「美祢子、守星権はどうするつもり?」

「私が担うことになると思います。もちろん私か洋一さんに何かあったら姉にお願いしたいのですが」

「何なんですか、守星権って?」

「Juliet、この星にはね、かつて幾つもの文明が生まれては消えて行ったの。私達の文明はその上にあるんだけど以前の文明の方が遥かに進んでいて惑星を制御してたのよ。大部分は朽ち果てているけどその中枢はまだ残っていて……」

「それが守星権?」

「そう。本当は宙新星の再生装置。真っ赤に融かし惑星を造り直します。第3宮殿の真下に埋もれています。元々帝国宮殿の重みで発動しなかったのですが帝国宮がさきの大戦で消失しましたから。光国人絶滅の確認後100年すると再生が始まるはずでした。ちょうど100年経とうと言う時合宮国に現れて光国の宙心星(現在通常空間に存在する宙新星に対しての称。宙新星は、恒星ヘリオス系の組成とは異なる組成からなることが知られており、1つ以上の宙心星が存在すると予言されている)再生装置の制御室に行き、宮国人を光国人の正当な後継者と認めさせたのが上野洋一。つまり40才の洋一さんです」

「魔国人と宮国人は光国人の子孫なんですか」

「容姿は全く変わりありません。進化の過程が違うのです。つまり光国人は爬虫類から、宮国人と魔国人は哺乳類から進化してきたのです。珠に光国人から魔国人が生まれています。光国人の記録に残ってます。人類といわれる種は爬虫類から余り変わっていないんです。爬虫類の光国人の最終型は身体がなくても生きられたと考えられてます。唯、他国人が体を必要としていたので光国人も人間でいたと思われます。本当は脳だけの方が都合がいいのです。そうですね、人間がユンボやダンプ並の能力を持つ必要はないのです。操作さえ出来ればいいのです。その千分の一の力でも必要とすると人間は頑丈な骨格、屈強な筋肉、それらを動かすためのエナジと酸素の入手および変換、その輸送のための媒体と動力、ジェネレイタその他を必要とし維持しなければなりません。これらは全て機械に置き換えることが可能です。また、肉体を分離してしまえば感情が必要なくなります。そうすれば煩悩は消え、人間本来持つ真理の追究の妨げはなくなり人間の能力は飛躍的に増大すると考えられています。脳というものは純粋に考えると判断をくだしているものといえます」

「本当なんですか」

「光国人は意欲的に研究していました。証拠が残されています。ですから恒温動物か変温動物か、水生か陸生か、卵生か胎生かは余り関係がないのです。そしてこれらの研究が致命的打撃となって光国人は滅んだらしいのです。種が行き着くところまでいってしまって、もうそれ以上進化できなくなってしまったのです。そのころ最初の光国人の突然変異として魔国人が地上に現れました。その後暫くして宮国人も現れます」

「今も可能なんでしょうか」

「まだ知識と技術があれば可能です。現在の合宮国の医療技術からすれば今迄通り科学が進歩するとしても約2、300年ほど進んでいます。更に推測すれば、脳が判断を下すものを考えると、それはコンピュータにおけるソフトウェアと同じことになります。ですから催眠術にも似ていますが脳の記憶を全て移し変えると全く別の人となります。もしこれが自力で出来る人がいれば、その人は永遠にそれこそ宇宙の再生の時まで生きられるでしょう、他人の体を使って。行える人間がいたかどうかは定かではありませんがこれが光国人が滅びたもう1つの原因と云われています。滅びた時期がこれが研究されてた時期と一致しています。ですから光国ではその方法が完成し頻繁に行われ人口が激減したため滅んだ、つまり乗り移られた人は行き場がありませんから消えてしまうしかありません。そう、女性は1番美しくなりたいと誰でも願うでしょう。その辺の理由です。もう1つは自分達や後の人類が駄目になるのを悟り自らを消したかのいずれかです。今となっては確認はできません。しかし現在の合宮国にはこの手の人間が1%弱はいるはずです」

「大変だわ。すぐにでも捜し出して……」

「証拠がありません。それに光国人と宮国人、魔国人の違いはたった1つ、変温か恒温かだけです。いったん恒温に乗り移られてしまえば見分けることは不可能です。その人は記憶ですら制御します」

「乗り移られた人はどうなるのでしょう」

「当然この世から消えます」

「では死んだ人の魂というものは」

「さあ、脳の中でしか生きられませんから消えるか、コンピュータの中なら生きられるのか、あるいはそれこそあの世に行く事でしょう」

「進化の最終形なのですか」

「進化は環境に対して起こりますからその環境に適合していればそれ以上の進化はありません」

「子孫は」

「子孫は種を維持するために編み出された物ですから必要がなくなります。必要となれば1個の細胞から作り出せます。細胞は、アミノ酸から成る遺伝子にすべての情報が刻まれています。この記録方法は、近年、コンピュータが発達し、そのプログラムに非常によく似ていることがわかってきました」

「魂だけで存在できるのでしょうか」

「わかりません。あるいは電網中なら存在可能なのか、それ自体エナジを持つのか、或は私達の全く知らない別の世界で存在しているのかも知れませんし、私達が存在に気付かないだけかも知れません。知識は一体何処から来るんでしょう。何故アイディアは突然ひらめくんでしょう。今ここで話している事も本当に私自身が言っている事なのでしょうか。ひょっとすると誰かが直接各々の大脳に話しかけているのではありませんか。それとも遠い昔に遺伝子に刻まれた情報が今封印を解かれ、私の口から発せられてるのかも知れません。ここで話している事は本当に正しいのでしょうか。正しいとは一体何を基準に判断するのでしょう。私達が浅はかな人間の知恵で正しいと思っているだけではないのでしょうか。果たして宇宙の真理とは正しいか、間違っているかで判断できるのでしょうか」

「……」

「物質からエナジを作り出すことが出来ますし、逆にエナジを物質に変換することもできます。物質は空間を必要とし、エナジは時間を必要とします。空間が広がればエナジは物質になり、縮まれば物質はエナジになります。知識は符号に置き換えられていますが本来の姿はエナジなのでしょうか。誰にも判りません。私達は物質で出来ていますが知識は物質ではありません。一旦物質に置き換えて他人とコミュニケイションします。本当なら直接、脳波などで通信されるべきです。脳波はエナジの波です」

「人間に天敵でも現れれば発達するんじゃねえか」

「エナジを持つ知識があるとすれば、勿論生命であるかどうかは判りませんが少なくとも私達はかれらにとっては赤子同然です。意思を持つとすれば私達の存在など彼らの気分次第ということになります。私達は一様の分子のつながりを必要とするからです。私達は完全ではありません、と同時にあらゆる可能性があるのです。致命的と思われる欠陥もあります。我が侭なんです。物質には限りがありますが欲望には際限がありません。しかし私達は最後の人類であってはなりません。私達の中には長い歴史と大勢の犠牲と光国人の血が入っているんです。それは永い間、金剛環銀河の片隅の小さな小さな星の上で繰り広げられてきました」

 


 

Aug. 13th, 1998

 

 

Welcome to the Castle No.3.

If everyone be happy and if nations be peaceful, I will be…

 

 

Doro UENO*

 

This story is written for the series of "welcome to the castle no.3".

 

 

 

Content

T

U

V

W

X

Y

 

 

 

T

 

「……………………、………………。ねェ、洋一さん」

私は部屋で−第3宮殿は3階以上のフロアが美祢子のフロアであり、2階の通信施設の入った部屋に居候しているのが私であった−その部屋で合宮国の120,30年前のと或都市の記録を読んでいたときだった。人懐こさそうな声に振り返ると、美祢子が立っていた。美祢子は天真爛漫に生きてきた人なので礼儀を知らない。また別に私に礼儀を払えなどと無礼な事は言わない。ここには礼儀を払う可き人間がいなかったからで美祢子に罪はないのだが、入室時はノックするようにと何度言った所で其意味が理解出来ず、従って私の体は其の度「はっ」と驚き、不意の侵入者に刃を向けようと反応し、次の瞬間我に返り必死に止めなければならなかった。やれやれと思いながら、1度仕置きをしないといけないかなと考えていると、振り返り様に見た美祢子の姿は私の考えを一蹴した。恐らく当の本人も気付いていないだろう。緑で統一されたドレスを着た様は、時代を越え存する大木が春の1日で枝という枝を一斉に芽生えさせる様さえを連想させる。未来永劫、人類が滅びるまでそれは美であり続けるだろう。人類が誕生した時この美的感覚は既に我々の遺伝子の中に刻まれていたに違いない。何うして合宮国の男達はこの娘を放って置くのだろうか。全くもって不可解である。

 ふと、髪、瞳が光をキラキラ反射させ、満面の笑みをたたえている美祢子を見ていると、つい今し方迄悩んでいた事なぞ何うでも可い様に思われてくる。是で良いのかもしれない。失った物に固執するよりも今ある物を大切にする方が。

「毎日素敵な服で現れて呉れるのは有り難いのですが、残念ながら私には鑑賞し得る目がありません」

美祢子は私の話等丸で聞いていない風に、読書用に作ったハンドメイドのロッキン'チェアで遊んでいる。初めはハンモックを釣っていたのだが、美祢子に取られてしまった。じきにこの椅子も3階に運び去られることだろう。次はカウチを作ろうと考えながら、再びデスクに着き、統計資料に目を通し始めると此方を振り返りもせずに美祢子は言った。

「洋一さん!」

何か悪いことをしていて咎められたような響きにはっとした。私から分厚い本を取り上げると膝の上に載せ、仕方なく眺めている私を後目に得意そうにロッキン’チェアを漕いでいる。夫は段々速くなり、薄々感じてはいたが真逆起こるとは夢にも思わず、「あっ」と叫んだ時には既に遅く美祢子はひっくり返った椅子の下敷きになっていた。私は真青になって椅子の下から引摺出した。声を立てないので心配して抱き抱えると美祢子は私の膝の上で急に笑い出した。

「馬っ鹿みたい。だってそうでしょ、大事な話があるのに来てみれば椅子で転んでるんですもの。本当、馬鹿みたい」

美祢子は「馬っ鹿みたい」と2度繰り返した。私は少し美祢子が可哀そうになった。先から下が騒がしくなっていたが、夫に気付いたように美祢子は溜息を付き、そして男を抱き締めた。男の耳元で囁く。

「お願いがあるの」

「何?」

「私個人としては貴方に懸かる負担が大きいので余り勧めたくはないんですけど……。私達結婚すべきですわ」

私は美祢子をちゃんと立たせてやった。そして、服に付いた埃を払ってやった。美祢子を見上げて、申し出に対する答えようとしたとき、美祢子のまなざしに気がついた。瞳の奥に懐かしさを感じた。脳裏に煙に包まれる都市が浮かんだ。そうか、美祢子は10年待っていたんだ。

「君が望むなら…」

私は自分でも知らないうちにそう答えていた。美祢子は大変喜んでいた。そこら中を走り回っていた。

「乳母、乳母……」

10年前、いや、かつて何が…

 

 

U

 

「どうした? 興奮してるようだが」

康夫は何やら机の上で怪しげな基盤を組んでいたが半田ごてを振り回し不意の訪問者を歓迎した。洋一は、降り注ぐ半田の雨を巧みにかわしながら、変わりない旧友に満足そうに言った。

