『銀河英雄伝説』
 キルヒアイス健在! 盟友と再会
 ラインハルト・堀川亮vsキルヒアイス・広中雅志対談


 26話で一応の完結をみたビデオシリーズ「銀河英雄伝説」。帝国の元帥ラインハルトと、
最終話で彼をかばって死ぬキルヒアイス。
今月はそのキルヒアイスにも復活してもらい、ラインハルト=堀川亮さんvsキルヒアイス
=広中雅志さんの対談が実現した。

「銀英伝」にとりくんで

AM ビデオシリーズ「銀河英雄伝説」は、一応の完結をみている訳ですが、きょうはお
ふたりにその「銀英伝」の世界や声をあてたときの苦労話などをお話していただきたいと
思います。堀川さんは、他のアニメーションなども多く経験されていると思うんですが、
それにくらべて「銀英伝」はいかがでしたか?
堀川 ぼくは久々に、ああいうシリアスなドラマに出演したんですが「銀英伝」の場合、
勧善懲悪、いわゆる善玉と悪玉にはっきりわかれて、善が勝つというパターンではないで
しょ。自由惑星同盟と帝国軍の戦いを縦じくに、人間関係を横じくにした、本格的な人
間ドラマになっている。それが気に入ってますね。
広中 ぼくは、いままではひとりの仕事、ナレーションとかCFとかそんなのが多かった
んです。アニメーションも少しはやってたんですが、連続もので、ひとりのキャラクター
をずっと演じるというのが、ほとんどはじめてに近かった。だから、作品にきちっと参加
できたなという充実感がありました。
AM 作品自体についてはいかがですか?
広中 イベントなんかにいくとはきっりわかるんですが、この作品の原作はベストセラー
の小説でしょ。だからファンの人たちは、アニメーションになるまえから、それぞれのキ
ャラクターに思い入れをもっている。それを裏切らないように一生懸命やりました。
この作品は「銀河声優伝説」といいかえてもいいくらい、のべ130人以上の声優が出て
いるんですよ。しかも女性が10人いない。圧倒的に男性が多い作品でしょ。まわりには
キラ星のごとく超ベテランの声優さんもいっぱいいる。それだけ多い人数だと、本編の順
番通りじゃなくて、シーンごとのヌキ撮りが多くなる。そうなると全編がどういう話にな
っているのか、みんなわからないんですよ。
堀川 そうですね。自分たちも、ストーリーを把握できないこともあったし。どこがど
うつながるかわからなくてね。
とにかく役の一貫性、キャラクターの太いところでとらえてやるようにしました。

帝国軍のふたり

広中 きょうはむこうサイド(同盟軍側)の方がいないから、そちらの話は聞けないん
ですけれども、ぼくら帝国軍側の方ははっきりしているんですよね。
堀川 いっつもかたまってるんですよ(笑)。
広中 天下をとるというラインハルトの目標があるとすれば、ぼくはそれをサポートす
るという縦糸があって、横糸は彼のお姉さん(アンネローゼ)に恋をしているという構
造がある。そこから生まれる友情と愛情が、ぼくらの世界なんですよ。
ただひとつ気になったのは最終話で、ラインハルトがアンネローゼに「姉上はキルヒア
イスを愛しておられたんですか」という質問に、アンネローゼは無言で答えなかった。
あそこははっきりしてほしかったなあ。
堀川 ラインハルト自身は、姉に対して、よこしまな恋慕を抱いているわけじゃなく、
姉をとり返したいという純粋な気持ち、それが天下をとってやろうじゃないという奮発
材料になっているんじゃないでしょうか。
だからラインハルトとキルヒアイス、アンネローゼという3人のトライアングルは、結
局アンネローゼにひっぱられている。だから女性の力は偉大だなと思います。
広中 この作品は出てくる女性は少ないけど、それぞれの女性のウェイトがものすごく
大きいですよね。男はどんどんそれにひっぱられますからね(笑)。でも、監督の石黒さ
んも「このスタジオ色気ないなー」っていつもいってたよね。女性はいてもひとりぐらいだ
もんね(笑)。
AM ラインハルトとキルヒアイス、この役に関しておふたりは、声をどのように作っ
ていますか?
堀川 僕は根がこういう、アッパラパーな性格なので、相当声は作ってますね(笑)。
ラインハルトという人は野心のかたまりですよね。男として見ればある意味では爽快
で、共感できたりもする。ただラインハルトは19歳という設定でしょ。19歳の少年
が、ああいうふうには、ぼくはできないと思いますね。キルヒアイスにしても、あの気
配り、深慮遠謀、あれは、どういう生き様かにもよりますが、19や20歳でとてもでき
るものではない。精神年齢はグレードの高いものだと思う。だから感情を露骨に表現す
るのではなく「うれしんだー」とかを表現するのに抑えていくようにしました。
広中 芝居的には、ぼくはあまり作らなかったですね。上からもアニメだとは思わない
でくれ、どちらかとえば外国映画の声当てに近いものとしてとらえてくれと言われてい
たんです。つまりそれだけひとりひとりののキャラクターを重要に思っていることの表
れだと思うんですが、あまりデフォルメしない形でぼくもやりました。キルヒアイスと
いうのは、ものすごく美形だし、やさしいし、ただそこで、2枚目の典型だという形で
やってしまうと、いやらしくなるでしょ。だからできるだけ、自然体でやれば。キャラ
があれだけ素敵なので、ちょうどいいと思うんです。ただやさしさだけは強調しようと
思いました。
堀川 何話だか忘れてしまったんですが、ラインハルトが「キルヒアイス、おまえはや
さしいな」というシーンがあるんです。あやしいんじゃないかと思うような、女性に話しかけるようば口調で。
広中 とんでもない台詞もあるんですよね。
堀川 演歌みたいなね(笑)。
AM 製作者サイドからも、キャラクターと声優さんの年齢がものすごく合っていて、
無理がなかったという声が強かった。それがよかったみたいです。
広中 ぼくはとても感謝していますね。キルヒアイスの役に、ぼくをあててくれて。ラ
インハルトの役もオーディション受けたんですよぼくは。でもキルヒアイスでよかった。客観的にみても、
この役はぼくに向いていると思います。
堀川 ぼくもこういうドラマ性のしっかりした作品に参加させてもらってありがたい
と思ってますね。
広中 でも(堀川)亮ちゃんなんか見てるとだんだんそういう(ラインハルト)感じにな
ってくるもん。
堀川 そう? 支配しそう?
広中 ときどきけわしい目つきでさぁ(笑)。
堀川 でもぼく姉がいないんだよな。
広中 でもこの作品やってるときに子ども生まれたじゃない。
堀川 去年の12月22日にね。男の子が(笑)
AM おめでとうございます。

