2004年7月の……

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7月5日
ベストセラーの上位をにぎわせている『空の境界』を読み始めた。
登場人物の交互のモノローグでストーリーが進む。

「式」という人物、内面の語りの一人称が「私」で、言葉を発すると「俺」になるのが、なんか謎。とりあえずは、この謎が解き明かされるまでは、と思って読み進めてしまう。


7月4日
吉田修一『パレード』(幻冬社文庫)。ハードカバーのときに読み逃してたのが文庫になったので。
住んだことがある街が活字になっているというので興味津々。だいたいの場所が「あ〜あそこね…」とニヤリとしながら読んだ。

主な登場人物は21歳学生から、28歳会社員まで、年齢も性別も肩書きもバラバラな5人。この5人が1室のマンションで共同生活を送っている(でも、5人で2LDKは狭すぎなんじゃないのっ?)。5つの章で、それぞれの人物が、それぞれの視点の一人称で、だいたい同じぐらいの「時期」前後の出来事を語っている。

だから、ある1つの出来事(場面)を別の人間が語るところが何カ所もあったりする。

で、この5人の「距離感」=車で言うところの車間距離みたいなもの=が、「微妙」とか「絶妙」とか、そういう書評がをよく見かける。

でも、これって、フツーだな〜と思う。
「他人のことには、ずかずか踏み込み過ぎない」。たとえ、それが同居人であったとしても。所詮、ただの同居人なのだから。

でも。
このフツーを描ききったところがすごいのかも。「実際には満室状態なのだが空室」(p.131)というのは、この2LDKを表した言葉だが、なにもこれは、この部屋に限ったことではない。満員電車だって、学校だって、会社だって、ご近所だって…。そうでないと面倒くさいことになる。

巻末の解説で川上弘美が、ひたすら「こわい、こわい」を連発していたが、そんなにこわいのかな〜。私の感覚はおかしいのだろうか。それとも何回も読まないと、こわさが分からないようになっているのか? と、思ったところで、「これは何回も読ませようという魂胆で書かれたものでは?」と思い始めた。そうだとしたら、素晴らしい「解説」だ。

もしも何回も読むなら、5章を横に区切って。5段組(!)にし、年表みたいに、同じ時系列を一目で分かるようにして読んでみたい。

…そんな本はないですね、はい。
前に戻ったり、後ろを探して読んだりするのは、なかなかホネが折れるもんなぁ。
7月2日
こういうの、何というジャンルなのだろう?
『美味しんぼ』とか『マスター・キートン』みたいなマンガ。
つまり、難問を抱えた“顧客”が、優れた知識と技を持った“その道の達人”に出会い、達人によって難問が解決され、“顧客”は、満足してハッピー・エンド…みたいな話を、おおむね一話完結(か、数話完結)で、連載していくというようなもの。

まぁ、終わりはハッピー・エンドでないパターンもある。『笑ゥせぇるすまん』は、その最たるもの。ココロのすきまを埋めるプロの喪黒福造が、毎回異なる客の依頼を解決するものの、一筋縄ではいかない…という感じで。

手塚治虫の『ブラック・ジャック』もそうだし、ほかにもこのジャンルの作品はたくさんある。

話のつくり自体は、シリーズものの推理小説(探偵小説)のバリエーションのような気がしている。優秀な探偵がいて、依頼人の困り事を解決…みたいな。

一話完結かつ連載というのが、読みやすいし、主人公が“達人”(山岡士郎は料理の達人、太一・キートンは、考古学とサバイバルのエキスパート、ブラック・ジャックは優秀な外科医)なので、その分野に関するトリビア(笑)を知ることができるのも、ちょっとした求知心のようなものを満足させられて、得した気分になれて、好きなんだな〜。

でも、ジャンル名を知らない。もしかしてジャンル名として存在しないかもしれない。

似ているけど趣が違うのが「天才 柳沢教授〜」シリーズ。教授が何かしら知恵を出して解決ということもあるけれど、多くの場合は、教授の姿に、勝手に周りが感動したり感化されたりして、少し人が成長するということが多い。または教授の内面世界が少し豊かになったりとか。教授本人が、手腕をふるって…というパターンは少ない。

というわけで、このマンガも、そういうジャンルの一つ。
王様の仕立て屋』(大河原遁・講談社「スーパージャンプ連載中)。

イタリアのナポリに住む日本人織部悠は、ナポリの“究めし職人(サルト・フィニート)”たちから「ミケランジェロ」と賞賛された伝説の仕立て職人が唯一認めた弟子。早い話が、仕立て屋界の山岡士郎(笑)。凄腕の仕立て職人なのだ。ちょっと無精な感じが初期の山岡士郎似(?)で、肩の力の抜け具合は、キートンっぽい。

彼が、スーツを仕立てることによって、あるいは仕立ての知識によって、顧客の難問を解決し、顧客は幸せや成功を掴んでいく、ちょっといい話集。

絵柄はちょっとアレなんだけど、この手のジャンルに弱い私は愛読中。

エピソードは、ファッション絡みの話ばかり。舞台がナポリというのが、ちょっと新鮮。パリやロンドン、やミラノじゃないのね〜。

最近、第3巻が発売されたばかり。
ちょっとおすすめ。

それにしても、このジャンルの名前は何だろう。
マスター・キートンにあやかり「マスターもの」とか。あるは日本語にして「巨匠もの」とか? 全然感じが出ない。「達人もの」…。視点を変えて、「顧客もの」?
「難題解決もの」? う〜ん。
ダメだ、ネーミングセンスなし…。名前をつかられないということは本質を掴んでいないということかも。_| ̄|○


きょうのメモ。
ボーイズラブ小説の書き方』(花丸編集部・白泉社)来月発売予定。なんじゃこりゃー!




←このページの背景は「創天」より頂きました。