「ちょっとな」

「移住したけりゃいいぞ。戦争は終わったしな」

「結婚する」

「げげ、この前まで『終生結婚はあり得ない』って言ってたおまえが? 一体どういう風の吹きまわしだ」

「自分でもよく分からないんだ」

「真逆……、オトーサンは許しませんよ」

「いや、それは違うが……。まあ、結婚しない理由は二つあった。こんな世の中だから男1人生きていくのがやっとだ。その上もう1人背負込むのは至難の業。背負込んだ所で共倒れが落ちだ」

「相変わらずシビアだな。今の世の中では流行らぬぞ」

「もう1つは、いろいろ考えはあると思うが、オレとしては極力欲を殺したい。判断力が鈍るからな」

「両方とも結婚とは合致しないように思えるが」

「ところが美祢子の場合……」

「はっはっは、逐にあの異国の姫君にいかれたか」

「求婚された」

「いいじゃねェか。どこ探したってあんな上玉いないぜ。しかも惚れられてるんだからな」

「断れぬ」

「いいさ、結婚しろよ。以前も洋一は合宮国での安全を蹴って、東京に戻ってくれたんだからな」

「陽子か」

「悪い悪い。そういう積もりは無かったんだ。年取った所為かな」

「オレは美祢子を守らねばならない。命に換えてもな」

「3DTVの所で命を助けられたんだってな」

「美祢子は私の考えている事の先を実行し得る能力を有している。オレは釈迦の掌で戯れる孫悟空に過ぎない」

「確かに俺らとは違う所がある。しかしそうは見えんがな。まあ何れにしても両国に取っても喜ばしい事だ。友として祝福するぜ。幸せになってくれ。それが東京市を守った総ての者の願いだ」

「幸せ? 俺は仮令いかなる理由があろうとも戦いはしたくない。……(しいて言えば暇請かな? )」

「あの女は何を考えているんだ? 洋一、貴様まさか母国を攻める気じゃなかろうな。あの国の力だと一たまりもない」

「俺が死んだら用心しろよ」

「我々の誰一人を欠いても東京市は守りきらんよ。諦めな」

「滅ぶかね、東京市は」

「ああ、」

「合宮国が?」

「いや、自然にさ。オレラは余りにも多くの物を失くしすぎた。その結果もう進化できなくなっている。オレラの代は新しい芽までつぶしてしまったんだ」

「新しい血を入れろ。東京市は我々だけの物じゃない。東京市だけでも残る」

「守り抜いたの、ムダだったかな」

「そう思うか?」

「そりゃァ悪魔に渡すよりはよかったに違いないが……」

「死んでいった者は何を望んでいると思う」

「東京市が繁栄することだよ」

「そう。姿はどうあれ、なくなっちゃまずいんだよ。それでいいのさ。それが皆のためだ。我々は死ぬが悪魔は死なぬ」

「もし再び悪魔が復活したら?」

「オレや康夫、進、ノブ、スティーブ、みんなの子孫も現れてるだろうさ」

洋一は後で美祢子と二人で遊びに来ると言って帰って行った。頃合を見計らって遺跡人が入って来た。

「少し遅かったなァ。いま洋一が来てたんだぜ」

「知っています」

「んなこったろうと思った」

「で、どうでした」

「惜しい男だったな」

「はい?」

「洋一は1度死んでいる、あの地下道の3DTVの所でな。しかし洋一は東京市を守るには自分が不可欠な事を知っていた。そこで奴さんはあることを実行したんだ」

「何?」

「取引、Mephistophelesと取引したのさ。東京市を守るために」

「全知全能ですか」

「奴さん無くして東京の解放はなかった。分かるだろ」

「しかし、合宮国は悪い国ではありません」

「合宮国はね。奴さんは合宮国と取引したんじゃない。美祢子という女と取引したんだ。第3宮殿、知ってるだろ? 『3』はむこうじゃ不吉な数字だ。黄泉の国を表す。たとえ生きて入ることはあったとしても決して生きて出ることはない」

「確かに洋一さんは亡命できたにも関わらず、合宮国から戦中の東京に帰ってきましたからね」

「奴さんはこれから死ぬまで一生苦しむんだ。そして死んだら天国に行くだろう。まあオレラは逆立ちしても行けないがね」

「美祢子さんは人間でしょう」

「ひょっとするとオレラとは違うのかも知れない。人を導く人かも知れない。ただ創る神がいれば壊す神もいなくちゃならない。彼女は破壊を司る。唯意識の内に封じられていると思うがね」

「さあ、どうですかね。遺国人には分かりかねます」

「彼女にとっちゃオレラを消すのなんてバースデイケイクの蝋燭の火を吹き消すのと同じくらい容易なんだ。姿を変え何百万年も生きてきた。それこそ星の幾千万も消滅を見ている。もはや感情なんて存在しない。宇宙の総量をコントロールしているだけ。増え過ぎないよう、減り過ぎないよう。そして今でもオレラをちゃんと監視している」

「ではなぜ我々を生かしておくのでしょう?」

「洋一の友だから。いずれ消されると思うがね。そしてこのことは洋一に伝えないことが分かっているから」

「いっそ教えてあげたらいかがですか」

「俺はもうこれ以上壊したくはないんだ。信念はどうあれ、2人は愛し合っているんだ。邪魔する権利なんて誰にもない」

「幸せなんですかね?」

「洋一が知らずにいたらね」

「でも……」

「洋一も美祢子も承知の上なんだよ、致命的破滅の到来を。と同時に考えられる最良の道なんだ」

「それで静かに見守ろうってわけですか」

「洋一はもしオレラが死ねばこのからくりを見抜き、この世界を破壊するだろう。もうある程度は気付いているし壊し方も心得ている。洋一は運命を決められるのがいやなんだ。あるがまま、なすがまま、手を加えてはならないと考えている。美祢子はそれを知ってて助けたのさ。あるいはこの世界を破壊するのを望んでいるのかも知れない。出来ないんだよ、美祢子には。自分自身を否定することになるから」

「でも洋一さんはほとんど美祢子さんに首根っこ押さえられているじゃないですか」

「それほどまでして守った東京市に何かがあるってことさ。でもオレラじゃ一生かかっても見つけられないだろうね」

「真理は常に1つ。我々人類、我々生命の歴史を紐解けばやがて分かるでしょう」

「やってみたまえ。オレには解らん。地球の歴史など偶然の産物にすぎん。全く同じ条件でも同じ地球になるときもあればならないときもある。偶然が支配している。例えばコインを投げてみる。表の出る確率は50%だ。確かに回数を増やしていけば表の出た回数は50%に近づく。オレラの判ることはここまでだ。次にどっちが出るかは判らない。1度表が出ても次に裏の出る確率は50%だ。未来は少なくとも2つ以上ある。どうなるかは判からん。予測してみて何通りにか落ち着いたところでどうなるかは偶然が支配している。良い方向に行くか悪い方向に行くかオレラはおろか神にも判らない。それが世界、それが宇宙なんだよ」

 

 

V

 

 合宮国第2宮殿市魔国街在宮魔国大使館内。第106宮港から鏡機構を経て此処へ入れる者1人。

「おいAsahi、何の用だ? 今月はこれで3度目だぜ。ったく人使いの荒い。S.S.とはいえ片道半日以上、燃料だって……」

「ご免なさい。急な用事があったの」

「何だ? 本国でも消滅したか? わっはっは」

「まだ全員そろってないわ。お茶でも飲んで待ってて頂戴」

「要らん。どうも魔国茶は口に合わん、何だ、あの渋みは。どうせ、又、いつもの連中だろ。構わねェからとっとと、始めちめェよ」

「今回はね、私がホステスではないのよ。……」

「よっ、美祢子。客人元気? 華奢だからな、地球人は」

「ええ、お蔭さまで」

「そういやァ、今度うちに火星街ができるぜ。客人んとこだろ? すげェよな」

「少し違うのよ。地球と火星は連邦制をとるけど別々の国よ。歴史も民族も違うわ。それに火星は共和制を布いていて……」

「ややこしいな」

「そうね、小さい所じゃないから」

「おじゃまします」

「あら、Julietさん、久振りね」

「ご無沙汰しておりました。久方振りでございます」

「お元気?」

「はい、旦那様もみんな。こちらもお変わりないようで」

「Asahi、まだか? 一体何が始まるんだ?」

「もう少しよ」

「男の方がいらっしゃらないようですけど?」

「今日はお呼びしてませんのよ」

「わかった。いやしいぞ、Asahi。秘かにうまいものでも食おうってんだな」

「私、土産をもってきましたので皆さんでいただきましょう」

「おっ、気がきくなァ、Juliet。Asahi、お茶お茶、日本茶なっ」

「はいはい、ギョクロね」

 羽ばたく白鳥を型どった菓子を摘み、玉露をすすりながら三管でタルコフスキーの映画を見て寛いでいたが5番目の人物は一向に姿を現さない。日はとっぷりと暮れ、夕食も済んでしまった。Asahiは時折電話したり、表を見に行ったりしていたが遂に第5の人物が来たのは夜が明けてから大分経った時だった。

「すみません。午後便に乗り遅れてしまいして。朝一で来ました」

「ようこそ。お待ちしておりましたわ、陽子。さっ奥へ」

各々挨拶を交わしている。

「おい」

この様子をカウチに踏ん反り返っていた眺めていたが、痺れを切らした奈保子が言った。

「おい、Asahi……

「ではそろそろ……」

書記官が駆けて来てAsahiに耳打ちしている。

「美祢子、洋一さんから電話よ」

「洋一さん? 何うしてここが判ったのかしら?」

「どうするの、 美祢子」

「代わって頂戴」

「洋一だ? そうか、そうだったのか」

「えっ、何ですの?」

「だから……だろ。……で……なわけ。分かる?」

「えェェェェェェェェェ」

「陽子は?」

「うすうすは、はい」

「洋一さん?」

「(康夫たちの所へ行かない? )」

「ちょうどいいわ。私達集まってたのよ。全員集めてこちらへいらしてもらえないかしら」

”O.K.じゃァ、後で”

「これで半日はかせげるわ」

「ひでェ奴」

「もう言う前に分ってると思うけど」

「『洋一と結婚します』だろ?」

「ええ」

「おめでとう、美祢子」

「ありがとう、奈保子、Juliet、陽子。Asahi?」

「時間は沢山あります。もう一度じっくり考えてご覧なさい」

「何でだよ、Asahi? いいじゃねェか。なァ、美祢子」

「10年考えました」

「あの人の事を想いながらね」

「……」

「分からねェな。何でいけねェんだ?」

「美祢子が幸福でなくてもいいのなら」

「一緒に居る事が最高の幸せなのよ」

「洋一さんは知らず知らずのうちに高度の自己保存能力を身につけてたのよ。無意識の内に他人を犠牲にしてでも自己を守ろうとするわ。親、兄弟、子、そして妻であろうとも。彼の中では自分の生が法であり、正義なのよ。時代の落とし子。極限の環境に育った洋一さんに同情はするけど」

