News Letter n.17[初出2005.8.14;更新2005.8.14]

ニューズレター(vol.17)

Table of Contents

第17回日本ソール・ベロー協会大会のお知らせ

《プログラム》

懇親会:6:00〜7:30(会費−5000円)

──会場:

【Edward Hoffman氏略歴】

Edward Hoffman 氏は、ニュー・ヨーク在住の臨床心理学者で、ミシガン大学で PH.D. を取得後、ミシガン大学等で教壇に立ち、現在は Psychological Services の所長として、臨床面で活躍しておられます。我が国の心理学会では、マスロー研究者として著名ですが、ユダヤ教神秘主義やライヒの専門家でもあり、The Way of Splendor-Jewish Mysticism and Modern Psychology, Wilhelm Reich-The Man Who Dreamed of Tomorrow, The Heavenly Ladder-Kabbalistic Techniques for Inner Growth などの著作があります。Wilhelm Reich には、ベロー氏自身が、"A remarkably lucid, thorough and unprejudiced introduction to a man of genius, greatly maligned and abused." という賛辞を寄せています。

【宿泊案内】

*駅および大会会場に近い高槻市内のホテルはつぎの2つです。

「たかつき京都ホテル」

「高槻サンホテル」

【新会長挨拶に代えて】

「ベロー氏の贈り物」

町田哲司

4月6日の朝8:30頃、前会長の半田先生よりお電話をいただき、ベロー氏が亡くなったことを知った。ショックであった。

私が、氏の作品に関心を持ったのはもう30年近く前のことであった。当時、教育学を専攻していた私は、「自己実現」に関心を持ち、マスローの人間主義心理学や、ロロ・メイの実存主義心理学を学んでいた。当然に、自分の自己実現には深い関心を持ち、卒業したら何になりたいのか、何をすれば自分の才能をもっともよく発揮できるのか、いつも自問自答していた。しかし、答えは中々見当たらない。私は、あるとき、アメリカ文学を読んでみると何か手がかりが見つかるかもしれないと思った。まず、福田陸太郎編『アメリカ文学思潮史』を読んで、どんな作家がいるのかというところから始めた。そして、ベローを知り、直ちにDangling Manを読んだ。とにかく面白かった。それはまさにマスローが言うところの「至高体験」であった。大学院でアメリカ文学に転向し、ベロー文学から自己実現を学ぼうという決心を固めるのに長い時間は必要なかった。

それからもう30年近くが過ぎた。この間に、何度かやめようと思うこともあった。修士論文を書いた後、博士課程を終えた後、Bellow, A Transcendentalistを書いた後…。とにかくベローは、私には難しすぎるのである。でも、やめられなかった。いつしか、ベローを学ぶこと自体が、私の自己実現であり、アイデンティティそのものになっていたのだ。私は、残念ながら、ベロー氏にあったことはなかった。しかし、これこそが、ベロー氏が作品を通じて私にくれた「贈り物」であったのだ。

そのベロー氏がついに亡くなった。とにかく悲しい。しかし、悲しんでばかりもいられない。今後は、新会長として、一人でも多くの方にベロー氏の魅力を伝え、会員の方々と力を合わせて、会の発展のために尽くしたいと思う。

付記:2004年度の総会の決定にもとづき、研究書出版企画を下記に掲載しています。会員の皆様の積極的なご参加をお願い致します。

【特別エッセイ】

「ベローと京都と」

橋本賢二(大阪教育大学)

Paul Therouxの1975年の作品にThe Great Railway Bazaar : By Train through Asiaという旅行記がある。二年後の1977年に阿川弘之氏により日本語に翻訳され、ポール・セルー『鉄道大バザール』という名前で、講談社から出版された。ロンドンから鉄道でアジアを旅して回る紀行風作品であるが、この中に日本も登場する。旅の後半、青森行特急「はつかり」、札幌行特急「あおぞら」、京都へ──超特急「ひかり」、「こだま」号大阪行、と四章が当てられている。この3つ目の章の中に、関西(京都)に在住する日本人英米文学者が数人、実名で登場する。苗字だけで誰かはわかる高名な教授たちである。

ところが、この中で最も中心的なエピソードに絡む人物だけがただ一人、仮名になっている。旅人の隣の席に座ったその大学教授は「遠山」と言い、ヘンリー・ジェイムズを読み耽っている。『黄金の盃』を京都の大学で講義しているという。勘のいい人は、これだけでこの人物が誰であるかは想像がつくはずである。

話は佳境に入る。そして、そこにソール・ベローの名前が登場する。「遠山」氏は愉快に語る。「ソール・ベロー氏ははじめあまり楽しそうじゃなかったんですが、私たちがストリップショーへ連れて行って上げたら、それが馬鹿にお気に召しまして……」。その時の様子を楽しげに話す「遠山」教授との談笑シーンは、この作品中の白眉として、世界中の書評に取り上げられた。

