News Letter n.19 [初出2008.5.1;更新2008.5.1]

ニューズレター(vol.19)

Table of Contents

第19回日本ソール・ベロー協会大会のお知らせ

《プログラム》


 懇親会・『ソール・ベロー研究―人間像と生き方の探求』出版記念パーティ:6:00〜7:30 (会費−6,000円)
    会場:たかつき京都ホテル(高槻市城西町4-39、TEL:072-675-5151)


 *理事会を、12:30より開きます。

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【会員エッセイ】

「ベロー研究における実学」

橋本賢二(大阪教育大学)

 「なお、当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます。」テレビやラジオで懸賞募集などの最後に、よく耳にする言葉である。頑張って応募したのに、当選者名を知る手立てはない。その代わりに「自分が当たったのだ」とわかるように、当選者には賞品を送りますので、届かなかった人ははずれたのだと思って下さいということらしい。う〜む、どこか納得できない。しかしながら、少し考えてみれば、この表現の不可解さはすぐに氷解する。辞書によると、「発表」とは「広く世間一般に知らしめること」とある。つまり、当選者にいくら連絡をしても、それは「世の中に広く周知した」「世間一般に当選者名を公表した」ということにはなりえない。個人宅に郵便などで送ったとしても、それで当選に気づくのは、本人とせいぜい家族ほか周りの数名までのことである。穿(うが)った見方をすれば、逆に当然であるはずの「発送」さえしていない場合もあるのだろうかと訝(いぶか)しくなってきてしまう。つまり、主催者側の本心を代弁するならば、「我々は忙しいので、厳正な抽選や当選者名の発表は致しません。加えて万一発送さえされることがなくても、誰にもわからないし、迷惑はかかりません」ということのようである。元来、当選者に賞品を送付していることも、すでにサービスであるという考えも根底にあるのだろう。

 とかくこのように、世の中はますます忙しい方向へと流れていて、ゆっくりと構えていられなくなってしまった。しかしちょっと立ち止まり、日頃腑に落ちなかった言葉などに思いを巡らせながら、一息ついてみるのも悪くはない。そしてそのときに、その謎の壁を突き破れるのも、言語や文学というジャンルが生み出した思考する力のお陰である。これはまことに卑近な一例に過ぎない。アナウンサーが事あるごとに口走る上述の「お断り」は、厳格社会における責任の追及から自己を守るために生み出された「詭弁に近いレトリック」ということもできる。しかしながら、この「まやかしめいた言葉」を生み出した者もまた、言葉や文章のあり方に関する知識を、「実用に向けて」応用することができた一人の先人であったと言うことができるだろう。

 かつてあった大学の文学部・英文学科も、その多くは改編され、縮小され、名称変更され、時代に取り残されまいと必死になっている。大学で文学を教えていなくても、文学を研究し、生業(なりわい)の一部としている者にとっては、少々肩身の狭い時代にはなってきた。20世紀は科学が世界の宗教にまで成長した時代だった。それまでは、物の音や人の声を保存し再生することなど絵空ごとだった。ましてや実物そっくりに写し取られた人や物の姿に動きが加えられていくことなど、前世紀の人々にとって想像だにできなかったことだろう。映画の発達、電話の発明に加え、ラジオ放送やテレビ放送が始まったことにより、それまで活字や書物により担われていた知識や情報の伝播という社会的使命は、大きく分散された。さらに世紀末の携帯電話やインターネットの登場と発達に伴い、世界はなお一層縮小し、せわしなさを増大させ続けている。

 家庭電化製品の進歩に助けられ、人々は自由時間を多く獲得したはずであるにもかかわらず、ゆっくりと腰を落ち着けて本を読むということをしなくなってきている。ラジオもテレビもTVゲームもない時代にはたっぷりとあった読書時間も、今では電話やメールで寸断され、読者は思い出した至急の雑用に何度も腰を上げなければならない。ポー(1809-49)の時代には1-2時間あった「一回座っている時間」も、今では30分以下になっているのではないだろうか。人々の興味の対象の幅が広がり、それを満たす手段が増えて、各人が各様の関心事を持ち、電車に乗ったとたんにメールをチェックせずにはおれないような忙しさを不自由と感じなくなってしまった現代において、ゆっくりと書物を広げ、それらを味わいつくすという醍醐味は、もはや贅沢のうちに数えられるものになったのかもしれない。

