第7章 関与の操作化と測定方法


消費者関与を操作化し測定するための方法としては、これまでにも様々な手法が考案されまた実際に適用されてきたが、杉本(1986)によるとそれらは概ね、@質問紙調査法(評定尺度、一対比較法、SD法)、A実験的方法(教示による操作、等)、Bプロトコール法(広告等に対する言語的反応)、C生理心理学的方法(脳波等の測定)と言った4つの方法に分類することができる。

7−1.質問紙調査による測定

はじめに、質問紙調査による関与の測定としては、44人の被験者に対して10の製品クラスと10の社会的事象を自己を中心とする8重の同心円上に「重要性(importance)」という観点から位置づけさせ、各製品クラスに対する関与の相対的程度を測定しようとしたHupfer & Gardnerの古典的研究に始まり、Lastovicka & Gardner, BlochおよびZaichkowskyに代表されるリッカート型の評定尺度を用いた測定研究に至るまで、数多くの研究例が存在する。
重要度に基づく一対比較法によって10の製品クラスに対する相対的な関与度を測定しMDS(多次元尺度構成法)によって分析したLastovicka & Gardnerの研究、Sherif & sherifによって社会的判断理論の分野で提案された「own categories法」を用いてコンパクト・カーに対する被験者の関与の程度を測定しようとしたNewman & dolichの研究、また、「own categories法」の変形であるLastovicka & GardnerやHouston & Rothschildの研究、Howard-Shethモデルで仮定されている常軌的反応行動と包括的問題解決の段階にある典型的な消費者像を具体的に記述し、被験者自身がどちらに当てはまるかを自己評定させるという方法を採用したLastovickaの研究、与えられた製品クラスの知覚された愛用者(高関与型消費者)のイメージと被験者の自己イメージとの差を当該製品クラスへの心理的距離と見なす測定法を用いたBlochの研究、等が存在する。
この他、やや複合的な指標によって関与水準の測定を試みた研究例としては、例えば、一週間の平均消費量、ブランド間差異の知覚、知識量、製品情報に対する関心度、ブランドの再生知名等を自己評定させることによって被験者の関与水準を測定しようとしたTyebjeeの研究がある。

7−2.実験的方法による操作化

次に、実験的方法による関与の操作化であるが、これは多くの場合、実験における教示(instruction)を通じて行われる。
例えば、Park & Youngの研究では、シャンプーという製品クラスを取り上げ、「高認知的関与条件」、「高感情的関与条件」、および「低関与条件」という3つの関与条件を教示によって操作化した上でCFテストを行っている。
すなわち、高認知的関与条件の下での被験者は、「Consumer Reports誌によると、シャンプーには機能や品質において実質的な違いがあるので、CFに登場する新製品のベネフィットや効果に注意すること」という教示が与えられるが、高感情的関与条件の下では、「Consumer Report誌によると、有力ブランドの間にはほとんど機能上の差が認められないので、イメージや情緒的雰囲気によって購入するブランドを決定すればよい」と教示される。また、低関与条件の下では、「Consumer Reports誌によれば、有力ブランドの間には機能上の差はほとんどないので、あなたはさしあたり自宅の居間でくつろいでいるつもりでCFを見ていればよい」と教示され、CFの提示が行われた。
この他、Petty & Cacioppoの研究では、新製品テストというマーケティング・リサーチの場面が設定され、その製品が自国(アメリカ)で発売されるという教示と他国(ヨーロッパ)で発売されるという教示によって被験者の当該製品に対する関与水準を操作することが試みられた。

7−3.プロトコール法による測定

プロトコール法による関与の測定は、通常の消費者情報処理研究で用いられているそれとは異なり、刺激が提示された後に被験者の言語報告としての「プロトコール(protocol)」を採取するという方法が用いられてきた。
例えば、Krugmanは、広告を一定時間露出された後、広告と被験者自身の生活内容との関連性を報告させ、その時の言及数を関与水準の指標として用いるという方法を採決した。また、Batra & Rayは、「あなたがコマーシャルを見ている間に、どのような考えや感情が起きましたか」という質問に回答させる方法を用いている。

7−4.生理心理学的方法による測定

生理心理学的に関与水準を測定する方法の代表例としては、脳波を用いた測定法がこれまで幾つかの研究に適用されてきている。
例えば、Krugmanが脳波測定によって雑誌広告とTV広告との間での媒体関与の違いを確認している他、最近では、Weinstein ,Appel ,and WeinsteinやMittalによる研究がある。