコンプレッサーが動いている音です。これらを総称して「空気ブレーキ」と呼びます。

 以上2つのブレーキは車輪やディスクを摩擦力で止めるものであるため、ブレーキシューやパッドは摩耗してしまいます。頻繁にこれらの部品を取り替えるのは大変です。そこで利用されているのが次に述べる摩耗しないブレーキです。

モータはブレーキでもある

 電車にはモータが付いていて…という話は前回もしました。モータは加速のために付いているものですが、回路を切り替えることで発電機となります。前回出てきた「抵抗制御」で用いる抵抗器とモータを繋ぎ換えるわけです。下の図(左)で示すように、加速時には架線からの電流が抵抗器を経てモータを回し、その後レールへ流れていきます。ブレーキをかける時は、下図(右)のようにモータと抵抗器で回路を作ります。こうすると加速時とは逆向きの電流がモータに流れます。この電流が抵抗器にも流れて熱を発生させます。すなわち電車の走るエネルギーによってモータで発電され、そこで生まれた電力が抵抗器によって消費されていることになります。このサイクルによって電車のスピードを落とす、すなわちブレーキとなります。身近な例で言うと、自転車でライトをつけたときペダルが重くなるのも、ダイナモで生まれた電力がライトで消費されるためです。この「ペダルが重くなる」ことがブレーキと同じ働きをしているわけです。このブレーキを「発電ブレーキ」と呼びます(電気ブレーキと呼ぶこともある)。

加速時・ブレーキ時の電流の流れ方

 発電ブレーキはモータがある程度の速度で回っていないと発電作用が起こらないため、低速になると次第にブレーキ力はなくなります。これを補うために低速になると前述の空気ブレーキを働かせて電車を止めます。発電ブレーキは電力を抵抗器で消費するということは、電熱器と同じで熱を発生させているわけです。駅のホームで電車を待っていると、停車した電車とホームの間から熱気が上がってくるのを感じたことがある人もいるでしょう。あれが発電ブレーキによって発生した熱です。

ブレーキで電車を走らせる?

 発電ブレーキは熱を発生させているため「地球温暖化への影響が…」と思われるかもしれませんが、それ以前に発生した電力を使わないと勿体ないですよね。ブレーキをかけることで発生した電力を、他の電車で有効に利用できるようにしたブレーキを「回生ブレーキ」と呼びます。モータで発生する電力を、架線を通じて他の電車に送れるようにするのですが、これを実現する方法がいろいろ考えられました。電車の制御装置の発展とは、回生ブレーキの発展と言ってもいいくらいです。

回生ブレーキの概略

 詳しい仕組みは難しいので解説しませんが(作者もよく分かっていないらしい)、モータで発生した電力を制御装置によって調節し、架線よりいくらか高い電圧とすることによって、変電所とブレーキをかけた電車があたかも乾電池の並列つなぎのようになり、他の電車の動力源となるわけです。

回生ブレーキのイメージ

この仕組みによって、電車の走行に必要なエネルギーをかなり節約することができるのです。つまり、鉄車輪・鉄レールの利用でもともとエネルギー消費の少ない電車が、回生ブレーキを用いることでさらに効率が高まるということです。


☆次回は「車両の仕組み(その4)」として、「最近の電車では」を紹介する予定です。

一つ前にもどる