「洋一さんはそんな人じゃありません。美祢子さん程じゃありませんけど、一緒に育ったから分かるんです。いつも自分の望みはみんなの後。よく見た事があります、優しそうな表情を、みんなが幸せそうにしてるときに。Asahiさんの言うことが本当だとは思えません」

「Asahiさん、私も陽子さんの言う通りだと思うわ。洋一さんはみんなが嬉しそうにしているとき、微笑んでいるけど、自分はその輪には加わらないの。何故かお分かりかしら」

「感情の欠如」

「なんて事を。その逆よ。心から喜べないの。その場にいない、一緒に喜んでいるはずの人々、未来を守ってくれた、お父さまやお母さまやたくさんの友達がいたことを忘れられないのよ。だからただひたすら輪の中の人達が幸せなのを願って、外から静かに見守っているのよ」

「ご免なさい。美祢子もそうだったわね。そこまで分かってて決めたのなら問題はないけど、勧めたくないな」

「どうして、Asahiさん」

「見殺しにできないからよ」

「真逆、透えるのか? Asahi」

「奈保子、私は敢て何も言わないけど」

「何隠している、Asahi」

「いいのよ、奈保子。私は……でもね、あと2,300年、1人で合宮国代表として暮らすのは耐えがたい事なの。分かって? Asahiさん」

「辞めなさい。そんな心構えなら。さもなければもっと辛い判断を下さなければならない時が訪れるでしょう」

「好きでもない財閥系の伯爵家か、侯爵家で輝かしい戦歴を持ち、学もある欠点のない人を婿に取り、何の不自由も、何の心配もない夢もロマンも冒険もない退屈な人生を歩めというの? 他の姉妹ならともかく、この私に」

「洋一さんが貴女に不釣合いだなんて言ってるんじゃないのよ。よく考えて頂戴。世の中は常に移り変わっているのよ。もうそんな時代ではないのよ。あなたは国の代表なのよ。あなたは民の信認を受けているのよ。あなたがどんな人生を歩んできたか、これから何処へ行こうとしているか知っている積もりよ。だからこそあなたには幸せになって欲しいの。ご免なさい。何度でも謝るわ、お願い。何度でも頼むわ、それで考え直してもらえるなら仮令鬼と呼ばれようとも」

「1度好きになってしまうともう、自分ではどうすることもできないのよ。魂が叫ぶの、『一緒にいたい』って。いろんな人の人生を見聞してきたAsahiさんから見れば、なんていい加減な人生だと思うでしょう。でも私にとってはそれが1番幸せなのよ、仮令身も心もぼろぼろにして、神経すり減らして惨めに死んで行くとしても。このままじゃ死んでも死にきれないわ、それが万人から見ても最良の選択だとしても」

「美祢子、あなたはマーティン王(美祢子の母方の祖父)の言うことしか耳を貸そうとしないようね。いいわ、それでも。でもね、国の代表者として、彼の採った方法が最善であったかは疑問の残る処なのよ」

「祖父の話は持ち出さないで。私も祖父の採った行動についてずっと研究してきました。確かに結果から言ったら、今は祖父の評価は高くないわ。可能ならば、光国時代の同胞を受け入れ、共存を図るべきだったかもしれない。でも、私が当時の代表者であったら、同じ道を採ったでしょうね。これは、魔国首脳部の見解とも一致するはずよ。どっちかと言えば、黄橙銀河調査団は魔国に近かったから。何故だか分かりかしら、Asahiさん」

「常に歴史に最善と言う方法が有り得ないと言うことかしら」

「いいえ、違うわ。祖父のケースでは共存は可能だったのよ」

「美祢子、どういうこと。あなたの祖父は犯罪者になりかねないわよ」

「いいこと、Asahiさん。黄橙銀河調査団は一度宙新星を離れた身よ。そして我々宮国人は全金剛環銀河のために宙新星を守る義務を有するのよ」

「たとえ兄弟であっても信用するなと言うことかしら」

「祖父には見えていたはずです。たとえ一時的には共存ができても近い将来血みどろの内線が勃発するであろうことが」

「そう願っていない者も多くいたはずです」

「私もシミュレートした結果、祖父と同じ結論に達しました。というより合宮国が滅び行く未来が見えるのです」

「机上の空論よ」

「確かに回避できるかも知れません。でも、いくら倫理的であると言っても低い確率の結果を尊重することはできないのです。これは団体の代表者であれば、誰しも冒してはならない不文律です」

「確かに国は気の遠くなるほどの昔から受け継がれてきたものだわ。美祢子は国は代表者のものではないと言いたいのね。未来まで考えて判断しなければならない。代表者は現在はともかく、未来永劫繁栄する方法を採らねばならないと思うわ。私は、美祢子が洋一さんと結婚することが合宮国の未来にとって必ずしも良いものかどうか。疑問だわ」

「合宮国の現在のためと言えば、分かってもらえるかしら」

「私は第2宮歴2200年の戦いで何が起きていたのか分からない。幼かったあなたが何を見たか分からない。私が言いたいのはあなた一人で代表者としても義務を背負い込むのは見ていられないのよ。あなたはもう十分に合宮国に対して尽くしてきたわ。だからもう後は私たちに任せて何不自由なく暮らして欲しいのよ」

「ありがとう、Asahiさん。あなたも見えるのね。第2宮歴2200年の戦いで上野さんが合宮国を救ってくれたときに私は思ったの。宮国人でもない上野さんが合宮国を命をかけて守ってくれた。その時思ったの。『この人に一生尽くそうって』」

「私もお会いしたわ。最高の人間だったと思います。でも残念ながら彼は亡くなったのよ」

「私には分かるの。これから先、私の人生には幸福はないのよ。惨めに死んでいくのよ」

「美祢子あなたは勘違いをしているんじゃない」

「そうかもしれないわね、Asahiさん。でもさっきも言ったように私は合宮国の現在のために最良と思われる選択をしている積もりよ。私だって、他の人のように幸せな家庭を築きたいわよ。薔薇色の人生を選択したいわよ。もし、私が好きでもない財閥系の伯爵家か、侯爵家で輝かしい戦歴を持ち、学のある欠点のない人を婿に取り、何の不自由も、何の心配もない夢もロマンも冒険もない退屈な人生を歩んだら、現在の宙新星上には私以外の宮国人は存在していなかったでしょうね」

「美祢子、あなた達は第2宮歴2200年に何をしたの」

「祖父が自国を滅ぼしてまで、敵に止めを刺したのも、美祢子が伴侶に上野洋一を選ぶのも、同じ考えからとご理解ください」

「美祢子、洋一さんが本当に好きなのね」

「ええ」

「そう? 何も言うことはないわ。唯、美祢子、貴女に洋一さんを殺せるかしら」

「おい、Asahi、いい加減にしろよ。何の権利があって……」

「奈保子は黙ってて。どうなの、美祢子」

「その必要はないわ。私が身代わりになります」

「知ってるでしょ、合宮国で貴女だけは許されないのよ。自ら命を絶つ事は」

「私の身体の中には合宮国の為とは言え、首都を消滅させた祖父の血が流れているのよ」

「洋一さんが望むと思うの? 貴女を愛し始めた時覚悟は決めていたようね。この点においては洋一さんは信頼おけるわ。洋一さんの望む伴侶は目的のためなら表情1つ変えず伴侶に対し引き金を引ける女よ」

「……」

「可能性があるのよ、そのときの来る日が。又は洋一さんがあなたを殺さなければならないかもしれないし」

「私なら喜んで」

「殺せるのね」

「厭」

「あなたの使命はみんなを守る事。判っている筈よ、そのためには少数を犠牲にしなければならない時もあると言う事を。洋一さんも心得ているわ」

「正しくない」

「法を定めねばならぬように、世の中総て正しいと言うわけではないのよ。だからと言ってそこに暮らす罪もない大勢の人達まで巻き添えにしていいと言うの? 人類自体が不完全なのよ。選択肢は限られてくるわ。今はそれが最善。一緒にいれば危険は付きまとうわ。もしあなたを殺さなければならなくなったら、洋一さんは苦しむでしょうね。考えた事ある?苦しむのは貴女丈じゃないのよ。地球人である洋一さんは貴女以上に苦しむでしょうね。どういう事かお解り?」

「ふふふ、精神が崩壊するでしょうね。屹度」

「あなた知ってて……」

「その前に償いはしてあると思うわ。我命で」

「ふざけないで。洋一さんはともかく、貴女は完全に感情を消去しければならない地位にあるのよ。分かって」

「もし私に感情が存在しなかったら、歴史に残る支配者になっていたでしょうね。独裁、粛清、強制収容所、虐殺、拷問、奴隷制、侵略、……。私に心を呉れたのが洋一さん。仮令殺されようとも殺せるとお思い?」

「殺したら最後、感情は2度と戻らないと?」

「何れにしても国は滅びるでしょう。私が合宮国の代表なら、上野洋一は合宮国の守護神。何方が欠けても合宮国は存在できません。これは私の意見ではないのよ。証明できないけれど、これは真理なのよ。分かって、Asahiさん」

「合宮国の代表も合宮国の守護神も代われるのなら私が代わってあげるわ。でもできないの。守護神を欠いたら新たに探せばいいわ。でもね、代表を欠いたら合宮国は存在できないのよ。分かって、美祢子」

「……」

「………………………………………………!」

「……」

「………………………。……………………………………………………………、………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

「……」

「……………………………………?」

「……」

「…………!! ……、………………!」

「……」

「……………………………………?」

「……」

「???、聞いてるの、美祢子」

「……はい、お姉様」

「???」

「最悪の場合、私が洋一さんを殺せばいいんでしょ。そして新たな洋一を捜せば」

「美祢子、貴女はもう子どもではないのよ」

「有り難う、お姉様。心配してくれて。本当はすごく恐いの。だけど義務はちゃんと行わなければ、ねっ。そうでしょ、お姉様。はっきりそうだと言って」

「みね……」

「身を挺してでも……。でもそれも駄目なら……」

「……」

「子どもみたいに何日も泣き叫んで拒絶するでしょうね、きっと。でも最後は私が引き金を引く事になるでしょう。そう、喜んで引きましょう。それでみんなが幸福であるのなら、それで世界が平和であるのなら」

 

(以下、省略可)

「私は洋一さん同様喜んで私心を捨てましょう。その後お姉様、私も一緒に殺してくださいな。そして一緒に第3宮庭に眠らせて。多分、もう正気じゃないと思うから」

「美祢子!」

「私、洋一さんがいたから今まで生きて来れたのよ。もう洋一さんのいない日々なんて考えられないわ。お願い……」

「いいぜ。但し、美祢子だけ死ぬような事があれば、オレは洋一を殺すぜ」

「美祢子さんに賛成です。素敵なことですわ、別の世界の人と結ばれるなんて」

「少しうらやましいわ。余ったら私がもらおうと思っていたのに」

「いかが? お姉様」

「覚悟はできているのね。なら可いでしょう。何処までも付いて行きなさい。美祢子の幸せを祈っています」

「ありがとう、お姉様」

「……」

「?」

序に続く

 

 

W

 

(以下、他編に分割化)