講談社文庫の『In-Pocket』(2001年8月号)の中で、この「遠山」氏と同一視された『金色の盃』の翻訳者でもあるA氏が、次のように語っておられる。「この旅行記、あるいはこの旅行記の阿川弘之氏の手になる名訳の読者は、この仮名氏が私であることを疑わなかった、と皆さんおっしゃってくださっている…ただし残念ながら私はソール・ベロー先生をストリップショーにご案内させて頂くという光栄に浴した記憶はない。セルー氏が京都の酒席で聞いた面白い話を全部、私とおぼしき人物に纏めたのが真相である。」(インターネットで公開)

個人的な記憶で申し訳ないが、間違っていたら訂正していただきたい。以前、東京で開催されたベロー大会の折、講演をされたS先生が、ベロー氏を案内されたときのエピソードを話されたように覚えている。実に柔軟で、ベロー氏のことをいろいろな意味でよく知っておられる上での発想だと感心したように思う。

そして、その京都での体験が登場するベローの作品がある。1978年『ニューヨーカー』誌に掲載され、1980年に最優秀O・ヘンリー賞を受賞した「銀の皿」("A Silver Dish")である。のちに、Him with His Foot in His Mouth and Other Storiesなどに収められたこのベローのベスト短篇の終盤で、この京都での体験が実に効果的な意味を持って、見事に、作品中に応用されている。インターネットで京都の「俵屋」を見ると、「ロスチャイルド、ロックフェラー、ソール・ベローそしてマーロン・ブランドなどのVIPが訪れた国際色豊かな創業300年の名宿」とある。日本最古級の旅館である。 ベロー氏は京都でこの宿に泊まり、神社仏閣も見て回ったことだろう。作品の中にはこの「俵屋」の名前も見える。「京都で三週間過ごし、17世紀創業の俵屋旅館に泊まった。日本式に畳 [フロア] の上に寝て、熱い熱い風呂にも入った。清浄な場所や寺院の庭園のみならず、この上なくダーティーなストリップショーも見て回った」と主人公のウディ・セルブストは、日本での滞在を記す。世界中を旅して回るウディは、人生を楽しむことの大切さも知るまでに成長し、亡き父の教えである「悪事もそれなりにやらねば愛されるアメリカ人にはなれないぞ」という言葉を実践し、母親の影響で進みはじめたキリスト教への道を捨て、清濁合わせ飲む人物として、移民の子から「アメリカ人」へと成長していく。 その成長の結果を示す部分のひとつに、このシーンは登場する。簡単に短く示されるエピソードではあるが、それらが実体験に基づいているために、実にリアリティにあふれ、効果的に機能している。感心させられるのは、そのような何げない日常の子細な出来事にも、ベローは決して意識を曇らせることなく、好奇の視線を注ぎ続けていることである。そして機が熟せば、それらを作品の中の、最もふさわしい場所に巧みに組み入れ、素晴らしい結果につなげていってしまう。このベローのぬかりない才能には、改めて瞠目せずにはおれない。

【研究書出版企画】

協会では、『ソール・ベロー研究―人間像と生き方の探求』の出版を計画しております。論文の投稿を希望される方は、以下の1)〜9)をご確認のうえ、お名前、レジメ、予定使用部数(可能であれば)を、2005年8月31日までに事務局までお送りください。

1)出版の目的

日本ソール・ベロー協会の活性化を図ると共に、ソール・ベローに関する学術的研究や教育に寄与する。

2)書名と内容

書名は『ソール・ベロー研究―人間像と生き方の探求』とし、ベローの主要な長編や中・短編(集)を「人間像と生き方の探求」を中心とした観点から考察した(共著扱いも可能な)論文集とする。叙述は各論考において、ベロー入門者から専門家までの幅広い読者層を対象とし、論考のそれぞれが専門的・学術的な評価に応えることのできる内容とする。したがって、各論は平易なイントロダクションから始まり、最近の研究成果を織り込んだ結論を含むこと。(表紙には「半田拓也監修、日本ソール・ベロー協会編集」と記載する)

3)論文数とページ数

上記の書名と内容に鑑み、最小の論文数は10編、200ページ程度とし、最大の論文数は15編程度、約300ページを目安とする。

4)出版時期等

5)出版社

出版社は日本ソール・ベロー協会の事務局を引き受けて頂いている大阪教育図書にお願いする。

6)費用等

出版に要する費用は執筆者が平等に負担するものとする。(額は一編当たり10万円程度の予定。ただし、教育機関等で使用し、販売された部数については相応の割引を行う)

7)論文のスタイル等

8)執筆までの作業

9)その他

【2004年度会員活動報告】

《論文》

《翻訳》

《発表》

《海外ベロー関係文献》

【補追】

《Saul Bellow Journal》

19.1 (Winter 2003)

