ある夜。
 帰宅の遅い寛を待っていると、玄関を叩く音が聞こえた。

真純「ど、どちら様ですか?」
寛「私だ」

 真純がこわごわ声をかけると、寛のダミ声が返ってきた。
 俺が鍵を開けると、寛が倒れこむように入ってくる。

司「どうした…それ?」
寛「うむ、ちょっとな」

 満身創痍だった。
 眼鏡は半分ひび割れ、手足は擦り傷・切り傷だらけ。
 特に腹部の傷がひどく、白いはずのYシャツが真っ赤に染まっている。
 俺たちの声が聞こえたのか、青葉もやってきたが、寛の姿を見てさすがに声を失ってい
た。

真純「とにかく中へ。傷の手当てをしないと」
寛「いや、待ってくれ。その前に、どうしても言っておかねばならんことがある」

 歯を食いしばり、鋼のような目になる。
 その厳しい雰囲気に、俺たちも息をのんだ。

司「言っておくこととは、何だ? 寛」
寛「……うっ…」

 寛は何かを言おうとして、口元を手で抑え。

寛「……ぐはぁっ!」

 血を吐いた。

司「寛!」

 駆け寄ろうとする俺を手で押し止め、掌を見て言った。

寛「なんじゃこりゃあああああ!!」
司「………」
青葉「………」
真純「………」

 言うだけ言って満足したのか、ドゥと演技がかった仕草で倒れる。

司「………」
青葉「………」
真純「………」
司「………なあ。コレ、庭の隅にこのまま埋めちゃ駄目かな?」
青葉「駄目よ。土壌が汚染されるわ」
真純「燃えないゴミの日は明日よ」
司「じゃあ、今のうちからその辺に放り出しておくか」

 シビアな会話を交わす俺たちの足元で、寛がしくしく泣いていた。

寛「パパは悲しいぞ、マイファミリー…」
司「俺たちがこうなったのはあんたの影響だ」




じごうじとく【自業自得】
 自分が行ったことの報いを、自分が受けること。