「Doctor貝原、いらっしゃいませんかァ。参ったなァ、また実験室内で遭難しちゃうよ。Doctor貝原」

もうみんな集っている頃だ。美祢子怒ってるだろうな。ん? 美祢子は怒るのかな? 見た事はないぞ。聞いた事もないし……。

 はて、何だろう。向こうの部屋が赤く点滅している様だが。2度資材に足を取られながら、何とか歩いていくと、隣の部屋は航空機の整備場の様に広かった。何時も来ていた所は事務所か受付位の所だったらしい。遠くのジェネレイタの様な物から光が発している。「実験中か」。ふと手元の赤ランプを見て仰天した。「EMERGENCY!」。一目散に逃げる。他人所ではない。Doctor貝原には自分の実験には自分で責任を取って戴こう。しかし思う様には逃げられない。「拙いなァ」。後から後から白衣の研究員が追い抜いて行く。最後尾から必死に怒鳴っている者がある。

「逃げるな!どうせ間にあわん。引き返して溶融を食い止めろ」

そんなお人好しな科学者などいる訳がない。まさかと思って振り返ってみると案の定首謀者だ。

「Doctor貝原、折り入ってご相談したい事が……」

「おお洋一君、いいところに来た。あのタンク上部のボタン押せないか」

「あれ? ひょっとしたら、反物質貯蔵タンクじゃないですか。やだなァ」

「押せるのか、押せないのか、どっちじゃ? わしも暫く魔国に身を隠すか」

「距離1km、熱で陽炎あり。20分もあれば」

「あと15分15秒じゃ。第6衛星が消滅する。じゃあ、洋一君達者でな」

「待って下さい。まだできぬとは言っていませんよ。単発式の銃ありますか。ここからじゃ遠いな」

「おおい、直樹君、拳銃あるか?」

「20口径でしたら、はい」

「洋一君?」

「洋一君!」

「洋一、まだか。もう逃げきれんぞ」

「あわてんでください。最悪タンク諸ともやります」

「うわァ、大事なデータが」

「あと48秒です。外壁融け始めました」

”パン”

「命中。残り2つ」

”パン”

「あと20秒です」

「いや、あと23秒だ。燃料の流入量が減っている」

「下がって下さい。気温上昇と放射熱が激しく……」

「お構いなく。Doctor貝原、銃をもう1丁」

「直……」

「はい、洋一さん」

「こっからが難しいところです。十億分の一秒程度炉を開放します。人間にどのくらいの影響が出ますか」

「問題ない。自然のレベルだ」

”パン”

「あれ、空包じゃないか」

「弾切れ? そんなはずはない。確か今朝わしが点検したときには8発ちゃんと」

「まあ良い。1つぐらいなら何とか成る」

洋一は袖から小さなナイフを取り出し、素早く放った。ナイフは寸分違わずボタンの中心を捉えていた。

「時間です」

「炉の燃料は?」

「まだ多少残っていますがほとんど空です」

「誰か機械に残っている様ですが」

「いるはずはない。ここの連中は先刻君が見た通りだ。今ごろは106宇宙港から船に乗っている頃だ」

「本星に影響は」

「時間から計算すると魔国領に灰が」

「所長、変です。反応が急激に下がっています。もう通常レベルです。こんなに早い筈は」

「Doctor貝原、データを取り出すまでにどの位かかりますか」

「半日もあれば」

「じゃあ、1番重要なのだけ回収して下さい」

「ああっ、何をする」

洋一は炉にめがけてレイザを撃ち込んでいる。コンピュータから何まで滅茶々々になった。すぐさま燃料に火が回った。

「Doctor貝原、資料は?」

「洋一!貴様」

「直樹くん、どう?」

「はい、大体は」

「じゃあ、お客が来る前にずらかりましょう」

「客だ? 聞いてないぞ」

「Doctor貝原、趣味で反物質炉を造るのは自由ですが、管理はしっかりしないと」

「全鏡港閉鎖」

3人は第3宮殿に降り立った。何もなかったかの様に静かだ。ここ丈は何が起ころうとも不変である。

「折り入ってご相談したい事がありまして」

「聞く耳もたぬわ」

「私が何かDoctor貝原に悪い事でもしましたっけ、ねェ、直樹くん」

「とんでもない。宙新星の危機を救ったばかりでなく、揉め事も未然に防いでますし」

「あれはわしの研究じゃないのだ。9割方完成していた」

「すいませんでした。しかし命があった丈儲けものです。ダージリンティでも飲んで気を晴らして下さい」

「そうだな、次は高エナジを1点に封じ込める研究でもするか」

「これは、これは。まァ、お久しゅうございます、Doctor貝原」

「ああ、ばあさんも元気で何より」

「あれ、アリスさん、美祢子さんは?」

「まだ戻っておりませんが」

 

 

第二宮殿魔国代理店

「美祢子、洋一さんからよ」

「また? 何かしら。”はい、美祢子です”」

”奈保子さん居る?”

”いるけど”

”代わって”

「奈保子によ」

”康夫がやられたのか?”

”違う違う、合宮国の国防問題”

”?”

”SS持ってきてないかな”

”106宇宙港にあるぜ”

”何積んでる?”

”何も”

”えっ”

”美祢子のせいで宙新星には武装して入れねェんだよ”

”美祢子さんに宙新星付近で武装してある艦はいないか聞いて下さい”

「だとさ、美祢子」

”ある訳ないじゃない。貴方一体何考えてるの”

”堅い事言いなさんな。威嚇なら問題なかろう”

”それ以上言うと戦争挑発行為として貴方を処罰しなければなりません”

”失礼しました。どうかしてました。ちょっと貴女の部屋で休みます”

”待って……”

「何だって?」

「武器を欲しがっていたわ」

「放って置きなさい。貴女に助けを求めるまでは」

「そうそう、それより宴会の支度でも」

 

 

「第一宮殿通信局からです」

「繋いでくれ」

「洋一様へ深宇宙より通信が入っておりますが」

「繋いでくれ。それから私への通信とここからの通信はダイレクトにしてくれ」

「かしこまりました」

「洋一だ」

「よォ、おれだ」

「時生か?」

「久振りだな。元気そうで何よりだ」

「一寸今手が離せない。後で挨拶に伺うから勘弁しろ」

「暇そうだな。そっちへ行くから待ってろ」

「ったく。第1宮殿通信局、位置を確認できるか?」

「αβ星の方向です。真直宙新星に向かっています。距離はかなりあります。おそらく1千万宙心星a.u.以上かと」

「Thanks. ジャンク屋は……」

「へい、毎度。大和整備だす」

「洋一だ。艦余ってないか」

「これはこれは洋一様、お急ぎのようですが、何隻ほど?」

「できれば軍艦が好い」

「400隻入荷の話がありましたが未だ入っておりやせん。注文を受けて待っているんすが」

「1隻もない?」

「申し訳ございやせん」

「第1宮殿情報局より、合宮太陽方向第1防衛ラインに艦隊確認」

「何処の国だ?」

「識別不明。1300隻居ます。全部戦艦か巡洋艦級です」

「第1次警戒態勢を取れ。最悪上野洋一の名で発砲する」

「合宮国を攻めるには少なすぎるな。攻めるとしてもこいつはダミだろう」

「康夫。何時の間に」

「何、ちょいと第1宮殿の通信をモニタしてたらな、武器だ、戦艦だ、騒がしくてな。ゆっくり昼寝もさせてくれねェ。A-SHIPで来てる」

「助かった。手持ちは全部美祢子の管理下にあって動かせん」

「第1宮殿情報局より、絶対防衛ライン内北極上空に超大型輸送艦8隻、中型戦闘空母1隻出現第6衛星に進行中」

「おお、来た来た。そっちのグループに避難勧告をしてやれ、第6衛星が爆発炎上中だと」

「おい、待て、洋一。宙新星が丸腰じゃないか」

「あわてなさんな。第1宮殿通信局、大艦隊の方を呼び出せないか」

「第1宮殿情報局です。艦隊は第2宮殿防衛ラインを横切ります。宙新星領通過の模様です。……1隻上陸艇が第3宮殿に向かっています」

「放っとけ」

「第1宮殿情報局です。指令、大変です。第6衛星が盗まれます。大型輸送艦から牽引ビームで、ワープ中です」

「あーあ、何うするんだよ、洋一。もう間に合わないぜ」

「げっ、ばれてたか。Doctor貝原行きますよ。康夫、後はよろしく頼む」

「鏡港解除。ワープ終了までに機密を全て回収する」

「待て、直樹、済まんが魔国の情報局を呼び出してくれ」

「771780786792795800813825847863の貝原だ。扉港がワープに耐えられるか計算してくれ」

「問題ありません。艦船だと第6衛星の質量で10光年しかワープできません。ただ北極方面にワープするとしたらX12のブラックホールに捕まります」

「洋一様、表に軍人がいらしてます。お会いしたいそうですが、……名も名乗らないのですよ」

「其奴は強者だな。ああ、先刻の艦隊の。じゃあ、Doctor貝原、後はお願いします」

「ほんとに忙しそうだな」

「なんだ、時生か。あの大艦隊は」

「何だはないもんだ。最重要機密を丸腰にして」

「知ってたんか、今内部からばらして回収している所だ」

「まじかよ、自殺行為だ。ワープ後まで中止しろ。連中のは輸送用だから宮国人はショック死しかねん」

「いっそ全艦沈めちまうか、この際」

「相変わらず乱暴だなァ、洋一は。何処にワープするか解からんぞ」

「何者だ奴等は。金剛環銀河の者じゃなさそうだな。知ってたらこんなおっかねェ真似はしまい」

「金剛環銀河は周りに約20の銀河を従えている。その7番目が内の銀河、緑青銀河だ。11番目の銀河、黄燈銀河が連中の銀河だ。金剛環銀河を合宮国が管理してる様に我々も各銀河を管理している。勿論それぞれの方法で。所が20000年前この二つの銀河が衝突した。我々は20000年間戦っているわけだ。未だ後30000年しないと離れない」

「しかし反物質炉なんざ、何処にでも転がっていそうなもんだがな」

「みんな満足に動きゃしないさ。ゆっくり反応してくれない。おまけに++、−−でも引き合うから貯蔵のしようがない」

「エナジが欲しくば他にもあろう。例えば、物質を潰したり」

「宙新星よりでかくなる。装置がでかすぎて自分ではワープできない」

「そんなにジェネレイタが欲しいかね」

「銀河が支配できる」

「支配してどうなる」

「富が手にはいる」

(大規模変更中 CF NO,20 P.50)

「汗水垂らして得るのが富だ。百歩譲って、まあ可いとしよう。だが、楽して育った奴が優秀だと思うか。阿呆が人の上に立つと悲惨だぜ、人民は。できない事はないんだ、彼らには。しちゃいけない事もない。正常な者は此処らで気が狂う。ところが、初めから狂っている奴は自分が神に思えてくる。いや思ってるんだ。生まれたとき既に。自分以外は全て泥人形に見えてくる。刺激を欲する。しかし何でも手にはいる身分だ。普通の事では興奮を感じる事はない」

「拷問とか強姦ぐらいだったら未だ可愛い方だね。生物を創り出しそうとする。人体実験だ。科学者がDNAで遊んでるのと一緒。誰しも欲望がある。こうなったらもう末期症状だ。文明の行きつく先だ。星もろとも消滅する」

