寛から、高屋敷家に屋根裏があることを聞いた。
 万が一の時の避難場所になるかもしれない。
 春花と一緒に上がってみた。

司「……ほう…」
春花「おー」

 意外にちゃんとした部屋になっている。
 掃除が行き届いていて綺麗だった。
 寛だろう。
 あいつ、ここを独り占めして使っていたんだ。

司「しかし、何もないな」
春花「机があるよ」

 壁際に古い文机が置かれていた。
 引き出しを適当に開けてみると、筆記用具や書類や図面などが詰め込まれていた。
 どれも机に負けず劣らず古い。
 特に興味はなかったので引き出しを閉めた。

司「ん?」

 改めて部屋を見回すと、部屋の隅に白布で包まれたカンバスがあるのに気付いた。
 手に取って見てみる。

司「……これ……」

 青葉の肖像画だった。
 幼い青葉が、にこやかに笑っている。
 他のも見てみたが、ほとんどが風景画で、人物を描いたものは青葉の肖像画だけだった。

司「勉強部屋兼アトリエだったのか」

 実直そうな人格が見て取れた。
 会ったことも、話したこともない青葉の祖父。
 出来た人物だったに違いない。
 ここに手をつけるのは良くない気がした。

司「……帰るか」

 部屋を出ようとして、隅に重ねられた本の束を発見した。
 一冊を手にとって見てみる。
 工業の本だった。
 専門書だ。
 何の気なく表紙をめくってみた。



『官能の巨匠 宮縄賢治全集別冊 巻之三』



 所詮は寛と同程度のアホだった。