のどかな昼下がり。
 一人で留守番していた俺は、暑気しのぎに扇風機をつけた。

ぶぅぅぅぅん………。

 家と同じく年代モノだが、性能に問題はない。
 
ぶぅぅぅぅん………。
ぶぅぅぅぅん………。

 俺は何となく右を見る。

司「………」

 誰もいない。

ぶぅぅぅぅん………。

 特に意味はないが左も見る。

司「………」

 誰もいない。

ぶぅぅぅぅん………。

 全く意味はないがもう一度周りを見回す。

司「………」

 誰もいない。

ぶぅぅぅぅん………。

司「……よし」

 俺は小さく呟き、扇風機の前に陣取った。

ぶぅぅぅぅん………。
ぶぅぅぅぅん………。

司「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………」

ぶぅぅぅぅん………。
ぶぅぅぅぅん………。

司「ワレワレハ、ウチュウジンダ。チキュウヲセイフクスルタメニヤッテキタ」

ぶぅぅぅぅん………。
ドサドサドサッ!
ぶぅぅぅぅん………。

 扇風機に混じって、何かが落ちるような音が聞こえた。

司「………」

 背中に気配を感じた。
 嫌な予感を必死に打ち消しつつ、ゆっくりと振り返る。

末莉「………」

 末莉がいた。
 足元にはスーパーの買い物袋が散らばっている。

末莉「………」

 末莉は、まるで最愛の人に先立たれた未亡人のような悲しげな表情をしていた。

司「違いますよ?」

 何が違うのか自分でもわからないが、一応言ってみる。

末莉「……うっ、うっ、うっ…」

 末莉は泣き出した。
 何故泣く? 末莉よ。

青葉「…あら?」

 折り悪く青葉が帰ってきた。
 泣いている末莉を見、散らばっているスーパーの袋を見。
 そして、咎めるような視線を俺にぶつけてくる。
 ……いつもはお前が末莉を泣かせているくせに、なんでよりによって今回に限って末莉
に友好的なのかこいつは。

青葉「末莉、何があったの?」
末莉「……うっ、うっ……。……おにーさんが、おにーさんが……うう……ぐすん……」

 いつも、わんわん泣く末莉が。
 静かに、すすり泣いた──。

青葉「………」

 ってダメじゃんそれ!
 そんな状況でそんな泣き方されたら、オレの容疑決定じゃん!

青葉「……そう。よくわかったわ、末莉。もう大丈夫よ」

 どういう風の吹き回しか、青葉が末莉に労わる言葉をかけている。
 その声を聞きながら、俺は思っていた。


 家族計画は終わった。
 完膚なきまでに、終っていた──。