「人間には力を与えてはならないのだ」

「しかし、星と共に消滅してくれない者も現れた」

「スペースエイジか」

「人類は既に一人立ちした。再び大地に根を下ろす事はない。太古、生命は陸に上がった。其処は重力のあるとても住める所ではなかった。しかし或る者は困難に打ち勝って獲得した。その中で1番重要な物は何だとおもう?」

「生き残った事だろ」

「いや、生き残りたいなら水上に上がる事なんてナンセンスだ。彼らは賢くなったんだ。順応する能力を身につけからだ。楽な環境に対して進化など起ころう筈もない。斯くして陸上の王者は星を支配する事になる。しかし此奴は、環境に順応しようとはしなかった。順応するには膨大な時間がかかる。だから環境を変える事に気がついた。スペースエイジも真の支配者になるには未だ時間が必要だという事さ」

「しかし何の道宇宙に出ない訳にはいかんだろう」

「まだまだ苦労しなきゃならんだろうね。神は生物に環境という苦難を与えた。人に与えた物は戦争じゃないかと思うんだ。知恵と引き換えに欲望をね」

「心の進歩を待つか」

「ふふふ、金剛環銀河はそれでも可い。しかし緑青銀河はそうはいかん。先ず、目の前に立ちふさがる敵を倒さねばならない」

「本星は大丈夫だろうな、1300隻も引き連れてきて」

「心配入らぬ。最新鋭の防御システムを導入した。完璧だ」

「完璧? そんな物はない。曾て……」

「EDSだ」

「そりゃ拙い。1度陥落している」

「い?」

「合宮国の現役だよ。どこからもれたんだか」

「大丈夫だろ、お前ん所で使ってるんなら」

「地球にはない。技術も金もない」

「合宮国だよ。お前宮国人だろ」

「忘れてた。帰化したんだ。元は地球人だ。今は合宮国に居候している」

「地球? こっからブラックホール5,6個通過しないと行けない辺境の?」

「そうだ。火星国って知らないか」

「知ってる。魔国の近くにある小さい国だろ。内にも火星街がある。コンビニもどきの」

「火星国は地球連邦の1員だ。100年ほど前、移住した隣の惑星が火星なんだ」

「えっ? 何で? 金剛環銀河所か緑青銀河にも黄橙銀河にもあるぜ。膨大な経済力を有し、各支店長は魔国人と聞いているが」

「詳しくは知らぬがな。遺国は知らないか」

「知らぬ」

「帝人国は」

「知ってる。報道の会社だろ。耳が尖ってるマークの」

「星人は違うが遺国は現在、地球に本部がある。帝人国は魔国での国名だ。何れ此2国が頭角を表してくる。魔国は既に衰退してるし、合宮国にかつての面影はない。地球は自然開発を放棄している」

「ゆゆしき問題だな」

「そのうち緑青銀河もこうなる。俺個人としては、もう是以上地球や宙新星が悪用されないで済むから歓迎している」

「いたか、洋一……」

「何だ、貴様。会談中だぞ、無礼な」

「あん? てめェこそ誰に喧嘩売ってると思ってんだ」

「康夫、丁度良かった。みんな集めてくれ。紹介しよう、緑青銀河の時生だ。何かあったら頼めばいい。時生、こいつが康夫だ。宜しくやってくれ」

「洋一、他人に泣き付けって言うのか。特にこんな野郎に」

「何も厭ならやらなきゃ可いじゃねェか、なあ洋一。こっちだってお断りだぜ」

「やかましい、黙って言う事聞けねェのか。ガキじゃねェんだから。頼むぜ、2人とも」

「何でこんな奴と^2」

「時生ん所も頭揃えろよ、2人とも仲良くやれ、いいな」

「ふん^2」

「何れ協力しなきゃならぬ時が来る。その時はもう俺はいないと思うがね。宜しくな」

「御前が死ぬ?^2 そんな筈はない^2」

「そう思うよな、やっぱり^2」

「うん^2」

「そんなに不思議か? それならもう少し教えてやろう。俺は40前にこの世を去る。何時、何処で、何故かは知らないが」

「何故分る?」

「美祢子は知っている」

「あの女か、2,3回会った事がある。あの女丈は何を考えているか解らぬ。考えを実行するに当たっては、人民、家族、更には自分をも殺しかねぬ。そして……」

「……」

「ほんと、そりゃァいい女だけどよ、あんなの俺だったら絶対貰わぬ。内心びっくりした」

「えっ、洋一、結婚してたの?」

「未だだが、直ぐに行われるだろう」

「これは驚き、冗談だったら最高なんだがな。1つ教えて置いて遣ろう。彼女は自分じゃ知らないだろうが、今の家族は皆他人なんだ」

「何っ!」

「止めろ、洋一。時生が悪い訳じゃない」

「待て、気を鎮めろ。此奴の中には悪魔でも住んでるんじゃなかろうか」

「済まなかった。続けて呉れ」

「……」

「お姫様も恐いが、此奴もすごいぜ。なにせ、殆ど1人で地球を救っちまったんだからな」

「じゃあ、東京市は俺の物か」

「其は助かるわ」

「茶化すな」

「第1宮殿通信局から、洋一様へ、魔国から何事か、との問い合わせが入っておりますが」

「ええい、要らぬ時ばかり。回してくれ」

「ご緩っくり」

 

 

X

 

「今から10年前、地球の人口は1000億人を超えてな。温暖化でアマゾンを水没させたばかりか殆どの穀倉地帯が気候変動により砂漠化した。困ったシビリアンコントローラは地球連邦と言う枠組みを発足させ、人口的に戦争を始めた。後世に残るべき人に火星を開拓させ、自分達は地球軌道上の人口衛星を操り、地球に対し、宣戦布告した。此後世に残るべき人々の国が今の火星国だ。結果は始める前に既に判っていた。生身の人間と機械のロボットが戦って、人間が勝てる筈はない。地球連邦のバックには資本家がいた。武器でも、宇宙船でも、ロボットでも、コンピュータでも何でもあった。彼らの計算では2104年、合宮暦で2304年には地上から人類は絶滅する筈だった。事実残った人類の99.99%は消滅していた。所が一つ丈、落ちそうでなかなか落ちない都市があった。それが東京市だ。此処では大型のロボットより小回りの効く人間が有利だった。地震の多い日本では地上より地下の方が発達していたからだ。特に核戦争の恐れのあった20世紀の構造物は生半可な造りではなかった。何度爆撃したところで地上の建造物は破壊できても、地下の構造物はびくともしなかった。味方の裏切りもあって、都市を消失させ得るレイザ砲を備えた第2戦闘衛星キングダムが落ちた。打つ手を失った彼らは東京市に小型のロボットを展開させたが、これが裏目となって、地上の基地を占領される。怒れる東京解放天国宇宙軍は人口衛星リバティーに向かった。彼らもまさか攻めて来るとは思ってなかったろう。降伏を呼びかける地球人に対し、愚かにも自滅した。俺は洋一は神か悪魔に見える。他の連中もそう思っている」

「そんなの嘘々」

「事実あんなに実力のある火星も地球には攻めてこない。恐いからね、洋一は」

「しかし、奴が死ぬとなると一体理由は何だ」

「俺も考えていたんだが、これから先、金剛環銀河は戦いが減る方向にある。天の川銀河にしてもそうだ。とすると、過去の大戦と云えば、地球の宇宙戦争なんか小さ過ぎるすぎるし、ダイル共和国時代を除いて合宮国は魔国とは戦っていないし、更に此奴は合宮国とお姫様を守らないといけないから」

「2200年の戦いか」

「だろうな。なにせ、500万からの連合艦隊が影もなく消え去っちまったんだからな」

「嘗て宙新星では戦争が絶えなかった。文明が生まれた当初から言われていた言い伝えによれば、宙新星は光を操る。代々光、つまりエナジの事だと思うが、を操る一族が居たらしい。つまり宙新星を手に入れると金剛環銀河所か全宇宙を支配できる」

「美祢子さんはその子孫だと言うのか?」

「さあな。各銀河に同じ様な言い伝えがある。恐らく天の川銀河にもあるはずだ。光と影が1つになるとき新しい宇宙が生まれる。この光は宙新星又は合宮国を示している。影は定説では、魔国だが、今話してて気がついた。この光と影は、星とか国を表しているのではなくてある人物の出現を予言しているのではないかと」

「つまり美祢子と洋一か」

「だから俺らは既に新しい宇宙に住んでいるのかも知れないんだ」

 

 

「俺は決して人を殺さないと誓ったが、べらべらしゃべる男なんて物は人間じゃないと思っている」

「まあまあ、怒りなさんな。婚礼を控えた奴に傷でも付けようもんなら何言われるか解ったもんじゃない」

「未だ言うか」

「後にしないか、洋一。連中のワープが終了したぞ」

「Doctor貝原、自動防御システムが作動している様に見せ掛けて下さい。直樹くん、時間を稼いでる内に機器の破壊を」

「もう破壊する必要はありませんよ。向こうは時間が動いていません。一兆分の一です。連中はワープに失敗してブラックホールに落ちたんでしょう。気付いて戻ってくるにも最低1000000年は費かるでしょう」

「じゃあ、美祢子にばれない様に第6衛星でも捜して来よう。そうそう、時生、今度合宮国に来る時は武装してくるなよ」

「其がなかなか……。しかし何で?」

「美祢子が怒る」

「怒る?」

「知らないんだな、時生は。恐いの何の、なあ何時も被害者の洋一君」

「誰の所為で何時も俺が怒られるか、知ってるか?」

「じゃあ、俺は第6衛星探さにゃならんから是で」

「まあ、待てよ、康夫。さて、火星のネットワークが最高なんだが、彼女達、集って何やら相談事してるみたいだから、」

「遺国か?」

「パンパカパーン」

「しかし、今起きてるかな? 夕方にならないと」

「なに、構うもんか、入り口で騒げば出てくるさ」

「時生はもう帰って可いぞ」

「何だ、折角遊びに来て遣ったのにあんまりじゃねェか?」

「黄橙銀河の八番目の手の外から五分の一の所に連中の母星がある。衛星をワープさせる軍艦となると銀河にも数える程しかない筈、連中も1か8かの賭に出たんだ、連中の戦力はもうないも同然と考えていい。行って和平条約を結んでこい」

「Thanks! 一気に叩き潰してくれよう」

「貴様は抵抗する意思のない者も殺すのか」

「分った、分った。話の出来る者を2,3人連れて来よう」

「頼んだぞ」

「さあ、康夫、東京市に行って遺跡人を叩き起こそう」

 

 

