末莉「おにーさん、おにーさん!」

 居間でボーッとしていると、末莉が元気良く飛び込んできた。
 いつもながら無駄に元気を消費している奴だ。

司「なんだ、末莉」
末莉「聞いて下さい。実は私は、22世紀から来た猫型ロボットなんです!」

 威勢良く言うと、ない胸を張ってみせる。

司「…猫型?」
末莉「はい、猫型」

 突っ込みたい点は多々あるが、得意満面な末莉なんて珍しいので流すことにする。

司「…はあ。んで、その猫型ロボットとやらが何しに21世紀に?」
末莉「それがですね。実はおにーさんの孫の孫、セワシくん(仮名)に頼まれたんですけ
どね」

 深刻そうに眉を顰めるが、元々のほほんとした顔立ちだけに、緊張感など微塵もなかっ
た。

末莉「おにーさんはこのままだと、貧乏街道まっしぐらなんです。ジャイ子(仮名)とい
う鬼のような女と結婚して、借金をたくさん作ってしまうんです。それで、そうならない
ように、私がきたんですっ」

 これだけの長いセリフを、末莉は一息で言い切った。
 肺活量も平均以上あるようだった。

司「貧乏街道まっしぐらか。妙にリアリティのある話だな」

 猫型云々はともかく、そこだけは現実味がある。
 ありすぎて嫌になるくらいに。

末莉「ご安心ください。私がいるからには大丈夫ですっ!」
司「具体的な解決策があるのか?」
末莉「はい。おにーさんのローリングストーン人生の一番の悪因は、ジャイ子(仮名)で
す。だからジャイ子(仮名)と結婚せず、清楚で可憐でキュートな静香ちゃん(仮名)と
結婚すればいいんですよ」

 そこまで言って、何故か末莉は頬を赤らめた。
 まあ、末莉の顔色なぞどうでもいいので気にしない。

司「静香(仮名)ねえ…。誰のことだ?」
末莉「ええ、何を隠そうそれは私…」

バシィン!!

 居間の障子が叩き付けられるように開いた。
 というか、叩き付けたんだろう。
 開けたのは青葉だったから。

青葉「面白いことを言うわね末莉。その話、私の部屋でじっくり聞かせてもらえないかし
ら?」
末莉「ひ、ひぃぃぃ?!」

 青葉は末莉をむんずと掴むと、有無を言わせずズルズル引っ張っていく。
 驚きに固まっている末莉が救難信号のアイコンタクトを送ってくるが、俺は気付かなかっ
たことにした。

青葉「言いたいことはたくさんあるのだけれど。とりあえず末莉、ジャイ子の方が静香よ
り年下だったのではなくて?」
末莉「あああ、青葉さん、(仮名)ってつけて下さいよぅぅぅぅ…」

 ドップラー効果と共に末莉の声が遠ざかっていく。
 俺はせめて、あの魔窟から末莉が生還できるよう祈ってやることにした。




 翌朝。
 台所に行ってみると、末莉がいつも通り朝食を作っていた。

司「ああ、末莉。良かった、無事だったんだな」
末莉「え、何のことですか?」

 屈託無く振り替える。
 その明るい表情に陰りはない。

司「何って、昨日青葉に…」
末莉「え、昨日何かありましたっけ?」

 末莉は真剣に悩んでいる。
 俺が何を言っているのか、本当に理解できないらしい。

司「…いや、いいんだ。変なこと言って悪かったな」
末莉「え? あ、はい」

 昨日あの後何があったのか、知ってはいけない気がする。
 俺は曖昧に笑って誤魔化すと、居間に戻った。

春花「おはよー、ツカサ!」
司「おう、おはよ…う…、春花…」

 居間には春花がいた。
 珍しくリボンをつけていたが、そのつけ方が普通じゃない。
 後頭部につけているのだが、リボンの上半分だけが前から見えるような微妙な高さだ。

司「何をしている、春花」
春花「ドラミ(仮名)」
司「ドラミ(仮名)は姉じゃなくて妹だ」
春花「問題ない」
司「ん?」
春花「中国で読んだ海賊版は姉になってた」
司「………」

 俺は何も聞かなかったことにした。