Articles
  • Michael Macilwee (3)
    1. Saul Bellow and Norman Mailer
  • Allan Chavkin and Nancy Feyl Chavkin (23)
    1. Skepticism and the Depth of Life in Saul Bellow's "The Old System"
  • Jason Steed (30)
    1. "Can Death Be Funny?": Humor and the Holocaust in Saul Bellow's The Bellarosa Connection
  • Marianne M. Friedrich (45)
    1. "Something to Remember Me By": From Early Fragments to Finished Story
  • Wensong Liu (52)
    1. Power Relations between Intellectual Couples in Three Saul Bellow Novels
Book Review Forum on James Atlas's Bellow: A Biography
  • Ben Siegel (79)
    1. Good News, Bad News: James Atlas's Bellow: A Biography
  • Allan Chavkin (86)
    1. A Demonic Saul Bellow
  • Jay Halio (90)
    1. Unanswered Questions in Bellow: A Biography by James Atlas
  • Elaine B. Safer (93)
    1. "With[out] Love": Atlas's Portrait of Bellow
  • Sarah Blancher Cohen (98)
    1. The Mixture of James Atlas's Bellow: A Biography
  • Gloria L. Cronin (102)
    1. A Donkey Carrying Holy Books?: James Atlas's Bellow Biography
Bibliography
  • Gloria L. Cronin and Blaine H. Hall (108)
    1. Selected Critical Annotated Bibliography for 1999

19-2 (Fall 2003)

Articles
  • Ben Siegel (3)
    1. Saul Bellow as Novelist, Biographer, and Sub
  • Gustavo Sanchez Canales (8)
    1. Life, Death, and Aristophanes' Concept of Eros in Saul Bellow's Ravelstein
  • Eric Freeze (19)
    1. Reading Ravelstein
  • Jay Halio (31)
    1. Unraveling Bellow through Ravelstein
  • Joel Salzburg (36)
    1. The Importance of Being Saul Bellow: Narcissistic Narrative and the Parodic Impulse in Ravelstein
Bibliography
  • Gloria L. Cronin and Blaine H. Hall (53)
    1. Selected Critical Annotated Bibliography for 2000

《非会員ベロー関係文献・国内》

【協会活動】

2004年度の協会の活動

【新役員紹介】

【2004年度会計報告】

(2004年4月1日〜2005年3月31日)

収入の部支出の部
前年度繰越金34943通信関係費19578
会費228140大会・懇親会関係費81980
懇親会費40000ISBS 会費126347
展示料(大阪教育図書)5000ホームページ関係費16005
__次年度繰越金64173
計.308083計.308083

2005年4月1日

会長 町田哲司 印

会計書類等を監査の結果、以上の報告に相違ありません。

会計監査 橋本賢二 印

【会費納入のお願い】

2005年度会費納入用の郵便振替用紙(日本ソール・ベロー協会:00940-5-109785)を同封いたしておりますので、よろしくお願いいたします。会費は2000円です。また、日本ソール・ベロー協会と提携関係にあるアメリカのInternational Saul Bellow Society(ISBS)にも所属する方は、7000円(日本ソール・ベロー協会2000円+ISBS 5000円)となります(この場合、振替用紙の通信欄に、氏名、住所、所属を英語でお書き添えください)。ISBSに所属しますと、同学会の機関誌Saul Bellow Journal を受け取ることができます(年に一回程度発行されます)。

昨年度より、会費を値上げさせていただいております。振込みに際しましては、いま一度金額をご確認のうえ、お間違えのないようにお願い申し上げます。

【名簿記載事項の追加・削除について】

2000年度の名簿から、FAX番号とE-mailアドレスを追加しております。まだ掲載していない方で、今後掲載してもよい方は、「郵便振替用紙」に番号、アドレスをご記入ください。E-mail, Fax等で事務局までお知らせいただいても結構です。迅速な意見の交換や、連絡に便利ですのでよろしくお願いします。

また、現在の名簿の掲載事項のうち、削除を希望される項目がありましたら、お手数ですが、事務局までご連絡ください。

【原稿募集】

事務局では、ニューズレターに掲載する原稿を募集しております。ベロー研究に関係のあることでしたら何でも結構ですので、事務局までお送りください。

【ベロー氏の訃報に際して】

4月5日のベロー氏の訃報に際し、ベロー氏と長年の親交があったボストン大学のKeith Botsford教授と、国際ソール・ベロー協会初代会長のLiela Goldman博士に、日本ソール・ベロー協会としての弔意をお伝えしました。弔意はご家族に伝えられ、Botsford教授より"The family were touched by your message."というお返事をいただきました。

また、4月15日付の産経新聞大阪本社版朝刊の文化面に半田拓也前会長の追悼記事「たぐいまれなる人間観察者」が掲載されていますのでご覧ください。

【日本ソール・ベロー協会会則】

(2003年10月10日改正)


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