「おい、洋一、遺国って昼間営業だっけ?」

「あれ、ほんとだ。ビアガーデンみたいだな。チケット売り場があるぞ」

「やあ、今日は、此処は遺国かな?」

「遺国へようこそ、歓迎いたします」

「洋一、俺初めて遺国の女性見た。美人だなァ」

「うん、其に耳が尖ってない。丸でミロのビーナスみたいだな」

「ねェねェ、何で女の子は耳が丸いの? ほら、男は尖ってるでしょ」

「そうだからとしか言えませんわ、もしかすると、昔区別の為に切り落としていたのかも知れません」

「でもみんなおんなじ顔してるな、洋一」

「いいえ、違います。他国人にはそう見えるかもしれませんが私達はちゃんと見分けられます」

「所で、遺跡人に会いたいんだが」

「目の前に居る私も遺国人ですわ」

「そりゃあ嬉しいんだけどね、残念ながら人違い。……」

「名前をおっしゃって戴けませんとお捜ししかねます」

「加藤康夫と上野洋一」

「はっはっは、面白いでしょ、此奴。分る? あんたに好意持ってるんだよ。(おい、康夫、お前心全部表情から読まれてるぞ)」

「勿論、私もですわ。失礼ですが、お二人の来遺記念に撮影したいのですが」

「ポーズ取ればいいのかな」

「洋一よりもかっこ良く撮ってくれ」

「そのままで結構ですよ。……で其の捜しておられる方の名前は?」

「おい、洋一、遺跡人に名前有ったんか? 聞いた事あるか?」

「ない」

「失礼ですね、仮令、地の底に住もうとも私達はちゃんとした名前を持っています」

「ごめんね。侮辱してる積もりはないんだ。唯、俺等の友は名乗らないんだ、何故か知らないけど。まあ、地球人と付き合ってる遺国人は数える程しか居ないと思うけど」

「その方でしたら、私知っておりますわ。クワトロ・クレバナ・クッカ・クラナラ−クロッチ=クローナ様ですわ。今お捜しいたします。私は、テレレ・菜・カナール・テロリ−テンです」

「100回聞いても覚えれんな。道理で名乗らない筈だ。何うだ、康夫、覚えたか?」

「クウ・クウトキ・クエバ・クエ・クイタイ・クイマス・クッタ・クオウか?」

「クワトロは成人して自分で名乗る名です。クワトロは多くありませんが、飛ぶ鳥という名の地名です。クレバナは親が付けた名で、大きいと言う意味です。クッカはミネルバ教(遺国は光国時代、母星ミネルバを内戦で喪失。以来、金剛環銀河に放浪の旅に出ている。地球にいるのはミネルバ・ゴート・東ガニメデ共和国連邦を構成していた新ミネルバ共和国。非暴力を教えとするミネルバ教は戦後に国教とされた)の洗礼名で太子を意味します」

「遺跡人は王子なのか」

「いえ、男子は大抵太子か将軍か博士になります。クラナラ−クロッチが父と祖父の自称名です。雄大、逍遥を意味します。クローナは妻の自称名で、護という意味です」

「奴さん、結婚していたのか」

「現在、結婚しているかどうかは分かりません。クローナさんとの間に子どもがいることを意味します。正式な氏名は、更に頭に地位と役職が付します。クワトロ・クレバナ・クッカ・クラナラ−クロッチ=クローナ様は、本当なら外務大臣と同等の権利を持つ、国際交易関係T群を名乗れるのですが、登録はされていません」

「ありがとう。そういえば、遺国のデイタベイスは銀河一でしょ」

「火星国のと同規模ですわ」

「ちょっと調べてくれないかな。加藤康夫という男を」

「お易いご用ですわ」

「分りっこないさ」

「名前:加藤康夫。年齢:27歳?、独身。国籍:地球国際連邦および火星共和国共同体、日本人。出生地:東京市?。両親:不明。現在東京市在住。連絡先:東京市1-1-1東京城1024。前東京大統領。元東京解放天国12人委員の生存する5名の内の1人、故パルチザン352部隊所属。合宮国、魔国も含め、10大軍神に数えられる……」

「ほう、良く調べてある」

「やめろ、プライヴァシの侵害だ」

「みんな知ってるよ、それぐらい」

「ほう、じゃあ、遺国では、上野洋一という男は、何う評価されているのか知りたいものだな」

「よろしいのですか?」

「別に構わんよ。どこも疚しい所はないからね」

「そうだな。別に俺には誰が何処の国のお姫様と結婚しようが関係ないもんな」

「あっ、馬鹿っ」

「名前:上野洋一。該当無し? そんな筈はないのですが……。済みません。すぐに検索し直します」

「いいよ、無駄な時間を割かなくても。それより、遺跡人は?」

「やりやがったな、洋一」

「さあ? コンピュータに故障は付物だからね」

「あの、康夫様...」

「はい」

「正式に貴方に結婚を申し込みたいのですが」

「はい?」

「あっはっは、羨ましいねえ、康夫」

「嬉しいんだけど、付き合ってる人がいるんで」

「では子種だけでも戴きたいのですが」

「はあ」

「テレレさん、ひょっとして遺国では極普通の行為なのかな」

「はい。優秀な子孫を残そうとするのは自然なことではないですか」

「遺国はやっぱり変わった国だ」

「私たちから見れば、快楽を得るためだけに性行為を行う地球人が理解できませんわ」

「確かに言われてみればそうだな」

「洋一、お前だってお姫様に手を付けちゃったらしいじゃないか」

「手を付けただなんて、俺はただ、抱きしめてキスしただけだ...」

「悪い、テレレさん、その件は勘弁してくれ」

「残念ですわ。加藤様は私の理想の方なのですが」

「ありがとう。遺人の君としては納得行かないだろうが、許してくれ。遺跡人にでも聞いてもらえれば、地球人が分かると思うよ」

「クワトロ様は留守の様です。魔国へ出張中とANSWERING MATHINEが回答しています」

「Romeoの所だな。TELある?」

「公衆電話でしたら、あちらに」

「おい、洋一、いい加減に...」

「じゃあ、康夫、TEL宜しく」

「へいへい」

「テレレさん、序にDBで調べてもらえないかな?」

「何でしょう」

「宙新星近くの半径10km、3.9-4.1kg/cm^3程度の小惑星。球に近いと猶良い」

「少々お待ちを……。『一体何うしたんですか?』」

「え? 美祢子っ!」

「はい?」

「いや、失礼。貴女の声が余りに知人に似ていたものですから。少し疲れているんですね。合宮国の第6衛星を盗まれてしまったんですよ。取り返そうにもブラックホールの中にあるんです。もめ事を起こすと又酷い目に合いますから」

「美祢子様というと、あの合宮国の第2王女の美祢子様ですか? なら多分大丈夫でしょう。あの方が気付いていない筈がありませんから。あの方は宮国人には珍しく、私達と同じ力を持っています。目を瞑っていても物を見ることができます。時々我々の脳波周波数が混じる事があります。其で、黙っているのであれば、其は認めているのでしょう」

「ありがとう、気休めにしちゃ、気が利いてるな」

「所で、先程ちらっと貴方と合宮国の美祢子姫の関係に付いて耳にしたのですが」

「え、何」

「美祢子姫とご関係についてお聞きしたいのですが」

「はい、良く聞き取れなかったんですが」

「近々美祢子姫とご結婚のご予定だとか」

「止めて下さいよ、ワイドショーみたいのは」

「でも、この手の情報は引き合いが止まないのです」

「参ったなァ。DBも使わせて貰ったしな。じゃあ、美祢子さんが許可したら、婚約したと報道してもらって結構です」

「ご結婚は何時なのですか?」

「分らない。したい気もするし、このままでもいいような気もする。今度のも婚約なのか、結婚なのかも分らない。俺自身? 何うなのかな? 元々自分は考えない事にしているから。唯、美祢子さんが望めばそれが1番良いと思う。所が美祢子さんは何か使命があるらしくて、自分の事を考えている暇はありそうもない。俺は合宮国にとっては他所者だけど、がんばってる人を見たら応援したい、仮令それが関係なくても。人に意見など述べれる立場にはいないが、1言丈言わせてもらえるなら、女の子はもっと自分の幸せを考えなさい。それでいいんです」

「良い旦那様ですね」

「...ちょっと待った、テレレさん」

「はい」

「はいじゃないよ、これLIVEだろ。まずいよ、破滅だ」

「大丈夫ですわ。ちゃんと姫の許可は得ていますので」

「きったねェー」

「やあ、洋一。貴方にこんな面があるとは思いませんでした」

「遺跡人、魔国じゃないのか」

「Romeoとはすぐに話が着きました。帝星の借地契約の延長に就いて」

「洋一、あれ? もう戻ってきたのか、遺跡人。やけに早いな。又どこかに抜け穴でも掘ったな、土竜族」

「興かったですよ」

「これだから遺国人は好きになれねェんだよな」

「洋一様、小惑星は、宙新星からメガロ星の方向に10宙心星a.u.の所に一つあります」

「近過ぎるよ。それ捕ったら一目でばれちゃうよ」

「あとは、第17惑星イドゥの外側、宙新星から約100宙心星a.u.の所に1000個程」

「地球の輸送艦はその辺にいないよな」

「当然、通り難い所に航路は作らんわな」

「話は魔国で総てモニタさせて戴きました。その話なら、第3宮殿に行きながらでも……」

「イドゥの外まで往復で2日はかかるぜ。美祢子さん達、そんなにかかるような話でもなさそうだしな。それに呼ばれてるんだろ、洋一」

「ああ、みんなにも来てもらいたいそうだ」

「今回パス。後は洋一にお任せして、俺らは火星に温泉旅行に出かけますか。遺跡人」

「小惑星でしたら、ちょうどうちの第92宇宙ドック用に...」

「ちょっと待て、遺跡人。第92番とはなんだ」

「康夫は知らぬのか。遺国は国防上の問題から自国の船は自国で設計、製造、修理するんだ」

「火星国の量産型を使ったほうが燃費もいいし、安上がりじゃないか」

「だから国防上の問題と言っただろ。火星国の輸送船は側が華奢なんだよ。代わりにエンジンじゃ苦労してるみたいだけどな」

「はっはっは。洋一にかかったら機密もなにもないですな」

「しかし、100近いドックを持っている処なんざ、聞いたことないぞ」

「それでも足りないのです」

「遺国の輸送船は特徴として地上とのアクセスが可能だ。エンジンは高出力型なんだが、消耗が早いんだよ。保有の4割近くが常時ドックに入ってるはずだ」

「なに、4割だ」

「宇宙駅を持つ星はあまりないので、辺境の星々では我々の貿易は喜ばれるんですよ」

「遺跡人、あの船にあのエンジンは無理だ。奈保子のSSに積めばおもしろいが。船井宇宙船の高効率エンジンに切り変えろ。マッチングに問題は起きないはずだ」

「ライセンス生産可能なら、ぜひ使いたいですね」

「今度、陽子に聞いとくわ」

「宙新星の近く迄小惑星を運んで来ていますからこれをお貸ししましょう」

「合宮国まで何日で?」

「後数時間で衛星軌道に乗ります。でも少々形を削らねばならないでしょう」

「nice、遺跡人」

「しかし、何だな、洋一。この大騒ぎの中、婦人方が沈黙を保っているっつうのは何だか不気味だな。丸で……」

”ZZZZ……”

「敵襲か?」

”UUUU……”