 しかし、嘆いてばかりもいられない。グローバル・スタンダードという名の下に、世界基準のアメリカ化が進み、世界がひとつの国家となる方向へと進んでいる今、学問も当然のこととして、資本主義の洗礼を受け、「社会にとって有益か無益か」と、経済学にあてはめて評価する波に飲み込まれつつある。売れない研究書への助成金が採択されなくなる傾向は、やがて全世界に広まっていくだろう。

 文学に金儲けは関係ない、心を育てる学問だと主張してみても、背に腹は代えられない現実が待っているかもしれない。書店、出版社が軒並み消えていき、全国の英文学会の会員が減少し続けている現在、この英米文学研究という分野にも、実学の風を試みに導き入れてみるときは来ているのかもしれない。大型書店の本棚には、フィクションよりも実学に通じる新書やビジネス、啓蒙書の類の台頭が目立つ。人々は小説家自身の声のみならず、それらを翻訳したり、研究した人々が、その経験から学んだことについて語る姿に関心を寄せ始めているのである。

 そこで、ベロー研究者として、それに対しとれる反応をいくつか考えてみる。セルフ・ヘルプ(自己啓発本)というジャンルに入るのかもしれないが、底辺からスタートし頂点まで辿り着いたソール・ベローの人生や作品の中から、私たちが生きていくうえで役に立ちそうな部分や要素を取り出し、それから得られる具体的な知識や癒しや励ましが、どのような人々のどのような心の動きに作用し、どのような効果を生み出しうるかを探ってみるような研究も、一考に値するのではないだろうか。つまり、従来のような「読んでくれる人は本人とその他数名」というような自己満足的な論文ではなく、社会に広くいる読者を想定した、いわば「直接的な利益」を求めた近視眼的な研究手法も、この混乱の時代には打つべき一手かもしれない。

 貧しいユダヤ系の移民の息子として生まれ、英語に対しハンディを背負いながらも、有名大学の英文学教授となり、ノーベル文学賞まで受賞したベローの人生に、「自己実現」のモデルを見つけ出すこともできるだろう。また、『宙ぶらりんの男』のジョウゼフの焦りと苦悩にいくらかの共感を持った者なら、その思いを分析し、読者に訴えかけることにより、この本の再評価を図ることもできるかもしれない。また人々の心を捉え動かすことに長けたベローが、演説の体(てい)を借りて書いた短篇「ペップ博士の説教」の中に、人々を説き伏せていく言語のテクニックやレトリックを探ることも可能かもしれない。

 インターネットで調べていると、『この日をつかめ』という作品のタイトルに対する関心の高さにも気づく。そこからは現代の人々が生きていくということに対し、大きな不安と不満と不確かな思いを抱きながらも、その答えが見つからず苦悩している姿が垣間見えてくる。この作品は決してストレートに「迷いからの脱出口」を示してくれる作品ではないが、心に迷いを持つ人々に対し何らかの魅力を持った、いわば教義にも似た書である。現代人は先人の知恵として、小説の中に救いを求めてもいる。それに対し研究者がとれる対応として、そこに込められた複雑で重層的な世界から、シンプルで力強いベロー文学のメッセージを抽出・提示し、ベローと社会との橋渡しをするということも考えられるだろう。一見浅はかで、幼稚に見えるそんな展開も、今や、無益な試みと一笑に伏せない時代となってきている。

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【2007年度会員活動報告】

(2006年4月1日〜2007年3月31日)

《論文》

  • 佐川和茂(青山学院大学)「ユダヤ人のユーモア,ホロコーストのユーモア」『青山スタンダード論集』2(2007年1月16日):227-28.

  • 佐川和茂「回帰と希望―ソール・ベローの「黄色い家を残して」と「古い道」」『シュレミール』6(2007年3月31日):30-36.