野心と純愛と

AM 直接ファンの子たちと話したことはありますか。
広中 亮ちゃんなんかはアニメの主役なんかをやっているからファンレターをもらっ
ていたと思うんですが、ぼくなんかはあまりやっていなかったから、この作品からフ
ァンレターが届くようになりましたね。うれしかったのは、アニメのファンじゃなく
て、小説「銀河英雄伝説」のファンの女の子から、
「キルヒアイスがどういうキャラクターに仕上がっているのか、どういう声なのか心
配だったのですが、ビデオを見て安心しました」という手紙をもらったとき。逆に、
キルヒアイスを見て、ほかのナレーションの仕事なんかも見るようになりましたとい
う人も、いっぱいいました。そんな意味でもぼくはこの作品に出会えてよかったと思
いますね。たぶん(堀川)亮ちゃんがやっているラインハルトは、好きな人は好きだ
けどきらいな人は、すごくきいらいなんじゃないの。
堀川 そうね。すごく野心的だからね。目的に向かって邁進していくのはいいんだけ
ど、ある種人間性を欠如させていかざるを得ない。それは彼のなかで選択していると
思うんですけど。原因は姉を宮中に召し出されてしまったというところにあるんでし
ょうけどね。それをとりもどすために、帝国を掌握する、その目的のために、ほかの
ものはすべて捨てる。だれに何と思われたっいい。あの人の生き方はそうだと思うん
ですよ。
広中 だけどもろいんだよね。
堀川 もろい。本質はそうじゃない、姉思いの気弱な、プライドは高いかもしれない
けどやさしい人間なのに、それを全部殺して無理してるわけだから。
広中 そういう意味では壮絶な、かわいそうな人ですね。だって自由惑星同盟見てる
と楽しそうだもんな。キャラクターがのびのびしてますよ(笑)。
そんな意味ではヤンがいちばん人気あるのかな。
AM 同人誌なんかでは、キルヒアイスによりそうラインハルトなんてモチーフが多
いんですが……。
堀川 ふたりが異性であれば確実に愛が芽生えているでしょうね。
広中 いや、死んでしまってからいうのもなんですが、姉さん(アンネローゼ)なん
ですよ。死ぬまぎわにも「アンネローゼ様にお伝え下さい」というところからもそれ
ははっきりとしてますよ。姉さんが好きだったんですよ、キルヒアイスは。
堀川 キルヒアイスというのは見事に純愛に生きた人ですよね。ただそれはアンネロ
ーゼだけに向けられたものじゃなくてラインハルトにも向けられていますね。
ただの信頼とか、友情ではないと思いますよ。キルヒアイスが死んだあとも、「あいつ
が生きていればなあ」と回想するしね。

(9月16日 東京・新橋にて)


 雑誌『アニメージュ』(徳間書店 発行)1989年11月号より

 ※この文章を提供してくださったのは、さいと様です。(ありがとうっ!) 

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