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□オリジナル・スコア・サントラの愉しみ バーナード・ハーマン/ Bernard Herrmann(1911-75) 「タクシー・ドライバー」 「タクシー・ドライバー〜バーナード・ハーマン作品集」 バーナード・ハーマン他「ヒッチコック音楽劇場」 ミシェル・ルグラン/ Michel Legrand(1932-) 「エヴァの匂い」 伊福部昭(1914-) 「伊福部昭の芸術4 / SF交響ファンタジー」
バーナード・ハーマン / Bernard Herrmann(1911-75) 「タクシー・ドライバー」"Taxi Driver"(1976) マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演のこのあまりにも有名な映画は、エンドロールの最後にスコア作曲者バーナード・ハーマンへの献辞が添えられている。メイン・テーマである"Theme from Taxi Driver"は、アルト・サックスの甘い響きが大都会の夜の空気を存分に描き出しており、これを聞きながら夜の新宿なぞ歩こうものなら音楽だけで酔ってしまいそうになる名曲だ。この甘い響きの一方で対照的に奏でられるのが、デ・ニーロ演じるトラヴィスの狂気を描くスリラー風のスコアで、不気味な金管の咆哮と歩み寄ってくるようなティンパニの響きが不安感をそそる。この二つの印象的な曲の対象により、このスコア自体が一つの音楽作品として楽しめるものになっている。 オレとしては下に紹介する「バーナード・ハーマン作品集」におさめられているクリストファー・パルマーによる編曲版の方が、コンパクトにまとまっているしオリジナル・サントラよりも好きなのだが、オリジナル盤の方はイージー・リスニング風に明るくアレンジされたメインテーマなどがおさめられているため、この曲に入れ込んでいる人にはオイシイかも知れない。劇中のデ・ニーロのセリフ("You talk to me?"とか)が音楽に被さる"All The Animals Come Out At Night"なんていうトラックも、この映画を好きな人には嬉しいトラックだろう。 (輸入盤 米Varese Sarabande VSD-5279) 「タクシー・ドライバー〜バーナード・ハーマン作品集」 自らもハリウッドの屋台骨を支える映画音楽の巨匠エルマー・バーンスタインがロイヤル・フィルを指揮して録音したバーナード・ハーマンの映画音楽ベスト集ともいうべき盤。これは個人的にかなりのお気に入り盤である。内容を紹介しておくと、
「市民ケーン」組曲
といったもので、中にはコンラッド・サリンジャー、クリストファー・パルマーといった人々による編曲が加えられているものもあり、より音楽作品集として聴きやすい仕立ての盤になっているのだ。演奏もいいし、何と言ってもオリジナルにくらべて録音が格段にいいのが嬉しい。それにしても「知りすぎていた男」のカンタータはすごい。これは映画のクライマックス、コンサートホールで誰も気が付かぬうちに暗殺者が大使に狙いを付けるところで、コンサートの演目としてかかる曲だが、このオーケストラの指揮台に立っているのがハーマンその人である。こんなハデハデな曲が演奏されているというのに暗殺なんか誰も考えないだろうなあ、と音楽だけ聴くと思ってしまう。実にカッコいい曲だ。しかもその次のトラックが「サイコ」で、例のシャワーシーンの曲がかかるのだが、これはうってかわって音楽が殺人そのものというもので(笑)トラックの配列にも実に気が利いているなぁと思った次第。「タクシー・ドライバー」の編曲バージョン「管弦楽のための夜の調べ」はオリジナル・サントラよりもこちらの方が個人的に好みである。
バーナード・ハーマン他「ヒッチコック音楽劇場」 「映画監督と映画音楽作曲家の理想の関係」ということではハーマンとヒッチコックのコンビに比肩する程の存在はなかなかいないだろう。ハリウッド時代のヒッチコックの素晴らしいフィルムは、ハーマンの音楽がなかったらその魅力は半減してしまうだろう…とまで言われるほどに、ハーマンは「サイコ」「めまい」「北北西に進路をとれ」などのスコアで素晴らしい仕事をした。ここに他に収録されている「トパーズ」のモーリス・ジャール、「引き裂かれたカーテン」のジョン・アディスンなどのスコアにくらべて、ハーマンの曲はヒッチコック映画そのものの記憶とも言える強度でより印象的に聞こえてくる。このヒッチコック生誕100年の企画CDは、ジョン・アディスンのスコアが使われたことによって破棄された、ハーマンの書いた「引き裂かれたカーテン」のスコアが初収録されているなど、マニアにはたまらないレアなトラックが多く収録されているが、それでメチャメチャ喜ぶほどのマニアというほどでもないオレとしては、ヒッチ映画のアルバムとしても、むしろ上のハーマン作品集の方を聴くことが多かったりする。「マーニー」とか、それほど何度も聴きたい曲じゃないんだよねェ…。 (ユニバーサルビクターMVCE-24191) ミシェル・ルグラン/ Michel Legrand(1932-) 「エヴァの匂い」"Eva"(1962) 「シェルブールの雨傘」「華麗なる賭け」あたりが有名なミシェル・ルグランだが、「エヴァの匂い」をビデオで見たとき、のっけから人気のない寒々しいヴェネツィアの風景に響く強烈なジャズが気になってたまらず、その時ディスクのジャケットを見返して見た「ミシェル・ルグラン」の名が強く記憶に残ったのだった。このジョセフ・ロージー監督によるジャンヌ・モローの悪女もの映画「エヴァの匂い」は、もちろん映画そのものもすごいものなのだが、オレとしてはその強烈な印象の半分くらいはこの音楽の存在感が占めていた。 このCDは90年代のはじめにイタリアで発見されたマスター・テープから起こされたもので、30年ぶりのオリジナル・サウンドトラックということになるらしい。全16曲のうち二曲は公開当時に発売された4曲入りのEP盤からの再収録だが、それを含めて全曲通しても25分そこそこという短いサウンドトラック盤である。しかし内容は実にイイ!映画を見たときのあの「かっこいい〜〜!!」というシビレ感が再現できること間違いなし。コイツは名盤だァ〜! (SLC SLCS-7154) 伊福部昭(1914-) 「伊福部昭の芸術4 SF交響ファンタジー」 広上淳一指揮・日本フィルハーモニー交響楽団の演奏による好シリーズ「伊福部昭の芸術」のうちの一枚。伊福部昭が東宝特撮映画のために書いた映画音楽をコンサート用に編曲したのが「SF交響ファンタジー」シリーズで、これは3番まである。「ゴジラ」にはじまる特撮映画の傑作に鳴り渡る伊福部サウンドの様々な主題が色を変え形を変えして現れる。誰もがご存じの名曲「ゴジラ」テーマのあの響きもさることながら、第三番のクライマックスに来る「地球防衛軍」マーチなどはとにかく熱い!広上率いる日フィルの情熱的な演奏も、伊福部音楽の魅力をがっちり掴んでいる感じで素晴らしいの一言。さらにこの「SF交響ファンタジー」の主題を吹奏楽用に作り直し、それをフルオーケストラのためにアレンジしたのが「倭太鼓とオーケストラのためのロンド・イン・ブーレスク」だが、こちらはさらに演奏会用音楽として洗練されており、純音楽としての伊福部特撮音楽の魅力が前面に出ている佳曲だ。最近「SF交響ファンタジー」シリーズのみを収録して価格を1800円に切り下げた再リリース盤がFIREBERDレーベルから出たが、オレとしてはやはりこの「ロンド・イン・ブーレスク」が入っている旧盤の方がおすすめ。って別に口惜しくて言ってるわけじゃなくてマジで。 (FIREBIRD KICC-178) |