  • 橋本賢二(大阪教育大学)「新時代の英米文学研究試論―フリーターとニートに贈るベロー文学からのメッセージ―」『大阪教育大学 英文学会誌』52(2007年2月22日):23-35.
     20代半ばのソール・ベローが、雑誌に発表したデビュー作ともいえる短篇”Two Morning Monologues”を題材に、英米文学とその研究を「社会に直接」役立つ文化・学問として、実学的見地から論じることの可能性を探る試み。大恐慌の真っ只中、大学は出たものの職にあぶれた青年が、厳格な父親の責めるような言葉や態度、親族の冷めた視線に耐えながら、目標を見失うまいと苦闘する。主人公がそんな苦悶する自己の姿を書き綴った日記形式の作品の中から、今日のフリーターやニート、引きこもりの若者たちがよく似た苦境から脱出するために役立ちそうなヒントや励ましとなる言葉を探し出す。
     夢の実現を成し遂げたベロー自身の、下積み時代の暮らしをヒントにした私小説風作品から、当時と似通った今日の日本の状況下にいる若者へのメッセージを読み取る。加えて、この研究の展開の可能性、問題点も浮き彫りにする。

《発表》

  • 岩橋浩幸(大阪大学・院)「マックスウェルの悪魔としてのDr. Tamkin―Seize the Day におけるエントロピー―」(日本英文学会関西支部第1回大会、大阪大学、2006年12月16日)

《講演》

  • 岩山太次郎(同志社大学名誉教授)「ナラティヴ・アートの復権について―フィリップ・ロスとソール・ベローとフォークナー」(日本アメリカ文学会関西支部総会、神戸大学、2006年5月13日)

《シンポジウム》

  • 「ソール・ベローを語る――短編・中編を手がかりに」
     (九州アメリカ文学会第52回大会、九州大学、2006年5月14日)
    司会
     講師 半田拓也(福岡大学) 「短編集Mosby's Memoirs and Other Stories とベロー」
     講師 村田希巳子(北九州市立大学・非)
         「ベローのユーモア分析―Seize the Day と短編集Him with His Foot in His Mouth
     講師 佐川和茂(青山学院大学) 「回帰と希望 ―「黄色い家を残して」と「古い道」」
     講師 池田肇子(福岡女学院大学)
         「二つの親子関係―“A Silver Dish” と What Kind of Day Did You Have?

《海外ベロー関係文献》

  • Assadi, Jamal. Acting, Rhetoric, & Interpretation in Selected Novels by F. Scott Fitzgerald & Saul Bellow. New York: Peter Lang, 2006.

    Contents

    • 1. Introduction    [p.1]
    • 2. Gatsby’s Acting: “a gift for hope”   [p.19]
    • 3. Acting as Entertainment    [p.43]
    • 4. Leventhal’s Acting and the Exactly Human    [p.73]
    • 5. Possession and Exorcism in Henderson the Rain King    [p.102]
    • 6. Cinema People    [p.135]
    • 7. Conclusion    [p.171]
    • Selected Bibliography    [p.181]

  • Saul Bellow Journal 20.2 (Fall 2004)

Contents

Articles
  • Mark Cohen
    • Body Language: Spoken vs. Silent Communication in Herzog    [p.3]
  • Peter Witteveld
    • Tamkin the Trickster: Laughter and Trembling before the Immanence of the Essential in Saul Bellow's Seize the Day    [p.19]
  • Tara Houlihan Zarate
    • I want, I want!”: Transcendental Epiphanies in Saul Bellow's Henderson the Rain King   [p.41]
  • Todd Shy
    • The Prospect of Too Much Freedom: Saul Bellow’s Management of Abundance    [p.51]
  • Dan Muhlestein
    • Presence, Absence, and Commodity Fetish in Ravelstein    [p.65]
  • Lauren Cardon
    • Herzog as “Survival Literature”   [p.85]
  • Keith Lawrence
    • Conservative Power: Wensong Liu's Saul Bellow Fiction    [p.109]
  • Selected Annotated Bibliography 2001-2002    [p.117]
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【協会活動】

  • 2006年4月1日:『ニューズレター』第18号発行 
  •      9月1日:「大会案内」」「理事会案内」発送
  •     10月13日:2006年度理事会(於青山学院大学)
  •     10月13日:第18回日本ソール・ベロー協会大会(於青山学院大学)
    •    @開会の辞 町田哲司(会長・関西外国語大学)
    •    A総会 司会:佐川和茂(代表理事・青山学院大学)
    •    B研究発表 司会:佐川和茂
      •   1. 大場昌子(日本女子大学)「『ハーツォグ』における語りの問題」
      •   2. 町田哲司「初期3短篇における超越思想をめぐって」
    •    懇親会(於青学会館3階・シノノメ)
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【東京支部活動報告】

