ハラボジ来日

8月の末、ハラボジとハルモニが来日した。ママの妹夫婦が北海道へ旅行に連れて行くという。 2回目の韓国旅行の前からそんな話があったので、入れ違いになってはいけないと思って、予 定をママや娘に何度も聞いたのだが、なかなかはっきりしなかった。それがソウルでようやく ハラボジ本人の口から明らかになった。北海道旅行を含めて2週間滞在するというから、自分 は日本料理のうまい店など検討するつもりでいた。日本でどこかへ案内しなければならないと、 勝手にその気になっていたのだ。

その日、スナックでさんざん待たされたあと、やっとハラボジが入ってきた。「ハラボジィ!」 在韓韓国人相手には自分は急に声が大きくなる。ここはママの2軒目の店である。自分が通っ た方の店よりちょっと高い。ここは韓国パブ方式で、セットいくらの店だ。ボトルキープとい うものがない。もう一線を退いたアガッシが3人ぐらいという店だが、日本語と中国語を使え る才女がいてあなどれない。が、自分にはハラボジの方が大事だから客が増えてうるさくなっ たので2人で店を出た。すぐ前にある韓国人経営の喫茶店(韓国のタバンではない)に入った。 コーヒーを注文したら、カウンターでインスタントをいれている。韓国人が日本でやる商売の 気に入らない点はこういうところだ。焼き肉に当然ついてくるキムチやサンチュは日本だから という理由(かどうか知らないが)別料金なのだ。だったら喫茶店でも日本式にちゃんとした コーヒーを出せと言いたい。この店だけかも知れないということを断っておくが。

ハラボジ来日と言っても自分だけに会いに来てくれたわけではないから、ちょっと会うのも苦 労する。毎日毎日ママの妹が離さないのだ。この日も7時に約束していたのに直前になってど こかへ連れて行ってしまって、自分が会えたのは9時過ぎである。ハラボジの肉親と張り合っ ても仕方がないから遠慮していたが、こうなったら食事1回ぐらいは自分に任せてもらおうと ハラボジに交渉した。が、ハラボジも日程をきっちり知らされていないようで、日程の最後の 方ならなんとかなるだろうという、曖昧な感じなのだ。

ハラボジが北海道から帰った翌日かその翌日、ハラボジが毎朝自転車で(単車の代わりに)付 近を散歩(?)すると言っていたのを思い出し、朝7時前に車で探しに行った。ママがあとで 「電話すればいいじゃない」と言ったが、電話じゃ埒があかないのだ。このまま黙っていたら 毎日どこかへ連れまわされて、自分がご馳走する機会がない。バカみたいだが、ハラボジと自 分は他人で、ハラボジとママやママの妹は実の親子だということを忘れているのだ。

ハラボジをみつけるのは簡単だった。あんな派手な恰好で自転車に乗った老人はまずいない。 日本だと目立つなぁ。自転車を戻して車で公園へ行った。やっとハラボジを独占できた。ソウ ルでやったように缶コーヒー(紙コップのは売ってなかった)とタバコを持って座り込む。

日本はもう何度も来ているが、くるたびにカラスが多いことに驚くという。韓国ではカラスが 精力剤になるといって、昔みんな獲って食べてしまったから、今はいないというのがハラボジ の説だ。公園での犬の散歩も珍しいという。いろんなことを話して、「嫁さんをもらわないと いかん」と言う。ソウルでも言われた。探してやるから見合いをしろと言う。写真を送れとい う。実はまだ送っていないのだが、見合いをちょっと躊躇しているためである。結婚は韓国人 とでも日本人とでもいいのだが、見合いが気が重い。向こうが自分を気に入らない場合はこっ ちが諦めれば済むのだが、こっちから断る場合の韓国語がまったく自信がない。気持ちを韓国 語にできればいいという問題ではない。ハラボジの顔をつぶさず、先方の自尊心を傷付けずに なんという理由で断ればいいのか。ハラボジは気にするなというが、自分がそうはいかない。

ようやくハラボジと、その日の昼飯を食べに行く約束ができた。時間に迎えに行くとハルモニ もママも娘も出てきた。ミラージュに4人の韓国人を乗せると、ニンニク臭が充満した。自分 は平気なので「ああ韓国だ」と思っただけである。もう日本料理は飽きてしまって韓国のもの が食べたいというので、ママの知っている焼き肉屋へ行った。もちろん強引に勘定は自分が払 った。自分の韓国滞在よりも多忙な日程をこなし、ハラボジとハルモニはソウルへ帰った。


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