城の北側に黒い大型の宇宙船がめり込んでいた。

「魔国のクリッパーのようですね」

「速そうだな。奈保子さんが黙ってないぜ」

「魔国高速宇宙艇アイダッツン級、目下敵なしの速さだ」

「警戒解除!」

「今日は人手がいると聞きましたので……」

「何だ、Romeo。来るなら来るで一言言ってくれれば良かったのに」

「仕事を片付けるのに手間取りまして、遺跡人の後を追って、スピードスタWで駆けつけました。唯、なれないもんで、その……」

「一難去って又一難か。美祢子さんが見たら何て言うか」

「美祢子は心配いらん、Romeoなら大丈夫だろう。初犯だしな」

「初……!」

「そうそう、元をただせばいつも洋一の所為なんだから」

「あれ? 心外だなァ。人をトラブル・メイカのように」

「確かに、メイカではない様ですが、トラブルはいつもMr.上野の周りで起こりますね」

「Romeo、魔国のネットワークで美祢子さん達、何やってるか分らんか?」

「そうなんですよ。Julietも朝から出掛けたきり、行方も分らないんですよ」

「多分、魔国総代理店だろ。で、何うなんだ?」

「そうなんですか。Asahiさんの所なら安心だ。ほっとしました。……。分りません」

「にこにこしながらこの坊やは。お仕置きしないといかんかねェ」

「あれ、脅されているんですか。康夫さん。では、私もやっと1人前の男と認められるようになったんだなァ。喜ばしい事だ。……。魔国は1000年以上鎖国をしてましたから、そんな便利な代物はないのです。所で先程受信した、信頼できる某放送によると……」

「はっはっは、遺国放送だな」

「らしいねェ。美祢子が……。そうか、遺国のネットワークとつながっている筈だな。Romeo、船の通信機借りるぞ」

「なあ、Romeo、正直言って、今回の結婚、どう思う?」

「どうって、そうですね。現在の合宮国の運営システムは殆ど美祢子さんが造り上げたと言っても過言ではないほど、何処にも彼女の手が入っています。大戦でかなりを失いましたから。そこで彼女は、祖父の記憶を頼りに、合宮国のシステムをたった1人で構築しました。ですから、かつての帝宮を知る者なら、システム維持も可能です。しかし120年前の人間となると、美祢子さんが生存する唯一の人となります。洋一さん、どういう事かお分りですか」

「ごめん、ちょっと聞いてなかった」

「美祢子は一生独身でなければならないという事か」

「その通りです、Doctor貝原。唯一つの条件を除いて」

「それが上野洋一と結婚する事だろ?」

「そうです、洋一」

「なら、問題なかろう」

「40の洋一さんなんですよ、康夫。でないと永久に合宮国のシステムは解明できなくなってしまいます。半分は40歳の洋一の構築によりますから」

「GREAT FORTY」

「何ですか、康夫さん」

「先刻、時生、緑青銀河の洋一の友人だが、が言ってた」

「Romeoの所でどうにかならないかね」

「魔国、遺国、火星、αβ星、東京市何処でも同じです。みんな合宮国を見本にしているのですから。過去に行けると言うのならまだしも」

「しかし魔国は簡単に過去にいける筈ではないのかね、空間を制御できるのだから」

「二千年前からシステムは自動だったんです。合宮国の技術者に調べさせもしましたが、歯が立ちませんでした。現在より400年程進んでいます」

「しかし、別に美祢子は結婚して可いと思うが。なァ、洋一。あんまりにも美祢子が可哀そうだ」

「いっそ、思い切って結婚してみたらいかがですか、洋一。15%は問題ないと思いますよ。しかし後の85%に就いては、宙新星の保証はしかねますが」

「計算できんのかね、遺跡人」

「なに、結婚するかしないかは、美祢子が下すさ、他人が心配するこちゃない。心配しなきゃならんのは、第6衛星が無くなっているのがばれて、俺等が地獄を見る事さ。だろ? 遺跡人」

「先ず、目の前の問題を片付けない事には」

「っうことだ。分ったな」

「じゃァ、終わったら時生ん所にでも遊びに行くべェ」

「どうも、客が来そうだ。済まんが残らせて貰うよ」

「予感ですか?」

「美祢子だろう。今回の事は我々が考えてるより重大な問題を含んでいるらしい」

「分った。こっちは、さっさと片付けるから心配するな。みんな行くべェ」

「Romeo!」

「はい?」

「発進時に森を灰にするなよ」

「ばれてたか」

 

 

 洋一は、わいわいがやがや湖の近くの船に向こう一団を見て呟いた。「さらばだ」。船が飛び立った跡もずっと空を眺めていた。段々と夕日が赤く空を染めて行った。そこへ1人の帝国人が入ってくる。

「反物質炉は?」

「最早回収不能」

「渡した設計図は?」

「総て消失」

「……」

「直樹君から報告は入っているんだろ? 姫」

「この結果が何を意味するか、お分かり?」

「我が命で償おう」

「洋一」

「美祢子」

「あなたは死んではならない人。手を染めさせる訳には参りません」

「あらゆる生命は2つの使命を持つ。自分のクローンである子孫を残さなければならない。これがこの世に生まれてきた目的だ。最も優れた子孫を残す。生き抜いて、戦って勝ち取らなければならない。どんな事をしても生きようとする。これは遺伝子の中に刻まれているからだ。私は君を見つけた。これで目的は達した。我々は子を育て世を託す。もう1つは、自分達の子孫を守らなければならない。どんな事をしても守ろうとする。その為には死も厭わない。死も望む。もう勝つ必要はない。守りさえすれば良い」

「分りました。現在、唯一2200の全宇宙連邦議会に対抗する方法は反物質の反応エナジで降伏させる事でした」

「しかし、彼らは既に炉は持っている。この2つがぶつかり合えば、領域丸事消し兼ねない。彼らは、力を持ち過ぎている。滅亡するにしても100〜1000の銀河が巻き添えになる。宇宙が存在できなくなる。そして総ては再び新しく始まる」

「それで総てが丸く治るのだったら、良いのだけれど、再び同じ事の繰り返しになるわ。恐らく何千億年も前から行われてきた事でしょう」

「しかし、彼らを無傷で宇宙から消し去るのは不可能だ。彼らも宇宙再生の事は知っているだろう。できれば戦いたくないね。皆一緒に暮らすのが1番良い。不可能だろうか」

「彼らは我々の分身なのです。同時に、1つの宇宙には存在できないのです。共に使命を持ちますので引く事はないのです。なかんずく同意したところで、人民は今まで何千年と相手を倒すよう教育されてきた者達ばかりなのです。我々は、大きすぎる力を有する事になります。他国には非常な脅威となります。でも不可能ではないでしょう」

「それには戦争で決着を付けるよりもっと、もっと苦労と努力が必要になる。楽な事はないね」

「しかし、私達はそれが生きがいなのです。そうできているのです。だから私達は今、1番充実してて、1番幸せなのです。働いて、働いて、働いて人生を生きよう。努力して、努力して、努力して未来を切り開こう。苦労して、苦労して、苦労して子ども達を守ろう。命ある限り、最後の血の1滴までも」

「喜んでこの命をあなたに捧げましょう。共に人生を歩みましょう」

「有り難う」

 

 

Y

 

 その2日後、第3宮殿では大騒ぎとなっていた。1人がいいのと言って第3宮殿に行った美祢子を心配して、Asahi達が、先ず探しに来た所へ、第6衛星の擬装が終わった康夫達も駆けつけ、その跡直ぐ、どうやったのか黄橙銀河より使者を4,5人引連れてた時生が来た。

「何、旅行に出掛けた? 追え」

「早いよ、未だ式も終わってないのに」

「何処へ行かれたのですか」

Asahiは沈黙を保っている。これをJulietが不思議そうに見つめた。陽子の問いに乳母は、

「さあ、私も書き置きしか見ておりませんので」

「兎に角、2人を捜しましょう。美祢子さんが乳母にも内緒で出掛けるのですから、余程の事でしょう。私達は第三宮殿で遊んでる暇はありませんよ」

「何処を捜す、遺跡人。行き先が書いてない理由は2つ。我々に来て貰いたくないのか、我々には行けない所か。しかし、我々には行けない所はないのだよ。だから1番目の理由はありえないのだよ、遺跡人」

「あの世?」

「アホ、お前が行け、時生。あるわけないだろう。もし死んで魂が解放されるにしても我々も行く事は可能だろ」

「未来か過去では……」

「いい所に気がついたね、Juliet。もし時間の流れが決まっているとして、我々は四次元の何処にでも行けるのだ」

「時の止りし時、総ての人が滅びる。2201.13.27.私達はこの合宮国には行けない。そこは合宮国に非ず。以前の地上にいた人間は総て魔国人、以後は総て宮国人。その間を生き抜いた者はいない。つまり、現在の魔国人が正式な宙新星人であり、宮国人が、全宇宙連邦議会人ではないか。合宮国が勝利したのではなく。かつての兄弟を迎え入れたのではないか。しかし、2つは激しくぶつかり合い、宇宙を巻き込んで消滅したはずです。現にあんなにあった合宮国の軍事施設や、全宇宙連邦議会の宇宙船の影も形もありません。どうして誰もこんな重要な事を思い出さないのでしょう」

「どういう事なんでしょう、Asahi」

「私達は知ってはならないのです。私達は自分たちの素性を知れば2つは再び銀河を巻き込んで戦争するでしょう。だから、双方の代表が申し合わせたのでしょう、全員の記憶から消去するようにと。この件は永遠に追究してはならないようにと」

「それをやろうとしているのか洋一と美祢子は」

「しかし、もし本当に時間や歴史が元から決まっているとしたら、2人が行う事も既に決まっていたのではないでしょうか。そして、何人もこれを邪魔してはならないのではないでしょうか」

「しかし、2人は此歴史を紐解いてはならない事を知らないはず。正常な判断は下せまい」

「俺は行くぜ。美祢子が決めた事だからな。Asahiはどうする? 何なら乗っけて行くぜ」

「俺も洋一の加勢に行く。康夫は?」

「Asahiさん、時の止る直前に行けば、時の止った合宮国に行けませんか」

 

 

 タイムトラベルの終わった船から外の景色を見ていたRomeoが口を開いた。

「余り現在の合宮国と変わりありませんね」

「都市部はだいぶ今よりも繁栄しているはずよ」

「戦闘機だ、奈保子さん」

「分ってらい。こう数が多いと……弾が切れた」

「奈保子さん、墜落に見せかけて脱出しましょう」

「3機追跡中」

「騒ぐな、Asahi」

「誰か、銃、持ってないですか?」

「何に使うんだ、康夫」

「儂のを使え、康夫。44だ」

「Asahiさん、今マッハいくつですか」

「.56かしら」

「ちょっとうるさい蝿を落としてきます」

「止めろ、康夫、死ぬぞ。拳銃で航空機が落とせるか」

「TRY&ERROR!」

「しょうがねェなァ、こんなんばっかなんだから、洋一の友は」

「うひょー寒いわ。時生伏せてろ、狙い打されるぞ。あらら、俺、この型の航空機始めてだわ。時生、コックピット何処だ?」

「ったく世話の焼ける……。うわっ、あぶねェ、赤く光ってる所だ。ルビーに似てるだろ」

「本当にルビーじゃねェだろうな。マグナムでも貫通しねェぞ」

「ルビーじゃないぜ、でもダイヤモンドより硬い事は確かだ」

「ゑ?」

「硬度14だ」

「やばいな、一旦キャビンに戻ろう」

「何うだ? 3匹しとめたか、康夫。この下はもう第3宮殿領だそうだ」

「それ所じゃないですよ。Doctor貝原、鉄鋼弾か何か持ってませんか。Asahiさん、連中の急所は」

「尾鰭と背鰭よ、彼らは地上用を持たないから宇宙用を改造して使用しているの」

「Doctor貝原!」

「いいのがあった。2発しかないが、1mの装甲位なら楽に貫通する。爆薬が内蔵されている」

「早くしないと援軍が来るぞとくらァ」

「何を暢気な。貸せ、尾翼なら俺がやる」

「キャノピをやる」

「よせ、もったいない」

”ダン”

