(5) Load Shift <荷重移動>
この辺から、上級編です。 荷重という言葉をご存知でしょうか?クルマのドラテクの中では、タイヤにかかる重力というか、重力方向に加わる力のことです。荷重変化とは、クルマが加速する。減速する。曲がるなど、何らかの力がクルマにかかっているときに起きるクルマの重心移動によって変化するタイヤへの荷重の変化のことを差します。荷重移動とは、荷重変化を意図的・意識的に利用してドライビングに利用しようとするものです。
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摩擦の図を物理的に書くとこんな風になります。これは、質量「m」を持つ物体に「F」という力を加えたときに発生する摩擦力「f」の関係です。「g」は重力加速度、「μ」は摩擦係数でよくミューと呼ばれているものです。「雨の日はミューが低いぜ。」とか言ったりしますが、これは「今日は摩擦係数が低いぜ。」といっているのと同じなんです。 f=μmgの式をちょっと説明すると、摩擦力「f」は、その物体の重さ「mg」と摩擦係数「μ」に比例して増えるということです。ただし、摩擦力「f」は、無限に大きくなるものではなく限界の大きさがあります。タイヤに置きかえると摩擦力=グリップ力であり、摩擦力の限界はタイヤのグリップ力の限界です。 |
荷重移動は、タイヤの運動性能を引き出すためのテクニックというか、考え方です。ここで、有名なタイヤの摩擦円の理論が出てきます。本当に円になっているのかどうかは知りませんが、考え方はまさにそのとおりだと思います。タイヤの摩擦円理論の図に書くとこんな感じです。
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タイヤの摩擦円理論の図で、英語ではフリクション・サークルといいます。円はタイヤのグリップ力の限界を示しています。4方向はそれぞれ、タイヤの運動方向・・・すなわち制動、加速、右旋回、左旋回です。円はタイヤのグリップ力の限界ですから円からはみ出るとタイヤの限界を超えてしまうことになり、それ以上のグリップ力が出ないということです。タイヤの摩擦力はベクトルの考え方になっていて、絶対的なグリップ力というものは方向成分も持っていて、タイヤの限界は常に一定の長さをもったベクトルとして考えられています。 一般に使われる説明では、たとえば、制動に100%タイヤのグリップを使っているケースでは、タイヤのグリップ力に余裕がないため、旋回方向のグリップ力が発生せず、結果として入り口アンダーという現象になります。また、旋回しながらの制動においては、制動方向に100%のグリップを使えませんから、まっすぐブレーキングするときよりも、旋回ブレーキングのときは制動方向においてタイヤのグリップ力が使えないということです。 |
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左図は、クルマがブレーキングして右コーナーを旋回して加速に移るときの例を書いてみたものです。
補足すると、2の位置ではブレーキングにタイヤのグリップ力をすべて使用しているので、横方向にグリップ力を発生することができません。このときにハンドルを切ると突っ込みアンダーが出るわけですね。そのため、じょじょにブレーキを緩めながら、ステアをじょじょにきっていくわけですね。勘のいい人なら、旋回制動のときなんか想像つきますよね。旋回制動で1から3に移動した場合を想定すると、3のときは2のときよりも横方向にグリップ力を使用している分ブレーキングにグリップを使えませんね。その分、限界が低いブレーキングだと意識しながらブレーキングしないと、すぐにロックしちゃいます。 |
タイヤに荷重をかけて摩擦力を大きくすると、摩擦円のグリップの限界の円は大きくなります。より大きなグリップ力を発生するということです。逆に荷重が抜けたタイヤの摩擦円は小さくなってタイヤのグリップの限界は下がります。旋回するときに必要なコーナリングフォースは切れる前のタイヤから発生するものなので、ブレーキングで前輪に移動した荷重を利用して、通常より大きなグリップ(高い限界)で曲がってやるわけなんです。
タイヤの摩擦円理論でもうひとつ言えることは・・・・・荷重移動は、ブレーキングだけで発生するものではなくてステアリングを切るだけでも発生するということです。加速、減速、旋回・・・・・慣性に対して力が働くと発生する。発生してしまうものです。たとえば、ブレーキを使わない高速コーナーではブレーキングによる前よりの荷重は利用できませんが、タイヤを切ることによって発生する左右方向の荷重移動は利用することができます。ハンドルを左に切ると荷重は当然反対の右タイヤに移動します。この右タイヤは左タイヤより、グリップ力を発生します。そしてさらにハンドルを切ることでより大きなグリップを得ることができます。つまり、高速コーナーではブレーキングして曲がるコーナーよりもハンドルはゆっくり、じょじょに切ったほうが荷重を利用した走りとなって速くなるんです。