  • 読書会
    1. 日時――2007年3月27日(火)午後1:00〜5:00
    2. 場所――専修大学坂野明子研究室
    3. テーマ―『ラヴェルスタイン』を読む
    4. 参加者―坂野明子(専修大学)、伊達雅彦(尚美学園大学)、大場昌子(日本女子大学)、佐川和茂(青山学院大学)
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【2006年度会計報告】

(2006年4月1日〜2007年3月31日)

収入の部支出の部
前年度繰越金7,032通信関係費17,533
会費215,700大会・懇親会関係費87,255
懇親会費82,000ISBS 会費114,841
__ホームページ関係費15,744
__アルバイト代7,000
__次年度繰越金62,359
合計304,732合計304,732

2007年4月1日

会長 町田哲司 印

会計書類等を監査の結果、以上の報告に相違ありません。

会計監査 橋本賢二 印

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【名簿記載事項の追加・削除について】

 2000年度の名簿から、FAX番号とE-mailアドレスを追加しております。まだ掲載していない方で、今後掲載してもよい方は、事務局までお知らせください。迅速な意見の交換や、連絡に便利ですのでよろしくお願いします。
 また、現在の名簿の掲載事項のうち、削除を希望される項目がありましたら、お手数ですが、事務局までご連絡ください。

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【原稿募集】

 事務局では、ニューズレターに掲載する原稿を募集しております。ベロー研究に関係のあることでしたら何でも結構ですので、事務局までお送りください。できれば、添付ファイルにてお願いいたします。

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【会費納入のお願い】

 2007年度会費納入用の郵便振替用紙(日本ソール・ベロー協会:00940-5-109785)は、4月にお送りいたしました。未納の方は、至急にお願いいたします。

 一般会員は2,000円学生会員は1,500円となります。また、日本ソール・ベロー協会と提携関係にあるアメリカの International Saul Bellow Society(ISBS)にも所属する一般会員は、日本ソール・ベロー協会2,000円+ISBS 5,000円で7,000円、学生会員は、日本ソール・ベロー協会1,500円+ISBS 5,000円で6,500円となります(この場合、振替用紙の通信欄に、氏名、住所、所属を英語でお書き添えください)。ISBSに所属しますと、同学会の機関誌 Saul Bellow Journal を受け取ることができます(年に一回程度発行されます)。

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【日本ソール・ベロー協会会則】

(2005年9月8日改正)

  • 第1条(名称)本会は日本ソール・ベロー協会と称する。
  • 第2条(目的)本会はソール・ベロー及び関連諸分野の研究と、会員相互の交流をはかることを目的とする。
  • 第3条(事業)本会は前条の目的を達成するために次の事業を行う。
    1. 1. 総会の開催
    2. 2. 調査・研究のための諸活動
    3. 3. 調査・研究成果の刊行
    4. 4. 会報(ニューズ・レター)の発行
    5. 5. 研究発表会・講演会等の開催
    6. 6. その他、本会の目的達成に必要と認められる事業
  • 第4条(会員)会員はソール・ベローの研究に関心を持ち、所定の年会費を納めたものとする。
  • 第5条(会費)本会の年会費は2,000円、ただし学生会員の場合は1,500円とする。アメリカのInternational Saul Bellow Society(ISBS)にも加入する場合は7,000円、学生会員の場合は6,500円とする。
  • 第6条(役員等)本会に次の役員等を置き、会員の中から選出する。
    1. 1. 会長、代表理事各1名。理事会が理事の中より候補者を推薦し、総会で承認を得る。
    2. 2. 理事。各地区毎に若干名。構成員数に応じて増減。総会で選出する。
    3. 3. 会計監査 1名。総会で選出する。
    4. 4. その他、本会に必要と思われる諸役については、適宜会員の中から総会の決議に基づいて
       会長がこれを委嘱する。
  • 第7条(役員の任期)役員の任期は2年とし、再任を妨げない。
  • 第8条(事務局)事務局は、総会の承認を得た事務機構に運営を委託する。
  • 第9条(経費)本会の運営は会員の会費、寄付金、その他の収入をもって当てる。
  • 第10条(事業年度)本会の事業年度及び会計年度は毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終了する。
  • 第11条(会則の変更等)本会の会則の変更、会費その他の重要な事項の決定は総会の議決による。
  • 申し合わせ事項
    1. (1) 総会及び研究発表会は年一回開催する。
    2. (2) 本会の本部、事務局は下記の所へ置く。
    3.   (本部)関西外国語大学 町田哲司研究室内
    4.   (事務局)大阪教育図書内

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