「この高度だと助かるまい」

「あーァ、本当にやっちまいやがった」

「上手いもんだ。みんな落としおった」

「彼らは軍神よ。12人集れば、世界が一転するわ」

「森に降りるぞ。康夫達にも伝えてくれ」

「Asahiさん?」

「何、Juliet」

「第3宮殿が見あたりませんが……。この辺りなら、あの1番高い杉の向こうにあるはずです」

「よく分ったわね。戦時は隠れているのよ。発見される事はないわ。丁度、魔国と同じ様に」

「では、どうやって洋一達に会うのですか、Asahiさん」

「今は未だ停時前ね。とりあえず城に行ってみましょう。湖の位置から大体は割り出せるわ。城の浮上の仕方も分るけど、中に美祢子と洋一さんがいるかどうかは分らないわ」

「先行っててくれ、Asahi。船を隠して置く」

「敵が私達を捜しているわ、気をつけて」

「武器は第3宮殿にあるんだろう? 歩兵2,3000じゃ攻めきれんだろうな」

 

 

「この辺ね。ここで地面を2,3回踏み鳴らすと……」

”ZZZ……”

「ん? みんな伏せて」

鐘楼が見えたところで、黒光りする砲頭が見えてきたと思うと、レイザを発砲し始めた。

「に、逃げましょう、Asahiさん」

「もう少し待ってみましょう、中に人が居るみたいだから」

逃げないのを知ると、敵がいるのを意識してか、発砲はすぐ止んだ。再び城は浮上し始めた。城はいつもの姿を現し、姿を表した城の住人は、我々に衝撃を与えた。手に銃を携えていた。

「そち達は何者じゃ。ここに何しに来た」

「智慧! まあ、なつかしいわ」

「無礼者、名を名乗れ」

「ゲルトルート。聞き覚えあるでしょ」

「姉者、久振りじゃのお」

「智慧は美祢子の前の名前。祖父に付けられた名よ。智慧、従兄弟のRomeoもいるわよ」

「宜しゅう。儂が、智慧じゃ、ゆっくりしていけ」

「これが、美祢子さん? 可愛くないなァ」

「まァ、ずっと祖父に育てられたからね。だから銃を使わせれば右に出る者はないわ」

「ちょっといいですか、Asahiさん。あなた、ひょっとして、美祢子さんの姉の美智子さんなんですか」

「そいつは黙ちゃ居られないな」

「合宮国で最高機密よ」

「大人げないぞ。時生」

「美祢子さんは知っているんですか」

「Doctorは黙ってて下さい。何うかな、お姫様」

「感づいている節もあるわね」

「望むところじゃ、誰でもかかって来るがよい」

「何で……。聞かない方がいいのかしら」

「此コインの孔を撃ち抜けるかな」

「合宮国の代表となる者は強くなければならないのよ。生まれて間もなく他所へやられます。私は魔国、美祢子は、過去へ、可哀そうに美祢子は何も知らずに、大戦に巻き込まれ、自分の正体を知り、異星人より国を解放します。その時、美祢子は洋一を失います」

「コインなぞ撃ち抜いてどうするのじゃ」

「それが40の洋一さん?」

「おい、おい、もう負けてるぞ、時生」

「偉大なる40。そして永遠なる40。彼は合宮国の守護神になりました。宇宙で何が起ころうとも、合宮国だけは絶対平和を保ちます」

「両方から撃つ」

「二人は何をやろうとしているのでしょうか」

「興い、外すなよ、時生とやら」

「美祢子を除いて誰も生還しなかった事は歴史が証明しています。知りながら敢て来たと言う事は2人は死を悟ったのかも知れません。私達は、その前に2人を探し出し、この合宮国を脱出せねばなりません」

「止めて下さいよ。一体何しに来たんですか。本末転倒です。ねェ、Doctor貝原」

「そんな、Asahiさん」

「放って置けばいい、Romeo。No,1と言う者は2人いちゃいけない。だから、競う。そうやって人類は発展してきた。どっちが勝つと思う、遺跡人」

「陽子さん」

「下らん事です」

「はい?」

「わしは、判然言って全然分らぬんね。でも、まァ、どっちだって可い事さ。見物人にとっちゃ、面白きゃ面白いほど可い」

「ちょっと付き合って戴きたいの」

「もう、みんな……」

「よくってよ。祭好きな人達は勝手に戯れていればいいのよ」

決闘に興じている連中は2人が姿を消したのに気付かなかった。何時、何処へ行ったのさえ分らなかった。森の外周では黒い影が多数蠢いていた。

「第1宮殿と第2宮殿、それと第7宮殿を調べてみたいの」

「でもどうやって」

「扉港機構と鏡港機構は作動が停止する事はありません。どうにかなると思います」

「第1宮殿はすっかり占領されてるわね」

「これじゃ、入る事もできませんね」

「電網は作動しているみたいね。表を見張ってて」

「お易いご用よ。Asahiさん、第1宮殿ってこんな風でしたっけ? 何か違うんじゃないんですか? 本当に第1宮殿なのかしら」

「よく分ったわね。気が付いたの貴女丈よ。私は聞いていたけど、分らなかったわ。この第1宮殿は落城したので、後に建て替えたのよ。丸で別物よ」

2人は第3宮殿の扉のロックをした後、扉の部屋から出ると、全宇宙連邦議会の警備をかい掻い潜るながら16階の小部屋に入った。窓からはひっきりなしに夕映えのシャトルが行き交っているのが見える。

「此処は合宮国全土を睨む警備室よ。此処に祖父が居たら、占領される事もなかったのに」

「何処かで同じ様な台詞を聞いた事があるわ」

Asahiは端末のリングをはめ、右目用のフォーンマイク付ディスプレイグラスを付け、何やら独り言を呟いているように見える。頻りに忙しそうに指を動かしていた。陽子は空をながめて溜息を付いた。20分程して、Asahiは口を開いた。

「ご免なさい。美祢子と洋一さんの居場所を捜したんだけど見あたらないわ。或はシステムには映らないように行動しているみたい」

「洋一さんと、美祢子さんは何処に居るんでしょうね。あんまりだと思いません? そりゃァ、恐いですけど、言って貰えば喜んで手伝うのに。それとも信頼してないのかしら。確かに2人に比べれば非力ですけど何もできないわけじゃないわ。救護とか、食事とか……。でもやっぱり足手まといなのかしら? どう思います? Asahiさん」

「貴女、洋一さんが好きなのね」

「ええーっ!」

REM 「あの、美祢子が何で洋一さんを射止められたかご存知」

REM 「そりゃァ、美祢子さんは同性の私が見ても素敵ですもの」

REM 「違うのよ。洋一さんが絶体絶命の時美祢子に助けられたのは知っているわね」

REM 「洋一さんから聞いています」

REM 「その時美祢子は恋の媚薬を飲ませたのよ」

REM 「まさか」

「知らないと思うでしょうが、洋一さんは合宮国と地球のハーフなのよ。だから宮国人にも地球人にも惹かれるのよ。悩んだでしょうね。何方を選ぶかで。貴女は何で洋一さんが美祢子を選んだと思う?」

「私と美祢子さんでは、比較する自体間違いではないでしょうか」

「ふっふっふ、そうね。ご免なさい。人を量りに掛ける事なんか出来る訳ないわね。でも、貴女と、美祢子を比べると、姉の私からみても甲乙つけ難いわ。本当よ。もし地球が戦争を起こしていなければ、洋一さんは貴女を選んでいたわ。他の人にとっても洋一さんにとってもそれが最も幸せだったはずよ。可哀そうに。洋一さんは大戦で多くの人を救えなかった事を悔いているのよ。そして美祢子や貴女や康夫さんやDoctor貝原やRomeoやJulietや時生さんや奈保子や遺跡人や自分達の次の世代の人やその子供達を守るために、最も忌み嫌う武器を手にして戦争と戦っているのよ。せめてもの罪滅ぼしに。唯、みんなの幸せだけを願いながら。人の笑顔が彼の喜び。何故? 誰が上野洋一を変えてしまったの?」

「でも、美祢子さんだって」

「美祢子にはそれが義務なのです。先祖の過ちを償うために、合宮国、宙心星、金剛環銀河の管理者として。美祢子は決して武器を取れないのです。洋一さんを必要としました。許して下さいね」

「私も同じ立場なら、洋一さんと同じ選択をしたでしょう。今の洋一さんは鬼です。見事、合宮国を奪い返し、消えていく事でしょう。私達はどうする事もできません。恐らく、この侭戻る事が最善でしょう。合宮国や私達にとっても。美祢子さんや洋一さんにとっても」

「洋一さんにとっては、合宮国も又、余り理想の所ではなかったようね」

「そう。血塗られた歴史なんて一銭の価値もない」

「何れ、洋一さんの望んだ世界が来ます。その時初めて、偉大さに気付く事でしょう。泥沼の中で、苦しんで、苦しんで、苦しんだ挙げ句、未来に希望を投げかけてくれた者が居た事を」

 

 

「用意は何時でも可いぞ」

「では、3クォータの鐘と同時に」

一瞬でコインは四方に飛び散った。全員固まっていた。最初に声を発したのは智慧だった。

「どうした、皆の者」

「声が震えてますよ。姫」

遺跡人が珍しく嫌みを言った。自分より下の者には言わない。康夫はコインと弾を捜している。Doctor貝原が動かない時生の元へ行く。

「時生!」

「ちっ」

「時生?」

「智慧、銃を撃つ時は的の少し下を撃つと可い」

「ゲイムはそれぐらいにして、周りに黒い物が動いてるぜ」

と奈保子が言った。包囲網突破してきたらしくシャツの右肩が真赤に染まっている。

「連中はサイレンサ付のマシンガンだ。相手にとって不足はなかろう」

「げっ、未だ、Romeo達は起きんぞ。康夫」

「時生、実戦ってのもあるぜ」

「悪くねェな。見物しててもいいぜ」

「俺もやる、連中に礼もあるしな。Doctor貝原と遺跡人は、Romeo達を頼む」

「ったく、暫く沈めて置くぞ」

「侵入できるのは、空か、城の前方にある森の切れ目だけじゃ。丸太を盾に殲滅する」

 

 

「どうやら、全宇宙連邦議会は智慧達を発見した様ね」

「大変どうしましょう、Asahiさん。早く知らせないと」

「願ってもない好機ね。第3宮庭は合宮国に取って最期の砦、武器の量は半端じゃないわ。放って置いても彼女達がやられる事はないわ。それより、私達にも分ると言う事は洋一さんや美祢子の耳にも入っていると言う事よ。事の次第に依っては居所が掴めるわ。この宙新星の何処かで必ず見ている筈よ」

「でも……」



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